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【 自律神経失調症 】と漢方薬による治療

自律神経失調症とは


人間の身体は意識してコントロールできるものと、意識せずにコントロールされているものに分けられます。前者の具体例としては手足を動かしたり、声を出したりすることが挙げられます。後者は心臓の拍動や睡眠時の呼吸などが代表的であり、無意識のうちに行われている身体活動を制御しているのが自律神経です。


自律神経失調症とは自律神経によって適切にコントロールされなければならない身体活動がストレスなどによって乱れてしまった状態を指します。しかしながら、自律神経失調症に明確な診断基準はなく「どの病気にも○○さんの症状は当てはまらないから、とりあえず自律神経失調症」という扱いになっているのが現状です。


自律神経失調症による主な症状としては頭痛、頭重感、めまい、発汗、耳鳴り、肩や首の凝り、動悸、胃腸の不調、情緒不安定、不眠など多岐にわたります。緊張などによって下痢や腹痛が起こる 過敏性腸症候群、午前中に強い倦怠感や起床困難をともなう 起立性調節障害、閉経が近い女性に起こる 更年期障害なども広義の自律神経失調症に含まれます。


自律神経失調症の原因


自律神経失調症の主な原因は肉体的・精神的ストレスであり、くわえて個人の性格や生活習慣も重要な要素といえます。大きなストレスは心身に負担をかけ、結果的に自律神経のはたらきを乱してしまうことは想像に難くありません。ストレスの強度が同程度であってもそれを真正面から受け止めてしまう性格、つまりは生真面目で完璧主義な方はストレスの悪影響を強く受けがちです。


自律神経失調症を招きやすい生活習慣としては昼夜の逆転、睡眠不足、食事の時間がバラバラ、運動不足、深酒や喫煙などが挙げられます。これらは現代において多くの方に当てはまるものであり、自律神経失調症は誰にでも起こり得ることを示しています。


自律神経失調症の症状


自律神経は身体のありとあらゆる機能をコントロールしています。したがって、その乱れである自律神経失調の症状もまた必然的に多彩なものとなります。そのなかでも具体的には下記のようなものがしばしば現れます。

全身症状:
疲労感、重だるさ、冷えのぼせ、発汗過多、肩や首を中心とした凝り感、しびれ感など

感覚の異常:
めまい、ふらつき、ドライアイ、耳鳴り、耳閉感、味覚の低下など

消化器症状:
食欲不振、過食、口渇、唾液過多、吐気や嘔吐、ゲップ、ガス、胃痛や腹痛、胃や腹部の張り、下痢や便秘、残便感など

呼吸器症状:
喉のつまり感、呼吸の浅さ、息苦しさ、胸苦しさなど

循環器症状:
動悸、頻脈など

泌尿器症状:
頻尿、残尿感など

その他:
頭痛、胸痛、不眠、不安感やイライラ感、気力の低下、集中力の低下、起床困難、生理不順、生理痛、精力減退やEDなど


自律神経失調症においては多くの症状が現れがちですが、疲労感、頭痛、冷えのぼせ、動悸、不眠、不安感などは特にみられやすい症状といえます。一方で症状の現れ方や強弱はとても個人差がありますので「これが自律神経失調症で必ず起こる症状」というものはなく、症状が頻繁に移ることもしばしばです。このような多彩で移ろいやすい諸症状の訴えを不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼び、自律神経失調症の特徴のひとつとされます。


自律神経失調症の西洋医学的治療法


自律神経失調症に対する西洋医学的な治療法は確立されてはいません。すでに述べた通り、自律神経失調症は症状の個人差がとても大きいので基本的には個人の症状に対応した対処療法を重ねてゆくことになります。


そのなかでも頻繁にもちいられるのが抗不安薬(マイナートランキライザーとも呼ばれます)です。抗不安薬のなかにも作用する時間の長短、睡眠をもたらす力の強弱などの性格があるので患者の状態に合わせたものが使用されます。他にも自律神経を構成する交感神経と副交感神経のはたらきを調節する薬も検討されます。


自律神経失調症の漢方医学的解釈


漢方の視座から自律神経失調症を考えると、気の不足(気虚)や気の滞り(気滞)といった気のトラブルが深く関係しているケースが多いです。気はその他の身体を構成する要素である血や津液と比較すると担っているはたらきが多く、トラブルが起きた際の症状も多くなりがちです。


くわえて、気は血や津液の巡りを後押ししているので、気虚や気滞が起こると連鎖的に血と津液にも悪影響が広がってゆきます。結果的に慢性的な自律神経失調症の方の状態は気の問題を中心に血や津液の不足や停滞を抱えるケースが多くなります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた自律神経失調症の治療


漢方薬による自律神経失調症の治療は気の状態を安定化させることが中心となります。それにくわえてほぼ確実に血と津液にも悪影響が及んでいるので、それらに対するケアを並行して行います。自律神経失調症の治療には気・血・津液の状態を見極めて、全体のバランスを整えてゆくことがポイントとなります。


疲労感、食欲の低下、めまいや立ちくらみといった気の不足による症状が目立つ場合は人参、黄耆、大棗、白朮、甘草といった気を補う補気薬を含んだ漢方薬が選択されます。憂うつ感、喉や胸の苦しさ、胃や腹部の張り感といった気の滞りが強いケースでは柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの気の巡りを改善する理気薬を含んだ漢方薬が適しています。


動悸や息切れ、顔色の悪さ、不安や不眠などは血の不足ととらえ、血を補う地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの補血薬が使用されます。冷えのぼせ、首や肩の凝り、生理不順や生理痛などは血の停滞である瘀血と考え、桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬がもちいられます。


口や喉の乾燥感、咳、ほてり感は津液の不足によってしばしばみられる症状であり、津液を補う麦門冬や天門冬などの生津薬が使用されます。吐気、むくみ、重だるさ、めまいなどは津液の停滞によって引き起こされやすいので、津液を巡らす茯苓、猪苓、沢瀉、蒼朮などの利水薬を含む漢方薬が使用されます。


生活面での注意点と改善案


自律神経失調症の大きな原因は心身両面のストレスでした。したがって、それらを軽減することがとても大切となります。具体的には睡眠時間や休日の確保、何事も完璧ではなく「60点くらいで良い」という、ある意味でのルーズさが必要にもなります。


その他にも深酒、カフェインの過剰摂取、喫煙は自律神経の興奮を高めやすいので、特に不眠やイライラ感が目立つような方は控えた方が良いでしょう。逆に疲労感を翌日に持ち越さない程度の運動は心身のリラックスや血行の改善につながりますので、積極的に行いましょう。漢方においても運動は気の巡りをよくすると考えます。


自律神経失調症の改善例


改善例1

患者は40代前半の女性・教師。毎年、新学期前の春になると頭痛やめまいなどの症状が出ていましたが、いつもゴールデンウィークが過ぎるころには落ち着いてくるので治療などは行っていませんでした。しかし、昨年から症状が重くなり顔を中心としたのぼせ、首肩の凝り、突き上げるような動悸なども現れ始めました。


夏になっても改善の兆しがみられないので病院を受診し、いくつかの抗不安薬を使用しましたがどの薬でもめまいがよりひどくなり、吐気も出てしまうので治療は中止。漢方薬の服用を友人から勧められて当薬局へご来局。


ご症状をくわしく伺うと、上記以外にも寝つきの悪さや倦怠感など多くの症状が挙がりました。現在は季節に関係なくご症状が現れており、生理前になるとより顕著になるという。この方には気を巡らす柴胡、めまいや頭痛を鎮める釣藤鈎、血を巡らす当帰などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬の服用から4ヵ月が経つとフワフワするようなめまい、締め付けるような頭痛は大きく改善されていました。不快な症状が軽減したことで心身共に余裕が生まれ、睡眠もしっかりとれるようになったとのこと。一方でのぼせは変わらず、腹部から胸に上がってくるような強い動悸がより頻繁に起こるようになりました。そこで、急なのぼせや動悸を改善する桂皮や茯苓を含む漢方薬へ変更を行いました。


新しい漢方薬に変えて1ヵ月半が経過するとのぼせと動悸の発作が起こる頻度は減り、だいぶ過ごしやすくなったとのこと。その後は生理前の肩凝りや重だるさが気になるということで、一貫して血の巡りを改善する漢方薬を調合。この年の春も新入生を迎える準備に忙殺されたとのことですが、めまいや頭痛も含めて大きな体調不良もなく無事に過ごされました。


改善例2

患者は30代後半の女性・会社員。20代後半から天気の悪い日や台風の近づいてくる頃に現れるめまいと頭重感に悩まされるようになりました。症状は年々悪くなり、仕事の効率が落ちてしまうだけではなく焦燥感や胸苦しさも現れ始めました。


悪化する症状のために欠勤することも増えてしまったので近所の病院を受診。しかし、原因はわからずメニエール病に使用される薬を処方されましたが改善はされませんでした。徐々に症状の頻度が高まってきたことに焦りが募り、漢方薬の服用を思い立ち当薬局へご来局。


ご症状を伺うと、発作的に目の前がチカチカと光るようなめまいを中心に日頃から動悸、吐気、食欲の低下といったご症状もあるとのこと。ボソボソとご症状を訴える声にも力がなく、鬱々とした雰囲気を感じ取ることができました。この方には気の巡りを改善する柴胡や気を補う人参などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬をはじめて4ヵ月が経過するとめまいの頻度が下がり、頭を中心とした身体の重だるさも軽減。吐気も鎮まってきたおかげで食欲も上向いてきました。一方でまだ動悸はしばしばみられるということだったので、即効性の鎮静作用が期待できる牛黄を含んだ生薬製剤の併用をお願いしました。


引き続きの漢方薬を服用して頂いて3ヵ月が経つと、体力の回復と歩調を合わせて焦燥感を覚えることもなくなり、急な動悸や胸苦しさが現れそうな予感がある時は牛黄を服用すると気分も楽になると好評でした。この頃、季節は梅雨になり頭の重さを感じることもありましたが、強いめまいや動悸が現れることもなく過ごされていました。


漢方を服用されて1年が過ぎると、声にも張りと明るさが戻っていました。症状による仕事への支障もなくなり、雨の日は少し気持ちが沈む程度で済むようになっていました。この方は毎日服用する漢方薬は終了し、疲労感や焦燥感を覚えた時に牛黄を服用するかたちで安定した状態が維持されています。


おわりに


自律神経失調症は西洋医学的な検査を受けてもその原因がわからないため、なかなか建設的な治療が受けられない病気のひとつです。病院から処方される抗不安薬を服用して症状が落ち着く方もいらっしゃる一方で、効果があまり出なかったり副作用のために治療の継続が難しい方も多いです。


漢方薬の場合、西洋医学的な即効性は期待しにくいですが、心身に負担をかけることなく治療を行うことが可能です。自律神経失調症や原因不明の体調不良にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

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