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【 チック症(トゥレット症候群を含む) 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局とチック症(トゥレット症候群)


当薬局では長年、チック症に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつはチック症はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬はチック症の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページではチック症とトゥレット症候群に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


漢方相談の流れ…当薬局のご来局からアフターフォローについて

漢方薬の価格と種類…粉薬や煎じ薬の解説とそれぞれの価格について

アクセス…JR池袋駅から当薬局までの順路について

一二三堂薬局の漢方薬の安全性…漢方薬の残留農薬や放射性物質への対策について

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チック症とトゥレット症候群とは


チック症とは無意識に筋肉を動かしてしまう病気であり、それは「無意識」であるがゆえに本人の意思では止められない点がチック症の特徴です。具体的には素早いまばたき、首ふり、顔をしかめる、肩を上下させるといった動作が現れます。他にも咳払い、鼻を鳴らす、奇声を上げるなどの症状が見られることもあります。


チック症はお子様に多い病気です。したがって、このホームページもお子様を主な対象として考えてゆきます。発生頻度はおおよそ10~20%といわれており、チック症は決して珍しい病気ではありません。その発症年齢については統計的に5~9歳ごろがピークになります。したがって、小学校低学年の1クラスにおいて数人は必ず発症している計算になります。


チック症が数年経っても消えず、むしろ症状が増加・悪化して慢性化してしまった場合はトゥレット症候群と病名が変わります。トゥレット症候群は多くの場合、10歳前後で症状の強さのピークを迎えます。その後は徐々に回復して中学校卒業時くらいにはほとんどの症状が鎮静化するといわれています。つまり、トゥレット症候群はチック症という病気を構成する一症候群、慢性化したチック症ということができます。


チック症は既に述べたとおり、よく見られる病気でしたがトゥレット症候群の発症頻度は0.05%と非常に低いことも知られています。したがって、チック症が発症したからといってトゥレット症候群になる(慢性化する)と過度に心配する必要はないでしょう。


チック症の原因


過去においてチック症の原因は家庭環境であるとする考え方が一般的でした。つまり、「子どもへの教育やしつけが厳し過ぎた」「母親が愛情を込めて育てなかった」などの言説です。残念ながら、今日でも一部(医療従事者や教職員を含む)ではそのような考え方が残ってしまっています。


現在ではチック症に関する研究も進み、いくつかの神経伝達物質、主にドパミンやドパミンを受け取るレセプターの異常がチック症に強く関連していることがわかってきました。しかしながら、まだ完全にチック症の原因は解明されていません。


上記より、チック症は体質によるところが大きく、決して家庭環境に問題があったから発症するような病気ではないことが分かってきたのです。その一方でチック症はストレスが蓄積したり緊張する場面で悪化することも知られています。したがって、チック症は体質的要因がその根幹にあり環境要因がそれに対して影響を及ぼしているという考えが多数派となっています。


チック症の症状


チック症の症状は大きく分けて運動性チック症と音声チック症に分けられます。実際的には運動性チック症のみが出る場合、音声チック症のみが出る場合、そしてふたつとも出る場合やその他の症状が混ざって現れるなどさまざまです。


運動性チック症

具体的な運動性チック症の症状としては顔や口の筋肉を動かす、首を振る、肩をすくめる、まばたき、口の周りをなめる、ジャンプする、身体をビクつかせるなどが挙げられます。顔や口の片側の筋肉だけを動かすことで、しばしば「ひょっとこ」のような顔つきになると表現される方もいらっしゃいます。


これらの症状は専門的には不随意運動と呼ばれます。つまり、意識していない状態で出てしまう動きです。意識していないので症状が出ている本人に「動くな!」「止めろ!」と言っても効果は無く、むしろ緊張感を高めてしまい逆効果になってしまいます。


音声チック症

具体的な音声チック症の症状としては鼻を鳴らす、奇声を発する、「あ、あ、あ」のように同じ言葉を繰り返す、「バカ!」「死ね!」「クソ!」などの攻撃的で品のない言葉や「おっぱい」「ちんこ」といった性的な言葉を発する(汚言症)などが挙げられます。


これら音声チック症も運動性チック症と同様に不随意的なものなので意識して止めることはできません。音声チック症はその音によって周囲から目立ってしまうだけではなく、汚言症は会話の前後関係に依存しない形で出てしまいます。したがって、友人関係などに代表される人間関係に問題が生じてしまわぬよう注意が必要です。


その他の症状

チック症の症状は多様であり、運動性チック症とも音声チック症ともいえないものがあります。具体的には特定のものに強くこだわる、髪の毛やまつ毛を抜く抜毛症(ばつもうしょう)、口の中や唇をかむ、皮膚をはがす、匂いをかぐ、突然の怒り、暴力的な行為などの症状が挙げられます。これらの症状の一部はチック症ではなく単なる癖である場合も多く、その区別が難しいこともあります。


チック症の症状ではありませんが、しばしばチック症とADHD(注意欠陥・多動性障害または注意欠如・多動症)が一緒に現れやすい、合併しやすいことが知られています。漢方薬をもちいたADHDの治療につきましては こちらをご参照ください。


チック症の西洋医学的治療法


チック症が慢性化して学校生活を送る上で問題があるような場合は薬物治療の対象となります。もっとも頻繁に使用されるのはドパミン受容体阻害薬であるセレネース(一般名:ハロペリドール)、リスパダール(一般名:リスペリドン)、ウインタミン(一般名:クロルプロマジン)、オーラップ(一般名:ピモジド)、そしてドパミン量のバランスを調節できるエビリファイ(一般名:アリピラゾール)などです。


これらはドパミンの過剰なはたらきを抑制することでチック症の症状を軽減します。その一方で眠気、筋肉のこわばりと硬直、眼球運動障害、嚥下障害などの多彩な副作用が存在します。これらの副作用はその原因と考えられる脳の部位の名前から錐体外路(すいたいがいろ)障害や錐体外路症状と呼ばれます。くわえて特に意識しない口や顔の動きを遅発性ジスキネジアとも呼ばれます。


ドパミン受容体遮断薬は西洋医学的には実績のある治療薬であり、近年では副作用の少ないタイプの治療薬も開発されています。しかしながら、上記のような副作用はゼロではないので慎重な治療が求められます。


ドパミンとは異なる神経伝達物質であるセロトニンのはたらきを活性化させるパキシル(一般名:パロキセチン)などのSSRIと呼ばれるカテゴリーの薬、同じく神経伝達物質であるGABAのはたらきを高めるベンゾジアゼピン系の抗不安薬であるリボトリール(一般名:クロナゼパム)、セルシン(一般名:ジアゼパム)、自律神経の興奮を抑えるカタプレス(一般名:クロニジン)なども用いられることがあります。


上記の薬も副作用として吐気、食欲不振、腹痛、下痢といった消化器系障害、ふらつきや頭重感などの感覚異常が出る場合もあります。


薬物療法以外にもカウンセリングを中心とした心理療法が用いられます。カウンセリングではチック症がどのような病気なのかを両親と一緒に理解し、建設的な治療を行う環境づくりを行います。


チック症の漢方医学的解釈


チック症の症状は筋肉の動きが制御できないことが根本にあります。漢方医学において筋肉の動きは肝(かん)がコントロールしていると考えます。漢方医学の理論における肝は筋肉の動きだけではなく、眼のはたらきを維持したり、精神や感情を安定化させるはたらきを担っています。この肝のはたらきが何らかの原因で失調した場合は筋肉の動き、眼の機能、気持ちの乱れなどが起こってしまいます。


筋肉のはたらきが失調してしまうと運動性チック症や一部の音声チック症に繋がることがわかります。チック症特有のまばたきも筋肉と眼のはたらきの失調に寄るところが大きいでしょう。気持ちの乱れはイライラ感、理由のない怒り、情緒不安定、ヒステリーなどを誘発します。したがって、漢方医学的には肝に注目してチック症の治療を行うことになります。


さらに肝以外にも、肝と関連深い腎(じん)への配慮も必要な場合があります。腎は成長や生殖などを司る精(せい)を蓄えています。肝腎同源(かんじんどうげん)といって、肝が失調すると腎のはたらきも弱まり、逆に腎の精が少なかったりすると肝のはたらきも弱まってしまいます。


精は成長に欠かせないものであり、成長障害、学習障害、低身長や低体重などの精不足と考えられる症状がチック症と一緒にあるようならば、漢方薬を用いてそれらに対する治療も行われます。

チック症の症状に肝の失調が関与していることは上記で説明したとおりでしたが、根本的になぜ肝が失調してしまったのかを考える必要があります。肝は多くの場合、精神的なストレスによってその力が低下してしまいます。したがって、まずはお子様の精神的なストレスがないかを考える必要があります。経験的には受験によるストレス、学校のクラス替えに伴う環境の変化、家庭環境の変化などが多いと感じます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたチック症の治療


上記で述べてきた理論のとおり、漢方薬を用いたチック症の治療は肝をいたわり、その機能を回復させることが中心となります。肝の力の衰えは肝にためられていた血(けつ)が消耗すると起こりやすく、それを補うことがチック症治療の中心に据えられます。


血を補う生薬である補血薬(ほけつやく)としては地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが代表的です。特に芍薬は筋肉の過緊張を和らげるはたらきもあるのでチック症には最適の生薬といえます。


さらに精神的ストレスを緩和することで肝血の消耗を抑える理気薬(りきやく)も重要です。代表的な理気薬としては柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。他にも筋肉のけいれんやふるえを鎮める熄風薬(そくふうやく)である釣藤鈎、天麻、竜骨、牡蠣、腎の精を補う補腎薬(ほじんやく)である鹿茸なども漢方薬を構築する上で重要視されます。


これら以外にも主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


生活面での注意点と改善案


チック症やトゥレット症候群の症状は本人が意識して止めることが難しいという点が特徴として挙げられます。したがって、無理に現れている症状をやめさせたりすることはお子さんのストレスを増大させ、逆効果になってしまうでしょう。


症状が出ていてもあえて無視することが必要になります。しばしば、「温かい無視」と呼ばれますが、まさに文字通りの対処法です。温かい無視以外にも、おとなしくできている時には褒めるという対応も良いとされています。


お子様への対応だけではなく、学校への対応も場合によっては必要になります。教職員も多くの場合は基礎的なチック症の知識(「チック症の症状をむやみに注意することは逆効果」
「無意識に起こっている症状で、意識して止めることはできない」など)はあるはずですが、保護者面談時などにチック症のことを伝えておくことも大切です。


チック症の改善例


改善例1

患者は小学6年生の男児。小学校四年生の頃から顔をゆがませたり首を左右に素早く振るなどのチック症状が現れ出した。お母様は最初、ふざけているのか癖なのかわからず症状に対して注意をしていましたが、チック症の症状は治まることなく続いていました。


その後、チック症の症状を同級生に指摘されたことをきっかけに時々学校を休むようになってしまいました。当薬局へは昔からお母様自身が月経困難症で漢方薬を服用しており、息子様にも漢方薬を試そうと考えて親子でご来局。


詳しくお話を伺うと顔や首の動かしといった典型的な運動性チック症の症状に加えて、咳払いや「うっ、うっ」という言葉を発する音声チック症も見られました。緊張しやすい性格なのか、必要以上に肩が高く上がり身体にとても力が入っている雰囲気を感じました。


息子様には心身の緊張を取り除くために柴胡、芍薬、厚朴などから構成される漢方薬を服用して頂きました。そして、お母様には症状を注意したり怒ったりすることは控えるようにお願いしました。


漢方薬服用から4ヵ月が経った頃には大きく体を動かす頻度は減り、続いていた咳払いもあまり見られなくなっていました。この頃、お母様が「息子がまつ毛を抜いて食べてしまう癖がなくなった」とおっしゃられました。これら抜毛症や抜毛癖(ばつもうへき)と呼ばれるものは経験的にチック症と併発しやすいと感じています。


抜毛症が緩和してきたことも含め、心身の過緊張状態が解けてきたと考えて同じ漢方薬を継続して頂きました。そして、服用開始から10ヵ月が経過した頃には運動性チック症も音声チック症もきれいに消失していました。現在はまれにプレッシャーがかかる場面になるとまばたきが多くなるとのことで、同様の漢方薬を継続して服用して頂いています。


改善例2

患者は中学2年生の男児と30代後半のお母様。息子様のチック症で悩んでいたというお母様が息子様と一緒にご来局。症状としてはまばたきと首を左右に振る動きなどでしたが、それ以上に気になったのがお母様の状態でした。こちらが息子様に症状を伺うと、
その答えが返ってくる前にお母様がササッとご返答。


お母様いわく「中学校に進学して、友人との人間関係がうまくいかなかったのがチック症の原因だと思う」とのこと。それは冷静に語るというよりも強い焦燥感を帯びたものであり、息子様からはやや緊張している雰囲気を感じました。


この様子からお母様の指摘が正しい部分もあると思いましたが、今はお母様の姿自体もまたチック症の原因となってしまっている面があると感じられました。そこで、このケースでは息子様だけではなくお母様も一緒に気持ちを落ち着ける漢方薬を服用して頂くことにしました。


お母様にも漢方薬を勧めると、最初は怪訝な顔をされましたが「母子同服(ぼしどうふく)」という言葉があることを伝えて納得して頂きました。「母子同服」は子供の病気を治すために同じ漢方薬を母親にも飲んでもらうという意味であり、お母様の心配がお子様のプレッシャーとなっている場合などに適した治療法です。お母様自身のお話も伺ってゆくとイライラ感や気分の浮き沈みなどに悩んでいたとのこと。


それぞれ漢方薬を服用しはじめてから5ヵ月が過ぎた頃になると、お母様も気持ちが落ち着いてきたようで「ついつい、症状が出るたびに注意していましたが、今は静観することができるようになりました」とおっしゃられました。息子様の方はまだ、まばたきや身体の動きはあるものの、かなりの改善を感じられました。


これを良い傾向と捉えて、同じ漢方薬を継続して服用して頂くことにしました。漢方薬をはじめて1年が経った頃には息子様の症状の大半は鎮まり、漢方薬は無事にご卒業。逆にお母様が「この漢方薬を服用しているとイライラしなくなる」ということで、現在も継続して頂いています。


改善例3

患者は20代前半の男子大学院生。幼少期より首を動かしたり咳払いをするといったチック症がありましたが、年齢が上がるとともに症状も緩和。しばらくチック症のこと自体忘れていましたが研究室での閉塞した生活や就職活動の開始をきっかけにチック症が再発。


病院から抗不安薬が処方されるもふらつきと吐気が強くて服用できなかったとのこと。他の薬を試しても生活に支障が出てしまい服用を断念。何気なくネットでチック症に関する学術論文を閲覧していると漢方薬が有効という論文を見つけて服用を決意。その後、当薬局のホームページを見つけてご来局へ。


伺ったご症状の経過から精神的ストレスによって五臓における肝のはたらきが失調してしまったと考えました。そこでまずはストレスを緩和する柴胡、筋肉のはたらきを整える芍薬、気持ちを鎮める竜骨などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


服用から3ヵ月が経過した頃になると、身体を不規則に動かす場面が少なくなり、それからさらに数ヵ月経った頃には咳払いや時々みられた無意識の発声も見られなくなっていました。無事に電機メーカーに就職された現在でもストレス緩和と健康維持のためにうまく気を流しつつ補うことにも比重を置いた漢方薬を継続服用して頂いています。


改善例4

患者は小学2年生の女児。小さいころから2歳年下の妹とケンカが絶えず、癇癪(かんしゃく)を起こしてご両親を困らすことが多かった。くわえて小学校入学直後からまばたきと肩を上下させるチック症が現れ始めました。お母様は治療を行うべきか迷っているとき、行きつけの鍼灸院で漢方薬を勧められて当薬局へご来局。


娘様の身長と体重を確認すると、どちらの数値も年長さんくらいの水準でとても小柄。お母様曰く「偏食があり食も細くてあまり体力がない。でもいつもイライラして熱がっている」という。これらのご様子から娘様には腎の力を補い、適度に身体をクールダウンする漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬開始から3ヵ月が経ち、お母様のご様子を伺うと漢方薬は嫌がらずに服用できているとのこと。チック症は変化がないが、帰宅後に必ずしていた昼寝をしなくなり食欲が出てきたという。漢方薬はこれまでのものを減量し、代わりに心身をリラックスさせる漢方薬を追加しました。


新しい漢方薬になって2ヵ月が経過すると妹とおもちゃを取り合うこともなくなり、情緒が徐々に安定してきました。お母様も姉妹に注意する頻度が減ってとても助かるとおっしゃられていました。その後、イライラ感が薄れてくるのと比例して運動性チック症も見られなくなりました。


学年も3年生となり、だいぶ姉らしくなってきたとご両親も喜んでいました。漢方薬については服用しているとご本人が「調子が良い」ということで内容に調節を行いながらも継続されています。


おわりに


近年、チック症のご相談が非常に増えた印象があります。おそらく背景には西洋薬を服用させるのに抵抗を感じるご両親の気持ちがあるのではないでしょうか。漢方薬は穏やかではありますが、西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。さらに西洋薬のような目立った副作用の心配もありません。


当薬局では西洋薬を服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方がとても多くいらっしゃることから、チック症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、チック症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 ADHD(注意欠如・多動症または注意欠陥・多動性障害) 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局とADHD(注意欠如・多動症)


当薬局では長年、ADHDに有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつはADHDはお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬はADHDの改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページではADHDに対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


漢方相談の流れ…当薬局のご来局からアフターフォローについて

漢方薬の価格と種類…粉薬や煎じ薬の解説とそれぞれの価格について

アクセス…JR池袋駅から当薬局までの順路について

一二三堂薬局の漢方薬の安全性…漢方薬の残留農薬や放射性物質への対策について

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ADHD(注意欠如・多動症)とは


ADHDとは「Attention Deficit / Hyperactivity Disorder」の略です。ADHDを邦訳すると「注意欠如・多動性障害」や「注意欠陥・多動性障害」とされますが、多くの場合は英名の頭文字をとったADHDと呼称されます。


邦訳については前者の「注意欠如・多動症」を用いる流れとなっていますが、「注意欠陥・多動性障害」も依然として用いられていることから、本ホームページのタイトルでは併記を行いました。


ADHDは注意欠如(不注意)、多動性、衝動性を伴う発達障害の一種です。これらの三要素はADHD患者のすべてに現れるわけではありません。多くの場合において不注意が多いタイプ、多動性と衝動性が多いタイプ、そして三要素のすべてが現れるタイプに大別されます。


ADHDの発生率に関しては不明な点も多いのですが、小学生の3~5%程度と推測されています。この数字で考えると30人から構成される1クラスにおいてほぼ1人以上はADHDを患っている計算になります。


しばしば見受けられる胃潰瘍の生涯において患う確率は約10%といわれています。この数字からもわかるようにADHDは決して稀な病気ではないといえます。さらにADHDは男性の方が女性よりも患っている割合が高いという報告もあります。


ADHD(注意欠如・多動症)の原因


ADHDには脳における前頭前野(ぜんとうぜんや)と呼ばれる部分のはたらきに問題があるとされています。前頭前野は注意力、判断力、感情などをコントロールしている部分です。したがって、前頭前野に問題が生じると注意力が散漫になったり、感情の抑えが効きにくくなってしまいます。


前頭前野の問題の他にもADHDを患っている方はドパミンやノルアドレナリン(別名:ノルエピネフリン)といった神経伝達物質が不足しているといわれています。これら神経伝達物質の不足によって脳は正常なはたらきができなくなってしまいます。その結果としてADHDに特有の症状が出ると推測されています。


ADHD(注意欠如・多動症)の症状


ADHDの症状は注意欠如(不注意)、多動性、衝動性を伴ったものでした。下記ではこれらADHDに特徴的な症状をより詳細に解説してゆきます。


注意欠如(不注意)による症状

ADHDにおいてはしばしばこの注意欠如が顕著に現れます。集中が持続できない、気が散りやすい、忘れっぽいなどの症状は注意欠如といえるでしょう。この注意欠如の諸症状は比較的、女性に多いとされています。


より具体的な症状としては……
●単純な計算問題が苦手
●ケアレスミスが多い
●漢字の書き取りなどの反復練習が苦手
●宿題や親に渡すプリントなどの存在を忘れやすい
●文房具などの身の周りのものを紛失しやすい
●部屋や机の片付けが苦手
●興味があるものには集中できるがそれ以外のことが過度に散漫になる
●話しかけられているのに気付かない
●計画を立てたり優先順位を設定するのが苦手
●行動が遅れやすい
●外からの刺激(音や目に入るもの)で集中が切れやすい
●イライラしやすい
……などが挙げられます。


多動性による症状

多動の症状は身体の動きを抑えられないもの、そして発話に関連するものが挙げられます。身体の多動は文字通り、じっとしているのが困難であり動いていないと落ち着かない状態です。さらに「言葉の多動」は過度にしゃべり続けてしまう状態といえます。多動性は一般的に成長とともに鎮まってゆく傾向がありますが、思春期以降もじっとしているのが苦痛という感覚が残ることもしばしばです。


より具体的な症状としては……
●授業中に立ち歩いてしまう
●授業中にずっと落書きをしている
●気になることがあるとそちらへすぐに行ってしまう
●着席していてもそわそわと手足を動かす
●運動する際の力の入れ方が過激になりやすい
●一方的にしゃべりだして止まらない
●声が大きい
●話の内容がコロコロと変わる
●発言がそれまでの前後関係に沿っていない
……などが挙げられます。


衝動性による症状

衝動性とは自分の抱いている感情、発言、行動を抑制することが難しい状態を指します。思いついた行動に対して実行に移す前に立ち止まって考えることが難しいことによって起こる諸症状といえます。


より具体的な症状としては……
●順番やゲームのルールを守るのが苦手
●他の子が遊んでいるおもちゃを取り上げてしまう
●思い通りにならないと癇癪(かんしゃく)を起こしやすい
●思っていることを言わずにはいられない
●他者の話を最後まで聞かずに話してしまうこと
……などが挙げられます。


ADHDの症状全般にいえること

ADHDの諸症状はしばしばグループでの行動を困難なものにしてしまいます。わざと邪魔をしているのではと誤解を生んでしまうこともあるでしょう。


しかしながら、ADHDに起因する諸症状は意図的に他者を困らそうとしたり邪魔しようとしているものではないことを周囲の人に理解してもらうことが大切です。とても根気が必要であり、つらい作業でもありますがとても重要なことでもあります。


ADHD(注意欠如・多動症)の西洋医学的治療法


現在、ADHDの治療には神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の不足を解消する薬が使用されています。具体的にはコンサータ(一般名:メチルフェニデート)とストラテラ(主な商品名:アトモキセチン)が挙げられます。


個人差はありますが、治療薬としての効果はコンサータがストラテラよりも高いといわれています。その一方でコンサータは依存性も高く、ストラテラよりも慎重に使用されます。両者とも副作用に食欲不振や吐気といった消化器系のトラブルがあり、しばしば治療薬の継続を難しくしてしまいます。


今日において西洋医学的なADHDの治療薬は非常に限られてしまいます。上記以外の薬として抗うつ薬などが用いられることもありますが、有効性については判断が分かれています。


ADHD(注意欠如・多動症)の漢方医学的解釈


ADHDによって引き起こされる諸症状はうまく情動をコントロールできないことによって起こっている状態といえます。漢方医学において情動は肝(かん)がコントロールしていると考えます。漢方医学の理論における肝は気の流れをスムーズにし、精神状態を安定化させるはたらきを担っています(肝はその他にも眼や筋肉のはたらきも司っています)。


この肝のはたらきが何らかの原因で失調した場合は気持ちの乱れやそれに伴う行動の乱れが起こってしまいます。つまり、肝が不調になるとイライラ感、理由のない怒り、情緒不安定、ヒステリーなどを誘発し、それに伴って行動も不安定で過剰になりやすくなります。


それ以外にも肝が慢性的なストレスを受けて病的な熱を帯びた状態になってしまうとイライラ感が一層強くなり、頭痛、めまい、のぼせ、けいれん、ふるえ、意識障害などを引き起こす場合もあります。(これらのいかにも「熱っぽい症状」はADHDには必ずしも当てはまるものではありませんが、しばしば小児は大人よりも「熱」を帯びやすいといわれています)したがって、漢方医学的には肝に注目してADHDの治療を行うことになります。


さらに肝以外にも、肝と関連深い腎(じん)への配慮も必要な場合があります。腎は成長や生殖などを司る精(せい)を蓄えています。腎は肝とつながりが深い臓であり、肝腎同源(かんじんどうげん)といって肝が失調すると腎のはたらきも弱まり、逆に腎の精が少なかったりすると肝のはたらきも弱まってしまいます。


精は成長に欠かせないものであり、ADHD以外の発達障害や成長障害(低身長・低体重)などの精の不足と考えられる症状がADHDと一緒にあるようならば、漢方薬を用いてそれらに対する治療も行われます。


ADHDの症状に肝の失調が関与していることは上記で説明したとおりでした。この肝は精神的なストレスによってその力が低下しやすいデリケートな臓です。したがって、まずはお子様の精神的なストレスがないかを考える必要があります。経験的には友達や先生との関係、学校のクラス替えなどに伴う環境の変化、家庭環境の変化などが多いと感じます。


特に衝動性が強く現れるとうまく友達と遊ぶことができず、場合によってはケンカが起こりやすくなってしまいます。結果的にストレスが増幅され、憂うつ感や食欲の低下といった症状も出やすくなってしまいます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたADHD(注意欠如・多動症)の治療


上記で述べてきた理論のとおり、漢方薬を用いたADHDの治療は肝をいたわり、その機能を回復させることが中心となります。肝の力が衰えるということは肝にためられていた血(けつ)が消耗するということであり、それを補うような治療が中心に据えられます。


消耗してしまった血を補うには地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの補血薬(ほけつやく)を含んだ漢方薬が有効です。さらに精神的ストレスを緩和することで肝血の消耗を抑える理気薬(りきやく)と呼ばれる柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの生薬もしばしば併用されます。


イライラ感が強く怒りっぽい状態が顕著ならば黄芩や黄連といった熱を鎮める清熱薬も用いられます。その他にも竜骨と牡蠣も気持ちを鎮める効果に優れています。全体的に発達と成長がゆっくりしている子に対しては腎の精を補う補腎薬(ほじんやく)である鹿茸なども漢方薬を構築する上で重要視されます。


これら以外にもADHDの症状や体質は個々人によって微妙に異なりますので、臨機応変に漢方薬を対応させる必要があります。やや横道にそれますが、コンサータやストラテラといった西洋薬を服用することで症状が改善する反面、副作用が出てしまう場合はその副作用を鎮めるような漢方薬を使用するという発想もあり得ます。


上記のように調合する漢方薬の内容はADHDを患っている方の状況によってさまざまに変化してゆきます。したがって、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


ADHD(注意欠如・多動症)の改善例


患者は小学4年生の男児。保育園時代はあまり問題になりませんでしたが、小学1年生の頃から授業中の立ち歩きが目立ちはじめて先生を困らせてしまったという。体育の時間も整列や球技のルールを守るのが得意ではない。性格的には思い通りにいかないと癇癪(かんしゃく)を起こすこともしばしばだが、基本的には温厚でのんびり屋。


小学2年生の時に小児科から軽度のADHDを指摘され、その後は薬物療法を開始するも食欲不振と腹痛が起こり、体重も減ってしまいました。薬の服用量などを調節してもうまく継続はできませんでした。当薬局へは同級生がチック症の治療をしていた縁でご来局されました。


ご両親と一緒にご来局された際は薬局の中を興味深く「探検」されていました。漢方薬局は確かに珍しいものが多いのですが、ご様子からは典型的なADHD、特に多動性の症状が見て取れました。最近はやや怒りっぽくなり、大声で怒ったりするので小学2年生の妹様も少しビクビクしてしまっているとのこと。


ADHDの症状以外としては週に一度ほどの頻度で夜泣きが見られる。友人関係は良好。体格的には年齢よりもやや小柄でお母様は小児科の薬が影響していたのではないかと少し心配されていました。


色々と悩みましたがまず柴胡、竜骨、牡蠣などから構成される気持ちを安定化させる漢方薬を服用して頂きました。漢方薬が服用できるか少し不安でしたが無事に飲めたということで同じ漢方薬を4ヶ月間服用して頂きました。


ご症状に関しては以前にみられたような、手が付けられないくらい怒り狂うようなことはなくなり妹様も過ごしやすそうとのこと。夜中に突然泣いて起きる頻度が減ってきたので、朝起きられないことも無くなりました。


しかし、まだ食欲があまり無く食べる量も2歳下の妹様と同じくらいで、この頃の健康診断で低身長と低体重を指摘されたとのこと。漢方医学における肝が不調に陥ると脾胃(消化器)の調子が落ち込むことがしばしばあります。現在の漢方薬でも徐々に食欲は上向くと考えていましたが、お母様の心配も強かったので人参、黄耆、白朮などを含んだ脾胃のはたらきを向上させて気を補う漢方薬を一時的に併用して頂きました。


新しい漢方薬の組合せにしてから4ヵ月が経った頃には食欲も出てきて、たまに訴えられていた吐気や腹痛も無くなりました。全体的な体調が整ってくるのと併せて多動性も徐々に鎮まり、感情面は引き続き安定しているとのこと。脾胃が整いうまく気が補え、さらに気の巡り自体も良くなった影響だと考えられました。


その後も症状と体質に併せて漢方を調合し、2年以上が経過しています。体格も見違えるように良くなり、心身ともに落ち着いている印象です。まだ身体を動かしたい衝動に駆られることもあるということですが、うまくご自身でコントロールできているとのこと。


小学校を卒業後は自由な校風の私立中学校に進学し、バレーボール部に所属するなど学生生活を楽しまれています。漢方薬はその後も精神状態や消化器系の調子を見ながら微調節を繰り返しつつ、継続服用して頂いています。


改善例2

患者は中学校3年生の女子。小学校時代から異常に忘れ物が多く「電車に乗って荷物を載せる柵に忘れ物をした経験は数えきれないくらい」とご自身でおっしゃられていました。数年前にADHDと診断されましたが特に服薬などの治療はせずに過ごしてきました。


最近の困る症状としては集中力が続かず、勉強をしていてもすぐに他のことに意識が向いてしまうことを挙げられました。ご来局時、一緒にいらっしゃったお母様も高校受験への影響を心配されていました。


詳しくご様子を伺うと、上記のご症状にくわえて疲労時に起こりやすい頭痛、めまい、立ちくらみが気になるとのこと。特に春先になるとこれらの症状が悪化し、イライラ感や気分の落ち込みが現れるという。これらのご症状から、娘様には気の巡りを改善する柴胡、肝の不調を改善する芍薬、頭痛やふらつきを改善する釣藤鈎などから構成される漢方薬を調合しました。


漢方薬を服用して4ヵ月ほどが経過すると、頻繁に起こっていた頭痛はやわらぎロキソニン(鎮痛薬)を服用することはほぼなくなりました。めまいで視界が左右に揺れるようなことも減ったとのこと。一方でお母様曰く忘れ物や集中力に関して変化はない。


体調は改善しているので同じ漢方薬をさらに1ヵ月続けましたが忘れ物などに改善は見られなかったので新しい漢方薬へ変更。竜眼肉や酸棗仁を含んだ漢方薬を調合しました。この漢方薬は古来より健忘(記憶力の低下)にもちいられることを参考にしました。


漢方薬を変更して3ヵ月が経つとご本人が「少しずつ、自分は忘れ物をしやすいんだと自覚して行動できるようになった」とのこと。忘れ物をしないようにメモを残すなどご自身で意識を高められているという。秋になり受験が近づいているという緊張感も手伝ってか、勉強もしっかりとこなせているご様子。


年が明け、受験の季節となり、娘様は無事に第一希望の都立高校に合格されました。一方で新生活の緊張もあってか頭痛が目立つということで、最初に調合した漢方薬へ変更。その後は頭痛や春特有の情緒不安定も現れず、元気に登校されているとのこと。漢方薬はご症状や季節に合わせて調節しつつ、継続して頂いています。


おわりに


「ADHD」という病名が一般的なものとなってからずいぶん経った印象を受けます。その一方でなかなかその「中身」の理解は進んでいないのではないでしょうか。病院で処方される治療薬もまだ限られており、副作用の頻度も低くないといわれています。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では限られる数種類の西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから情緒が安定し、注意欠如(不注意)や多動性による症状が少しずつ緩和されることからADHDと漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、ADHDにお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 起立性調節障害 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と起立性調節障害


当薬局では長年、起立性調節障害に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつは起立性調節障害はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬は起立性調節障害の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページでは起立性調節障害に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


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起立性調節障害とは


起立性調節障害とは主に学童期の時期に起こる朝の起床困難、立ちくらみ、めまい、疲労感、頭痛、腹痛などを伴う病気です。しばしば起立性調節障害はその英語表記であるOrthostatic Dysregulationの頭文字をとって「OD」とも呼ばれます。


起立性調節障害の病態を簡単に表現すれば主に低血圧症による一時的な脳の虚血(きょけつ)状態といえます。虚血とは何らかの理由で血流が低下している状態を指します。やや脱線しますが、しばしば耳にする貧血は血液における赤血球の濃度が低下した状態ですので、虚血とは異なった病態です。貧血に関しましては 貧血と漢方薬による治療のページをご参照ください。


脳における虚血が起こる原因は成長途上のお子様は血圧をコントロールする自律神経(特に交感神経)がまだ完全に機能していないためと考えられています。しかしながら、立ちくらみやめまいのような起立性調節障害の症状が現れていても血圧に問題がないケースもあります。この点に関しましては後述の体位性頻脈症候群をご参照ください。


起立性調節障害は決して珍しい病気ではありません。データによって多少の変動幅はありますが学童期の5~10%が患っているといわれています。この確率から単純に考えると30人のクラスに1人以上の起立性調節障害患者がいる計算になりますので、その頻度の高さがわかります。起立性調節障害には男女差も認められており、多くの場合は女子に多いとされています。そしてこの傾向は中学生以降により顕著になるといわれています。


起立性調節障害の原因


起立性調節障害は主に10代前半以降の学童期のお子様に多く見られる病気です。その理由は血圧を調節する自律神経がまだ未発達なためと考えられています。


「自律神経」とは自律的、つまり意思とは無関係に自動的に調節を行う神経です。自律神経の中でも交感神経は血圧を上昇させる機能を司っており、この交感神経がうまく働かないと充分に血圧が上がらず起立性調節障害特有の症状が現れてしまいます。


この自律神経はしばしば精神的なストレスなどによってうまくコントロールできなくなってしまいます。したがって、起立性調節障害は自律神経の未発達だけではなくストレスを受けやすい多感な性格なども発症に関与していると考えられます。


起立性調節障害は学童期のお子様に多い自律神経失調症のひとつといえます。しかし、近年の調査によって中学生以上の高校生や社会人にも起立性調節障害の諸症状が見られることがわかってきました。この点からも起立性調節障害は「自律神経がうまく働かない子ども特有の病気」とはいえないという指摘もあります。


起立性調節障害の症状


起立性調節障害を患うと低血圧によって脳に虚血が起こり、それを補うために頻脈が現れやすくなります。脳における虚血と頻脈が起こることによって起立性調節障害は多彩な症状を引き起こします。


起立性調節障害の具体的な症状としては朝起きができない、長時間の起立ができない、慢性的な疲労感、めまいや立ちくらみ、吐気や食欲不振、腹痛、頭痛、動悸、息切れ、胸の苦しさ、顔色の悪さ、寝つきの悪さ、イライラや短気などが挙げられます。


これらの症状はしばしば類似した症状を呈する貧血と間違われますが、血液検査では赤血球の濃さを示すヘマトクリット値に異常は出ません。


起立性調節障害の大きな特徴として、朝の起床ができないという症状に代表されるように、午前中に症状が悪化しやすい点が挙げられます。逆にいえば午後になると症状が軽減されるというのも起立性調節障害の特徴です。これは時間の経過とともに血圧を上昇させる自律神経である交感神経がはたらき始めるからです。


さらに起立性調節障害には「季節性」もあります。冬は寒いので血管から大切な熱が逃げ出さないように血管の収縮が起こります。結果的に血圧が上昇しやすい状態となり、低血圧によって引き起こされていた起立性調節障害の症状が現れにくくなるのです。上記の午前と午後の関係のように温暖な春から夏は、秋から冬とは反対に症状が現れやすくなってしまいがちです。


起立性調節障害において問題となるのはその症状だけではありません。朝に起床できない結果、学校に遅刻したり欠席することが多くなり徐々に学校から足が遠のいてしまうことが「二次的な症状」として問題となります。


さらに時間の経過とともに症状が緩和するので午後には体調も回復することが、他者からは「学校をさぼっている」「怠けている」と見られてしまいがちです。それに加えて上記で説明したとおり、起立性調節障害は春に悪化しやすい傾向があります。


大切な学校の「新シーズン」でつまずいてしまうこともマイナスにはたらきがちです。起立性調節障害への理解不足や季節性などが相まって不登校を助長してしまうこともしばしばです。


起立性調節障害の分類


起立性調節障害はその症状によって、起立直後性低血圧、神経調節性失神、遷延性(せんえんせい)起立性低血圧、そして体位性頻脈症候群の4つに分類されます(しばしばサブタイプとも呼ばれます)。下記では簡単に4つのサブタイプの特徴を解説します。


起立直後性低血圧

起立性調節障害の中でも最も多くみられるのがこの起立直後性低血圧です。その名前の通り、頭を上げた直後に顕著な低血圧が起こり、徐々に回復してゆきます。起立直後性低血圧によって引き起こされる症状としてはめまい、立ちくらみ、脱力感などが挙げられます。


神経調節性失神

神経調節性失神では起立しているときに血圧の低下が起こり、意識低下(失神)を引き起こします。その他の症状としては顔色の蒼白化、吐気、冷や汗、動悸なども現れることがあります。神経調節性失神による症状とはやや異なりますが、急な意識の低下による転倒時の打撲なども問題となります。


遷延性(せんえんせい)起立性低血圧

遷延性起立性低血圧では頭を上げてから数分後に血圧の低下が起こります。現れる症状は動悸、冷や汗、吐気、動悸、頭痛、脱力感などが挙げられます。名前にある「遷延」とは「長引くこと」「のびのびになること」を意味します。


体位性頻脈症候群

体位性頻脈症候群においては血圧の低下は起こらず、その一方で心拍数の増加がみられます。体位性頻脈症候群による症状は立ちくらみ、ふらつき、脱力感、頭痛などが挙げられます。起立性調節障害において起立直後性低血圧に次ぐ頻度といわれています


起立性調節障害の西洋医学的治療法


起立性調節障害は自律神経、特に交感神経のはたらきが機能しないことによって起こる低血圧が主な原因でした。したがって、西洋医学的治療法は薬物を用いて血圧を上昇させることが基本となります。


血圧を上昇させるために交感神経を優位にするリズミック(一般名:メチル硫酸アメジニウム)やメトリジン(一般名:ミドドリン塩酸塩)、血管の拡張を防ぎ血圧を維持させるジヒデルゴット(一般名:メシル酸ジヒドロエルゴタミン)が主に用いられます。しかしながら、これらの薬はしばしば頭痛や動悸、食欲不振や吐気などの消化器系の副作用が起こるため慎重に用いられます。


起立性調節障害の中でも血圧低下が起こらない体位性頻脈症候群の場合は頻脈を鎮めるインデラル(一般名:プロプラノロール)も使用されます。インデラルを用いる際は血圧が下がり過ぎることで起こる重だるさやめまい、気管支の収縮による息苦しさなどに注意が必要です。


起立性調節障害の漢方医学的解釈


起立性調節障害に代表される諸症状は気の不足である気虚(ききょ)や血の不足である血虚(けっきょ)に多くが当てはまります。この気と血の両方の不足を気血両虚(きけつりょうきょ)とも呼びます。したがって、起立性調節障害はおおむね気血両虚の状態と考えられます。


そもそも気とは一種の生命エネルギーのようなもので、気の不足(気虚)によって慢性的な疲労感、食欲不振、めまいや立ちくらみなどが起こります。


血は身体を栄養するものであり、血の不足(血虚)によってこちらも慢性的な疲労感、動悸や息切れ、頻脈、顔色の蒼白化、肌の乾燥や荒れ、不安感や不眠症などが引き起こされます。血はもともと気を「原材料」として生まれるので、気の不足は放置されると遅かれ早かれ血の不足に至ります。


起立性調節障害は気血両虚以外にも気滞(きたい)の要素も少なからず含んでいるでしょう。気滞とは気がうまく巡らない状態であり主に精神的ストレスや生活の乱れ、そして気虚をきっかけに起こります。気滞の症状としては胸や腹部の張り感、息苦しさ、胸痛や腹痛、吐き気や食欲不振、気分の落ち込みなどが挙げられます。


このように起立性調節障害は気や血の不足、さらには気の滞りなどが複雑に絡み合って起こっている複合的な病態と考えるのがより妥当でしょう。これらは決して単純な病態ではありませんし、上記の病的状態を発端としてさらに二次的な病態(血や津液の滞りなど)が含まれるケースも実際には見受けられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた起立性調節障害の治療


起立性調節障害には多くの場合、気血両虚が深く関与していると考えられます。したがって、不足している気や血を補うことが起立性調節障害治療の中心的な方針となります。


まず気虚を引き起こす原因は多いうえに複雑なので、ここではしばしば遭遇するケースについて紹介してゆきたいと思います。気虚を引き起こす最も多い原因は脾胃(消化器)の力が不足している場合です。この状態をしばしば脾虚(ひきょ)とも呼びます。


食欲不振、下痢や軟便が続いているような脾虚の方は十分に食べ物が消化吸収されず、栄養素がうまく身体に取り込めていないことが多いです。


このような方は人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などの脾胃の力を高める生薬、補気薬(ほきやく)と呼ばれる生薬から構成される漢方薬を服用するのが有効です。徐々に食欲がついて消化器の調子も良くなれば気も充実してくるでしょう。


食欲は普通にある方でも気虚の症状が見られる場合は補気を中心とした漢方薬を使用します。これは補気薬自体にも直接的に気を補う効果があるからです。


精神的なストレスなどによって胸や腹部の張り感、胸痛や腹痛、気分の落ち込みなどの気滞症状が現れるケースでは、その対処も重要になってきます。


気の巡りが悪くなると脾胃のはたらきが弱まり、気虚を悪化させてしまうこともあるからです。気の流れを改善する理気薬(りきやく)としては柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが代表的です。


気の不足は結果的に血の不足を起こすことを考慮して気虚の段階から血を生み出す補血薬(ほけつやく)を用いることも多いです。具体的には地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが使用されます。


血虚に陥ると動悸や息切れ、さらに不安感や不眠症などの精神症状も現れやすくなるのでこれらの症状が顕著なら補血は欠かせません。


上記以外にも起立性調節障害を患っている方によって主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


起立性調節障害の改善例


患者は小学6年生の女児。昔から朝起きが苦手でお母様の手をわずらわせていたとのことですが、小学4年生の頃から立ちくらみや腹痛なども現れるようになってしまった。最初の頃はたまに遅刻してしまうくらいでしたが、腹痛が原因でしばしば欠席することも。


お母様も心配して近くの内科をいくつか受診しても単なる低血圧や虚弱体質と診断され、特に治療は行われなかった。その頃、新聞の起立性調節障害の記事が目にとまり、ことごとく娘様の症状に当てはまると感じて小児科を受診。全体的な症状から起立性調節障害と診断されました。


その後、受診した小児科で昇圧薬(血圧を上げる薬)が処方されましたが、服用することで朝は起きられるようになっても、頭痛がひどくなってしまい服用は中止。いくつか薬を変更して朝起きはできるようになっても動悸、吐気などがどうしても現れてしまい服薬は続けられませんでした。


病院での治療方針に悩まれていた頃、たまたまお母様が検索エンジンで「起立性調節障害」と検索しているうちに当薬局を知り、娘様と一緒にご来局されました。


ご様子を伺うとご自身の口から朝起きが苦手、腹痛や立ちくらみによる吐気が辛いとおっしゃられました。それ以外にも小児科から低血圧(収縮期血圧が約65mmHg)と軽度の貧血を指摘されているとのこと。全体的な外見も細身でやや顔色が青白い印象。「食事をすると腹痛が起こるのでは…」という心配から朝食はほとんど食べられていない。


娘様にはまず人参、白朮、甘草などから構成される気を補って脾胃の力を増す漢方薬を服用して頂きました。漢方薬を服用し始めて3~4ヵ月が経過した頃には声にも張りが出てきて、これまでは作業的に摂っていたという食事についても、少しずつ食欲も出てきたとのこと。腹痛はほとんど無くなっていました。


朝も徐々に起きられるようになってきましたが、まだ立ちくらみとめまいの症状に変化は出ませんでした。それを受けて気を補う生薬に加えて地黄や当帰といった血を補う生薬も含まれる漢方薬に変更しました。


血を補う生薬は胃腸の弱い方が服用するとまれに食欲の低下やもたれ感が現れるので慎重に用いられます。娘様の場合は徐々に脾胃が強くなっていたので変更を加えました。少々心配もしましたが問題なく服用され、半年が経った頃には立ちくらみや足元がフワフワするようなめまいも消えていました。午前中に症状が目立つ傾向はありますが、遅刻や欠席をしてしまうことは無くなったとのこと。


現在、娘様は中学生になり症状が出やすくなる春先くらいになると予防的に漢方薬をお求めにいらっしゃいます。特に症状自体は出ることも無く元気に過ごされているとのこと。お母様が受けさせている定期的な健診においても少々の低血圧を指摘される程度で貧血はまったく無し。今はテニス部と手芸部に所属されて、活発に過ごされています。


おわりに


起立性調節障害はまだ馴染みが薄い病気であり、午後になると症状が軽快することからしばしば「怠け癖」や「仮病」と疑われてしまうことも多いです。起立性調節障害を患う方は午後まで寝込んでしまうこともしばしばで、必然的に就寝時間は遅くなってしまいます。そうなると夜型の生活に移行してしまい、より一層、朝に起きれなくなってしまう悪循環にも陥りがちです。登校日数の減少をきっかけに学校から足が遠のき、不登校になってしまうケースも見受けられます。


起立性調節障害に有効な西洋医学的治療法も副作用の問題などから確立はされていません。漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。


当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、めまいや立ちくらみなどの症状が少しずつとれてくることから、起立性調節障害と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、起立性調節障害にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 抜毛症(抜毛癖) 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と抜毛症(抜毛癖)


当薬局では長年、抜毛症(ばつもうしょう)に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつは抜毛症はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬は抜毛症の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページでは抜毛症(抜毛癖)に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


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抜毛症(抜毛癖)とは


抜毛症は自分自身で毛を抜いてしまう病気です。円形脱毛症に代表される脱毛症のように、毛が「抜けてしまう」のではなく「抜いてしまう」のが抜毛症の特徴といえます。毛を抜いてしまうという行為は意識的な場合もあれば無意識の場合もあります。しかし、どちらのケースでも毛を抜くという行為を自制できないという点では共通しています。


抜毛症はしばしば抜毛癖やトリコチロマニア(Trichotillomania)とも呼ばれますが同義として扱われています。特定の行為を自制できないという病態から抜毛症は強迫神経症(または強迫性障害)の一種と考えられます。


抜毛症(抜毛癖)の原因


抜毛症の根本的な原因はわかっていません。しかし、欲求不満や精神的なストレスが抜毛症を起こす要因になっていると考えられています。しばしばチック症や手の爪、皮膚を噛む癖と併発することが知られており、お子様に多い病気という傾向があります。この点から思春期の不安定な精神状態が抜毛症の根底にあると示唆されています。


抜毛症(抜毛癖)の症状


抜毛症は自ら毛を抜いてしまう病気でした。抜いてしまう毛は頭髪だけではなく、眉毛、まつ毛、鼻毛、腋毛や陰毛におよぶこともあります。抜毛症の「患部」である抜毛される部分は利き手側に偏りやすいという傾向があります。


抜毛が鼻毛のようにわかりにくい部分に集中すると、抜毛症に誰も気付かないというケースもあります。抜毛症の他に異食症の一種である食毛症も併発している場合、抜かれた毛が残らないので症状の発見が遅くなりがちです。


考え方によっては鼻毛の抜毛などは外見的に目立つこともないので、問題はないとも捉えられます。その一方で抜毛という行為がストレスに晒された結果として現れているなら、放置することはできません。


頭髪のような目立つ部分において抜毛症が慢性化すると、社会生活が送りにくくなってしまうという点も軽視できません。抜毛症が原因で不登校や引きこもりがちになってしまうことも二次的な抜毛症の「症状」といえるでしょう。


抜毛症(抜毛癖)の西洋医学的治療法


抜毛症は第三者に指摘されれば症状が治まるケースもありますが、それでも症状が出る場合は心療内科領域の病気として治療が行われます。強迫神経症(強迫性障害)としての抜毛症治療には主に抗不安薬や抗うつ薬、薬物療法以外には認知行動療法などのカウンセリングが行われます。


抜毛症(抜毛癖)の漢方医学的解釈


抜毛症の根本に精神的なストレスが深く関わっていると考えられる場合、漢方医学において感情や精神の安定化を担っている肝(かん)に注目します。漢方医学の理論における肝は気持ちを落ち着けるだけではなく、筋肉の動きや眼のはたらきを維持するという役目を担っています。この肝のはたらきが失調した場合は精神不安、筋肉の過剰な緊張、眼精疲労やドライアイなどが起こってしまいます。


肝はとてもデリケートな臓であり、精神的ストレスに弱いといわれています。したがって、プレッシャーなどで肝のはたらきが悪くなってしまうと抜毛症のような精神不安によって起こりやすい病気が多発するようになります。しばしば、抜毛症がチック症と併発しやすいのは「肝のはたらきの失調」という点で両者が共通しているからといえます。


さらに肝以外にも、肝と関連深い腎(じん)への配慮も必要な場合があります。腎は成長や生殖などを司る精(せい)を蓄えています。肝腎同源(かんじんどうげん)といって、肝が失調すると腎のはたらきも弱まり、逆に腎の精が少なかったりすると肝のはたらきも弱まってしまいます。


精は成長に欠かせないものであり、成長障害、学習障害、低身長や低体重などの精不足と考えられる症状が抜毛症と一緒にあるようならば、漢方薬を用いてそれらに対する治療も行われます。


抜毛症に肝の失調が関与していることは上記で説明したとおりでしたが、根本的になぜ肝が失調してしまったのかを考える必要があります。肝は多くの場合、精神的なストレスによってその力が低下してしまいます。


したがって、まずは周囲に精神的ストレスがないかを考える必要があります。経験的に抜毛症を誘発するストレスとしてハードな受験勉強、学校のクラス替えに伴う環境の変化、家庭環境の変化などが多いと感じます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた抜毛症(抜毛癖)の治療


上記で述べてきた理論のとおり、漢方薬を用いた抜毛症の治療は肝をいたわり、その機能を回復させることが中心となります。肝の力が衰えるということは肝にためられていた血(けつ)が消耗するということであり、それを補うような治療が中心に据えられます。


血を補う生薬である補血薬(ほけつやく)としては地黄、当帰、芍薬、何首烏、酸棗仁、竜眼肉などが代表的です。さらに漢方医学において髪に代表される「毛」は「血の余りから生まれる」と考えるので、抜毛してしまった後の発毛を促進するという意味でも補血薬を含んだ漢方薬は抜毛症の核となります。


抜毛症が精神的ストレスによって引き起こされている場合、それを緩和することは大切です。ストレスをやわらげて、肝血の消耗を抑える理気薬(りきやく)の柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子なども抜毛症治療には不可欠です。成長や発育を促進する場合は腎の精を補う補腎薬(ほじんやく)である鹿茸なども漢方薬を構築する上で重要視されます。


これら以外にも「毛を抜いてしまう」という症状以外の主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


抜毛症(抜毛癖)の改善例


患者は小学5年生の女児。小学4年生の時にお母様が娘様のまつ毛が無くなっているのに気付き抜毛症が発見されました。本人に注意しても止められず、徐々に症状が頭頂部にも出るようになってしまいました。症状は塾に行っている時に多く、しばしばテキストにまつ毛や毛髪が挟まっているという。


お母様が心配して小児心療内科を受診し、カウンセリングを受けるも症状は改善できませんでした。西洋薬の服薬については病院も無理には勧めず、ご家族も抵抗感があったということで保留。当薬局へはお母様がネットで抜毛症に有効な漢方薬があると知り、ご家族でご来局。


ご本人からお話を伺うと「止めようと何度も思っているけれど、止められない」とのこと。表情はとても明るく、特に憂うつ感などはない。一方でお母様曰く「イライラ感が強いのか、少し注意をするとそこから口げんかになってしまう」ということでした。


抜毛症にくわえて爪を剥いてしまう癖もあることがお話の中でわかりました。抜毛症以外の病気や目立つ体質はありませんでしたが、中学校受験対策の塾がタイトなスケジュールで、やや疲労感と食欲の低下がみられました。


まず漢方薬は精神的なストレスを緩和する柴胡を中心に、気持ちの高ぶりを鎮める牡蠣を含んだ漢方薬を服用して頂きました。お母様も塾の点は気になっていたとのことで、追加で受けていた補習は停止することに。


漢方薬服用から3ヵ月が経つ頃には噛まれて深爪になっていた手先がきれいになっていました。しかし、抜毛はまだ止められないということで柴胡、竜骨、芍薬などから構成される漢方薬へ変更。変更からまた3ヵ月が経過すると徐々に頭部の抜毛行為は減り、抜毛部はほぼわからなくなっていました。


抜毛症が少し落ち着いてきた反面、疲労感が抜けていない印象だったので気を補う人参や血を補う当帰を含んだ漢方薬を併用して頂きました。それから数ヵ月後には抜毛症は完全に治まり、まつ毛も生え揃っていました。


疲労感も食欲の向上と歩調を合わせて好転し、心身ともに余裕が出てきた印象。お母様も娘様のイライラ感が緩和され、ケンカをする回数も減ったとおっしゃっていました。塾生活はまだ続くということもありましたので、娘様には微調節を行いつつ漢方薬を継続して頂いています。


おわりに


抜毛症は主に精神的ストレスによって発症するといわれています。前頭部や眉毛など目立つ部分に抜毛が行われると、徐々に社会や他者との接点を持ちにくくなり二次的なストレスを生む悪循環になりがちです。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では抗不安薬などを使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、抜毛症の症状が少しずつとれてくることから、抜毛症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、抜毛症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 神経性嘔吐症(心因性嘔吐症) 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)


当薬局では長年、神経性嘔吐症に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつは神経性嘔吐症はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬は神経性嘔吐症の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページでは神経性嘔吐症に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


漢方相談の流れ…当薬局のご来局からアフターフォローについて


漢方薬の価格と種類…粉薬や煎じ薬の解説とそれぞれの価格について


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一二三堂薬局の漢方薬の安全性…漢方薬の残留農薬や放射性物質への対策について


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神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)とは


神経性嘔吐症とは主に精神的なストレスが原因で嘔吐してしまう病気であり、しばしば心因性嘔吐症とも呼ばれます。神経性嘔吐症には吐気が強く現れるのみで、ほとんど嘔吐しないケースもあります。この場合は神経性嘔気(おうき)症や心因性嘔気症と呼ばれたりもします。


吐気や嘔吐を引き起こす精神的ストレスには様々なものが挙げられます。お子様の場合には学校のイベント(学芸会や修学旅行など)、定期テストなどが代表的です。しかし、上記のような明確なストレス源が無い場合、または見つからない場合もしばしばです。


神経性嘔吐症はお子様に多い病気とされますが、成人にも見られる病気です。成人のケースでは仕事にまつわる事柄、例えば定期的な会議やプレゼンテーション、良好ではない人間関係などがストレス源となりやすいです。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の原因


神経性嘔吐症はお子様に多い病気でした。その理由は脳(より厳密には延髄)に存在する嘔吐中枢と呼ばれる部分がお子様の場合、まだ未発達だからと考えられています。嘔吐中枢が未発達だと少々の刺激によっても嘔吐や吐気が起こりやすくなってしまいます。


しかし、嘔吐中枢が成熟している成人でも処理しきれない過大なストレスがあればそれが刺激となって神経性嘔吐症を発症することがあります。したがって、神経性嘔吐症は嘔吐中枢のみに帰結される問題ではなく、ストレスの強弱も含めた問題といえます。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の症状


神経性「嘔吐」症という名前が示す通り、その中心的な症状は嘔吐になります。しかし、神経性嘔吐症を患っていても必ずしも嘔吐するわけではなく、乾嘔(からえずき)をともなう吐気や胃の不快感が主訴となるケースも多く見受けられます。神経性嘔吐症の間接的な問題として、嘔吐時の胃酸によって虫歯や食道炎、さらに摂食障害(拒食症)を引き起こしてしまう可能性が挙げられます。


症状の現れ方も常に吐気や嘔吐があるケース、イベント前などの緊張時に現れるケース、食前や食後に現れるケースなどさまざまです。吐気や嘔吐よりも食事に対する不安感や食欲低下が強く現れてしまうことも少なくありません。したがって、神経性嘔吐症の症状には個人差があり、その現れ方も十人十色といえます。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の西洋医学的治療法


基本的にはカウンセリングや薬物療法が用いられます。薬物療法の場合、主に制吐薬や抗不安薬などが使用されます。頻回に嘔吐してしまう場合は脱水症状にも注意を払う必要があります。


抗不安薬を用いる場合はその副作用である眠気やふらつき、さらに服薬初期は消化器系症状のトラブルも起こりやすいので充分注意する必要があります。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の漢方医学的解釈


神経性嘔吐症は主に気の滞りによって脾胃(消化器)の機能が低下して起こると考えられます。漢方用語で気の滞りのことを気滞(きたい)と呼びます。したがって、神経性嘔吐症は気滞によって引き起こされた病気といえるでしょう。


気滞のよって起こる典型的な消化器系症状としては吐気、嘔吐、ゲップ、食欲不振、胃痛、胃もたれ、下腹部痛、腹部の張り、ガスの溜まり、下痢や軟便などが挙げられます。消化器系以外の気滞による症状としてはイライラ感、落ち込み、不眠症などの精神症状などが代表的です。


そもそも気は身体内を巡る生命エネルギーのような存在であり、脾胃を含めた臓腑はこの気の力によって正常にはたらいています。そのような気は精神的なストレスや気の不足(気の不足を気虚(ききょ)とも呼びます)によって流れが滞ってしまうと充分に力を発揮できなくなるという特徴があります。


気は食べ物から脾胃のはたらきで生まれます。この考えは現代における生物学的に食べ物が糖質、アミノ酸、脂肪酸に分解されて、それらが身体活動の基礎となっている事実と似ています。


再び漢方医学の話に戻り、気の滞りは脾胃を含めた臓腑の機能を低下させてしまいます。したがって、一度、気の滞りが起きると「気の滞り(気滞)」→「脾胃の機能低下」→「気の不足(気虚)」→「さらに気が滞る」という負のサイクルに陥りやすくなってしまいます。


神経性嘔吐症に限らず、気滞によって起こる消化器系症状や精神症状がなかなか自然に治らず、慢性化しやすい背景には上記のような悪循環が深刻化している場合が多いです。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の治療


神経性嘔吐症は気の滞りによって起こる病気でしたので、その治療は気の流れをスムーズにすることが中心となります。気の流れを円滑にする生薬(理気薬)には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。この中でも陳皮や半夏は制吐作用に優れているのでしばしば神経性嘔吐症治療の漢方薬に用いられます。


気滞の症状に加えて慢性的な疲労感、身体の冷えなどの気虚の症状が強いようなら並行して気を補うことも大切となります。気を補う生薬(補気薬)としては人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが代表的です。


理気薬と補気薬は相性が良く、それらを組み合わせることで嘔吐や吐気だけではなく食欲不振や疲労感を効率的に緩和することができます。


上記に加えて精神症状が強い場合は竜骨、牡蠣などの鎮静作用に優れた生薬も用いられます。神経性嘔吐症は吐き気や嘔吐という症状を中心に、食欲不振や腹痛などさまざまな症状が付随しがちです。したがって、神経性嘔吐症は個人差の多い症状に対して臨機応変に漢方薬を調合する必要があります。


神経性(心因性嘔吐症)嘔吐症の改善例


患者は小学校6年生の男児。性格的には繊細で感受性が強く、低学年の頃から学芸会や運動会などの緊張するイベント前になると吐気を訴えていました。高学年になってもその傾向は治まらず、むしろ悪化してゆきました。今は特にイベントに関係なく日常的に吐気や腹痛があり、次第に食べること自体にも臆病になってしまったという。


心配されたお母様と一緒に小児科をまわり、最終的には神経性嘔吐症と診断されました。その小児科で制吐薬と少量の抗不安薬が処方されましたが、めまいやふらつきの副作用が強く出てしまい服用は中止。それでも何か薬はないかとお母様がネットで調べ、漢方薬の服用を思いつき当薬局へご来局。


詳しくご様子を伺うと、吐気は朝に強く、嘔吐を怖がるあまり最近は充分にご飯を食べられていないとのこと。栄養ドリンクや野菜ジュースなどの飲み物やゼリーなら抵抗感が少ないということで、水分中心の食生活になっていました。


体重も軽く、腕は細くて骨の「節」が目立っていました。顔色も青白く、貧血の可能性も考えられました。こちらのお子様には吐気を鎮める半夏、陳皮、食欲を増す人参、大棗、甘草などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬服用から3ヵ月が経つと、しばしば起こっていた嘔吐をすることはまったく無くなっていました。漢方薬も少し甘みがあるので(甘草と大棗の味だと思われます)、抵抗感なく服用できているということ。顔色も良くなり、元気も出てきたということで同じ漢方薬を服用して頂きました。


そして服用から半年が経過する頃には普通の食事も摂れるようになり、とても苦手だった外食も友達だけでも行けるようになっていました。中学生になり、部活動もはじめられましたが体力的にも問題はないとのこと。


吐気とそれに対する恐怖感は消え、性格も良い意味でアバウトになったとお母様がおっしゃられました。漢方薬はその後も体力強化と吐気予防の意味で継続して服用して頂いています。


おわりに


神経性嘔吐症はつらい吐気や嘔吐だけではなく、お子様の場合は食への抵抗感から食べる量が減り発育の妨げにもなります。大人の方にも神経性嘔吐症はしばしばみられ、仕事のストレスなどと重なり症状を悪化させてしまっているケースも見受けられます。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、吐気や食欲不振などの症状が少しずつとれてくることから、神経性嘔吐症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、神経性嘔吐症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 夜驚症 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と夜驚症


当薬局では長年、夜驚症に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつは夜驚症はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬は夜驚症の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページでは夜驚症に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


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夜驚症とは


夜驚症(やきょうしょう)とはお子様が睡眠中に突然、泣き叫んだり悲鳴を挙げたりする病気であり、睡眠障害の一種です。あまり一般的ではありませんが、夜驚症は睡眠時驚愕症(すいみんじきょうがくしょう)とも呼ばれます。


夜驚症はしばしば、寝たまま歩きまわってしまう夢遊病を併発する場合もあります。夜驚症の大きな特徴は上記のような激しい症状にも関わらず、それらについて本人は何も覚えていないという点です。


夜驚症は夢遊病とともに発生する明確なメカニズムは分かっておらず、不明な点が多い病気といえるでしょう。多くの場合は幼児や学童児が発症する病気なので睡眠導入薬や抗不安薬などの使用が難しいケースが多いです。


夜驚症の原因


夜驚症の原因はいまだに解明されてはいません。仮説としては感情などをコントロールする脳の一部が未発達なために起こるという説があります。その他にも起きている間のストレスが充分に消化されない結果として起こるともいわれています。


夜驚症を引き起こす主なストレスの具体例としては体調不良、疲労、怖い体験、環境の変化、こじれた友人関係などが挙げられます。しかしながら、ネガティブな刺激だけではなく、興奮をともなうような楽しい体験後も夜驚症は誘発されやすいともいわれています。したがって、ストレスの緩和は「解決策のひとつ」と考えるのがより妥当でしょう。


夜驚症の症状


夜驚症はその名の通り、お子様が何かに驚いたように泣き叫んだりする病気です。その他には興奮による動悸、発汗過多、激しい呼吸などをともなうケースもあります。


夜驚症はときには悲鳴をあげながら寝室を走り回るような夢遊病と併せて発症するケースも見られます。もし夢遊病も発症している場合、ベッドやサイドテーブルなどにぶつかって怪我をしてしまう可能性もありますので注意が必要です。


夜驚症は発症しているお子様が体力消耗や睡眠不足に陥ってしまうなどの問題があります。それにくわえて一緒に寝ているご両親も心身ともに不安になってしまう「二次的な症状」も無視できません。


夜驚症は多くの場合、成長とともに鎮まってゆく場合が多いです。したがって、ご両親が過度に不安に陥ったり神経質にならないことが大切です。不安感などを抱いているとお子様にもそれが伝わり、症状をより悪化さえてしまうことも考えられます。


夜驚症の西洋医学的治療法


夜驚症は多くの場合、西洋医学的には治療の対象とならないケースが多いです。その理由として睡眠障害に有効である睡眠導入薬や抗不安薬などの薬はお子様に対する服用の安全性が充分に確立されていないからです。したがって、よほどの場合を除いて基本的に薬物療法は選択されません。


さらに既に述べたとおり夜驚症はお子様が自覚せずに起こっており、症状を指摘しても効果はありません。むしろお子様の不安を増長させてしまい逆効果になってしまう恐れがありますので注意が必要です。


夜驚症の漢方医学的解釈


夜驚症における泣き叫びのような、一種のヒステリックな症状は気の流れの滞りによって起こると考えられます。漢方医学において気の流れは主に肝(かん)がコントロールしています。この「肝」は漢方医学独特の概念であって、お酒の飲み過ぎなどで傷めてしまう西洋医学的な「肝臓」とは異なります。


漢方医学の理論における肝は精神や感情を安定化させるはたらきや筋肉の動きを調節するはたらきを担っています。肝のはたらきが何らかの原因で失調した場合は情緒不安定や寝つきの悪さなどの睡眠障害、ひどい場合は痙攣(けいれん)などが起こってしまいます。


さらに肝以外にも、肝と関連深い腎(じん)への配慮も必要な場合があります。腎は成長や生殖などを司る精(せい)を蓄えています。肝腎同源(かんじんどうげん)といって、肝が失調すると腎のはたらきも弱まり、逆に腎の精が少なかったりすると肝のはたらきも弱まってしまいます。


精は成長に欠かせないものであり、成長障害、学習障害、低身長や低体重などの精の不足と考えられる症状が夜驚症と一緒にあるようならば、漢方薬を用いてそれらに対する治療も行われます。


夜驚症の症状に肝の失調が関与していることは上記で説明したとおりでしたが、根本的になぜ肝が失調してしまったのかを考える必要があります。肝は多くの場合、精神的なストレスによってその力が低下してしまいます。


したがって、まずはお子様の精神的なストレスがないかを考える必要があります。経験的には学校のクラス替えに伴う環境や友人関係の変化、家庭環境の変化などが多いと感じます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた夜驚症の治療


上記で述べてきた理論のとおり、漢方薬を用いた夜驚症の治療は肝をいたわり、その機能を回復させることが中心となります。肝の力が衰えるということは肝にためられていた血(けつ)が消耗するということであり、それを補うような治療が中心に据えられます。血の不足はしばしば不安感を増し、睡眠の浅さ、悪夢や多夢にも繋がりますのでそのケアは夜驚症には不可欠です。


血を補う補血薬(ほけつやく)としては地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが代表的です。酸棗仁や竜眼肉は不安感を和らげて心地よい睡眠を助けるはたらきもありますのでしばしば夜驚症に用いられる生薬です。


さらに精神的ストレスを緩和することで肝血の消耗を抑える理気薬(りきやく)である柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などもしばしば併用されます。


泣き叫びなどの激しい症状、つまり熱性症状(この「熱」は「発熱」とは異なる漢方の概念です)が強い場合は黄連、黄芩、黄柏、山梔子、知母などの余分な熱を下げるような生薬も考えられます。腎の精を補う生薬(補腎薬)である鹿茸なども漢方薬を構築する上で重要視されます。


これら以外にも主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


夜驚症の改善例


患者は小学1年生の男児。保育園の年長の頃から夜中に大きな泣き声を挙げて起きることがありましたが、ご両親は「夜泣きの延長」と考えていたとのこと。しかし、徐々に泣いて起きるだけではなく、何かに脅えるように寝室から出て行こうとするようになってしまいました。


夜中に起きる頻度も高くなり、さらに夜に起こったことをまったく覚えていない点などが心配になり小児科を受診。そこで夜驚症と診断されました。診断はされたものの「特に治療は必要ない」と言われ、様子を見ることに。その後、小学校に入学しても症状は続き、ご両親も不安と不眠で疲労困憊に。そんな時に保育園時代のママ友に当薬局を紹介されてご来局。


お母様曰く息子様は怒りっぽく、やや「疳(かん)の虫」が強いということでした。身長や体重は特に問題は無く正常の範囲内。食欲や体調も問題はありませんでしたが、雰囲気や視線の運び方などからやや神経質な印象を受けました。そこで息子様には気の流れを緩和する柴胡、不安感を和らげて眠りをスムーズにする酸棗仁などから構成される心身をリラックスさせる漢方薬を服用して頂きました。


服用から2ヵ月が経ち、だいぶ漢方薬の味にも慣れた頃になると怒りっぽさも鎮まりました。夜は起きることがあるものの、少し抱きしめればすぐに安心して寝つくようになったとのこと。


立ち歩くことはまったく無くなり、ご両親も心身ともにずいぶんと余裕が出てきたご様子でした。ご様子からこのまま継続すれば夜に起きることも無くなると考えて同じ漢方薬を調合しました。


漢方薬を服用し始めてから半年が過ぎる頃には寝ぼけながら「うぁ~…」と小さく声を上げることがある程度とのこと。特にあやしたり抱きしめたりすることも無く、声を出した直後にそのまま寝付いてゆくようになりました。


現在は冬にお腹を冷やすと腹痛を起こしやすいということで、そちらに対応する漢方薬に変更して継続服用して頂いています。変更後も夜驚症と思われる症状は出ることなく、しっかりとお休みになられているということです。


おわりに


夜驚症を発症するのは多くの場合、年長から小学校低学年の頃に集中します。そうなると年齢的に西洋医学的治療(抗不安薬の使用など)を行うことは難しくなります。その一方で夜驚症の激しい症状に対して何もできず、ご両親が心身ともに参ってしまうケースにしばしば遭遇します。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、夜驚症の症状が少しずつとれてくることから、夜驚症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、夜驚症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 吃音症(どもり症) 】と漢方薬による治療

吃音症(どもり症)とは


吃音症(きつおんしょう)とは言葉の発音が円滑に行えない病気のひとつです。発声の問題にくわえて特徴的な身体の動きが伴う場合もあります。主な発声に関連する症状の現れ方としては最初の音を数回繰り返す、最初の音がすぐに発声できない、最初の言葉を伸ばしてしまうといったものが挙げられます。ひとりで発声する時には症状が出ないケース、普段はスラスラ話せるのに突然症状が現れるケースなど個人差の大きい病気でもあります。


吃音症はしばしば幼児期から学童期に現れやすく、男児の方が女児よりも発症頻度が高いことが知られています。多くの場合において自然に症状は消失してゆくことが多いのですが、まれに青年期以降も継続することもあります。


あまり一般的ではありませんが吃音症は流暢性障害(りゅうちょうせいしょうがい)とも呼称されます。広く知られている「どもり症」という病名は今日において差別的意味合いを含むとされるので、その使用は控えられる傾向があります。しかしながら、まだ「吃音症」という病名自体がしっかりと認知されているとは言い難いことを考慮し、本ページではどもり症という病名も併記してゆきます。


吃音症(どもり症)の原因


吃音症の明確な原因はまだわかっていません。吃音症は遺伝性が高いことが知られているので、それを手掛かりにいくつかの仮説が立てられている段階です。したがって、しばしば耳にする「母親の育て方が悪かった」「利き腕を無理やり矯正した副作用」などという言説に根拠は認められていません。


吃音症の原因は不明な一方で、精神的なストレス(過度な緊張など)によって吃音症の症状が悪化することが知られています。したがって、症状に対して叱ったりすることは逆効果になってしまうので控えるべきです。


吃音症(どもり症)の症状


吃音症は発話の始めの言葉に特徴的な症状が現れる病気です。具体的には「き、き、きょ、きょ、きょ、今日の天気は…」「…………今日の天気は…」「きーーーようの天気は…」というものが挙げられます。発声の問題にくわえてまばたきや顔をしかめるような身体の動きをともなうケースもあります。


吃音症はその独特の症状から「話し方の問題」のみに焦点が当たりがちですが、そこを発端とする二次的な問題も存在します。吃音症の話し方以外の問題としては、発声することに臆病になってしまい社会的な生活(学校や職場などでの活動)に後ろ向きになってしまう点が挙げられます。特に学童期のお子様などは学校で症状をからかわれたりすると、積極的に会話の輪に入りづらくなってしまうということもあるでしょう。


会話は人間関係を築く上で不可欠なコミュニケーションツールです。吃音症による発声のつまずきによって消極的になってしまったり、自己肯定感が低下してしまうことは隠れた「症状」といえるでしょう。


吃音症(どもり症)の西洋医学的治療法


吃音症に対してはまだ西洋医学的な治療法は確立されていません。一般的には病院(主にリハビリテーション科や耳鼻咽喉科)に所属する言語聴覚士とのカウンセリングや訓練が中心となります。小児の場合には公立学校などに設置されている難聴・言語障害通級指導学級(ことばときこえの教室)において言語聴覚士の訓練を受けることも可能です。


吃音症(どもり症)の漢方医学的解釈


漢方医学的にみて吃音症という病気は主に気の流れが滞ってしまった結果と考えられます。この気がうまく流れない病能を気滞(きたい)と呼びます。気の流れが悪くなると過度な緊張感や不安感が高まり、身体においては喉や胸の圧迫感、腹部の張り感、吐気、胃痛や腹痛、便通の異常などさまざまな症状が現れます。


精神的なストレスなどがくわわり気滞の状態が長く続くと五臓六腑における肝の機能が低下し、肝がコントロールしている筋肉のはたらき(動き)がうまくゆかなくなってしまいます。結果として発声困難、無意識の身体の動きや硬直などが現れてきます。


気滞は気の不足や血の流れにも影響を及ぼします。したがって、吃音症が現れている場合、他にもどのような症状が併せて起こっているのかを捉える必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた吃音症(どもり)の治療


吃音症の原因が気の流れの停滞であった場合、その気を円滑に流すことが治療につながります。したがって、用いられる漢方薬は柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの気を巡らす生薬(理気薬)を多く含んだものになります。


気が流れなくなると徐々に気の不足(気虚)も現れてきます。気虚に陥ると疲労感、重だるさ、気力の低下、食欲不振、冷えなどが起こりやすくなります。これらの症状が吃音症と併せて見られるようならば気を補う生薬(補気薬)の人参、黄耆、大棗、白朮、甘草なども必要となってきます。


上記のように気滞を発端として血の滞り(瘀血)や水の滞り(痰湿)が見られる場合はそれぞれのケアも欠かせません。したがって、吃音症という病名ではなく患っている方の症状や体質を見極めて治療に適している漢方薬が選択されます。


生活面での注意点と改善案


吃音症は緊張感が高まると症状が悪化しやすいことが知られています。したがって、症状が出ているのがお子様の場合、ご両親が強く注意したりすることは逆効果となってしまいます。あえて症状には触れず、リラックスできる環境づくりが大切です。


他にも吃音症という病気は「言葉の流暢さ」という本人以外も知覚しやすい症状の為、その発音状態にばかり意識が向きがちです。しかしながら、言葉の本質はその中身です。お子様に症状がある場合、ご両親は話し方ではなくその言葉の内容にしっかり反応していただくことが大切です。吃音症があってもしっかりとコミュニケーションが取れるという感覚は自己肯定感の向上と緊張感の緩和につながります。


吃音症(どもり症)の改善例


患者は小学5年生の男児。吃音症の傾向は低学年の頃からありましたが、それほど頻繁ではなくご両親も特に気にされていませんでした。しかしながら、中学校受験に向けて塾に通いだした頃からご症状が目立ち始めたとのこと。小児科を受診してカウンセリングや訓練を受けてやや緩和したとのことですが、他の選択肢もないかと考えて当薬局へご来局。


くわしくお話を伺うと吃音症にくわえて軽度のチック症もあるとのこと。他にはテストの前などに緊張すると腹痛やトイレが近くなってしまう傾向がある。一方でこちらからご本人に質問をすると吃音症のご症状はあるものの、はっきりとした元気のある声でハキハキと答えられていました。お母様曰「基本的に健康体で普段から元気だけれど、ちょっとあがりやすい性格」だという。


お子様には緊張感を緩和する柴胡、筋肉をリラックスさせる芍薬など中心とする漢方薬を服用して頂きました。味の面も含めて服用できるか少々心配でしたが、特に問題なく4ヵ月ほど服用されるとチック症によるまばたきやテスト前の腹痛は現れなくなっていました。一方で吃音症には大きな変化はまだなし。内容の変更も考えましたが、ご本人が服用していると調子が良いということでそのまま継続へ。


同じ漢方薬を服用しつつ6年生に進級されると徐々に吃音症のご症状も減り、塾でも積極的に発言できるようになりました。お母様にはできるだけ無理はさせず、心身に余裕を持たせるために睡眠時間を削ることはしないようにお願いしました。その後、無事に中学校受験は成功し、吃音症を中心としたご症状も緩和した状態で安定してきました。漢方薬は環境の変化が大きい中学校入学直後の4月~5月が過ぎた段階で徐々に減らすことを提案。漢方薬での治療は数ヶ月後の初夏に「卒業」されました。


おわりに


吃音症は発声の流暢さという問題にくわえて、発声がうまくゆかないことをきっかけとした精神的ストレスの蓄積も大きな問題となります。そのためか吃音症の症状以外にも緊張のしやすさ、不安感やイライラ感などの症状が伴うこともしばしばです。


その一方で西洋医学的な治療法のみで吃音症が改善されないケースもしばしばです。漢方薬はただ吃音症の発声を円滑にするだけではなく、心身の乱れたバランスの改善を目指すことで良い結果が出ております。吃音症でお悩みの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 気管支喘息(小児喘息を含む) 】と漢方薬による治療

気管支喘息(小児喘息を含む)とは


気管支喘息は気管支の慢性的な炎症によって咳や呼吸困難などを起こす病気です。小児喘息も基本的な病態は同様であり「こども版の気管支喘息」と考えて良いでしょう。気管支喘息における気管支の炎症は主に免疫系の過剰反応によって引き起こされます。このような免疫異常を起こす物質をアレルゲンと呼び、気管支喘息の大きな原因となります。代表的なアレルゲンはダニの屍骸などを含むハウスダスト、そして花粉やカビなどが挙げられます。


気管支喘息を患っている方は程度の差はありますが、常に炎症が起こり患部は敏感となっています。そうなると健康な方では問題にならないような少々の刺激(タバコの煙や運動など)に対しても反応し、咳や息苦しさといった症状が出てしまいます。


気管支喘息を患いやすい方はその他のアレルギー性疾患、たとえばアトピー性皮膚炎、花粉症を含むアレルギー性鼻炎、ジンマシン、食物アレルギーなどを併発しやすいことが知られています。これは気管支喘息が体質的な要因によって引き起こされていることを示唆しています。


気管支喘息(小児喘息を含む)の原因


気管支喘息の大きな原因はアレルゲンによって引き起こされるアレルギー反応です。アレルギー反応が起こると気管支、特に気管支の細い末梢の部分に炎症が起こります。さらに炎症が起こったことで気管支の壁はむくみ、空気の通り道が細くなってしまいます。この状態が気管支喘息特有の呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)を引き起こします。


炎症はアレルギー反応の結果として起こるものなので、アレルギー反応が起こっていないときは気管支の壁が狭まることはありません。しかし、何度も炎症を繰り返しているうちに壁が元に戻らなくなり、気管支が細くなっている状態が固定化されてしまいます。この点などが気管支喘息と気管支炎の異なる部分です。


アレルギー反応を起こすアレルゲンには個人差がありますが、ハウスダストは多くの方に共通するアレルゲンといえます。ハウスダストとはその名前の通り室内で発生しやすいゴミのことです。具体的にはダニの死骸や糞、カビ、剥がれた皮膚やフケ、髪の毛、ペットの皮膚や毛、服の繊維、食べ物のカスなどが代表的です。ハウスダスト以外にも花粉や特定の食べ物もアレルゲンとなりえます。


気管支喘息を患っている方はまず、検査で自分が何に対してアレルギーを持っているのか知ることが大切です。特に小児喘息の場合はお子さん自身とご両親だけではなく、周囲の方にもアレルゲンを知ってもらうことが大切となります。


気管支喘息の炎症はアレルゲンによるアレルギー反応以外でも起こることが知られています。具体的にはカゼなどの感染症、精神的ストレスや運動、気候の変化、季節の変わり目、タバコや飲酒などです。気管支喘息を患っている方のすべてがこれらによって症状が悪化するわけではありません。しかし、慢性的な炎症によって些細なことが喘息発作を誘発しやすくしてしまいます。


気管支喘息(小児喘息を含む)の症状


気管支喘息の代表的な症状は咳、呼吸困難、そして喘鳴が挙げられます。これらの症状はアレルゲンの侵入などによって突然激しく起こります。これが喘息発作と呼ばれるものです。


気管支喘息の咳は夜から明け方に起こりやすいという特徴があります。多くの場合、喉のつまり感から始まり喘鳴と呼吸困難が続き、切れにくい痰をともなう咳が起こります。咳と痰はより呼吸困難を後押ししてしまい、深刻化すると血中の酸素濃度が低下し、チアノーゼ(皮膚や唇の青色化)や意識障害に至ってしまうこともあります。

呼吸困難は気管支の壁が炎症によって狭くなり、肺へうまく空気が送れないことで起こります。呼吸困難が悪化すると横になるのがつらくなり、前かがみにならないと呼吸ができなくなってしまいます。


喘鳴とは発作時の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という独特の呼吸音です。喘鳴は呼吸困難と同じく、スムーズに空気を肺へ送れないことで起こる気管支喘息の特徴的な症状です。


気管支喘息(小児喘息を含む)の西洋医学的治療法


一昔前の西洋医学的治療は狭くなった気管支の壁を拡張することに主眼が置かれていました。しかし、今日では気管支に起こる慢性的な炎症を抑えることがより有効だと明らかになってきました。


そこで現在では炎症を鎮める効果の強い吸入式のステロイド薬が気管支喘息治療の第一選択となっています。この吸入ステロイド薬は使用方法にコツがいるので小児喘息を患っているお子さんはしっかりと練習を行う必要があります。


吸入式のステロイド薬はあくまでも予防的治療であり、発作時の治療には適していません。発作時には呼吸を楽にする気管支拡張薬や服用するタイプのステロイド薬などが使用されます。


気管支喘息(小児喘息を含む)の漢方医学的解釈


漢方の視点からみると気管支喘息の原因は非常に多くの可能性が考えられます。しかし、どのようなタイプの気管支喘息においても根底には気虚と痰飲が関係しています。気虚とは生命エネルギーである気が不足した状態です。そして痰飲とは津液が停滞したことで生まれる有効活用されない水分を指します。


先天的な体質、くわえて過労や食生活の不摂生などによって気が不足してしまうと脾や肺の機能が低下してしまいます。肺に充分な気が供給されないと呼吸に支障が出て咳や呼吸困難が起こりやすくなります。脾のはたらきが悪くなると水分の代謝がうまくゆかなくなり痰飲がたまりやすくなります。脾で生まれたドロドロとした痰飲は徐々に肺にまで侵入し、さらに肺のはたらきを悪くしてしまいます。


元々、肺という臓は呼吸を通じて身体の外と密接につながっているので季節の変化(乾燥や湿気、急激な寒さ)などに敏感です。漢方的な表現をすれば肺は風寒邪(ふうかんじゃ)や燥邪(そうじゃ)といった外邪の悪影響を受けやすい臓といえます。気虚になると外邪を追い払う抵抗力も低下するので、カゼや環境の影響をより受けやすくなってしまいます。


漢方薬を用いた気管支喘息(小児喘息を含む)の治療


漢方薬をもちいた気管支喘息の治療は気虚の改善と痰飲の除去が中心となります。特に気を補い脾の状態を向上させることは痰飲も生まれにくくするので重要です。


咳や呼吸困難にくわえて疲労感が目立つ気虚の方には人参、黄耆、白朮、大棗、甘草などの補気薬、くわえて痰飲を除く半夏、生姜、蘇葉、杏仁、陳皮などの化痰薬を含んだ漢方薬がもちいられます。水っぽい痰が多く出る場合は水分代謝を改善する利水薬、具体的には白朮、蒼朮、沢瀉、猪苓、茯苓などの使用も検討されます。利水作用にくわえて咳を鎮める作用がある麻黄は特に繁用されます。


補気薬や化痰薬などの他に精神的なストレスが強ければ理気薬、冷えが目立てば散寒薬、炎症が強く粘り気の強い痰がでるケースには清熱薬も使用されます。これら以外にも症状や体質に沿ってしっかりと漢方薬を対応させる必要があります。したがって、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


気管支喘息の改善例


改善例1

患者は30代前半の男性・システムエンジニア。幼少期には小児喘息を患っていましたが、中学校に進学するとそのご症状も自然と消失。しかし、社会人となり精神的なストレスも多くなり、生活リズムも乱れると再び喘息のご症状が現れるようになったという。


くわしくお話を伺うと仕事でストレスを受けると呼吸が深くできなくなり典型的な咳と喘鳴、そして呼吸困難という喘息のご症状が起こりやすくなるという。喘息以外のご症状としては食が細く、慢性的に喉の不快感と重だるさが消えないとのこと。


この方にはストレスを緩和し熱(炎症)を抑える生薬である柴胡、咳を鎮める麻黄、痰飲を除く半夏などから構成される漢方薬を服用して頂きました。それにくわえてストレスの蓄積と喘息はこの方に限らず関連があるので、できる限り睡眠時間の確保とリラックスできる環境を整えるようお願いしました。


漢方薬の服用から3ヵ月が経過した頃には頻繁に起こっていた気管支喘息の咳や息苦しさ、そして喉の不快なつまり感は軽減されていました。一方でこの頃は仕事の繁忙期であったので気を補う人参や白朮などを含む漢方薬に変更しました。その後、繁忙期でも喘息発作が起こることもなく乗り切り、現在も微調整を加えながら体力強化の意味も含めて漢方薬の服用を継続して頂いています。


改善例2

患者は小学校高学年のお子さん。保育園時代に小児喘息と診断され、現在も吸入ステロイド薬をもちいた治療を行っている。基本的にご症状はコントロールされており、大きな発作が起こることはあまりないとのこと。しかし、ちょっと強く運動をしたりカゼを引くと調子を崩してしまうという。胃腸の弱さや体力不足も気になると訴えられるお母さんと一緒にご来局。


よりくわしくご様子を伺うと小児喘息の他に慢性的な疲れやすさ、食の細さ、腹痛や軟便などのご症状があり、さらにカゼを引きやすいご体質で困っていることがわかりました。これらのご症状などからお子さんは気の不足である気虚に陥っていると考えて人参、黄耆、白朮といった気を補う生薬を含んだ漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬の味の面も含めてしっかり服用できるか心配しましたが、お母さんから問題なく服用できていると教えて頂きました。服用開始から4ヵ月が経つと、食べられる量が少しずつ増えてきて、横になりたいという訴えが減ってきました。この間は一度だけカゼを引いてしまいましたが、発作はなく過ごせているとのこと。


服用開始から1年が経つ頃には体格も良くなり、胃腸の調子も安定していました。やや乾燥気味だった肌も潤いがついて粉を吹くこともなくなりました。その後も小児喘息の発作だけではなく、カゼや感染性胃腸炎などにもかかることもなく元気に過ごされています。


おわりに


気管支喘息は低年齢層を中心に増加傾向が続いている病気のひとつです。これは改善してきたとはいえ大気汚染などの環境問題が影響していると考えられます。くわえて食生活の乱れ、ストレスの多い長時間労働、睡眠不足、運動不足といった生活上の問題も背景にはあるでしょう。


当薬局には西洋薬を服用してもなかなか改善がみられなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方はとても多くいらっしゃいます。このように咳などの症状のみに着目するのではなく、個人の身体面と精神面の両方にアプローチを行う漢方薬は気管支喘息との相性が良いと実感しています。是非一度、気管支喘息にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 夜尿症(大人の夜尿症を含む) 】と漢方薬による治療

夜尿症(大人の夜尿症を含む)とは


夜尿症とは小学校入学以降も無意識のうちに夜間の排尿が行われてしまう病気です。おねしょは小学校入学前に起こるものであり、基本的に病気としては扱われません。夜尿症と似た遺尿症(いにょうしょう)という病名も存在します。これは夜間のみではなく、日中でも無意識に排尿してしまう病的状態を含んでいます。


定義上は病気と考えられる夜尿症ですが、小学校在学時でも5~10%程度の割合でみられるといわれています。したがって、決して珍しいものではありません。くわえて、年齢とともに改善傾向はありますが成人後でも夜尿症を患っている方は少なからずいらっしゃいます。


夜尿症(大人の夜尿症を含む)の原因


夜尿症を引き起こす主な原因としては膀胱の容量の問題(膀胱が小さい)、尿意があっても起床できない、排尿を抑えるホルモンであるバソプレシンの分泌不足などが挙げられます。これらの原因は身体の発育とともに改善してゆく傾向があります。くわえて相対的に頻度は少ないですが、腎臓の病気、てんかん、糖尿病などの病気が背景にあり夜尿症を引き起こしている可能性もあります。


逆に患っている方の性格や両親の育て方が原因となって夜尿症が起こっているわけではありません。夜尿症自体は非常に体質面に依存した病気といえます。したがって、夜尿症に対して過度にネガティブに捉える必要はありません。


夜尿症(大人の夜尿症を含む)の症状


夜尿症の症状は睡眠中の無意識な排尿以外にも、精神的な問題も含まれます。これは夜尿症を患っていることで自信を失ったり、積極性が低下してしまうことが挙げられます。結果的に外泊を含む旅行ができないなど、生活の質の低下が起こりえます。特に成人後の場合は仕事や家庭生活を営むうえで大きな問題となってしまいます。


夜尿症(大人の夜尿症を含む)の西洋医学的治療法


夜尿症の西洋医学的な治療は抗利尿ホルモン薬が中心となります。抗利尿ホルモン薬とは上記で登場したバソプレシンをもとに作られたデスモプレシンという成分を使用した薬で内服薬や点鼻薬としてもちいられます。この薬は腎臓で水分の再吸収を促し、尿を濃くする(尿量を少なくする)はたらきがあります。


抗利尿ホルモン薬以外では膀胱の収縮を抑える抗コリン作用を持ったトフラニール(一般名:イミプラミン)やアナフラニール(一般名:クロミプラミン)といった薬もしばしば使用されます。トフラニールとアナフラニールは三環系抗うつ薬と呼ばれるうつ病にもちいられる薬であり、その副作用である尿閉(尿が出にくくなること)を逆手にとって夜尿症にもちいられています。一方でこれらの薬は尿閉以外にも便秘や口の渇きという副作用もあるので、治療には慎重にもちいられます。


夜尿症(大人の夜尿症を含む)の漢方医学的解釈


漢方の立場から夜尿症を考えると、その背景には腎虚や気虚が大きく関わっているといえます。五臓六腑における腎は身体における水分代謝をつかさどっています。この腎の力がもともと弱かったり、弱まってしまうと夜尿症を含めた泌尿器系のトラブルが多くなります。


気は身体を活発化する生命エネルギーのような存在です。この気が不足している状態を気虚と呼びます。気は多くのはたらきを持っていますが、そのなかでも尿をしっかり身体内に保持するという役割も担っています。したがって、気虚に陥ると膀胱に充分な尿が保持できず、頻尿や夜尿症になってしまいます。


腎虚や気虚以外にも冷えや精神的なストレスによっても夜尿症を悪化させてしまうことがあります。したがって、全身的な症状と体質を含めて夜尿症の原因を考えてゆく必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた夜尿症(大人の夜尿症を含む)の治療


漢方薬による夜尿症治療は腎の力を補うこと、つまり補腎が中心となります。補腎にくわえて気虚や散寒などを考慮してゆくケースが多いです。


具体的には身長や体重が平均よりも小さい、疲れやすい、顔色が青白いといった症状がみられる場合は腎虚と考えて熟地黄、鹿茸、山茱萸、山薬といった補腎薬を含んだ漢方薬がもちいられます。食欲不振、風邪をひきやすい、めまいや立ちくらみが目立つようなら気虚を改善する人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などの補気薬を配合した漢方薬が適しています。


上記を基本としつつ、冷え性(冷え症)や水のような薄い尿が多く出るようなら身体を温める桂皮、乾姜、細辛、呉茱萸、附子などの散寒薬も使用されます。これら以外にも精神的なストレスによって気が停滞しているようなら気を巡らす漢方薬も考慮する必要があります。特に成人後も夜尿症が続いているケースでは精神的な負担も強いので、心身両面のケアが大切になります。


生活面での注意点と改善案


夜尿症を改善するうえで生活習慣や対応方法の見直しはとても重要になります。まず、患っているのがお子さんの場合、怒ったり注意をするのは逆効果になります。夜尿症は本人の意思で改善できるものではないので「もっと頑張って!」と言われても本人にはどうすることもできません。逆にうまくいった朝は褒めてあげる、うまくゆかなかった場合はスルーするのが良いです。


お子さんが寝ているときに起こしてしまうのも逆効果になります。これは抗利尿ホルモンのバソプレシンが睡眠中の夜間により多く分泌されるからであり、それを妨げることになってしまうからです。同じ理由で夜遅くまで起きているのも好ましくありません。


水分の摂取に関しては、無理に撮る水分を減らすことはありません。特に熱中症の恐れがある夏季に水分制限するのは危険です。一方で夕食から就寝までの間は冷たい水分の摂り過ぎは避けましょう。そして、就寝前には必ずトイレに行き、しっかりと布団の中に入って身体を冷やさないようにする習慣をつけてください。


くわえて、利尿効果のあるカフェインを含んだ緑茶、紅茶、コーヒー、喉が渇きやすくなる濃い味付けの食べ物(塩分の高い食べ物)は日常的に避けたほうが良いです。


夜尿症(大人の夜尿症を含む)の改善例


改善例1

患者は小学校4年生の男児。夜尿症が治らず、病院で排尿を知らせるブザーを使用した治療も受けましたが不調。病院からは薬の服用も勧められましたが副作用が心配でそれは避けることに。何もしないのも落ち着かないということで漢方薬の服用を希望し、当薬局へご来局。


お母様と一緒にご来局され、まず身長と体重を伺うと同年齢のお子さんと比較するとやや低め。夜尿症以外の気になるご症状としては手足に冷え、腹痛と軟便があるとのこと。あまり食に対して積極性はなく、お母様曰く「食べるものがなければ食べないで遊び続けている」という。


この子にはまず食欲や体力を向上させる人参や黄耆を含んだ漢方薬を服用していただきました。しっかりと服用できるかやや不安もありましたが特に問題なく漢方薬開始から2ヵ月が経ち、ほぼ毎日だった夜尿症の頻度は半分程度に。登校前に起こりやすかった腹痛や軟便はすっかり現れなくなりました。


ここで漢方薬を腎の力を底上げする地黄や山茱萸を含むものに変更。変更から半年が経つと夜尿症が起こることはなくなりました。季節は冬になっていましたが、手足が寒いと訴えることもなく、胃腸の調子も良い状態が維持されていました。その後、少々の中断期間がありましたが服用を継続され、修学旅行も無事に行くことができました。


改善例2

患者は20代後半の男性・書籍編集者。夜尿症が子供のころから続いており、病院での治療も行っていました。代表的な治療薬であるアナフラニールの服用によって排尿してしまう頻度は下がる一方、副作用の日中のふらつきや口の渇きが強く出てしまい続けることができませんでした。病院での治療以外にも治療法がないかを調べた末、当薬局へご来局。


より詳しくご様子を伺うと、症状は冬に悪化する傾向があるという。夜尿症以外のご症状としては下半身の冷え、疲労感、肌の乾燥などがありました。この方には身体を温める桂皮や附子、腎の力を補う地黄などから構成される漢方薬を服用していただきました。くわえて、お酒を含めた冷たい水分を控えていただき、腹巻などを利用して身体を冷やさぬようお願いしました。


漢方薬の服用から半年が経過すると、一年を通じてあった腰から下の冷えはなくなり、夜間の排尿も半分程度に減りました。その一方でお仕事が繁忙期に入り、疲労感がとても強いということで鹿茸と人参を含む生薬製剤を併用していただきました。併用を開始して3ヵ月程度が経つと、なかなか抜けなかった重だるさも軽減されたとのこと。夜尿症の方も新しい組み合わせの方が良いということもあり、繁忙期後も併用を継続へ。


漢方薬開始から通算で2年が過ぎると、よほど疲れが溜まったり冷えが強くない限りは夜尿症の症状は出なくなり、体調全般が安定しました。その後、一旦服薬は終了しましたがご結婚を機に再開。服用していない時も夜尿症に悩まされることはほとんどなかったとのことですが「お守りのかわり」と疲労回復を兼ね、改めて服用していただいています。


おわりに


夜尿症は患っている方が少なくない一方で、西洋医学的な治療法が限られている病気といえます。夜尿症は精神的な負担だけではなく、外泊を伴う旅行に消極的になってしまうなど生活の質を大きく下げてしまうものです。


漢方薬をもちいた夜尿症の治療は目立つ副作用もなく、お子さんでも安心して行えるメリットもあります。さらに夜尿症以外の困っていらっしゃるご症状も同時に改善を行える可能性があります。慢性的な夜尿症にお悩みの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 虚弱体質 】と漢方薬による治療

虚弱体質とは


「虚弱体質」という言葉に明確な定義はありませんが、主には体力がなく疲れやすい体質、または疲労感や重だるさが抜けにくい体質といえます。これらにくわえて食欲不振、顔色の悪さ、貧血によるめまいや立ちくらみ、風邪に代表される病気になりやすい体質などが多くの方に共有されている虚弱体質のイメージではないでしょうか。


お子さんの場合は食が細く痩せていて、しばしば朝礼で倒れてしまったり、中耳炎や扁桃腺炎を起こしてしまうようなケースが連想されます。虚弱体質と並び、虚弱体質児や虚弱児という言葉もまた西洋医学的に定まった定義はありません。


西洋医学的に虚弱体質は特定の病気が背景にない限り、対応が難しい状態といえます。その一方で、漢方において健康と病気の間といえる未病(みびょう)の状態である虚弱体質の改善は得意分野でもあります。本ページではなんらかの病気による虚弱体質ではなく、主に体質的に生まれ持っての虚弱体質の改善を解説してゆきます。


虚弱体質の原因


虚弱体質の主症状といえる疲労感は体質面と環境面の両方によってもたらされます。体質面では食欲不振や消化不良といった消化器系のトラブルによって栄養素をうまく身体に取り込めていないケースが多いです。その他にも何らかの病気をきっかけに体調を崩し、虚弱体質へ移行してしまうこともあります。


環境面としては長時間労働による肉体的・精神的ストレスの蓄積、偏食などの食生活の乱れ、運動不足、睡眠不足といった体力消耗と体力回復の問題が挙げられます。これらマイナスの要因が重なると一般的な体力がある方であっても慢性的な疲労感が抜けにくくなってしまうでしょう。


虚弱体質の症状


虚弱体質における中心的な症状としては慢性的な疲労感が消えず、いつも身体が重だるいといったものが挙げられます。虚弱体質には疲労感や重だるさにくわえて、食欲不振、胃もたれ、胃痛や腹痛、吐気や嘔吐、下痢や軟便などに代表される消化器系症状もしばしばともないます。他にも顔色の悪さ、めまいや立ちくらみ、動悸や息切れ、風邪などの病気になりやすい、気力の低下(精神面での活力の低下)などがしばしば挙げられる症状といえます。


虚弱体質の西洋医学的治療法


西洋医学的にみて疲労感を引き起こしている病気があるならば、その病気の治療が虚弱体質の改善につながります。代表的なものに身体に活力を与えるホルモンである甲状腺ホルモン量の低下が挙げられます。橋本病といった甲状腺ホルモン量の低下が起こる病気では疲労感、冷え性(冷え症)、むくみ、気力の低下などの症状が現れます。この場合は甲状腺ホルモン製剤を服用することで諸症状の改善が見込めます。


しかしながら、虚弱体質を引き起こしている原因が明らかにならなければ西洋医学的には治療が行えません。したがって、西洋医学において漠然とした虚弱体質の改善を期待するのは困難といえます。


虚弱体質の漢方医学的解釈


漢方の考えに基づいて治療を行う場合、特に西洋医学的な病名や検査値の異常は必要としません。むしろ、患っている方の訴えやもともとの体質が重要視されます。したがって、疲労感を中心とした虚弱体質も漢方においては治療の対象となります。


漢方の立場から虚弱体質を考えるとその中心には慢性的な気虚や血虚の存在が考えられます。気は身体に活力や抵抗力、さらには身体を温めるはたらきなどを担っている生命エネルギーと呼べる存在です。血は身体中を栄養し、心身を安定化させます。


食欲不振や過労によって気が不足すると心身の活力が失われ、いわゆる虚弱体質的な症状が現れやすくなります。主に血は気を「原料」として生まれるので、気の不足は徐々に血の不足も引き起こしてしまいます。


気や血の不足以外にも、精神的なストレスを受け続けると気の流れが滞ってしまいます。この状態を気滞と呼び、身体の重だるさや気力の低下、消化器の不調などを引き起こしてしまいます。このような症状もまた「虚弱体質的」といえるので、虚弱体質を訴えられる方に対しては気血の不足以外にもそれらの滞りも検討する必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた虚弱体質の治療


漢方薬による虚弱体質の改善は気や血を補うことが中心となります。気の多くは飲食を通じて生まれ、気から血はつくり出されます。したがって、虚弱体質の改善は消化器の状態を向上させること、食欲を高めることが大切となります。


疲労感にくわえてもともと食が細く、風邪などを引きやすい場合は気を補う人参、黄耆、大棗、白朮、甘草といった補気薬を多く含んだ漢方薬がもちいられます。顔色が悪く、ちょっとした運動で息切れが出たり肌の乾燥が目立つ方には血を補う地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉を配合した漢方薬がより適しています。


食欲はしっかりあり、食事の量も充分に摂れているのにいつも身体が重だるい、くわえて気分も沈みがちという方は気がうまく巡っていない気滞の状態が疑われます。このようなケースには気を流す柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの理気薬をもちいた漢方薬が検討されます。


さらに上記以外にもむくみやめまいがあるなら津液の停滞である水湿の状態も考えられます。このように虚弱体質といっても単純に気血を補えばよいというものではなく、あくまでも個人の症状や体質に基づいて漢方薬は決定されます。


生活面での注意点と改善案


虚弱体質の改善にはまずは食生活と生活習慣の見直しが大切です。食べ物については糖質である白米とタンパク質である肉や魚を充分に摂ることが望ましいです。消化器が弱っている場合、消化しにくい脂肪分の多い肉は避け、魚も身体を冷やしやすいお刺身ではなく焼き魚がより良いでしょう。


疲労感が顕著なときに栄養ドリンクをもちいるのは一定の効果はあります。これは栄養ドリンクに含まれている糖分がエネルギーへ、カフェインが覚醒作用を発揮するからです。一時的な効果がある一方で、連用すると糖分の摂り過ぎによる糖尿病の恐れもあります。カフェインも血圧の上昇や動悸、頻尿、寝つきの悪さや眠りの浅さを起こしてしまうことがありますので注意が必要です。


生活習慣としては当たり前のことになりますが休息や睡眠時間の確保は大切です。夕方以降の疲れが顕著の場合、昼過ぎの15~20分程度の仮眠は心身のリフレッシュにとても有効です。慢性的な運動不足は気の巡りを悪くしてしまい、倦怠感が現れやすくなります。軽いウォーキングや、できるだけエレベーターやエスカレーターを使わないようにするだけで身体はシャキッと活性化します。


虚弱体質の改善例


改善例1

患者は40代前半の男性・会社員。仕事で一般家庭において使用される医療機器の営業を行っており、説明のために重い機器を毎日運んでいる。「昔からあまり体力に自信がなかった」とのことですが、30代の後半からより顕著に疲れやすくなり年に何回も風邪を引くようになってしまったという。当薬局へは婦人科のトラブルを患っていた奥様のご紹介でご来局へ。


お話を伺うと慢性的な疲れやすさにくわえて、すぐに喉を痛めてそこから咳が続く風邪になってしまうという。その他にも疲れがたまると腰痛も現れやすくなり、お辞儀をする体勢をとると痛みが生じるとのこと。身長と体重は172cmの52kgと痩せ型で、普段から食に対する欲求が薄い(食べなくてもあまり苦にならない)という。


この方は典型的な気虚による虚弱体質と考えて人参や白朮から構成される漢方薬を服用していただきました。漢方薬を服用して日が浅いうちは苦みが気になったとのことですが、2ヵ月ほど服用すると食欲も増してきました。「職場でお腹が減るという経験はしたことがなかったけれど、今は4時頃になると夕御飯が待ち遠しくなる」とのこと。


初回から一貫して同じ漢方薬を服用し、半年が過ぎると体重は60kgとなる一方で腰痛は現れなくなっていました。この頃、季節は繁忙期の冬になっており機器の説明をする機会が増えるので喉からくる風邪が心配とのこと。そこで基本的な内容は大きくは変えず、風邪などへの抵抗力を高める黄耆を含んだ漢方薬へ変更。


新しい漢方薬を服用して3ヵ月が経ち、寒さも徐々にやわらぐ頃になりましたが今シーズンは風邪による喉の痛みや咳で仕事に支障をきたすことはありませんでした。もうひとつの懸案である腰痛も引き続き現れることなく、一年で一番忙しい時期を乗り切ることができました。その後は消化器の調子なども含めて体調がよいということでこの方には同じ漢方薬を継続していただいています。


改善例2

患者は小学4年生の男児。お母様と一緒にご来局されたお子様の主訴は1日に2~3回はあるという軟便でした。便意は食後に強く、学校ではあまりトイレに行きたくないので悩んでいるとのこと。より詳しくお話を伺うと軟便の他には腹痛、食後の眠気、吐気があり朝食が食べられないというご症状がありました。


くわえてご本人には聞こえないようにお母様がメモで、学芸会のようなイベントの前はより症状が強くなり、性格的にも神経質なところがあると教えていただきました。このお子様には気を補う人参や白朮、消化器の力を高めて軟便を改善する山薬や蓮肉などから構成される漢方薬を服用していただきました。日常生活では氷の入った炭酸飲料が大好きということだったので摂取量を制限してもらい、できる限り常温以上の水分摂取をお願いしました。


漢方薬の服用を開始して3ヵ月が経つと便通は2回以上になることはなくなっていました。便の状態もより固形に近づいてきたとのこと。その一方で便通直後の腹痛は変わらないということで、筋肉の緊張を緩めて痛みを除く芍薬や膠飴から構成される漢方薬に変更しました。


新しい漢方薬は甘みがあり、以前の漢方薬よりも積極的に服用してくれるとお母様の評判はとても良いものでした。肝心のお子様の腹痛も徐々に緩和され、服用から2ヵ月が経つと排便も夕御飯後の1回となりました。朝の吐気による食欲不振も少しずつ良くなり、小さなおにぎりは最低でも摂れるようになっていました。しかしながら、また疲れやすさがあるのか学校がない土日などは昼食後に2時間近くも横になっているという。


漢方薬の再変更を考えましたがご本人が今の漢方薬がよいということで変更は行わず様子を見ることに。通算で漢方薬の服用が1年になる頃には昼寝をすることはなくなっていました。逆に入眠する時間が早まり起床がよりスムーズになったとのこと。緊張するようなイベントの際でも胃腸の調子は安定していました。結果的には漢方薬の調節を行わないというご本人の判断が正しかったことが裏付けされた一例となりました。


おわりに


虚弱体質の改善は漢方が得意とする未病治療の典型といえます。虚弱体質に代表される体質改善は西洋医学的な対応が困難であり、そういった点においても漢方薬がとても活躍できる領域といえます。


その一方で虚弱体質といっても各症状の強弱などその内容は個人によってさまざまです。したがって、充分にご症状やご体質、さらには生活環境などを伺って漢方薬は調合されます。慢性的な疲労感や胃腸トラブルなどに代表される虚弱体質にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

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