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【 貧血 】と漢方薬による治療

貧血とは


貧血とは血液中に存在している赤血球や、赤血球に含まれるヘモグロビンと呼ばれるタンパク質が減少した状態を指します。人間は生きてゆくために酸素が必要です。呼吸によって空気中から取り込まれた酸素は肺から血管内に存在している赤血球に受け渡されます。より具体的には赤血球中のヘモグロビンと酸素が結びついた形で全身に酸素が供給されます。


最も一般的な貧血である鉄欠乏性貧血はその名前の通り、鉄が不足することによって起こる貧血です。鉄はヘモグロビンを構成する重要な物質であり、鉄の欠乏は酸素を運ぶヘモグロビンの減少につながってしまいます。貧血の有無や種類を判断する尺度はいくつか存在します。その中でもヘモグロビン濃度(ヘモグロビンは「Hb」と表記されることもあります)とヘマトクリット値が有名です。ヘモグロビン濃度とは1dL(1デシリットル)に含まれるヘモグロビンの重量を指しています。一方のヘマトクリット値は血液中で赤血球が占める割合を表したものです。


ヘモグロビン濃度では成人男性の場合、13g/dL未満。成人女性の場合、12g/dL未満。ヘマトクリット値では成人男性の場合、40%未満、成人女性の場合、35%未満が貧血と判断される目安となります。この数値以下ではなくても、年々低下傾向が続いているようなら注意が必要といえるでしょう。


鉄欠乏性貧血以外の貧血としては、血液をつくる骨髓の細胞が減少することで起こる再生不良性貧血。寿命の短い赤血球がつくられたり、赤血球を攻撃してしまう自己抗体によって赤血球が減ってしまう溶血性貧血。そしてビタミンB12と葉酸の不足によって起こる巨赤芽球性貧血などが挙げられます。その中でも本ホームページでは鉄欠乏性貧血を中心に解説してゆきます。


貧血の原因


鉄欠乏性貧血が起こる原因としては出血をともなう病気、月経による出血、偏食やダイエットによる鉄の摂取不足が代表的です。出血を起こす代表的な病気としては胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病、裂肛(切れ痔)、胃がん、大腸がんなどが挙げられます。女性の場合は子宮筋腫や子宮内膜症といった婦人科系疾患による不正性器出血も含まれます。


貧血の症状


貧血の主な症状としては動悸、息切れ、慢性的な疲労感などが挙げられます。その他にも頭の重さ、顔色の悪さ、口内炎の多発、爪の劣化や白色化などが起こる場合もあります。しかし、人間には現状に対して順応する能力があるので上記のような貧血症状が慢性的に推移した後、自覚症状が薄れてゆく場合もあります。貧血による慢性疲労も仕事や年齢からくるものと考えてしまい、そのまま放置されているケースも多いでしょう。


貧血の西洋医学的治療法


貧血の原因となる疾患(出血をともなう胃潰瘍など)があるようならばその治療が最優先となります。それと同時に鉄剤を服用するなどして貧血状態の改善を図ります。鉄剤はしばしば吐気や食欲の低下をもたらすこともあるので用法用量を守って慎重に服用しましょう。


鉄剤だけではなく、普段の食事からしっかり鉄を摂取することも大切です。鉄を豊富に含む食材としては豚や鶏のレバー、アサリやカツオ、ホウレン草やヒジキ、納豆などの豆製品が代表的です。特に肉や魚介類に含まれている鉄は効率的に吸収される性質があるので、積極的に摂ると良いでしょう。


貧血の漢方医学的解釈


漢方医学の視点から見て貧血の症状は主に血虚(けっきょ)の状態と考えられます。しかし、血は飲食物から生まれる気を主な起源としていることから、貧血は気と血が両方不足している気血両虚(きけつりょうきょ)の状態に陥っている方も少なくないといえます。


血虚の状態は文字通り、漢方医学における血が不足している状態です。血が不足してしまう原因としては血の原料ともいえる気や津液の不足、過労や心労、慢性病による消耗、出血などです。血虚の具体的な症状としては顔色の蒼白化、めまいや立ちくらみ、頭のふらつき、ドライアイ、肌の乾燥による痒み、脱毛、筋肉のけいれんや硬直、不眠症、不安感、生理不順、不妊症などが挙げられます。多くは私たちが「貧血」に対してイメージする症状と似ていますが、不眠症や精神不安といったメンタル面に関係する症状も血虚では現れます。


くわえて、気虚は気が不足している状態を指します。気虚に陥ってしまう原因としては先天の精の不足、脾胃(消化器)の不調、過労や慢性疾患による消耗などが挙げられます。気虚による症状としては疲労感、気力の低下、食欲不振、息切れ、汗の増加、動悸、胸苦しさ、身体の重だるさ、めまい、咳、風邪をひきやすい、内臓下垂、出血傾向などが挙げられます。


気血両虚の状態は上記の症状が合わさったものと考えられますが、すべての症状が均等に現れるのではなく個々人によって強弱が見られます。しかし、気血両虚のおおまかなイメージとしては「元気がない」「体力がない」といったものに集約されます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた貧血の治療


貧血を血と気の不足と捉えた場合、それらを補う補血と補気が治療の基本方針となります。血を補う生薬としては地黄、芍薬、当帰、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの補血薬が代表的です。補血薬は消化器の弱い方が服用すると、胃もたれや食欲不振が現れることもあるので下記の補気薬とうまく組み合わせる必要があります。出血の症状があるなら補血を行いつつ、艾葉や阿膠といった止血効果を持つ生薬もあわせてもちいられます。


消化器の力を回復して気を補う生薬には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などの補気薬が挙げられます。このように貧血治療の漢方薬は補血薬や補気薬を個々人の症状と照らし合わせてバランスよく構成することが大切になります。


貧血の改善例


患者は30代前半の女性・ショップ店員。高校生の頃から生理が重く出血量も多かったので、生理後は貧血で倒れてしまうこともしばしばだった。その傾向は専門学校を卒業して就職しても変わらず、仕事中にしばしば立ちくらみや動悸に襲われることも。冷え性(冷え症)やしっかり寝てもとれない疲労感もあり困っていたところ、妹様が当薬局で便秘の漢方薬を服用していたのを機会に当薬局にご来局。


まず第一印象から色白で線も細く、見るからに貧血持ちの華奢な女性という雰囲気。詳しくお話を伺うと、貧血とその症状以外には特に生理後のダラダラ出血に困っているとのこと。病院から処方されている鉄剤は服用するとひどい吐気が出てしまうので、胃薬を飲みながらなんとか少量ずつ服用している状態でした。


この方の場合、生理出血過多の改善が重要と判断して当帰や芍薬など血を補う生薬に加えて、補血作用もあり止血効果もある阿膠と艾葉、さらに消化器の状態を底上げする人参や白朮などを含む漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬服用から約4ヵ月が経った頃には毎回14日間以上続いていた生理出血は7日で治まるようになり、疲労感も抜けてきたという。良い傾向と考え、同じ漢方薬に冬の気候も考慮して身体を温める乾姜などを含む漢方薬を追加して服用して頂きました。


それからまた4ヵ月が経過した頃にはすっかり貧血による動悸や立ちくらみも消えて「体調の良かった中学生時代に戻ったみたい」とおっしゃられていました。顔色もほんのり赤みがかり、この時、初めて健康体の妹様とそっくりなお顔の姉妹だと気付きました。この方は現在も体力向上の意味合いで微調節をくわえつつ漢方薬を継続服用して頂いています。


おわりに


近年、ご来局される若い女性にお話を伺うと驚くほど多くの方が疲労感、足の冷えやむくみ、そして貧血の症状を訴えられます。この背景には食生活の乱れや長時間労働、そして無理なダイエットを行っている女性が増えている今日の世相を反映しているのかもしれません。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では鉄剤やミネラルを含んだサプリメントを服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、貧血による疲労感などが少しずつとれてくることから、貧血と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、貧血にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 不正性器出血(不正出血) 】と漢方薬による治療

不正性器出血(不正出血)とは


不正性器出血とは生理的に正常な出血、つまり月経による出血を除いた女性器からの出血を指します。「生理的に正常な出血」には月経による出血の他に出産時の出血、さらに月経と月経の間に起こる排卵期出血も多くの場合は含まれます。したがって、上記に該当しない出血が不正性器出血といえます。


上記の定義に従えば不正性器出血は非常に多くの病態を包括することになります。その一方で不正性器出血は大きく器質性出血と機能性出血の二つに分けて考えることができます。そこで下記では不正性器出血を器質性出血と機能性出血に分けて詳しく解説してゆきます。


器質性出血とは

器質性出血とは女性器(膣、子宮、卵巣など)の形体に異常が起こったために現れる出血です。より簡単に表現するなら器質性出血は女性器における腫瘍、炎症、外傷などによって起こる出血といえます。


具体的には子宮筋腫、子宮頸がん、子宮体がん、子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮内膜症、子宮外妊娠、性交時の裂傷などが含まれます。上記の定義とはやや乖離してしまいますが、白血病や紫斑病などの血液疾患による不正性器出血も器質性出血に包括されます。


機能性出血とは

機能性出血とは上記で挙げたような器質的異常以外の原因によって起こる女性器からの出血を指します。ちなみに定期的に訪れる月経による出血は根本的に「異常」ではないので機能性出血には含まれません。


機能性出血の主な原因に女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の分泌バランスの乱れが挙げられます。そもそも月経は規則的な女性ホルモンの分泌によって厳密にコントロールされています。女性ホルモンは一方で精神的・肉体的ストレス、そして無理なダイエットなどによって分泌に乱れが生じます。結果的に女性ホルモンの分泌バランスの崩れが不正性器出血という形で表出するのです。


ストレスやダイエット以外にも機能性出血は性的に未成熟な若い女性(女児)や更年期の女性にも起こりやすいです。それは両者とも女性ホルモンの分泌が不安定になっているからであり、多くの場合は時間の経過とともに出血は沈静化してゆきます。


不正性器出血(不正出血)の西洋医学的治療法


不正性器出血の西洋医学的治療法は器質性出血か機能性出血かによって異なります。基本的には器質性出血の場合は子宮筋腫や子宮内膜症といった原因、つまり病気が存在しています。したがって、器質性出血の治療は上記のような病気の治療の一部として行われます。


その一方で機能性出血の場合はしばしば治療の対象とならない場合があります。貧血が深刻なケースでは鉄剤、それでも貧血がひどい場合や出血によってQOL(生活の質)の低下が大きい場合は低用量ピルが用いられます。低用量ピルはホルモンバランスの乱れを改善できれば大きな力になりますが、頭痛や吐き気などの副作用も起こりやすいので慎重に使用されます。


不正性器出血(不正出血)の漢方医学的解釈


不正性器出血は本来ならば身体内に維持しておかなければならない血液が漏れ出てしまっている状態といえます。血も含めて身体にとって必要なものを維持するはたらきは気が担っています。このような気の持つ力を固摂(こせつ)作用と呼びます。


したがって、気が不足してしまうと十分に固摂作用がはたらかず、血が漏れ出してしまいます。気の不足は専門的には気虚と呼ばれますので、多くの不正性器出血には気虚が根底にあるといえます。さらに血は気から生まれ変わったものでもあるので気の不足は血にとっての原材料の不足であり、出血によって不足はより深刻化してしまいます。このような気も血も不足してしまう状態を気血両虚と呼びます。


気の不足にはさまざまな原因が考えられます。過労、睡眠不足、食欲不振、慢性的な病気による消耗、精神的ストレスによって気の流れが滞り、そこから気の不足に陥ってしまうケースもあります。さらに不正性器出血は身体内の過剰な熱の暴走によって起こることもあります。このように不正性器出血を考える際は症状だけではなく生活状態も含めて多面的な視点が必要になります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた不正性器出血(不正出血)の治療


不正性器出血の根底には多くの場合において気虚が存在し、出血が慢性化してしまうと気血両虚に陥ってしまいます。そこで不正性器出血の治療には気を補い、なおかつ血も補う必要があります。前者はより根本治療的であり、後者は対処療法的ではありますがその境界は明確ではありません。なぜなら上記で血は気から生まれると説明しましたが、血から気への変換も身体内では行われると考えるからです。


まず気を補うためには人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などの補気薬を含んだ漢方薬が用いられます。それらに加えて血を満たす地黄、当帰、芍薬、阿膠などの補血薬が合わせて使用されます。血を補う生薬は胃にもたれるものが多いので、脾胃(消化器)の状態を良くする補気薬とうまく併用することでそのような問題をクリアできます。


補気薬や補血薬以外にも止血効果のある阿膠や艾葉も不正性器出血の漢方薬には欠かせません。それ以外にもなぜ気が不足してしまったのかを考えて漢方薬を用いる必要があるでしょう。


不正性器出血(不正出血)の改善例


患者は30代前半の女性・中学校教師。学生時代はやや生理不順があるくらいで、周りの友人のように強い生理痛などに悩まされることもありませんでした。しかし、教師となり授業以外に部活動の顧問や教材作りに忙殺されるようになると徐々に疲労感が取れなくなってしまったという。


次第に疲労感だけではなく保護者からのクレーム処理などにも追われ、眠っても2~3時間後に目が覚めてしまうようになり睡眠時間も減少。そのような時期に生理が終わった1週間後に不正出血が起こるようになってしまった。一時的なものと考えていたとのことですが、その後も決まって生理後に不正出血が続くようになり疲労感が全く抜けなくなってしまったという。


産婦人科を受診しても子宮筋腫や子宮内膜症などの病気は発見されず、鉄剤のみが処方されました。しかし、鉄剤を服用しても身体の重だるさなどはとれず、漢方薬の服用を希望されて当薬局にご来局。


詳しくお話を伺うと定期的な不正出血に加えて疲労感、めまい、動悸、そして眠りの浅さなどに悩まされているとのこと。これらのご症状からこの方は学校の仕事によって疲弊し、気を消耗。そこから不正性器出血を起こし気血両虚に至ったと考えました。そこで漢方薬は人参、黄耆、地黄、当帰、艾葉など気血を補い出血を抑える内容で選択しました。


漢方薬服用から5ヵ月が経つ頃になると疲労感と動悸が軽減されて、顔色も良くなられていました。まだ不正出血はあるということですが出血している期間と出血量はともに減少。生理用品の使用量は大きく減ったとのことでした。良い経過だったので調節は加えず、同じ漢方薬を継続していただきました。


通算で1年半が経つと、不正出血は全くなくなり、生理周期も約28日間に固定されるようになっていました。血虚によると考えられていた眠りの浅さも解消され、疲労感がたまりにくい環境も揃いました。この方には現在も精神的ストレスに対応した漢方薬を織り交ぜながら継続して服用して頂いています。


おわりに


不正性器出血は不快なだけではなく、貧血によって疲労感、めまい、動悸、集中力の低下などの症状も問題となります。いつ出血してしまうかわからず、積極的に外出できなくなってしまい行動範囲が狭まってしまうことも二次的な問題といえるでしょう。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして上記の具体例のように漢方薬の服用によって症状が軽快される方が多くいらっしゃることから不正性器出血と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、不正性器出血にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 血栓性静脈炎 】と漢方薬による治療

血栓性静脈炎とは


血栓性静脈炎とは静脈内部に血栓ができて静脈を塞いでしまう病気です。患部は炎症によって腫れて痛みを伴います。炎症による痛みのほかに血栓ができたことで血流が悪くなり、患部は赤紫色~暗黒色に変色してしまいます。これら患部の変色、腫れ、痛みは血栓性静脈炎の特徴的な症状といえます。


この血栓性静脈炎が生じる静脈は体の表面に近い表在静脈に位置します。やや脱線しますが身体のより内部に位置する深部静脈に血栓が生じた場合は静脈血栓塞栓症(じょうみゃくけっせんそくせんしょう)と呼ばれます。静脈血栓塞栓症はしばしばエコノミークラス症候群とも呼称されます。今日的にはこちらの名称の方が「市民権」を得ている印象です。


血栓性静脈炎の原因


血栓性静脈炎はまず血栓が静脈(表在静脈)に生じることで起こります。血栓が生まれてしまう原因としては打撲、静脈への注射といった外傷性のものと血液が固まりやすい基礎疾患(血小板増多症など)を持っているケースが挙げられます。


上記以外にも長時間、同じ体勢をとることで血流が悪くなり血栓を生じやすくなります。具体的には長い飛行機や車での移動、意外なものでは手術や出産時なども同じ姿勢を余儀なくされる場合が多く血栓が生じやすいといわれています。


血栓性静脈炎の症状


血栓性静脈炎の主な症状は腫れや痛みといった炎症による症状と患部の変色です。患部は下肢が多いのも血栓性静脈炎の大きな特徴といえます。その他にも発熱、患部の熱感や圧迫感、静脈の盛り上がりなども挙げられます。


血栓が形成され「下流側」の血流が一段と悪化すると患部は数十センチ以上も伸びる場合もあります。血栓性静脈炎を放置すると肥大した静脈が動脈の血流まで悪化させてしまうケースもあり局所的な栄養失調から最悪、組織の壊死に至ります。


さらに静脈に生じた血栓がはがれ、心臓を経由して肺に至る肺塞栓症やその他の深部静脈血栓症を二次的に引き起こしてしまうこともあります。


血栓性静脈炎の西洋医学的治療法


血栓性静脈炎の西洋医学的治療は存在している血栓を溶かすことと、これ以上血栓が生まれないようにすることに重点が置かれます。前者にはウロキナーゼなどの血栓溶解薬、後者にはヘパリンに代表される抗凝固薬が用いられます。

下肢に血栓性静脈炎が起こっている場合は患部を持ち上げた状態で安静にすることも大切になります。その他にも炎症による痛みが強い場合は消炎鎮痛薬なども用いられます。


血栓性静脈炎の漢方医学的解釈


漢方医学の視点から血栓性静脈炎を考えると、漢方医学独特の概念である瘀血(おけつ)との関係性が高いといえます。瘀血とは簡単に表現すれば血(けつ)の滞りや脈内から血が漏れ出てしまったことによって生まれる病的な物質といえます。


上記のように現代西洋医学的な「血栓」と漢方医学における「瘀血」のイメージは重なり合うところが多いです。一方で瘀血にはより幅広く、血の巡りが悪くなっている状態を指します。


瘀血によってもたらされる症状は非常に多岐にわたります。その中でも代表的な症状としては頑固な局所的に現れる痛みや腫れ、肌の暗色化や硬化、アザや眼下のクマのできやすさ、静脈瘤、肩こりや頭痛、冷えのぼせなどが挙げられます。その他にも女性の場合は子宮筋腫や子宮内膜症などによる強い生理痛、生理不順、経血の塊の増加といったものも含まれます。


上記のような症状に加えて瘀血が生まれたことで血の供給量低下、さらに気も不足したり流れが妨げられたりもします。漢方医学的に血が不足した状態を血虚(けっきょ)、気が不足した状態を気虚(ききょ)、気の流れが滞っている状態を気滞(きたい)と呼びます。


血虚の症状としては疲労感、身体の重だるさ、動悸や息切れ、めまいや立ちくらみ、肌の乾燥、顔色の蒼白化、髪質の低下や脱毛、不眠症や不安感の増大などが挙げられます。血虚による身体症状の多くは西洋医学における貧血と似たものになります。


気虚では疲労感、食欲不振、体重の減少、手足の強い冷え、風邪をひきやすい、胃下垂や脱肛などの内臓下垂、むくみ、不正性器出血や皮下出血といった出血傾向が代表的です。気滞が起こると喉、胸部、腹部などの張り感や苦しさ、息苦しさ、吐気、憂うつ感やイライラ感、鈍痛などの症状が起こります。


基本的に瘀血の状態に陥ってしまうと連鎖的に血虚、気虚、気滞などが現れやすくなります。したがって、瘀血の症状に加えてこれらによる諸症状も併せて改善を目指すケースがほとんどです。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた血栓性静脈炎の治療


上記のとおり、血栓性静脈炎には瘀血が深く関与していると考えられます。したがって、血栓性静脈炎の治療は瘀血を取り除く活血薬(かっけつやく)を含んだ漢方薬が中心となります。代表的な活血薬には桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが挙げられます。


さらに血は気の後押しによって循環しているので、気の不足(気虚)や気の滞り(気滞)は血の巡りを悪くしてしまいます。血の流れが悪くなると上記で説明した通り、より一層の気虚や気滞を招いてしまいますので気への着目は大切です。


気虚が顕著な場合(疲労感が強く食欲が無いなど)では気を補う補気薬が併せて用いられます。主な補気薬(ほきやく)としては人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。気滞が明らかなケース(胸や腹の張り感、イライラ感など)では気の流れを緩和する理気薬(りきやく)が用いられます。多用される理気薬には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。


その他にも血の不足(血虚)もまたしばしば瘀血を引き起こします。これは水をまくためのホース内に充分な水量が無いと、勢いよく水が流れない状態に似ています。血虚によって起こる症状(顔色の悪さ、めまいや立ちくらみなど)が目立つならば血を補う補血薬(ほけつやく)も用いられます。代表的な補血薬には地黄、当帰、芍薬、阿膠などが挙げられます。


経験的に血栓性静脈炎の治療には上記の活血薬+補血薬+理気薬の組み合わせが基本となり多用されます。衰弱が顕著な場合や胃腸が弱い方の場合は理気薬を補気薬に切り替え、より消化器にやさしい漢方薬が使用されます。


これまで瘀血の原因と解消法を書いてきましたが、これら以外にも瘀血を生む原因は身体の冷えや外傷などいくつも存在します。したがって、上記以外にも様々な治療法が存在します。瘀血の解消(血栓性静脈炎の治療)には個々人の状態に合せて漢方薬を選び取ることが非常に大切になります。


血栓性静脈炎の改善例


患者は50代前半の女性・専業主婦。昔からむくみが気になっていましたが、40代に入った頃から左足のふくらはぎに青黒い静脈が目立つようになってきました。「お風呂の中でさするようにマッサージをすると、少し良くなるので当初はあまり気にせず過ごしていた」という。


しかし、徐々に静脈はボコボコと数ミリ浮かび上がってきて触れると少々の痛みを感じました。心配になり病院を受診すると軽度の血栓性静脈炎と診断され血栓を溶かす薬を処方されました。数ヶ月間、しっかり服用したので徐々に症状は緩和してゆきましたが、その年の冬に再発。


自分の母親が過去に高脂血症の薬の長期服用で副作用が出たという経験から、病院の薬を長く飲むのが怖いということで当薬局へご来局。お話を伺ってゆくと血管の少々の盛り上がりと痛み、その他に下肢の冷えやむくみが気になるという。特に当時はむくみが強く「夕方になると朝方は履けた靴が履けなくなることもある。とても重だるい感じがする」とのこと。


これらの全体的なご症状などから血行を回復する生薬と津液(しんえき)の巡りを促進する生薬から構成された漢方薬を服用して頂きました。具体的には血の巡りを改善する当帰や川芎、水分代謝を改善する茯苓や沢瀉を含んだ漢方薬を使用しました。


漢方薬服用から4ヵ月が経つと血栓性静脈炎独特の青い凸状の血管が薄くなってきました。足のむくみもやわらぎ、夕方にはパンパンになっていた足の重みもあまり感じないとのこと。以前は舌もむくみ大きくなっていたので、しばしば噛んで傷をつくっていましたがその頻度も低下。


その一方でヒリヒリするような痛みと冷えが依然として気になるということで、活血作用を持ちながら鎮痛効果に優れた延胡索を含む漢方薬に変更しました。新しい漢方薬にしてから3ヵ月が経過すると足の冷えが緩和される一方で熱感のような痛みは鎮まり、静脈の痕も気にならない程度になっていました。


ご本人曰く「これでわざわざ色の付いたストッキングばかり履かなくてすむ」とのこと。この方には予防の意味も込めて血流を良くして身体を温める生薬から構成されている漢方薬を半分量で継続的に服用して頂くことにしました。現在もむくみの状態なども見ながら微調節を行いながら、良好な状態を保っています。


おわりに


血栓性静脈炎は患部の痛みや外見的な問題だけではなく、その血栓がはがれて肺などに移行してしまうと深刻な事態に発展する危険性もある病気です。したがって、病院からのお薬が出ている場合はしっかりと継続的に服用する必要があります。しかし、手先の冷えや痛みなどはなかなか西洋薬で改善しにくいという問題も残されています。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、血栓性静脈炎特有の肌の変色や痛みなどの症状が少しずつとれてくることから、血栓性静脈炎と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、血栓性静脈炎にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 レイノー病(レイノー症候群を含む) 】と漢方薬による治療

レイノー病(レイノー症候群)とは


レイノー病とは動脈が過剰収縮を起こすことによって手足の末端への血流が悪化し、しもやけをともなうような強い冷え、しびれ感、痛み、肌の色調変化を起こす病気です。このような四肢の冷えや肌の変化などをまとめてレイノー現象と呼びます。


さらにレイノー病と似た言葉にレイノー症候群というものがあります。前者のレイノー病は上記のようなレイノー現象を起こす基礎疾患が無いものを指します。簡単にいってしまえばレイノー現象を起こす原因が不明なケースがレイノー病となります。そして後者のレイノー症候群の場合、膠原病や振動的外傷(激しく振動する機器の操作など)によってレイノー現象が起こるケースを指します。


レイノー病は疫学的には女性、特に体力が弱い若年の女性に起こりやすい病気といわれています。レイノー病からより深刻な病態(例えば足先の壊死など)に移ることは少なく予後は良好とされています。一方でレイノー症候群は基礎疾患に依存することからレイノー病ほどの性差や年齢差は存在しません。予後についても基礎疾患の重さによっては組織の壊死や皮膚硬化などに移行する場合もあります。


レイノー病(レイノー症候群)の原因


レイノー症候群とは異なりレイノー病の明確な原因は不明です。しかしながら、レイノー病は気温の低下、精神的・肉体的ストレス、喫煙などによって手足の末端に存在する動脈の異常収縮が起こりやすくなることは知られています。血管の収縮は交感神経が副交感神経よりも活発に活動している際に起こるので、これら自律神経の異常がレイノー病の背景にあると推測されています。


レイノー症候群においてはレイノー現象を引き起こす原因となる疾患が存在します。代表的なものに膠原病の一種である全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強皮症などが挙げられます。その他にも閉塞性動脈硬化、チェーンソーなどの使用による強い振動が手にかかり静脈が破壊されてしまうケースもレイノー症候群の原因となります。


レイノー病(レイノー症候群)の症状


上記で既に述べたとおり、レイノー病とレイノー症候群によって起こる諸症状はレイノー現象と呼ばれています。レイノー現象には四肢の冷え、肌の色の蒼白化や暗色化、さらにはしびれ感や痛みといった諸症状を含んでいます。


このレイノー現象はレイノー病とレイノー症候群によって幾つか異なっている点があります。まずレイノー病の場合、症状は左右対称に現れます。一方のレイノー症候群のケースでは左右非対称に現れやすいといわれています。さらにレイノー病は予後が良いのに対して、基礎疾患のあるレイノー症候群は症状を放置すると病状が悪化する恐れがあります。


レイノー病(レイノー症候群)の西洋医学的治療法


レイノー病の西洋医学的治療は主に血管拡張薬を用いての血流改善となります。重症の場合は血管を収縮させてしまう交感神経の切除も検討されます。レイノー症候群の場合はレイノー現象を起こしている基礎疾患の治療が間接にレイノー症候群の治療となります。無論、症状が強いケースでは血管拡張薬などが用いられます。


上記のような治療以外にも衣服による防寒、禁煙、睡眠時間を充分にとるといった生活習慣の改善がとても大切です。過剰なストレスは交感神経を優位にして血管を収縮させてしまいます。そうするとより一層、血流が悪くなり症状が悪化してしまいます。意識をしてリラックスした休息時間を確保し、副交感神経を活発化させることが大切となります。副交感神経が優位になると血管が広がり血流もよくなるのでレイノー現象の緩和に繋がります。

レイノー病(レイノー症候群)の漢方医学的解釈


レイノー病(レイノー症候群)には漢方医学独特の概念である瘀血(おけつ)が深く関与しているといえます。瘀血とは簡単に表現すれば血(けつ)の滞りや脈内から血が漏れ出てしまったことによって生まれる病的な物質といえます。現代西洋医学的には血栓がそのイメージにピッタリですが、より広く血の流れが悪くなっている状態を指します。


瘀血によってもたらされる症状は非常に多岐にわたります。その中でも代表的な症状としては局所的に現れる刺すような痛みや腫れ、肌の暗色化や硬化などが挙げられます。その他にも生理不順や生理痛なども含まれます。


上記のような症状に加えて瘀血が生まれたことで血の供給量低下、さらに気も不足したり流れが妨げられたりもします。漢方医学的に血が不足した状態を血虚(けっきょ)、気が不足した状態を気虚(ききょ)、気の流れが滞っている状態を気滞(きたい)と呼びます。


血虚の症状としては疲労感、身体の重だるさ、動悸や息切れ、めまいや立ちくらみ、肌の乾燥、顔色の蒼白化、髪質の低下や脱毛、不眠症や不安感の増大などが挙げられます。


気虚では疲労感、食欲不振、体重の減少、手足の強い冷え、風邪をひきやすい、胃下垂や脱肛などの内臓下垂、不正性器出血や皮下出血といった出血傾向が代表的です。


気滞が起こると喉、胸部、腹部などの張り感や苦しさ、息苦しさ、吐気、イライラ感、鈍痛などの症状が起こります。


基本的に瘀血の状態に陥ってしまうと連鎖的に上記のような血虚、気虚、気滞などの症状も現れるので、現実的には瘀血の症状に加えてこれらの諸症状も併発するケースがほとんどです。経験的には瘀血によって下記のような症状がセットで現れるケースが多いと感じます。


1)手や足の痛み+冷え+肌の暗色化+肌荒れや乾燥


2)身体の疲れ+肩や首の凝り+頭痛


3)身体の冷え+むくみ+生理不順+生理痛


4)身体の疲れ+腹部の張りや痛み+むくみ+食欲不振


5)出血+出血部の痛み+身体の疲れ


レイノー病(レイノー症候群)に関しては上記の1)が最も近い病態と考えられます。
さらにレイノー病(レイノー症候群)を患っている方は1)以外に挙げた症状も併せ持っている場合が必然的に多くなります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)

漢方薬を用いたレイノー病(レイノー症候群)の治療


上記のとおり、レイノー病(レイノー症候群)には瘀血が深く関与していると考えられます。したがって、レイノー病(レイノー症候群)治療の中心はこの瘀血を治療することになります。瘀血を治療するための漢方薬には血行を改善する活血薬が多く含まれます。代表的な活血薬は当帰、芍薬、川芎、牡丹皮、紅花、田七人参、延胡索などが挙げられます。


さらに血は気の力によって循環しているので気の不足(気虚)や気の滞り(気滞)は血の流れを悪くしてしまいます。血の流れが悪くなると上記で説明したとおり、より一層の気虚や気滞の状態を招いてしまいますので気への着目は大切です。


気虚が顕著な場合(疲労感や冷えなど)では気を補う補気薬が併せて用いられます。主な補気薬としては人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。気滞が明らかなケース(胸や腹の張り感、イライラ感など)では気の流れを緩和する理気薬が用いられます。多用される理気薬には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。


その他にも血の不足(血虚)もまたしばしば瘀血を引き起こします。これは水をまくためのホース内に充分な水量が無いと勢いよく水が流れない状態に似ています。血虚によって起こる症状(顔色の悪さ、動悸や息切れ、めまいや立ちくらみなど)が目立つならば血を補う補血薬も用いられます。代表的な補血薬には地黄、当帰、芍薬、阿膠などが挙げられます。


経験的にレイノー病(レイノー症候群)の治療には上記の活血薬+補血薬+理気薬の組み合わせが基本となり多用されます。衰弱が顕著な場合や胃腸が弱い方の場合は理気薬を補気薬に切り替えたりします。さらに基本形の上に身体を温める働きに優れた生薬である散寒薬も適宜用いられます。具体的には附子、乾姜、桂皮、呉茱萸などが頻繁に用いられる散寒薬です。


これまで瘀血の原因と解消法を書いてきましたが、これら以外にも瘀血を生む原因(身体の冷えや外傷など)はいくつも存在します。それは上記以外にも様々な治療法があることを意味しています。したがって、瘀血の解消(レイノー病やレイノー症候群の治療)には個々人の状態に合せて漢方薬を選び取ることが非常に大切になります。


レイノー病の改善例


患者は30代前半の女性・介護福祉士。中学生の頃から手足の先が冷えてしもやけに悩まされていました。高校では部活動で身体を動かすようになって症状はやや改善するも、専門学校に進学して症状が再発。


自宅近くの診療所を尋ねてレイノー病と診断されるも「確実な治療法は無い」といわれてしまい、厚着をするなど「対処療法」でなんとかしのいでいました。しかし、専門学校卒業後、介護福祉士として働いていると冬の夜勤の時などはまともに仕事ができないくらい手足が冷えて、しびれでうまく歩けない時もあるほどになってしまいました。


このまま放置するわけにもいかず、なんとなくネットでレイノー病のことを検索するうちに当薬局を知りご来局へ。ご様子を伺うと顕著な四肢の冷えと肌の蒼白化、それ以外にも生理周期は順調でしたが強い生理痛、下腹部の冷え、下肢のむくみも気になるとのこと。生理痛はレイノー病と同じく冬に重くなる傾向がありました。


この方には桂皮、呉茱萸、細辛といった身体を温める働きに優れた漢方薬を服用して頂きました。漢方薬服用から4ヵ月が経つと、少しずつ手足や下腹部の冷えがとれてきたとのこと。漢方薬の味にも完全に慣れたとおっしゃられていました。


冷えが早い段階で解消されつつ、依然としてむくみと生理痛がまだ残っているということで漢方薬を変更へ。新しい漢方薬は血を補い流れも改善する芍薬や当帰、水分代謝を改善する茯苓や白朮などから構成されるものでした。


漢方薬変更から3ヵ月が経過した段階でむくみも生理痛も軽減。毎月服用していたロキソニン(消炎鎮痛薬)を服用しなくても良い状態になっていました。変更によって四肢を中心とした冷えがぶり返さないか少々心配していましたが、その心配も無くレイノー病の症状は現れませんでした。


服用から丸1年が経ち、冬になってもしもやけや歩行が難しくなるほどのしびれも起こらず、良い状態がキープできました。この方は現在でも症状や気候に合せながら服用量や内容を調節して継続的に漢方薬を服用して頂いています。

おわりに


レイノー病は血管が異常に収縮することによって血流が悪化し、冷えなどが起こる病気です。したがって、理論的には血管を広げる能力がある西洋薬を服用すればすべての問題は解決すると思えます。しかし、意外にも当薬局へいらっしゃる方の多くが病院の薬を服用してもなかなか冷えが消えないと訴えられます。


漢方薬はただ血行を改善するだけではなく、身体を内側から温めるはたらきにも優れています。この点が漢方薬と西洋薬とで大きく異なる点と考えられます。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、末端を中心とした冷えやしびれなどの症状が少しずつとれてくることから、レイノー病と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、レイノー病にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 血行不良(血流の改善) 】と漢方薬による治療

血行不良とは


近年、健康意識の高まりとともに血行に対しても注目が集まっています。健康雑誌などでもしばしば「血行改善」「血流を良くする」といった特集を目にします。私たちの心臓は常に血液を身体に巡らせるために拍動しています。


健康診断では血圧の状態や貧血の有無を確認します。血行や血流への関心の高さは、私たちの意識のなかで血が「健康」「生」と強くリンクしているからかもしれません。


血液には酸素や栄養素だけではなく細菌やウイルスから身体を守る白血球や抗体、さらにはホルモンや処理される老廃物なども含んでいます。この血液が心臓のはたらきでしっかりと身体を巡ることで健康が維持されています。逆に血行が悪くなってしまうと、これらの循環が滞り身体に不具合が出てしまうことは想像に難くありません。


西洋医学的に血行不良を考えると、主に血栓(けっせん)や動脈硬化によって血管が塞がれている状態などが挙げられます。心臓を取り巻く血管の血行が悪くなれば心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患、脳の場合は脳梗塞や脳出血によって脳卒中に到ってしまいます。


一方の漢方医学においては瘀血(おけつ)という独自の概念があり、これが一般の方が抱く「血行不良」状態のイメージに近いといえます。つまり、「血行を改善する」「血液ドロドロを解消する」「血の巡りを良くする」ことは、漢方的には瘀血の状態を改善することといえます。そこで、本ページではこの瘀血に焦点を当ててゆきたいと思います。


なお、厳密には滞っている血(けつ)そのものを瘀血と呼び、瘀血が形成されてしまっている状態を血於(けつお)と呼びます。瘀血は病的産物であり、血於は病的状態ということです。しかしながら、多くの場合は両方をひっくるめて瘀血と表記することが多いので、本ページでもその方針を採っています。


瘀血とは


漢方医学において血(けつ)は身体を栄養したり、精神状態を安定させるはたらきを担っています。前者は西洋医学における「血液」の考えと近いですが、後者のメンタルヘルスにも関係している点では異なります。


したがって、瘀血に陥ってしまうと全身的または局所的なこり感や痛み、さらに栄養不良状態、不安感や不眠といった精神症状も現れてしまうと漢方では考えます。このように漢方において血行不良はとても幅広い症状を引き起こすものと考えます。下記では瘀血の原因や具体的な症状、そして瘀血を改善する漢方薬について解説してゆきます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


血行不良(瘀血)の原因


漢方の考え方では血はそれ自身のみで身体のなかを巡るのではなく、気の力を受けて巡っています。したがって、気が不足した気虚(ききょ)や気が滞った気滞(きたい)の状態に陥ると瘀血が生まれやすくなってしまいます。


具体的には過労や大病によって気を消耗したり、精神的なストレスを受け続けることで気の巡りが停滞したりすると瘀血は生まれやすくなります。その他にも身体の冷やし過ぎ、むくみに代表される水分代謝異常、打撲や捻挫、さらには血自体の不足である血虚(けっきょ)などによっても瘀血は引き起こされます。


上記のように血は非常に多くの原因によって停滞し、瘀血が形成されてしまいます。結果的にさまざまな体調不良の背景には血行不良(瘀血)がセットで潜んでいるとも解釈できます。長時間労働やストレスが蔓延している現代社会において、瘀血が皆無という方は少数派といえるでしょう。


血行不良(瘀血)の症状


血行不良、つまりは瘀血によって起こされる症状はとても多彩です。そのなかでもしばしばみられるのが下記で挙げた諸症状になります。血行不良は幅広い症状をもたらす一方で、血流が改善されることで悩まされていた複数の症状が好転することも多いです。


頻繁にみられる身体症状

肩こり、首こり、頭痛、腰や背中の痛み、関節痛、胸痛、しびれ、肌の色素沈着(アザ、シミ、クスミ、眼下のクマ)、冷えのぼせ、しもやけを含む手足の末端の冷え、動悸、むくみ(浮腫)、赤ら顔、疲労感、重だるさなど


婦人科系の症状

不妊症、生理不順や無月経、不正性器出血、生理痛、子宮内膜症や子宮筋腫といった生理痛をもたらす病気、月経前症候群(PMS)によるイライラ感、経血の暗色化と塊の増加など


血管と関連が強い症状

高血圧症、静脈瘤、動脈瘤、内出血、皮下出血、紫斑、痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)、具体的な病名では心筋梗塞や狭心症、脳梗塞や脳出血を含む脳卒中、血栓性静脈炎、精索静脈瘤など


その他の症状

抜け毛の増加による薄毛、ED(勃起不全)、肌の乾燥や荒れ、爪がもろくなり割れやすくなる、ドライアイ、便秘、健忘(記憶力の低下)、不眠など


血行不良(瘀血)による痛みの特徴

上記ではさまざまな瘀血による諸症状を挙げてきましたが、痛みをともなうものが非常に多いです。さらに瘀血によって起こる痛みにはいくつかの特徴があります。


主には痛む場所が固定されている、刺すような強い痛みがある、夜間に悪化しやすい、患部が腫れたりしこりができる、患部が紫色や赤黒く暗色化するといった点が挙げられます。


より具体的には、疲れがたまる夕方以降に首肩こりと一緒に痛みがある、長時間のデスクワーク後につらい腰痛に襲われる、古傷が何年経っても痛むケースなどにはほぼ確実に瘀血が関与しています。他にも出血や炎症をともなう病気全般にはしばしば瘀血が関与しています。


血行不良(瘀血)による栄養状態の悪化

血の巡りが悪くなると必然的に血の供給量も低下してしまいます。そうなると瘀血の症状にくわえて血虚の症状も目立ってきます。血虚の症状とは栄養不良の状態と考えればわかりやすいでしょう。


すでに挙げた肌や眼の乾燥、爪のもろさ、抜け毛の増加による薄毛、ED(勃起不全)などは瘀血の症状というよりも瘀血由来の血虚症状といえるでしょう。一方で血虚はさらなる瘀血の原因にもなるので、瘀血+血虚の症状は頻繁しやすいです。


漢方薬を用いた血行不良(瘀血)の治療


血行を改善する漢方薬は主に活血薬(かっけつやく)を中心に、理気薬(りきやく)や補血薬(ほけつやく)を組み合わせたものになります。活血薬とはそれ自体に血行改善作用のある生薬であり、桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが代表的です。


理気薬とは気の流れが悪くなっている気滞を解消する生薬です。血は気の力によって身体中を巡っているので、気の巡りが悪くなると血の流れも悪くなってしまいます。血行不良はしばしば気滞によって起こるので理気薬は血行改善に不可欠な生薬といえます。


気の流れは主に精神的ストレスによって悪くなります。精神的なストレスに晒されて、身体が硬くなり肩こりが悪化するようなケースは典型的な気滞由来の瘀血の症状といえます。代表的な理気薬には柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などが含まれ、ストレスを緩和するはたらきを持っています。


瘀血は気滞の他に血虚によっても引き起こされますし、瘀血から血虚に陥るケースもしばしばです。血虚を改善する補血薬には主に地黄、芍薬、当帰、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。栄養状態がすぐれないような方には補血薬が不可欠となります。


上記の他にも血行は冷えによっても悪化しやすいので、その際には身体を温める散寒薬(さんかんやく)が使用されます。代表的な散寒薬には附子、桂皮、乾姜、呉茱萸、細辛などが含まれます。冷え以外にも水分代謝の滞りや気の不足によっても瘀血は起こります。したがって、個々人の症状や体質によって漢方薬は変化してゆきます。


血行不良(瘀血)の改善例


改善例1

患者は30代後半の女性・システムエンジニア。仕事柄、座ったままディスプレイを長時間見ていることが多く、慢性的な肩こりと痛みに悩まされていました。肩こりは悪化すると後頭部の痛みにもつながり、そこからイライラ感が増し、集中力も低下気味。血流改善を訴えるサプリメントや健康器具、さらに岩盤浴や鍼灸などを試しても効果はありませんでした。


首の骨に問題でもあるのかと思い整形外科を受診しても特に異常は指摘されず鎮痛作用のあるロキソニンテープが処方され、使用していましたが好転せず当薬局へご来局。「1日に何回も首を回したりマッサージをしているが良くはならない。たかが肩こりかもしれないけれど我慢の限界」とのこと。


よりくわしくご症状を伺うと、慢性的なこりのご症状は首から背中にかけて僧帽筋全体に及んでいました。肩こりや頭痛の他にも生理痛や足の冷えとむくみも気になるという。顔色はやや浅黒く、手足は軽くどこかに当たっただけでアザができやすい体質。この方のご症状は典型的な瘀血によるものであり、血を巡らす桃仁や牡丹皮から構成される漢方薬を調合しました。


漢方薬を服用して3ヵ月が経過すると生理時に毎月服用していた鎮痛薬を使わなくても済むようになりました。頭痛の頻度も低下したとのことでしたが、肩こりによる不快感はあまり変わりませんでした。そこで首肩の筋肉をリラックスさせる作用のある葛根を含んだ漢方薬に変更しました。くわえて出来るだけ座りっぱなしではなく、歩くことを意識して頂きました。


新しい漢方薬に変えて1ヵ月ほどで「首を横に振ってポキポキと鳴らすことが少なくなった気がする」とのこと。ウォーキングを意識して行ったことも手伝ってか下肢の冷感やむくみによる重だるさも少しずつ軽くなっていました。


この方は全体的に緩やかな改善が見られたので、数ヵ月間は同じ漢方薬を継続していただくことにしました。その後も首肩のこりや頭痛に悩まされることも減り「繁忙期には吐気がするほどの不快感があった肩こりは完全に起こらなくなった」という。


生理痛を中心とした婦人科系のトラブルも軽減し「漢方を飲んでいると抜け毛が減って、肌もカサカサせずに調子が良いので」美容目的もかねて継続されています。冬季は身体を温める桂皮や乾姜を含む漢方薬に変更するなど微調節は行いつつ、一貫して血を巡らす内容で漢方の服用を続けていただいています。


改善例2

患者は40代前半の男性・会社員。昔から赤ら顔でほてり感を感じやすい体質でしたが、数年前からその症状が悪化。上半身は不快なほてり感があり、下半身は腰から下に顕著な冷えが現れるようになりました。毎年、受けている健康診断では軽度の高血圧症が指摘され、これ以上悪化すると本格的な治療が必要とのこと。年々、これらの症状が悪くなっていると感じ、当薬局へご来局。


暖かくなってくる春先になると、ほてりが目立ち始めて頭痛が起こることも。「頭痛が出だして痛み止めを飲むようになると、春が来たんだなと実感する」という。一方で鎮痛薬を服用すると必ず胃に不快感が生じるので出来るだけ服用は控えている。


よりくわしくご症状を伺うと赤ら顔や頭痛、上半身のほてりと下半身の冷え、その他に肩こりや抜け毛の多さ、そしてドライアイも顕著であることがわかりました。苦笑しながら「PCを使っていると眼がすぐに乾燥する。デスクの上には抜け落ちた髪が目立ち、それを見つけると非常に衰えを感じる」という。


これらのご症状や体格などから血を巡らす当帰や川芎、血を補う力に優れている地黄などを含んだ漢方薬を調合しました。くわえて禁煙とお酒の減量をお願いしました。ご本人も何かのきっかけがないと生活習慣の改善はできないと考えていたとのことで、前向きなご様子でした。


漢方薬を開始して2ヵ月が経つと、首の上部から背中にかけての張り感が緩和されて肩こりが気になることはなくなりました。一方で季節は初夏に入り、顔を中心としたのぼせ感は依然として強く、肩こりほどの改善は実感できないとのこと。季節も考慮して、血行改善を維持しつつ黄芩や黄連といった過剰な熱を冷ます生薬も含んだ漢方薬に変更しました。


新しい漢方薬は苦くて飲みにくいとのことでしたが不快な熱感は軽減され、飲酒後のような顔の赤みも薄くなり「奥さんからも酔っ払いみたいと言われることはなくなった」とのこと。他にはドライアイで点眼薬を使う頻度も減少しました。


季節は冬になり、ヒーターが入るようになっても例年のような強烈なのぼせ感に襲われることはありませんでした。腰から下の冷感も緩和され、分厚いタイツをはかなくても済んでいるとのこと。気温が低くなると悪化しやすかった血圧も正常血圧から正常高値血圧の範囲内に収まりました。


春が訪れても頭痛や肩こりに悩まされ、仕事に集中できなくなることはなく過ごせているとのこと。「身体の不調が減って気持に余裕ができた。ストレスも軽くなった気がする。そのおかげか抜け毛も落ち着いた」ということで、継続的に漢方薬を服用していただいています。


おわりに


スムーズな血の巡りは生きてゆくうえで欠かせないものです。血が滞って瘀血の状態に陥ってしまうと心身両面に悪影響が及んでしまいます。血の停滞は生命エネルギーである気や有益な水分を指す津液(しんえき)の停滞にもつながってしまいます。


長時間労働をこなし運動不足の現代人はおおむね瘀血に由来する体調不良を抱えています。漢方薬は瘀血を解消することで生活の質を改善することが出来ます。上記で挙げたような血行不良による症状にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

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