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【 裂肛(切れ痔) 】と漢方薬による治療

痔について


痔とは肛門とその周辺で起こる病気の総称であり、主に痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)を含んだものといえます。これらは「痔」というひとつの病気にまとめられていますが、その症状や原因は大きく異なります。本ページでは裂肛(切れ痔)について解説を進めてゆきます。


なお、痔核(いぼ痔)については痔核(いぼ痔)と漢方薬による治療、痔ろう(あな痔)については痔ろう(あな痔)(肛門周囲膿瘍を含む)と漢方薬による治療のページをご参照ください。


肛門の構造について


肛門は主に肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の開閉によって排便をコントロールしています。肛門括約筋の上部(身体のより内側)には歯状線(しじょうせん)と呼ばれる直腸と肛門を隔てる「境界」のようなくぼみがあります。この歯状線の上部は痛みを感じにくい直腸粘膜になっており、下部の肛門上皮には知覚神経が存在するので痛みに敏感な部分となっています。


裂肛(切れ痔)とは


裂肛(切れ痔)とは肛門の皮膚(肛門上皮)が切れてしまった状態を指します。肛門上皮には痛みを感じる知覚神経が通っているので、裂肛(切れ痔)の主な症状は痛みと出血になります。裂肛(切れ痔)は便秘が主な原因となり、この点は痔核(いぼ痔)と共通しています。したがって、裂肛(切れ痔)は痔核(いぼ痔)と併発するケースがしばしばみられます。


裂肛(切れ痔)は比較的、女性に起こりやすいタイプの痔です。これは男性よりも女性の方が体質的に便秘になりやすいからと考えられています。くわえて肛門括約筋の力がより強い、肛門がより締まりやすい若年層が患いやすいです。


裂肛(切れ痔)の原因


裂肛(切れ痔)の主な原因は慢性的な便秘です。これは固い便が肛門上皮を通過する際に同部を傷つけてしまうからです。裂肛(切れ痔)は排便時に強い痛みが起こるので、裂肛(切れ痔)を患っている方は排便を我慢しがちになってしまいます。そうなると便秘は悪化し、固い便が肛門上皮によりダメージを与えてしまいます。


裂肛(切れ痔)の主な原因は便秘でしたが、下痢もその原因となります。これは下痢が長く続くと肛門上皮に炎症が起こりやすくなり、結果的に炎症の生じている部分がもろくなってしまうからです。したがって、裂肛(切れ痔)は便秘と下痢を含めた便通トラブル全般によって引き起こされる病気といえます。


裂肛(切れ痔)の症状


裂肛(切れ痔)の特徴的な症状は鋭い痛みと出血です。発症初期のころは痛みが生じるのは排便時や排便直後ですが、慢性化すると排便に関係なく痛みが起こります。裂肛(切れ痔)による出血量は多くはありませんが、長期間放置すると貧血になってしまう恐れもあります。


裂肛(切れ痔)を繰り返してしまうと次第に患部が盛り上がり、肛門ポリープを形成してしまうこともあります。肛門ポリープは通常の肛門上皮と比較して伸縮性が弱く、便の通り道が狭くなってしまいます。結果的に排便をさまたげられ、便秘をより悪化させてしまいます。このような状態を肛門狭窄(こうもんきょうさく)と呼びます。


裂肛(切れ痔)の西洋医学的治療法


裂肛(切れ痔)の西洋医学的な治療は薬物療法と手術療法に分けられます。薬物療法では便秘を改善する薬、痛みや炎症を鎮める薬、そして細菌感染を防ぐ抗生物質などが治療の中心となります。手術療法は主に中程度から重度の裂肛(切れ痔)に対して行われます。その内容としては狭窄が顕著な場合は肛門の拡張、傷が深い場合は患部の縫合が実施されます。


裂肛(切れ痔)の漢方医学的解釈


漢方の視点から裂肛(切れ痔)を考えると、便秘と血の滞りが主な原因と考えます。前者の便秘はイメージ通りだと思いますが、漢方において傷や打撲で生じる病変は血がうまく巡っていない状態ととらえます。裂肛(切れ痔)では高頻度で出血を伴うので、血の消耗も見逃せない問題となります。


この他にも食生活の乱れ(アルコールや辛いものの摂り過ぎ)は身体内に悪性の熱を生じ、患部の炎症が強まってしまい治療を難しくします。したがって、肛門周辺の症状にばかり注目するのではなく全身的なケアも大切となります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた裂肛(切れ痔)の治療


漢方薬による裂肛(切れ痔)の治療は便秘の改善と血の滞りである瘀血(おけつ)の除去が中心となります。便秘に対しては大黄、芒硝、麻子仁といった便通を促す生薬を多く含んだ漢方薬が使用されます。一方で胃腸虚弱で疲れやすい体質の方の便秘に対しては気の力を補って消化器の力を向上させる、排便する力を向上させる漢方薬がより適しています。


血の巡りを改善するには桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬を豊富に配合した漢方薬がもちいられます。特に延胡索(えんごさく)は鎮痛作用にも優れているので痛みの強い裂肛(切れ痔)に適しています。


患部の炎症が目立つ場合には黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏といった清熱薬を多く含んだ漢方薬を、出血が顕著な場合は阿膠や艾葉といった止血作用の優れた生薬を含む漢方薬をもちいます。すでに貧血によるめまいや立ちくらみがある方には血を補う地黄や芍薬に代表される補血薬を止血作用のある生薬と組み合わせた漢方薬が良いでしょう。


裂肛(切れ痔)の治療は上記のように便秘や血の巡りの改善が中心となります。その一方で裂肛(切れ痔)の症状は意外かもしれませんが個人差が大きいので、患っている方の体質や生活環境も考慮して漢方薬は調合されます。


生活面での注意点と改善案


裂肛(切れ痔)の主な発症原因・悪化原因は便秘です。したがって、便秘対策は裂肛(切れ痔)のケアと直結します。朝食を摂らなかったりダイエットで食事量を極端に減らしてしまうと消化器の動きが鈍り、便秘になりやすくなってしまいます。


日頃から積極的に摂りたい食品としては海藻類や野菜といった食物繊維を豊富に含んだものであり、これらは便通をスムーズにしてくれます。逆にアルコール類や辛い物は患部を刺激してしまうので控えましょう。強いお酒と一緒に辛いキムチを摂るような食生活は痔全般にとって良くありません。


便秘改善にくわえて血行を良くすることも重要です。毎日の入浴は肛門周辺を清潔に保つことで感染を防ぐだけではなく血行改善が期待できます。長時間のデスクワークは肛門周辺を常に圧迫することになるので、意識的に立ち上がり軽運動を行うことが望ましいです。


裂肛(切れ痔)の改善例


患者は30代前半の女性・中学校教師。20代後半に出産を経験し、その頃から裂肛(切れ痔)ができやすい体質になってしまいました。最初のうちはあまり気にしていませんでしたが出産から1年が過ぎた頃になると裂肛(切れ痔)による出血がトイレットペーパーにしばしば付着するように。痛みも激しく「トイレのたびにビリリッと電気が走ったような痛みがある」という。次第に長時間座っているのがつらい状態にまで悪化してしまいました。


困り果てて当薬局にご来局される頃には裂肛(切れ痔)だけではなく、ボコッと5ミリくらいの痔核(いぼ痔)が形成され、そこからも出血して下着が汚れてしまうことも。仕方なく勤務中などは生理用パットを常に着用するまでになっていました。


この方は便秘をきっかけに血の巡りが妨げられてしまったと考え、血流を改善する生薬である桃仁や延胡索に加えて止血効果のある阿膠と艾葉から構成される漢方薬を服用して頂きました。それと併せて皮膚の再生を促す紫根を中心とする軟膏剤である紫雲膏(しうんこう)を患部に塗ってもらうことにしまいた。生活習慣の面においては炎症を助長する刺激物(アルコール類や辛い物など)などの摂取を控えるようお伝えしました。


漢方薬を服用し始めて4ヵ月が経過する頃には裂肛(切れ痔)による痛みは半分程度にまで改善されていました。トイレットペーパー越しからもわかる大きさであった痔核も小さくなったとのこと。漢方薬にくわえて職員室でデスクワークを行うときは円形クッションを使うなど生活面の改善も功を奏したと考えられます。一方でまだ出血が残っており、やや貧血気味で立ちくらみがあるとの訴えがあったので血を補う地黄や芍薬などから構成される漢方薬に変更へ。


この漢方薬を服用して約3ヵ月が経った頃には切れ痔(裂肛)からの出血も無くなり、トイレットペーパーがピンク色っぽく変色することもなくなりました。痔核(いぼ痔)自体も凸状に出てくることなく、下着に当たって痛むことはなくなりました。新しい漢方薬の方が便通もスムーズということもあり、現在も予防の意味も込めて同じ服用を継続していただいています。


おわりに


裂肛(切れ痔)になってしまうきっかけは便秘を中心とした便通のトラブルでした。これにくわえて精神的なストレスによって裂肛(切れ痔)になってしまうケースも少なからず見受けられます。ストレスは下痢や便秘を繰り返す過敏性腸症候群に代表される、消化器系の不調を起こす原因となります。結果的に精神的な負担によって裂肛(切れ痔)になりやすい環境が生まれてしまうのです。


慢性的なストレスは現代人にとって避けることのできない問題です。したがって、裂肛(切れ痔)は現代病としての側面もあるといえます。漢方薬をもちいた裂肛(切れ痔)の治療はこのような精神面へのケアも含めて、心身全体を視野に入れて治療を行います。長患いの裂肛(切れ痔)にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

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