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【 心因性発熱 】と漢方薬による治療

心因性発熱とは


心因性発熱とは精神的なストレスが原因となって現れる発熱です。発熱の仕方は高温の発熱が急に始まり、ストレスが緩和されるとスッと治る方から慢性的に微熱が続く方までさまざまです。心因性発熱の特徴として西洋医学で用いられる解熱薬がうまく効かないことが挙げられます。これは心因性発熱がストレスによる交感神経の興奮によるものであり、解熱剤はこの交感神経を鎮める作用を持っていないからです。


心因性発熱の原因


心因性発熱は精神的ストレスにより自律神経のひとつである交感神経が興奮する結果、現れると考えられています。交感神経とは身体のはたらきを活発化させる神経であり、自分の意志でその働きをコントロールすることは基本的にできません。心因性発熱の原因となる精神的なストレスとは学校や会社での人間関係、テストや仕事、家庭内のトラブルなど、その方が負担と感じられていることが幅広く当てはまります。


心因性発熱の場合、風邪やインフルエンザによる発熱と異なり病院の血液検査に異常が現れないので「原因不明」「異常は無し」と診断されてしまうこともしばしばです。臨床検査値で問題がなく、一方で精神的なストレスに心当たりがある場合は心因性発熱の可能性が浮上します。


心因性発熱の症状


心因性発熱の症状はその名前の通り、発熱を中心としたものになります。発熱にくわえて「発熱」自体に過剰なエネルギーを消費するので結果的に疲労感、気力の低下、頭痛、めまいなどが起こりやすくなります。


慢性的に発熱が起こることによる不安感、憂うつ感、イライラ感も軽視できません。これら自体が新たな精神的ストレスの原因となり、より心因性発熱の症状を悪化させてしまうことがあるからです。したがって、心因性発熱は「発熱」による身体症状だけではなく、心身に悪影響を及ぼす病気と考えることができます。


心因性発熱の西洋医学的治療法


心因性発熱の場合、一般的な解熱薬では改善は見込めません。人体は細菌やウイルスなどが侵入した場合、それらに反応してプロスタグランジンや炎症性サイトカインと呼ばれる物質がつくられます。プロスタグランジンなどは体温を上昇させるはたらきがあり、熱に弱い病原体は体温上昇によって弱体化します。


西洋医学における解熱薬は発熱や炎症を促すこれらの物質が身体内でつくられることを防ぐ作用を持っています。一方で心因性発熱のケースは交感神経の興奮という「別ルート」で現れる発熱でした。したがって、風邪薬などに含まれる解熱成分で発熱を治療するのは難しいのです。


上記の理由から西洋医学的には心因性発熱に対して気分を落ち着ける安定剤などが治療の中心となります。心因性発熱以外にも精神的な疾患(不眠症やパニック障害)がある場合、それらを治療することが結果的に心因性発熱を改善することもあります。


心因性発熱の漢方医学的解釈


漢方医学において心因性発熱は主に肝気鬱結(かんきうっけつ)を原因として起こる症状と考えることができます。肝気鬱結とは精神的なストレスによって五臓六腑における肝の気の巡りをスムースにするはたらきが機能不全を起こした状態といえます。


うまく身体内を流れずに滞ってしまった気はやがて熱を持ち、肝火上炎や心肝火旺と呼ばれる症状を呈します。具体的には不安感やイライラ感、不眠症などの精神症状です。それらにくわえて顔面紅潮、ほてり感、頭痛、めまい、耳鳴り、動悸、胸苦しさ、胃痛、腹痛、下痢、便秘、さらには生理不順や生理痛など多彩な症状が起こりえます。心因性発熱のケースは上記の諸症状のうち、発熱を中心とした症状が顕著にあらわれたものと考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた心因性発熱の治療


漢方薬を用いての心因性発熱の治療は気の巡りを改善し、くわえて気が帯びている熱を鎮めることが中心となります。具体的には気の流れを改善する柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などの理気薬が中心となった漢方薬を用います。心因性発熱治療の核となる理気薬は現代風に表現すれば「抗ストレス薬」ともいえる存在です。したがって、それらを含んだ漢方薬は心因性発熱の根本治療につながります。


さらに熱症状が顕著な場合は黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏といった熱を冷ます清熱薬を多く含んだ漢方薬も検討されるでしょう。くわえて熱によって血や津液が消耗しているようでしたらそれらを補う必要も出てきます。


このように心因性発熱という病名だけで漢方薬は決定できません。あくまでも心身に現れているさまざまな症状(心因性発熱の場合は特に倦怠感、頭痛、不安感、不眠、集中力の低下などが代表的です)に基づいて決められます。


生活面での注意点と改善案


西洋医学的に心因性発熱の原因は精神的ストレスによる交感神経の興奮と考えられています。この点は漢方医学においても同様です。したがって、心因性発熱と診断された場合、自身の症状は精神的なストレスが関わっているということを理解し、過度に心配したり無理をしないことがとても大切です。


日々をリラックスして過ごすことが心因性発熱を改善するうえでは欠かせません。具体的には睡眠時間や休日の確保はリラックスにくわえて、発熱によって消耗した体力を回復するためにも重要です。仕事や家事などの「しなければならないこと」もあまり溜め込まず、完璧主義からは一時的にでも距離を置くべきです。


心因性発熱の改善例


患者は30代後半の男性・会社員。20代後半から仕事で少々の無理をするとほてり感と倦怠感が現れて困っていたとのこと。最初はその度に風邪をひいていると思い、特に気にしてはいなかったが30代になり、ご症状が悪化。疲れがたまってくる毎週末に発熱するようになってしまった。仕事にも影響が出てしまうため、内科を受診するも異常は無し。後に勤務している会社の産業医から心因性発熱と診断された。


心因性発熱と診断された後はできる限り残業などは避けてリラックスを心がけるも、完全にご症状は無くならず当薬局へご来局。ご様子を伺うと頻繁に現れる37.2~37.5℃の発熱、疲労感、頭痛、眼の充血と眼精疲労、イライラ感が顕著とのこと。


この方にはまず気の巡りを改善する柴胡、過剰な熱を鎮める黄芩、精神状態を安定させる牡蛎などから構成される漢方薬を服用して頂きました。くわえて生活面では辛い物やアルコールを控えめにし、睡眠不足にはならないようお願いしました。


この漢方薬を服用して4ヵ月ほどが経つと仕事に支障が出るほどの目立つ発熱は無くなり、だいぶ体力的に余裕が出てきました。その後は発熱がなくなった分、仕事による疲労感が気になりだしたということでしたので、人参や地黄といった気血を補う漢方薬に変更しました。


漢方薬を変更した後も発熱は無く、疲労感も軽くなるということで同じ漢方薬を継続して服用して頂きました。その後も繁忙期やストレスの多い時期などは初回に調合した漢方薬に再変更したりと調節を行いながら、この方は心因性発熱に悩まされることはほぼ無くなりました。


おわりに


心因性発熱の原因は精神的ストレスという現代社会に生きるうえでは誰しも避けられないものです。ほてり感や倦怠感がよりストレスになり、心因性発熱が悪化する負のスパイラルに陥ってしまう方も多く見受けられます。漢方薬は心因性発熱の発熱にのみに着目するのではなく、心身全体をケアすることが可能です。心因性発熱にお困りの方はぜひ一度、ご来局頂ければと思います。

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