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【 過敏性腸症候群 】と漢方薬による治療

過敏性腸症候群とは


過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)とはその名の通り、腸がさまざまな刺激によって過敏に反応し、下痢や便秘、腹痛などを起こしてしまう病気です。しばしば過敏性腸症候群の英語名である「Irritable Bowel Syndrome」の頭文字をとってIBSとも呼ばれます。


専門書や病気の解説サイトなどにおいて過敏性腸症候群は「器質的な異常が見られない」「機能性の疾患である」というように紹介されます。この表現は一般の方にはわかりにくいですが、簡単にいえば「腸に炎症や傷があるわけではないのに、しっかりとはたらいていない状態」を指しています。このことから過敏性腸症候群は機能性ディスペプシアと並んで、代表的な機能性消化管障害に位置付けられます。


しばしば、漢字が並んだ長い病名であり同じ「腸」の字が入ることから潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)と混同されている方もいらっしゃいます。潰瘍性大腸炎とは大腸(多くは大腸の直腸)に原因不明の炎症が起こり下痢や血便を起こす、過敏性腸症候群とはまったく異なった病気です。やや脱線してしまいますが、まれにネット上などで「過敏性大腸炎」と表記されているのを目にします。これは過敏性腸症候群と潰瘍性大腸炎の両病名を混ぜこぜにしてしまった完全な誤用です。


過敏性腸症候群の原因


過敏性腸症候群を引き起こす明確な原因は不明であり、個人差も大きいといわれています。そのなかでも通勤や通学の前、テストやスピーチの際などで高まる緊張状態が過敏性腸症候群の引き金になりやすいといわれています。


精神的な緊張以外にも脂肪分の多い高カロリー食品、乳製品、コーヒーを含むお茶類、柑橘類、香辛料、アルコールなども症状を悪化させることが示唆されています。もし、「朝の通勤前には症状が起こりやすい」といった傾向がわかっているようなら、上記のような食品を朝食では摂らない工夫も病状緩和に有効です。


過敏性腸症候群には性差も認められており、男性の方が女性よりも約3倍もかかりやすいという報告もあります。その一方で生理前や生理中に症状が悪化する女性も少なくありません。したがって、過敏性腸症候群は遺伝子レベルから患っている方が置かれている社会的な背景、心理的な状態まで幅広い原因が潜んでいる可能性があります。


過敏性腸症候群の症状


過敏性腸症候群はさまざまな刺激によって消化管(小腸や大腸)が強い収縮を起こし、痛みをともなった下痢や便秘などを起こす病気です。男性は下痢型、女性は便秘型が多いといわれています。さらに下痢と便秘を繰り返してしまう混合型、どれにも当てはまらない分類不能型も存在します。


上記以外にも腹痛、腹鳴、腹部の不快感もしばしばみられます。さらに便意や腹痛は突然現れることが多いので「また下痢になってしまうのではないか」という不安感にも苦しめられることになります。


過敏性腸症候群はしばしば同じ機能性消化管障害である機能性ディスペプシアを併発します。機能性ディスペプシアとは過敏性腸症候群と同様に、胃に炎症のようなトラブルがないのに食後のもたれ、胃痛、胸やけ、吐気、満腹感による食欲不振といった症状が現れる病気です。


過敏性腸症候群の西洋医学的治療法


過敏性腸症候群の中心的な症状は下痢や便秘といった便通のトラブルです。過敏性腸症候群の第一選択(最初にもちいるべき薬)であるポリカルボフィルカルシウムを有効成分とするコロネルやポリフルは便の水分バランスを整えることで下痢にも便秘にも使用されます。


コロネルやポリフルにくわえて、腸のはたらきを調整することで下痢にも便秘にも有効なセレキノン(一般名:トリメブチン)、下痢と腹痛の改善を得意とするイリボー(一般名:ラモセトロン)もしばしば使用されます。


上記の他には腸内環境を整える乳酸菌製剤、腸管の収縮をやわらげて腹痛を除くトランコロン(一般名:メペンゾラート)、生薬のアカメガシワを含んだマロゲンなどが頻用されます。憂うつ感や不安感といった精神的な症状が目立つ場合は抗うつ薬であるパキシル(一般名:パロキセチン)なども検討されます。


過敏性腸症候群は精神面の影響を無視できない病気なので、パキシルやベンゾジアゼピン系の抗うつ薬も有力な治療薬候補となります。一方で抗うつ薬はふらつき、眠気、吐気などの副作用も現れやすいので注意が必要です。薬物治療以外にも精神的ストレスが原因として明白な場合はカウンセリングを中心とした認知行動療法が行われることもあります。


過敏性腸症候群の漢方医学的解釈


漢方医学的に過敏性腸症候群を考えると、その原因は大きく分けて2つ考えられます。ひとつは脾胃(ひい)の問題です。脾胃とは簡単に表現してしまえば腸を含めた消化器のことを指します。そしてもうひとつが肝(かん)の問題です。肝とはアルコールを解毒したりする西洋医学的な肝臓のことではなく、気の流れをコントロールしたり血をたくわえるはたらきをもつとされる漢方医学的な肝を指します。


ではまず、脾胃と過敏性腸症候群について説明いたします。繰り返しになってしまいますが脾胃は西洋医学的には消化器であり、この消化器のはたらきが弱くなってしまった状態を脾気虚(ひききょ)と表現します。


脾胃は食べ物から人間に必要な気(き)、血(けつ)、津液(しんえき)の生産に関わる「エネルギー工場」のような存在です。このエネルギー工場が何らかの原因で「操業停止」になってしまうと下痢を中心とした消化器症状だけではなく、疲労感、倦怠感、息切れ、めまいやふらつきなどの多彩な症状が現れます。脾気虚の方は普段から疲れやすくて体力がない虚弱体質気味といえるでしょう。脾気虚に陥ってしまう原因としては栄養不足、慢性病後の体力消耗、過労などが挙げられます。


それでは脾胃につづいて肝についてです。肝は気の円滑な流れをコントロールしており、正常に気が流れていれば心身ともに健康な状態が保たれます。しかしながら、この肝は精神的ストレスに敏感であり、比較的簡単にダメージを受けてしまいます。その結果、肝がしっかりと働けなくなってしまうと気の流れが滞り、イライラ感や怒り、胸や喉に閉そく感を覚えるなどの症状が出てきます。


このような精神不安を中心とした症状を肝気鬱結(かんきうっけつ)と呼びます。そして、肝気鬱結をほっておくと気の滞りは脾胃にも悪影響を及ぼします。このような肝の悪影響が脾胃に及ぶことを肝脾不和(かんぴふわ)や肝胃不和(かんいふわ)と呼びます。


脾胃は人間のエネルギー源である気、血、津液を作り出しますが、脾胃自体もはたらくために気が必要です。したがって、気の滞りによって脾胃もしっかりと働かなくなり下痢や便秘、下腹部痛、下腹部の張り、食欲不振、ゲップ、吐気、嘔吐などの症状が現れてしまうのです。


他にも漢方医学的な過敏性腸症候群の原因はいくつも考えられますが、大筋で精神的ストレスと過労が主な原因と考えて良いでしょう。この点は西洋医学な観点とほぼ共通していると考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた過敏性腸症候群の治療


上記で紹介したとおり、過敏性腸症候群の原因は漢方医学的に考えると大きく分けて脾気虚と肝気鬱結が挙げられました。したがって、気を補ったり気の巡りを改善することが過敏性腸症候群の治療につながります。


消化器の力が低下している脾気虚は気の不足なので、気を補う漢方薬を使用することになります。気を補う生薬である補気薬(ほきやく)には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。これらから構成される漢方薬を服用することで脾胃の力が増し、食べ物からしっかりと気、血、津液が生まれるようになります。そして、気が充実してくれば消化器がしっかりはたらくようになり、下痢や疲労は回復してゆきます。


そして消化器の力を鈍くしてしまう肝気鬱結の解消には、肝のはたらきを助けてあげる必要があります。より具体的には気が流れやすくすることが重要になります。気の巡りを改善する代表的な生薬である理気薬(りきやく)には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。


これらにくわえて肝に血を与えることでその力を回復させるために地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの血を生み出す生薬(補血薬)もしばしば使用されます。しかし、血を補う生薬は胃に負担をかけることもあるのでその方の体質にしたがって使用は慎重に行われます。


このように漢方薬は同じ過敏性腸症候群であっても症状や体質によって大きく内容が変わってきます。漢方薬を継続的に服用することで悩まれている症状だけではなく、病気のより根本的な原因までも取り除くことができるようになります。身体は元来、病気に打ち勝つための力とバランスを保つ能力が備わっています。漢方薬はそれらの力を根本から底上げする「お手伝い」ができるのです。


生活面での注意点と改善案


漢方薬の服用は過敏性腸症候群に打ち勝つ力になると説明しましたが、日々の生活面を見直すこともこの病気に対抗するための有効な手段となります。過敏性腸症候群は西洋医学的にも漢方医学的にもストレス、特に精神的なストレスの影響を強く受けていると考えます。


ストレス社会といわれる今日において精神的ストレスを完全に消し去ることは非常に困難です。その一方で過敏性腸症候群が身体にかかっている負担に対する「警報」を鳴らしているということは覚えておいて頂きたいと思います。過剰な仕事を抱え込まない、趣味の時間を大切にする、しっかりと睡眠をとるといった基本的なことが重要となってきます。


さらに過敏性腸症候群は消化器の病気ということもあり食事面の改善も有効です。まず、強いアルコールや辛いものなどの刺激物は炎症を悪化させる可能性があるので控えた方が良いとされています。脂肪が多い食品や乳製品も人によっては症状を悪化させることがあるので注意が必要です。


食事の回数を多くして食べる量を減らすことも有効です。しかしながら、多忙な生活を送る方が多い今日、なかなか実現は困難だとも感じられます。ですが「朝食を抜いて一日二食、夕飯は大食いの早食い」という状況は見直すべきです。一日三食でゆっくり質量ともにバランスをとることが大切です。


すでに述べた刺激物だけではなく冷たい食べ物や水分を多く含んだ食べ物は脾胃の力を弱めてしまうので控えた方が良いでしょう。具体的にはサラダ、フルーツ、清涼飲料などです。サラダやフルーツは食物繊維を豊富に含んでいるので便通改善に良いのですが、多くの場合は冷えたまま摂ることが多くなってしまいます。


サラダは温野菜へ、フルーツはせめて常温にして食べることが望ましいです。しばしば、胃腸が弱い方はその改善を目的としてヨーグルトを多く摂られていますが、やはり上記と同じ理由で常温またはすこし温める方が良いです。


過敏性腸症候群の改善例


改善例1

患者は30代前半の男性・高校教師。子どもの頃から体力はあまり無い方で、しばしば下痢や軟便を起こしていました。年齢が上がるにつれて便通異常は落ち着いてきましたが、教師としてはたらきだしてから腹痛を伴う下痢と軟便の症状が再発。特に授業中、トイレに行けないと考えると余計にお腹が張り腹痛と便意が強くなってしまうとのこと。


より詳しくお話を伺うと、下腹部はいつも冷えており食欲も落ち気味で全体的に元気がない印象でした。この方にはまず脾胃の状態を立て直す補気薬である人参や黄耆、そして気の流れを改善する柴胡や陳皮を含む漢方薬を調合しました。


服用から2ヵ月が経った頃には腹部の張りと痛みはだいぶ鎮まり、便通も我慢できるようになったとのこと。この頃から気温が下がり始めたので身体を温める生薬である散寒薬の乾姜や山椒を含んだ漢方薬に微調整を行いました。


服用開始から通算で約半年が経過すると、便通は1日2回ほどに落ち着き、腹痛は完全に消えたとのこと。この方は部活顧問にも携わり仕事量が増加したことを受けて、体力増進の意味で補気を中心とした漢方薬を継続して頂いています。


改善例2

患者は20代後半の女性・会社員。半年前の転職をきっかけに緊張時の下痢や腹痛に襲われるようになってしまいました。転職先の条件や人間関係は良好とのことですが、頻繁に社外へ赴き大勢の前で発表を行わなければならず、発表当日の朝は出勤前から3回ほどトイレに行く状態になってしまいました。


勤務への支障が出ることを心配し、病院を受診して過敏性腸症候群と診断されました。受診した病院でいくつかの薬を服用するも大きく改善はされなかったとのこと。心療内科の受診も進められましたが抵抗があり、当薬局へご来局。


過敏性腸症候群についてより細かいご症状を伺うと、下痢と腹痛の他にグルグルという腹鳴や常に便意があるという。「お腹の音が誰かに聞かれていないか心配になり、そうすると余計に便意が強くなる」という。過敏性腸症候群以外の症状としては寝つきの悪さがありました。


この方には気の巡りを改善する柴胡、筋肉の緊張をやわらげる芍薬、水分代謝を改善する白朮や茯苓から構成される漢方薬を調合いたしました。日常生活面ではコーヒーをオフィスにいる間に3杯以上は飲むと伺ったので、ノンカフェインの温かいお茶に切り替えてもらいました。


漢方薬服用から3ヵ月が経つと、服用前と比較して入眠がしやすくなり体力に余裕が出てきたとのこと。プレゼンの前の便通回数も半分程度に減っていました。その一方で便意とガスが腸を移動しているような腹鳴はまだ残っていました。同じ漢方薬で継続していただくか悩みましたが、厚朴や陳皮を含んだ漢方薬に変更しました。


新しい漢方薬にして2ヵ月ほどが経過するとガスによる腹部の張り感や便意も鎮まり、とても気にされていた腹鳴も気にならなくなったとのこと。便通も1日1~2回程度で安定し、睡眠の調子も引き続き悪くないという。この方は毎年、冬になると腹痛や軟便が起こりやすくなるということで、季節に合わせて内容を調節して継続服用して頂いています。


おわりに


近年、過敏性腸症候群を患われている方がとても多くなった印象を受けます。やはりストレス社会と呼ばれる今日の世相を反映しているのかもしれません。過敏性腸症候群による症状自体が新たなストレス源となって、さらに症状が悪化する悪循環に陥っている方も少なくありません。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方がとても多くいらっしゃることから、過敏性腸症候群と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、過敏性腸症候群にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 パニック障害 】と漢方薬による治療

パニック障害とは


パニック障害とは動悸や息苦しさに代表されるパニック発作、パニック発作が起こるのではないかという予期不安、そして広場恐怖から構成される神経症性障害です。神経症性障害とは主に精神的なトラブルをきっかけに発症し、精神的・身体的な症状を起こす病気の総称です。


パニック障害は10代から30代の若年層、そのなかでも特に女性に多いことが知られています。この点からパニック障害の発症は単純に精神的な問題だけではなく生物学的な要素、つまり遺伝的な要素も関係していると考えられます。


パニック障害の症状


パニック障害の症状はさまざまな身体症状をともなうパニック発作、そして予期不安と広場恐怖という精神症状から構成されます。下記ではより詳しくこれらの症状を解説してゆきます。


パニック発作とは

代表的なパニック発作の症状としては動悸、身体の震え、息苦しさ、冷や汗、寒気、のぼせ、めまい、吐気、口の渇き、胸痛、腹部の不快感などが挙げられます。実際にパニック発作時にどのような症状が起こるのか個人差がありますが、動悸や息苦しさによる呼吸困難は多くの方が訴えられます。パニック発作による症状は激しく、強い恐怖感を生んでしまいます。


予期不安とは

予期不安とは「パニック発作がまた起こってしまうのではないか」という過剰かつ強力な不安感が持続してしまう状態です。予期不安はパニック発作による動悸などと並んでパニック障害において核となる症状といえます。次に挙げる広場恐怖と絡み日常の行動を制限してしまいます。


広場恐怖とは

広場恐怖とはパニック発作が起こった場合、それに対処するための場所が確保できないところに出かけるのを極端に回避する状態を指します。広場恐怖が起こりやすい場所の具体例としてはトイレのない電車やあまり停車しない快速電車といった交通機関、土地勘のない出先、エレベーター内などの狭い空間などが挙げられます。


助けを求めにくい場所だけではなく、土地勘がある場所においても一人だけでの行動に過剰な恐怖を抱いてしまうこともあります。広場恐怖と上記の予期不安は行動範囲を制限してしまうため、仕事や旅行などに支障が出てしまいます。


パニック障害の原因


西洋医学的にパニック障害の明確な原因は解明されてはいません。しかしながら、神経伝達物質(ノルアドレナリンやセロトニンなど)を調節する薬物が有効な点から、これら神経伝達物質の過活動や機能不全がパニック障害の原因ではないかと推測されています。


パニック障害の西洋医学的治療法


パニック障害の治療には抗不安薬が主に用いられます。代表的な治療薬としてはSSRIというグループに属するパキシル(一般名:パロキセチン)やジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)、そして長時間作用型のベンゾジアゼピン系の薬が代表的です。


薬物療法以外にもパニック障害に対しては段階的暴露療法(だんかいてきばくろりょうほう)がしばしば行われます。段階的暴露療法とは我慢することができる範囲の状況から少しずつ、つまり段階的に日常生活に近い状況に慣れてゆくことを促す精神療法です。


具体的に電車内で広場恐怖を起こしやすい方のケースでは、一人で駅まで行く、ホームに立つ、一駅だけ乗車する、より先まで乗車する、停車が少ない快速電車に乗車するといったステップを時間をかけて行ってゆきます。


パニック障害の漢方医学的解釈


パニック障害の主症状は激しい動悸や呼吸困難などの身体症状と予期不安や広場恐怖といった精神症状でした。これらの症状は漢方医学における心血虚(しんけっきょ)の状態といえます。


心(しん)は漢方医学において血を全身に送り届けるポンプのはたらき以外にも、精神を安定化させるはたらきを担っています。そのようなはたらきを持つ心は充分な血によって栄養されることで上記のような機能を維持しています。そこになんらかの原因によって心を栄養するはずの血が不足してしまうと心血虚となり、心本来の持つはたらきができなくなってしまいます。


心血虚の代表的な症状として動悸や息切れ、頻脈や不整脈、そして不安感や不眠症などが挙げられます。これらの症状は非常にパニック障害と酷似しています。心血虚を引き起こす主な原因としては慢性的な精神的ストレス、肉体疲労、慢性疾患による消耗、食欲不振などが挙げられます。このような状態が続いている方は心血虚に陥ってしまう可能性、つまりパニック障害を患ってしまう可能性が高いといえます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたパニック障害の治療


パニック障害の背景に心血虚があると考えた場合、その治療は血を補うことが中心になります。血を補う生薬としては地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの補血薬(ほけつやく)が代表的です。パニック発作を治療する漢方薬はこれら補血薬を中心に、気持ちを鎮めることを得意とする竜骨、牡蠣、遠志などの生薬を組み合わせることになります。


さらに血は気より生まれるものなので、気を補う生薬である人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などを少量、漢方薬に組み込むと効率的に気血を補うことも可能です。疲労感や食欲不振などの気虚症状が顕著な場合はより積極的に気も補うべきでしょう。


気の滞りによる胸の圧迫感や喉の閉塞感、腹部の不快感などが目立つ場合は気の巡りを改善する柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子といった理気薬(りきやく)の使用も検討されます。パニック障害の主な症状は動悸や不安感でしたが、それ以外の症状にも目を向けて漢方薬を調合することがパニック障害治療には欠かせません。


パニック障害の改善例


患者は20代後半の女性・医療事務員。数年前に通勤中の電車が人身事故で長時間停車し、かなりの時間車内に閉じ込められる形となってしまいました。運悪くその時は真夏で体調が悪くなり、非常に辛い思いをしたという。


その数ヵ月後には地震でエレベーターに閉じ込められる体験をしてしまい、それ以来、閉鎖空間に入っただけで動悸と吐気に襲われるようになってしまった。症状は悪化し、最近では自分で運転する車にも乗れなくなってしまったとのこと。


このままでは日常生活を送ることが難しくなると考えて、自身が勤務していた薬局近くの心療内科を受診。そこでパニック障害と診断されて抗不安薬の服用を開始しました。しかし抗不安薬だけでは安心できず、当薬局へは妹様が生理不順の漢方薬を服用していたご縁でご来局。


詳しくお話を伺うと電車やバスなどの乗り物だけではなく、出入りが自由にできない部屋などに対しても強い不安感、そして動悸や吐気が出てしまうという。パニック障害以外のご症状としては慢性的な疲労感や食欲不振が挙げられました。食事量について「同僚と比べると半分くらいしか食べられないし、食べる気持ちが湧かない」とのこと。顔色は青白く、目にも声にも力がこもっていない印象でした。


この方は血だけではなく気も不足している状態と考え、まずは消化器の調子を整えることで気を補うことができる漢方薬を中心に据えました。その一方で気だけではなく血を補う生薬を少量だけ含んでいる漢方薬を調合しました。これは気血両面のケアにくわえて、胃腸の弱い方が血を補う生薬を多く服用すると消化器に不快症状が出やすいからです。


くわえて鎮静作用がある牛黄(ごおう)製剤の服用もお願いしました。牛黄は動悸や気分の乱れを抑えるはたらきに優れており、即効性が期待できるので「お守り」として日頃から携帯すると良いと伝えました。


気を補う漢方薬を服用して4ヵ月が経過する頃には疲労感と食欲不振がかなり軽減されていました。ご本人から「お弁当のサイズを少し大きいものにした」とのこと。良い傾向と考えて、この段階で竜眼肉や酸棗仁を含んだ血を補うことを得意とする漢方薬へシフト。


新しい漢方薬を服用して6ヵ月が経過する頃には体力面も精神面も安定し、大きなパニック発作を起こすことはほぼ無くなりました。通勤に利用している電車が予想外に混んで気分が悪くなりそうだった時、牛黄製剤を服用して発作をうまく回避できたとのこと。


病状を客観的に把握するためにその日の体調を簡単な日記形式で記録して頂いていましたが、それを見てパニック発作が起こっていないことを実感できていたこともプラスにはたらいていました。それから数ヵ月が経過した頃に漠然と車の運転をしてみようと思い立ち、その際も問題なくドライブできたとのこと。


この成功体験からさらに自信を深め、病院と相談のうえで抗不安薬を減薬。現在もパニック発作が起こらない状態をキープできています。漢方薬については予防と体力強化の意味で継続服用をご希望。ご体調に合わせて微調節しながら今も服用して頂いています。


おわりに


近年、パニック障害を訴えられてご来局される方がとても多くなった印象を受けます。これもストレス社会と呼ばれる今日の世相を反映しているのかもしれません。パニック障害は動悸を中心とした身体症状だけではなく、予期不安や広場恐怖によって生活への支障が問題となりやすい病気です。そのため、悩みを深めて悪循環に陥っている方も少なくありません。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか症状の改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、徐々に症状が改善されることからパニック障害と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、パニック障害などの不安神経症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 チック症(トゥレット症候群を含む) 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局とチック症(トゥレット症候群)


当薬局では長年、チック症に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつはチック症はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬はチック症の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページではチック症とトゥレット症候群に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


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チック症とトゥレット症候群とは


チック症とは無意識に筋肉を動かしてしまう病気であり、それは「無意識」であるがゆえに本人の意思では止められない点がチック症の特徴です。具体的には素早いまばたき、首ふり、顔をしかめる、肩を上下させるといった動作が現れます。他にも咳払い、鼻を鳴らす、奇声を上げるなどの症状が見られることもあります。


チック症はお子様に多い病気です。したがって、このホームページもお子様を主な対象として考えてゆきます。発生頻度はおおよそ10~20%といわれており、チック症は決して珍しい病気ではありません。その発症年齢については統計的に5~9歳ごろがピークになります。したがって、小学校低学年の1クラスにおいて数人は必ず発症している計算になります。


チック症が数年経っても消えず、むしろ症状が増加・悪化して慢性化してしまった場合はトゥレット症候群と病名が変わります。トゥレット症候群は多くの場合、10歳前後で症状の強さのピークを迎えます。その後は徐々に回復して中学校卒業時くらいにはほとんどの症状が鎮静化するといわれています。つまり、トゥレット症候群はチック症という病気を構成する一症候群、慢性化したチック症ということができます。


チック症は既に述べたとおり、よく見られる病気でしたがトゥレット症候群の発症頻度は0.05%と非常に低いことも知られています。したがって、チック症が発症したからといってトゥレット症候群になる(慢性化する)と過度に心配する必要はないでしょう。


チック症の原因


過去においてチック症の原因は家庭環境であるとする考え方が一般的でした。つまり、「子どもへの教育やしつけが厳し過ぎた」「母親が愛情を込めて育てなかった」などの言説です。残念ながら、今日でも一部(医療従事者や教職員を含む)ではそのような考え方が残ってしまっています。


現在ではチック症に関する研究も進み、いくつかの神経伝達物質、主にドパミンやドパミンを受け取るレセプターの異常がチック症に強く関連していることがわかってきました。しかしながら、まだ完全にチック症の原因は解明されていません。


上記より、チック症は体質によるところが大きく、決して家庭環境に問題があったから発症するような病気ではないことが分かってきたのです。その一方でチック症はストレスが蓄積したり緊張する場面で悪化することも知られています。したがって、チック症は体質的要因がその根幹にあり環境要因がそれに対して影響を及ぼしているという考えが多数派となっています。


チック症の症状


チック症の症状は大きく分けて運動性チック症と音声チック症に分けられます。実際的には運動性チック症のみが出る場合、音声チック症のみが出る場合、そしてふたつとも出る場合やその他の症状が混ざって現れるなどさまざまです。


運動性チック症

具体的な運動性チック症の症状としては顔や口の筋肉を動かす、首を振る、肩をすくめる、まばたき、口の周りをなめる、ジャンプする、身体をビクつかせるなどが挙げられます。顔や口の片側の筋肉だけを動かすことで、しばしば「ひょっとこ」のような顔つきになると表現される方もいらっしゃいます。


これらの症状は専門的には不随意運動と呼ばれます。つまり、意識していない状態で出てしまう動きです。意識していないので症状が出ている本人に「動くな!」「止めろ!」と言っても効果は無く、むしろ緊張感を高めてしまい逆効果になってしまいます。


音声チック症

具体的な音声チック症の症状としては鼻を鳴らす、奇声を発する、「あ、あ、あ」のように同じ言葉を繰り返す、「バカ!」「死ね!」「クソ!」などの攻撃的で品のない言葉や「おっぱい」「ちんこ」といった性的な言葉を発する(汚言症)などが挙げられます。


これら音声チック症も運動性チック症と同様に不随意的なものなので意識して止めることはできません。音声チック症はその音によって周囲から目立ってしまうだけではなく、汚言症は会話の前後関係に依存しない形で出てしまいます。したがって、友人関係などに代表される人間関係に問題が生じてしまわぬよう注意が必要です。


その他の症状

チック症の症状は多様であり、運動性チック症とも音声チック症ともいえないものがあります。具体的には特定のものに強くこだわる、髪の毛やまつ毛を抜く抜毛症(ばつもうしょう)、口の中や唇をかむ、皮膚をはがす、匂いをかぐ、突然の怒り、暴力的な行為などの症状が挙げられます。これらの症状の一部はチック症ではなく単なる癖である場合も多く、その区別が難しいこともあります。


チック症の症状ではありませんが、しばしばチック症とADHD(注意欠陥・多動性障害または注意欠如・多動症)が一緒に現れやすい、合併しやすいことが知られています。漢方薬をもちいたADHDの治療につきましては こちらをご参照ください。


チック症の西洋医学的治療法


チック症が慢性化して学校生活を送る上で問題があるような場合は薬物治療の対象となります。もっとも頻繁に使用されるのはドパミン受容体阻害薬であるセレネース(一般名:ハロペリドール)、リスパダール(一般名:リスペリドン)、ウインタミン(一般名:クロルプロマジン)、オーラップ(一般名:ピモジド)、そしてドパミン量のバランスを調節できるエビリファイ(一般名:アリピラゾール)などです。


これらはドパミンの過剰なはたらきを抑制することでチック症の症状を軽減します。その一方で眠気、筋肉のこわばりと硬直、眼球運動障害、嚥下障害などの多彩な副作用が存在します。これらの副作用はその原因と考えられる脳の部位の名前から錐体外路(すいたいがいろ)障害や錐体外路症状と呼ばれます。くわえて特に意識しない口や顔の動きを遅発性ジスキネジアとも呼ばれます。


ドパミン受容体遮断薬は西洋医学的には実績のある治療薬であり、近年では副作用の少ないタイプの治療薬も開発されています。しかしながら、上記のような副作用はゼロではないので慎重な治療が求められます。


ドパミンとは異なる神経伝達物質であるセロトニンのはたらきを活性化させるパキシル(一般名:パロキセチン)などのSSRIと呼ばれるカテゴリーの薬、同じく神経伝達物質であるGABAのはたらきを高めるベンゾジアゼピン系の抗不安薬であるリボトリール(一般名:クロナゼパム)、セルシン(一般名:ジアゼパム)、自律神経の興奮を抑えるカタプレス(一般名:クロニジン)なども用いられることがあります。


上記の薬も副作用として吐気、食欲不振、腹痛、下痢といった消化器系障害、ふらつきや頭重感などの感覚異常が出る場合もあります。


薬物療法以外にもカウンセリングを中心とした心理療法が用いられます。カウンセリングではチック症がどのような病気なのかを両親と一緒に理解し、建設的な治療を行う環境づくりを行います。


チック症の漢方医学的解釈


チック症の症状は筋肉の動きが制御できないことが根本にあります。漢方医学において筋肉の動きは肝(かん)がコントロールしていると考えます。漢方医学の理論における肝は筋肉の動きだけではなく、眼のはたらきを維持したり、精神や感情を安定化させるはたらきを担っています。この肝のはたらきが何らかの原因で失調した場合は筋肉の動き、眼の機能、気持ちの乱れなどが起こってしまいます。


筋肉のはたらきが失調してしまうと運動性チック症や一部の音声チック症に繋がることがわかります。チック症特有のまばたきも筋肉と眼のはたらきの失調に寄るところが大きいでしょう。気持ちの乱れはイライラ感、理由のない怒り、情緒不安定、ヒステリーなどを誘発します。したがって、漢方医学的には肝に注目してチック症の治療を行うことになります。


さらに肝以外にも、肝と関連深い腎(じん)への配慮も必要な場合があります。腎は成長や生殖などを司る精(せい)を蓄えています。肝腎同源(かんじんどうげん)といって、肝が失調すると腎のはたらきも弱まり、逆に腎の精が少なかったりすると肝のはたらきも弱まってしまいます。


精は成長に欠かせないものであり、成長障害、学習障害、低身長や低体重などの精不足と考えられる症状がチック症と一緒にあるようならば、漢方薬を用いてそれらに対する治療も行われます。

チック症の症状に肝の失調が関与していることは上記で説明したとおりでしたが、根本的になぜ肝が失調してしまったのかを考える必要があります。肝は多くの場合、精神的なストレスによってその力が低下してしまいます。したがって、まずはお子様の精神的なストレスがないかを考える必要があります。経験的には受験によるストレス、学校のクラス替えに伴う環境の変化、家庭環境の変化などが多いと感じます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたチック症の治療


上記で述べてきた理論のとおり、漢方薬を用いたチック症の治療は肝をいたわり、その機能を回復させることが中心となります。肝の力の衰えは肝にためられていた血(けつ)が消耗すると起こりやすく、それを補うことがチック症治療の中心に据えられます。


血を補う生薬である補血薬(ほけつやく)としては地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが代表的です。特に芍薬は筋肉の過緊張を和らげるはたらきもあるのでチック症には最適の生薬といえます。


さらに精神的ストレスを緩和することで肝血の消耗を抑える理気薬(りきやく)も重要です。代表的な理気薬としては柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。他にも筋肉のけいれんやふるえを鎮める熄風薬(そくふうやく)である釣藤鈎、天麻、竜骨、牡蠣、腎の精を補う補腎薬(ほじんやく)である鹿茸なども漢方薬を構築する上で重要視されます。


これら以外にも主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


生活面での注意点と改善案


チック症やトゥレット症候群の症状は本人が意識して止めることが難しいという点が特徴として挙げられます。したがって、無理に現れている症状をやめさせたりすることはお子さんのストレスを増大させ、逆効果になってしまうでしょう。


症状が出ていてもあえて無視することが必要になります。しばしば、「温かい無視」と呼ばれますが、まさに文字通りの対処法です。温かい無視以外にも、おとなしくできている時には褒めるという対応も良いとされています。


お子様への対応だけではなく、学校への対応も場合によっては必要になります。教職員も多くの場合は基礎的なチック症の知識(「チック症の症状をむやみに注意することは逆効果」
「無意識に起こっている症状で、意識して止めることはできない」など)はあるはずですが、保護者面談時などにチック症のことを伝えておくことも大切です。


チック症の改善例


改善例1

患者は小学6年生の男児。小学校四年生の頃から顔をゆがませたり首を左右に素早く振るなどのチック症状が現れ出した。お母様は最初、ふざけているのか癖なのかわからず症状に対して注意をしていましたが、チック症の症状は治まることなく続いていました。


その後、チック症の症状を同級生に指摘されたことをきっかけに時々学校を休むようになってしまいました。当薬局へは昔からお母様自身が月経困難症で漢方薬を服用しており、息子様にも漢方薬を試そうと考えて親子でご来局。


詳しくお話を伺うと顔や首の動かしといった典型的な運動性チック症の症状に加えて、咳払いや「うっ、うっ」という言葉を発する音声チック症も見られました。緊張しやすい性格なのか、必要以上に肩が高く上がり身体にとても力が入っている雰囲気を感じました。


息子様には心身の緊張を取り除くために柴胡、芍薬、厚朴などから構成される漢方薬を服用して頂きました。そして、お母様には症状を注意したり怒ったりすることは控えるようにお願いしました。


漢方薬服用から4ヵ月が経った頃には大きく体を動かす頻度は減り、続いていた咳払いもあまり見られなくなっていました。この頃、お母様が「息子がまつ毛を抜いて食べてしまう癖がなくなった」とおっしゃられました。これら抜毛症や抜毛癖(ばつもうへき)と呼ばれるものは経験的にチック症と併発しやすいと感じています。


抜毛症が緩和してきたことも含め、心身の過緊張状態が解けてきたと考えて同じ漢方薬を継続して頂きました。そして、服用開始から10ヵ月が経過した頃には運動性チック症も音声チック症もきれいに消失していました。現在はまれにプレッシャーがかかる場面になるとまばたきが多くなるとのことで、同様の漢方薬を継続して服用して頂いています。


改善例2

患者は中学2年生の男児と30代後半のお母様。息子様のチック症で悩んでいたというお母様が息子様と一緒にご来局。症状としてはまばたきと首を左右に振る動きなどでしたが、それ以上に気になったのがお母様の状態でした。こちらが息子様に症状を伺うと、
その答えが返ってくる前にお母様がササッとご返答。


お母様いわく「中学校に進学して、友人との人間関係がうまくいかなかったのがチック症の原因だと思う」とのこと。それは冷静に語るというよりも強い焦燥感を帯びたものであり、息子様からはやや緊張している雰囲気を感じました。


この様子からお母様の指摘が正しい部分もあると思いましたが、今はお母様の姿自体もまたチック症の原因となってしまっている面があると感じられました。そこで、このケースでは息子様だけではなくお母様も一緒に気持ちを落ち着ける漢方薬を服用して頂くことにしました。


お母様にも漢方薬を勧めると、最初は怪訝な顔をされましたが「母子同服(ぼしどうふく)」という言葉があることを伝えて納得して頂きました。「母子同服」は子供の病気を治すために同じ漢方薬を母親にも飲んでもらうという意味であり、お母様の心配がお子様のプレッシャーとなっている場合などに適した治療法です。お母様自身のお話も伺ってゆくとイライラ感や気分の浮き沈みなどに悩んでいたとのこと。


それぞれ漢方薬を服用しはじめてから5ヵ月が過ぎた頃になると、お母様も気持ちが落ち着いてきたようで「ついつい、症状が出るたびに注意していましたが、今は静観することができるようになりました」とおっしゃられました。息子様の方はまだ、まばたきや身体の動きはあるものの、かなりの改善を感じられました。


これを良い傾向と捉えて、同じ漢方薬を継続して服用して頂くことにしました。漢方薬をはじめて1年が経った頃には息子様の症状の大半は鎮まり、漢方薬は無事にご卒業。逆にお母様が「この漢方薬を服用しているとイライラしなくなる」ということで、現在も継続して頂いています。


改善例3

患者は20代前半の男子大学院生。幼少期より首を動かしたり咳払いをするといったチック症がありましたが、年齢が上がるとともに症状も緩和。しばらくチック症のこと自体忘れていましたが研究室での閉塞した生活や就職活動の開始をきっかけにチック症が再発。


病院から抗不安薬が処方されるもふらつきと吐気が強くて服用できなかったとのこと。他の薬を試しても生活に支障が出てしまい服用を断念。何気なくネットでチック症に関する学術論文を閲覧していると漢方薬が有効という論文を見つけて服用を決意。その後、当薬局のホームページを見つけてご来局へ。


伺ったご症状の経過から精神的ストレスによって五臓における肝のはたらきが失調してしまったと考えました。そこでまずはストレスを緩和する柴胡、筋肉のはたらきを整える芍薬、気持ちを鎮める竜骨などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


服用から3ヵ月が経過した頃になると、身体を不規則に動かす場面が少なくなり、それからさらに数ヵ月経った頃には咳払いや時々みられた無意識の発声も見られなくなっていました。無事に電機メーカーに就職された現在でもストレス緩和と健康維持のためにうまく気を流しつつ補うことにも比重を置いた漢方薬を継続服用して頂いています。


改善例4

患者は小学2年生の女児。小さいころから2歳年下の妹とケンカが絶えず、癇癪(かんしゃく)を起こしてご両親を困らすことが多かった。くわえて小学校入学直後からまばたきと肩を上下させるチック症が現れ始めました。お母様は治療を行うべきか迷っているとき、行きつけの鍼灸院で漢方薬を勧められて当薬局へご来局。


娘様の身長と体重を確認すると、どちらの数値も年長さんくらいの水準でとても小柄。お母様曰く「偏食があり食も細くてあまり体力がない。でもいつもイライラして熱がっている」という。これらのご様子から娘様には腎の力を補い、適度に身体をクールダウンする漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬開始から3ヵ月が経ち、お母様のご様子を伺うと漢方薬は嫌がらずに服用できているとのこと。チック症は変化がないが、帰宅後に必ずしていた昼寝をしなくなり食欲が出てきたという。漢方薬はこれまでのものを減量し、代わりに心身をリラックスさせる漢方薬を追加しました。


新しい漢方薬になって2ヵ月が経過すると妹とおもちゃを取り合うこともなくなり、情緒が徐々に安定してきました。お母様も姉妹に注意する頻度が減ってとても助かるとおっしゃられていました。その後、イライラ感が薄れてくるのと比例して運動性チック症も見られなくなりました。


学年も3年生となり、だいぶ姉らしくなってきたとご両親も喜んでいました。漢方薬については服用しているとご本人が「調子が良い」ということで内容に調節を行いながらも継続されています。


おわりに


近年、チック症のご相談が非常に増えた印象があります。おそらく背景には西洋薬を服用させるのに抵抗を感じるご両親の気持ちがあるのではないでしょうか。漢方薬は穏やかではありますが、西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。さらに西洋薬のような目立った副作用の心配もありません。


当薬局では西洋薬を服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方がとても多くいらっしゃることから、チック症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、チック症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 書痙 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と書痙


当薬局では長年、書痙(しょけい)を治療する漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由としてはまず書痙や局所性ジストニア全般に対して有効な西洋医学的治療法が確立されていないことが挙げられます。その一方で当薬局で調合する心身の緊張感を緩和する漢方薬を用いて書痙や局所性ジストニアから回復された方がとても多くいらっしゃいます。


このページでは書痙と局所性ジストニアに対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


漢方相談の流れ…当薬局のご来局からアフターフォローについて


漢方薬の価格と種類…粉薬や煎じ薬の解説とそれぞれの価格について


アクセス…JR池袋駅から当薬局までの順路について


一二三堂薬局の漢方薬の安全性…漢方薬の残留農薬や放射性物質への対策について


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書痙とは


書痙(しょけい)とは筆記用具を持つ手が意識していないのに緊張し、うまく字などを書くことができなくなってしまう病気です。このような意識していない状態、つまり不随意(ふずいい)の状態で起こる筋肉の硬直をジストニアや不随意運動と呼びます。書痙は身体の一部分である手(指)において起こるジストニアなので局所性ジストニアのひとつといえます。


書痙の大きな特徴として、筋肉の緊張によって筆記に支障はきたすのですがそれ以外の動作は問題なく可能という点です。例としては箸を使って食事を摂る、キーボードやマウスを扱う、実験器具を使用して細かい作業を行うことなどは多くの場合において可能です。


書痙は局所性ジストニアの一種であると同時に職業性ジストニアの一種でもあります。職業性ジストニアとは特定の職業にまつわる動作に支障をきたしてしまうジストニアです。書痙のケースでは頻繁に文字を書く職業の方(教師、速記者、小説家、設計士、会計士など)や受験生の方が発症しやすい傾向にあります。


他の職業性ジストニアとしてはピアニスト、ギタリスト、バイオリニストの方などがそれらの楽器演奏だけできなくなってしまうフォーカルジストニア、ゴルファーの方がパッティングのみできなくなってしまうイップスが代表的です。本項目では書痙を中心にしつつ、他の局所性ジストニアにも対応できる形で解説を行ってゆきたいと思います。


書痙の原因


書痙の原因についてはまだ明確に解明されていません。しかし、脳内における筋肉の動きをコントロールする部分の不調によるものという説が濃厚です。さらに特定の神経伝達物質(アセチルコリン、ドパミン、セロトニンなど)のはたらきを調節する薬で症状が緩和することから、逆説的にそれらが書痙発症に関与している可能性が指摘されています。


書痙に限らず職業性ジストニアを患ってしまう方の特徴としては完璧主義、真面目、几帳面という点が挙げられます。したがって、体質以外にもストレスを真正面から受けてしまう性格などもジストニア発症の要因としばしば指摘されます。


書痙の症状


既に述べたとおり、書痙は手の筋肉の過緊張によって筆記のみに支障が出る病気です。しかしながら、書痙による症状がどのようなケースで現れるのかは個人差があります。具体的にはどんな時にも筆記障害が出てしまう方、特定の場面(試験や人目が気になるような場面での署名など)でのみ筆記障害が出てしまう方もいらっしゃいます。


書痙の症状自体にも個人差があります。書き出しが特にうまくゆかない方、徐々に緊張が高まってしまい書けなくなってしまう方、書けるが徐々に字が小さくなってしまう方などさまざまです。


書痙の西洋医学的治療法


書痙の治療は薬物療法が中心的に行われており、場合によっては心理療法も併用されます。薬物療法は筋肉の震え(専門的には「振戦(しんせん)」と呼びます)を抑えるアーテン(一般名:トリヘキシフェニジル)やアルマール(一般名:アロチノロール)、筋肉を弛緩させるテルネリン(一般名:チザニジン)やミオナール(一般名:エペリゾン)などが中心的に用いられます。


それ以外にも精神的ストレスによって症状が悪化する場合はパキシル(一般名:パロキセチン)、セルシン(一般名:ジアゼパム)、デパス(一般名:エチゾラム)、ワイパックス(一般名:ロラゼパム)などが用いられます。特にリボトリールやランドセン(ともに一般名:クルナゼパム)は抗不安作用にくわえて筋肉の緊張を緩めるはたらきも強いのでしばしば用いられます。


経口薬以外にも筋弛緩作用があるボツリヌス毒素を加工し、薬剤化したボトックスの注射も存在します。その他にも脳の手術といった外科的治療も試みられています。


このように多面的な治療が西洋医学においてなされますが、書痙に対して効果的な治療法が確立しているとはいえないのが現実です。その理由として書痙発症のメカニズムにおいてまだ不明な点が多いことが挙げられます。


書痙の漢方医学的解釈


書痙の症状は筋肉の動きがうまく制御できないことが根本にあります。漢方医学において筋肉の動きは肝(かん)がコントロールしていると考えます。漢方医学における肝は筋肉の動きだけではなく、眼のはたらきを維持したり、気持や感情を落ち着けるはたらきを担っています。


この肝のはたらきが何らかの原因で失調した場合は筋肉の動き、眼のはたらき、精神の安定化に問題が生じてしまいます。筋肉のはたらきの失調は書痙に代表される局所性ジストニアなどに繋がります。そして、気持ちの乱れはイライラ感、理由のない怒り、情緒不安定、ヒステリーなどを誘発します。


したがって、漢方医学的には肝に注目して書痙の治療を行うことになります。書痙の症状に肝の失調が関与していることは上記で説明したとおりでしたが、根本的になぜ肝が失調してしまったのかを考える必要があります。肝は多くの場合、精神的なストレスによってはたらきが低下してしまいます。したがって、精神的ストレスが多い場合はそれに対するケアも必要になります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた書痙の治療


上記で述べてきた理論のとおり、漢方薬を用いた書痙の治療は肝をいたわることが中心となります。肝の力が衰えるということは肝にためられていた血(けつ)が消耗するということであり、それを補うような治療が中心に据えられます(これを「肝血を補う」「柔肝(じゅうかん)する」と言います)。


血を補う生薬である補血薬(ほけつやく)としては地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。特に芍薬は筋肉をリラックスさせるはたらきも持っているので書痙治療の漢方薬にはしばしば含まれます。


さらに精神的ストレスを緩和することで肝血の消耗を抑える理気薬(りきやく)、具体的には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子なども用いられます。他にも筋肉の緊張や震えを鎮める釣藤鈎、気持ちを鎮める竜骨、牡蠣などの生薬も併用されることが多いです。


これら以外にも主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて臨機応変に漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


生活面での注意点と改善案


書痙は体質面の他に環境面の影響も受けることが知られている病気です。特に過度な精神的ストレスは心身ともに緊張感を高めてしまうので、書痙をはじめとするジストニアを患っている方は避けるべきです。しかしながら、日常生活を営む上で精神的なストレスを回避し続けるのは難しいでしょう。したがって、うまくストレスを解消する方法を取り入れる方が建設的かもしれません。


心身ともにストレスを解消するには軽運動が最適です。具体的にはウォーキングや軽い水泳などが良いでしょう。書痙の発症を「心の非常停止装置」がはたらいたと考え、可能な限り抱え込まなくてもよい仕事などには手を付けないようにするのが良いでしょう。心に余裕を持つことが一番の「薬」かもしれません。


経験的に書痙の回復期に入った方は「別に字が書けなくても、とても困ることは意外と少ない」「パソコンを使えば直筆でなくても大体のことがこなせる」「字が書けないのは不便だが、別に死ぬようなことはない」と思えるようになっている場合が多いです。書痙をひとつの契機と捉え、リラックスできるライフスタイルへの見直しを行って頂ければと思います。


書痙の改善例


患者は20代後半の男性・製薬会社勤務の研究職。就職後、数年が経った頃から手の震えと硬直により字を書くことが困難になってしまいました。より具体的には震えによって字がきれいに書けず、震えを消すために強く力を込めると今度は手の過緊張によって徐々に字が小さくなってしまう。


最初の頃は仕事の疲れがたまった結果と考え、休養を多めにとったり、整体や鍼治療も行いましたが症状は好転しませんでした。「手先を使うことが多い仕事なので、炎症でも起こっているのかと思っていた」とのこと。一方で手に痛みはなく、字を書くこと以外に実験器具やパソコンを操作することは問題なくできていました。


しかしながら、一向に改善の兆しがなかったので大学病院を受診し、そこで書痙と診断されました。病院では筋弛緩薬を服用しましたが効果はなく、抗不安薬は慢性的なめまいや眠気に悩まされた為、治療は中断。ボトックス注射も試しましたが大きな改善は感じられなかったとのこと。


当薬局にご来局されたときは病気への不安からか眠りの浅さ、そして強い肩凝りも発症されていました。ご来局時にはこれまでの症状の「歴史」をまとめた資料をご用意され、完璧主義・生真面目・責任感が強いといった一面が伺えました。これらのご症状や全体像から、柴胡を中心とした気の流れをスムーズにする生薬と、芍薬や葛根などの筋肉の緊張を和らげる生薬から構成される漢方薬を服用して頂きました。


服用後、波はあるものの段階的に筋肉の緊張がほぐれ、服用から1年が経つと「前よりジワジワと手の硬直が強くなることも減り、字を書くのが本当に楽になった」とのこと。現在、自覚症状は少々残るものの、筆記スピードは格段に上がり、字が小さくなってしまうことも少なくなっていました。「漢方薬を飲んでいると肩凝りも楽になり、睡眠も深くなった」ということで、今も健康維持も兼ねて漢方薬の服用を継続して頂いています。


おわりに


書痙を患ってしまうと今まで問題なく行えてきた「書く」という動作ができなくなり、非常に不便な生活を強いられてしまいます。くわえて非常にマイナーな病気であり、書くこと以外は普通に行える点が逆に周囲の理解を難しくしていると感じます。結果的に孤独感や疎外感を深めてしまう方もいらっしゃいます。


漢方薬は西洋薬とは異なった角度から書痙に対してアプローチするものです。当薬局では西洋薬を服用してもなかなか症状の改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから症状が徐々に好転する方がとても多くいらっしゃることから、書痙と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、書痙にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 痙攣性発声障害 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と痙攣性発声障害


当薬局では長年、痙攣性発声障害に代表されるジストニアに有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その主な理由としてはジストニア全般に対して有効な西洋医学的治療法が確立されていないことが挙げられます。その一方で心身の緊張を緩和する漢方薬は痙攣性発声障害に対して有効であることを経験的にも実績面からも感じています。


このページでは痙攣性発声障害に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。ご来局の際、発声が難しくご症状が伝えにくいような場合は事前に下記のお問い合わせフォームにご症状やご体質などをご記入ください。


漢方相談の流れ…当薬局のご来局からアフターフォローについて


漢方薬の価格と種類…粉薬や煎じ薬の解説とそれぞれの価格について


アクセス…JR池袋駅から当薬局までの順路について


一二三堂薬局の漢方薬の安全性…漢方薬の残留農薬や放射性物質への対策について


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痙攣性発声障害とは


痙攣性発声障害とは自分の意識とは無関係に声帯を動かしている筋肉が緊張してしまい、発声に異常が起こってしまう病気です。このような自分の意識に反して筋肉が硬直したり動いてしまう病気をジストニアと呼びます。したがって、痙攣性発声障害はジストニアのひとつに含まれます。しばしば、声帯筋という部分の筋肉に起こることから局所性ジストニアともいわれます。


言葉を出すことが困難となってしまう病気には失語症や失声症も存在します。失語症は脳梗塞や脳出血などによって脳の言語をつかさどる部分が損傷することによって起こります。さらに失声症は精神的なストレスやショックをきっかけに発声が困難となる病気であり、声帯などの発声器官に異常は見られません。


痙攣性発声障害においては脳の損傷は無い一方で、発声器官の声帯筋に硬直などの異常がみられることから上記のような失語症や失声症とは異なった病気といえます。


痙攣性発声障害の原因


痙攣性発声障害をはじめとするジストニア全般において、明確にその原因はわかっていません。しかし、筋肉などの運動を支配している大脳基底核と呼ばれる部分に問題が生じているという説が有力です。


痙攣性発声障害は明確な原因が不明な一方で声をよく出す仕事に就いている方や仕事などで過度なストレスを受けている方に多く発症することも知られています。上記を総合すると痙攣性発声障害は責任がある(プレッシャーがかかる)仕事を任されている方が、苦手なスピーチや訓示を人前で行うケースなどをきっかけに起こりやすいと想像できます。


痙攣性発声障害の症状


痙攣性発声障害は大きく内転型と外転型の2種類に分けられます。発声困難の内容も内転型と外転型で異なります。その一方で痙攣性発声障害において両者を明確に分けられるものではなく、しばしば内転型と外転型が混じり合った病態もみられます。


内転型の痙攣性発声障害

発声の際に声帯が内側に閉じようとしてしまう病態です。内転型の声質はなんとか頑張って声を出しているような、緊張しているような状態となります。痙攣性発声障害においてはこの内転型を患っている方が比較的多いとされています。


外転型の痙攣性発声障害

発声の際に声帯が開いてしまう病態です。外転型の声質はかすれてしまったり、発声自体が中断されたりします。息が漏れている音が聴き取れるのが外転型の特徴といえます。外転型は内転型よりも手術やボトックスによる治療が効きにくいという報告があります。


痙攣性発声障害の西洋医学的治療法


痙攣性発声障害に対する西洋医学的治療法はまだ確立されていません。しばしば用いられる治療法としてはボツリヌス毒素を加工して薬剤化したボトックスの注射剤が挙げられます。それ以外にも声帯を囲んでいる軟骨を左右に広げる外科的手術も行われています。


痙攣性発声障害の漢方医学的解釈


痙攣性発声障害の症状は声帯を支配している筋肉の動きがうまく制御できないことが根本にあります。漢方医学において筋肉の動きは肝(かん)がコントロールしていると考えます。漢方医学における肝は筋肉の動きだけではなく、眼の働きを維持したり、気持や感情を落ち着ける働きを担っています。


この肝の働きが何らかの原因で失調した場合は筋肉の動き、眼の働き、そして精神の安定化に問題が生じてしまいます。筋肉の働きの失調は痙攣性発声障害に代表されるジストニアに繋がります。気持ちの乱れはイライラ感、理由のない怒り、情緒不安定、ヒステリーなどを誘発します。


したがって、漢方医学的には肝に注目して痙攣性発声障害の治療を行うことになります。痙攣性発声障害の症状に肝の失調が関与していることは上記で説明したとおりでしたが、根本的になぜ肝が失調してしまったのかを考える必要があります。肝は多くの場合、精神的なストレスによって働きが低下してしまいます。したがって、精神的ストレスが多い場合はそれに対するケアも必要になります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた痙攣性発声障害の治療


上記で述べてきた理論のとおり、漢方薬を用いた痙攣性発声障害の治療は肝をいたわることが中心となります。肝の力が衰えるということは肝にためられていた血(けつ)が消耗するということであり、それを補うような治療が中心に据えられます。(これを「肝血を補う」「柔肝(じゅうかん)する」と言います)


血を補う補血薬(ほけつやく)としては地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。特に芍薬は筋肉をリラックスさせる働きも持っているので痙攣性発声障害の漢方薬にはしばしば含まれます。血を補う力はありませんが葛根は肩から首の筋肉をリラックスさせる働きに優れているので痙攣性発声障害とそれに伴う首肩のつらい凝りの治療に適しています。


さらに精神的ストレスを緩和することで肝血の消耗を抑える理気薬(りきやく)、具体的には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子なども用いられます。他にも筋肉の緊張や震えを鎮める釣藤鈎、気持ちの乱れを鎮める竜骨、牡蠣などの生薬も併用されることが多いです。


これら以外にも主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて臨機応変に漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


痙攣性発声障害の改善例


改善例1

患者は40代前半の男性・会社経営者。ロゴのデザインなどを製作する会社を経営しており、普段から大勢の前で話す機会が多かった。そのような生活のなかで、数年前から声が出し難くなるのを感じていました。時期的に会社の一部門の業績が悪化し、人員整理などのストレスの溜まる仕事も多く重なり忙殺されるように。声が出にくくなったのも最初の頃は社員との面談や商談などで喉が疲れてしまったのかなと考えていたとのこと。


しかし、症状は徐々に悪化して話の途中からだんだんと声が出なくなってしまいました。話の最後の方は言葉のすべてに濁音が付いたような声質に。喉に痛みも無かったので、不審に思い病院を受診するも病名は分かりませんでした。その後、大学時代の友人の医師から「痙攣性発声障害」という病気の存在を指摘され、遠方の関西にある専門病院を受診。そこで初めて痙攣性発声障害と診断されました。


その病院では発声訓練などを受けるも症状は緩和せず、最終的に手術を受けましたが完治には至りませんでした。最悪の時期と比べると症状は3/5程度、少し良くなったくらいとのこと。仕事柄、人と話すことも多いので悩んでいたところ奥様から漢方薬を薦められて当薬局へご来局。


詳しくお話を伺うと、ピークは過ぎたが本業のデザインだけではなくスタッフの新規採用やその教育など多岐にわたる仕事のストレスは依然として強いとのこと。お話を伺っている途中も何とか声を絞り出している、痙攣性発声障害特有の症状が聞き取れました。この方にはまず心身の緊張を緩和させるために柴胡、芍薬、厚朴、釣藤鈎などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬服用から5ヵ月が経過する頃、風邪の治りかけのようなハスキーさは残っていましたがだいぶ聴き取りやすい声質に変わっていました。ご本人は声の変化にくわえてイライラ感や肩凝りが緩和されたことに喜ばれていました。しかし、これから難しい仕事で忙しくなりそうだということで気分を安定させるはたらきにより優れている牡蠣、竜骨、柴胡を含む漢方薬に変更しました。


新しい漢方薬に変更してから6ヵ月が経った頃には途中から声が沈んでしまうことは無くなり、痙攣性発声障害のことを知らなければわからないくらいの声になっていました。スピーチをする時もまだ苦手意識はあるものの、特に誰からも訝(いぶか)しがられることも無くなったとのこと。この方は痙攣性発声障害の予防と服用中は寝つきも良かったということで同じ漢方薬を継続して服用して頂いています。


改善例2

患者は30代後半の男性・私鉄勤務の車掌。数年前から車掌としてはたらいているが、アナウンスの仕方を上司より注意されることが続く時期があった。仕事上、覚えることもたくさんありストレスを抱え込むことが常態化。徐々に声が出しづらくなることを自覚するようになりました。


仕事へ支障が出ることを心配されましたが、志願して車掌になったので内勤への転属も言い出し難いと悩んでいたとのこと。その一方、声の不調は仕事中だけで起こり、プライベートで困ることはありませんでした。最初の頃は時間とともに回復するだろうと思っていましたが、仕事が慣れてきても声の出しにくい状態だけは続いてしまいました。ご本人曰く「喉にポリープでもできたのかと思って怖くなり、病院を受診した」とのこと。


受診した消化器内科でポリープなどの異常は発見されませんでしたが、そこから紹介された耳鼻咽喉科で痙攣性発声障害と診断されました。同科でボトックス注射を行うと声は出しやすくなりましたが、強い違和感が残り半年ほどで治療は中止。筋肉を弛緩させる内服薬を使用しても効果は得られず、病院での治療自体を休止。当薬局へは病院の治療を休む間に何かしたいと考えてご来局。


お話を伺うと、最初は声が出ているのに徐々に声(音)が息だけになってしまうようなご症状でした。ご本人も「少し長いセリフを言うときは、何とか振り絞って声を出している状態」とのこと。痙攣性発声障害の他には緊張すると腹痛や便意が高まる過敏性腸症候群の持病もあり、乗車中はトイレに行けないので心配とのこと。「緊張すると声はうまく出ない上に、便は出そうになって困る」と自嘲気味に語られていました。


この方には気の巡りを改善して精神的にリラックスできるようにする柴胡や薄荷、筋肉の緊張を緩和する芍薬、水分の代謝を改善して下痢を改善する白朮や茯苓などから構成される漢方薬を調合しました。


漢方薬を服用して2ヵ月で過敏性腸症候群による便通トラブルは大きく改善し、緊張が高まっても腹部がシクシクと痛み出すことはほぼ無くなりました。一方で声に変化はないということですが、良い流れと考えて同じ漢方薬を調合しました。ご本人もお腹の調子が良いだけでストレスは半減するとおっしゃられていたので、現状を維持しました。


そして漢方薬を服用して半年強が過ぎると、勤務中でも声を出し続けられる時間が伸びてきたとのこと。過敏性腸症候群が改善し、ストレスが減ったことで良いサイクルに入れたと感じました。一方で声の症状が少し変わり、喉に圧迫感があり咳払いが多くなったとのこと。そこで気の巡りにくわえて鎮咳作用もある半夏が含まれている漢方薬に変更。


新しい漢方薬に変更後も心配していた腹痛や下痢の再発はなく、喉のつまり感はほぼ消失しました。主訴であった声の状態も一歩一歩、着実に改善してきました。その後、ご本人のご希望で以前の漢方薬へ再度変更して継続服用へ。痙攣性発声障害によって車掌としての仕事に支障が出てしまうことはなくなりました。


おわりに


痙攣性発声障害は決して「知名度」が高い病気ではなく、医療従事者の間でもあまり知られていない病気といえるでしょう。したがって、なかなか周囲の人に病気のことを理解してもらえず、他の病気以上に人知れず悩んでいる方が多い印象です。


漢方薬はボトックスのような西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、痙攣性発声障害による症状が少しずつとれてくることから、痙攣性発声障害と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、痙攣性発声障害にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 円形脱毛症 】と漢方薬による治療

円形脱毛症とは


円形脱毛症はその名の通り、頭髪が円形に脱毛してしまう病気であり脱毛症においてもっとも頻度が高い病気です。痒みや痛みといった脱毛以外の症状はなく、脱毛の現れ方には好不調の波があるケースが多いです。


円形脱毛症の発症頻度は約1%程度で、男女比に大きな偏りはありません。一方で円形脱毛症はより若年層に多い病気であり、子供でもしばしばみられます。これは一般的な加齢による薄毛と大きく異なる点といえます。


円形脱毛所の症状


円形脱毛症の症状の現れ方はいくつかのタイプに分けられます。最も一般的な単発型は硬貨くらいの大きさの円形脱毛症が単独で現れます。そして多発型は脱毛部が複数個、同時に現れるケースです。複数の脱毛部が重なり合いより大きな脱毛に至ることもあります。円形ではなくいびつに脱毛が起こる蛇行型も存在します。


円形脱毛症からは脱線してしまいますが、頭髪がすべて抜け落ちてしまう全頭脱毛症や、頭髪だけではなく眉毛、まつ毛、腋毛、陰毛などの体毛も抜け落ちてしまう汎発型脱毛症(はんぱつがただつもうしょう)も存在します。ちなみに「汎発」とは「全身に起こる」という意味です。


円形脱毛症の原因


円形脱毛症の原因は明確には解明されてはいませんが、自己免疫疾患説が有力です。つまり、免疫細胞が頭髪を作り出す細胞を誤って攻撃してしまうことで脱毛が起こってしまうという説です。


そして、円形脱毛症はアトピー性皮膚炎などの他のアレルギー疾患や自己免疫疾患と一緒に起こりやすいことも知られています。しばしば、円形脱毛症の原因としてストレスが疑われますが、ストレスはあくまでも円形脱毛症を「起こりやすくする一因」と現在では考えられています。


円形脱毛症の西洋医学的治療法


西洋医学的には主に外用のステロイド薬やステロイド薬の注射が行われます。それ以外にも血行促進作用のあるフロジン(一般名:カルプロニウム)の塗付、やはり血行改善作用のあるセファランチン(一般名も同じ)の服用、抗炎症作用を持つグリチロン(一般名:グリチルリチン)の服用などがしばしば検討されます。


それ以外にも液体窒素やドライアイス、特殊な薬品を用いて人工的にかぶれを起こすなどして発毛を担う細胞を刺激したり、特殊な紫外線を当てて免疫反応の異常を抑制するといった治療法が行われます。


円形脱毛症の漢方医学的解釈


漢方医学において髪は血(けつ)の余り、血余(けつよ)と捉えています。つまり、生命活動を維持するための栄養素である血が充実し、その一部が毛髪に生まれ変わるというものです。したがって、円形脱毛症、全頭脱毛症や汎発型脱毛症は血の不足によって起こると捉えます。


血が不足した状態である血虚(けっきょ)に陥ってしまう原因はいくつか考えられます。過労による疲労の蓄積、慢性疾患、精神的ストレス、出血、さらには血や気の滞り、気の不足などが血虚の代表的な原因です。実際に円形脱毛症を起こすケースではこれらの原因が複雑に絡み合っていると考えられます。


ちなみに円形脱毛症と併発しやすいアトピー性皮膚炎も、多くの場合は血虚によって血が充分に肌を栄養できなくなり起こると考えます。したがって、円形脱毛症の治療とアトピー性皮膚の治療は並行的に行われることも多いです。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた円形脱毛症の治療


漢方医学の視点から考えられる円形脱毛症の原因は主に血虚にありました。したがって、円形脱毛症の治療も血を補い、血虚を解消することが中心となります。血を補う生薬である補血薬には地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。これら補血薬は円形脱毛症を治療する漢方薬の核となります。


血虚を改善することは円形脱毛症治療において極めて重要ですが、どうして血虚に陥ってしまったのかを知ることも大切です。特に血は気からつくられるので慢性的な食欲不振や生まれながらの食の細さによって、食べ物から充分な気がつくれない状態は大きな問題となります。


上記のような消化器系のトラブルにくわえて身体の重だるさ、気力の低下、冷え性(冷え症)、動悸や息切れといった気虚(ききょ)が疑われる場合、血とともに気を補うことが不可欠です。気を補う生薬である補気薬には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが含まれます。


気を補う以外にも気の流れが悪ければ気血がもつ栄養作用を充分に発揮することができません。円形脱毛症を患うことは多大なストレスとなります。そして精神的ストレスは気の流れを顕著に悪くしてしまうので柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの気の流れをスムーズにする生薬も必要となってくるでしょう。このように円形脱毛症の治療はただ血を補うのではなく、血が不足した原因を含めて幅広く対応することが求められます。


円形脱毛症の改善例


30代後半の男性・大学職員。1年ほど前から抜け毛が多くなっていることには気付いていましたが、散髪に行った際に後頭部に500円ほどの大きさの脱毛部を指摘され、その存在に気付いたという。心配になり近所の皮膚科のある病院を受診して円形脱毛症と診断され、外用のステロイド薬とフロジン液を処方されました。しかしながら、それらを服用しても大きな効果は得られず「ネットで買った育毛薬も効かず、やはり身体の内側からも治さないとダメと考えて」当薬局へご来局。


お話を伺うと3年前から現在の職場へ移り、閉鎖的な仕事の仕方に精神的なストレスを強く感じていたという。担当していた広報の仕事は先方の都合で勤務時間が長くなることも多く、ご本人はそれらが円形脱毛症の原因と考えられていました。


さらに円形脱毛症にくわえて体力の低下や疲労感、食欲不振を強く訴えられてもいました。ご本人曰く「学生時代よりも抜け毛の量が増えただけでなく、一本一本が細くなってきた気がする」とのこと。漢方医学的に髪は血の生まれ変わりと考えるので、この方は徐々に血が不足している血虚の状態に陥ってしまったと考えました。


血虚以外にも食欲不振からくる気の不足もあると考え、この方にはまずストレスを緩和する柴胡、血を補う当帰、気を補う人参や黄耆などから構成される漢方薬を服用して頂きました。柴胡にはストレスを緩和するだけではなく免疫調節作用も報告されているので、自己免疫疾患である円形脱毛症治療に用いてしばしば良い結果が出ていました。


漢方薬服用から5ヵ月ほどが経過した段階で、食欲も増して疲労感はだいぶ軽減されていました。お話を伺っていても以前と比べて声に張りと生気を感じました。円形の脱毛部は依然として残っていましたが、抜け毛の量は低下して脱毛部がやや縮小したと喜ばれていました。これらを受けて同様の漢方薬で良いと判断し、根気強く継続の服用をお願いしました。


そして服用から合計で1年半が経った頃には脱毛はきれいに消失していました。この頃には職場にもだいぶ慣れて、精神的なストレスが軽減されていたことも改善に貢献したと感じました。この方は現在も体力の底上げと円形脱毛症の予防も兼ねて同じ漢方薬を継続して服用されています。


おわりに


円形脱毛症に代表される脱毛症全般は痛みや自覚的な機能の低下をともなうものではありません。その一方で美容(外見)の問題は自己肯定感を低下させ、物事への積極性をも削いでしまう可能性があります。それらがストレスとなり、円形脱毛症以外の心身症状を引き起こしているケースも目立ちます。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬やサプリメントを使用してもなかなか症状の改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、徐々に改善されることから脱毛症全般と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、円形脱毛症などの脱毛症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 抜毛症(抜毛癖) 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と抜毛症(抜毛癖)


当薬局では長年、抜毛症(ばつもうしょう)に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつは抜毛症はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬は抜毛症の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページでは抜毛症(抜毛癖)に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


漢方相談の流れ…当薬局のご来局からアフターフォローについて


漢方薬の価格と種類…粉薬や煎じ薬の解説とそれぞれの価格について


アクセス…JR池袋駅から当薬局までの順路について


一二三堂薬局の漢方薬の安全性…漢方薬の残留農薬や放射性物質への対策について


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抜毛症(抜毛癖)とは


抜毛症は自分自身で毛を抜いてしまう病気です。円形脱毛症に代表される脱毛症のように、毛が「抜けてしまう」のではなく「抜いてしまう」のが抜毛症の特徴といえます。毛を抜いてしまうという行為は意識的な場合もあれば無意識の場合もあります。しかし、どちらのケースでも毛を抜くという行為を自制できないという点では共通しています。


抜毛症はしばしば抜毛癖やトリコチロマニア(Trichotillomania)とも呼ばれますが同義として扱われています。特定の行為を自制できないという病態から抜毛症は強迫神経症(または強迫性障害)の一種と考えられます。


抜毛症(抜毛癖)の原因


抜毛症の根本的な原因はわかっていません。しかし、欲求不満や精神的なストレスが抜毛症を起こす要因になっていると考えられています。しばしばチック症や手の爪、皮膚を噛む癖と併発することが知られており、お子様に多い病気という傾向があります。この点から思春期の不安定な精神状態が抜毛症の根底にあると示唆されています。


抜毛症(抜毛癖)の症状


抜毛症は自ら毛を抜いてしまう病気でした。抜いてしまう毛は頭髪だけではなく、眉毛、まつ毛、鼻毛、腋毛や陰毛におよぶこともあります。抜毛症の「患部」である抜毛される部分は利き手側に偏りやすいという傾向があります。


抜毛が鼻毛のようにわかりにくい部分に集中すると、抜毛症に誰も気付かないというケースもあります。抜毛症の他に異食症の一種である食毛症も併発している場合、抜かれた毛が残らないので症状の発見が遅くなりがちです。


考え方によっては鼻毛の抜毛などは外見的に目立つこともないので、問題はないとも捉えられます。その一方で抜毛という行為がストレスに晒された結果として現れているなら、放置することはできません。


頭髪のような目立つ部分において抜毛症が慢性化すると、社会生活が送りにくくなってしまうという点も軽視できません。抜毛症が原因で不登校や引きこもりがちになってしまうことも二次的な抜毛症の「症状」といえるでしょう。


抜毛症(抜毛癖)の西洋医学的治療法


抜毛症は第三者に指摘されれば症状が治まるケースもありますが、それでも症状が出る場合は心療内科領域の病気として治療が行われます。強迫神経症(強迫性障害)としての抜毛症治療には主に抗不安薬や抗うつ薬、薬物療法以外には認知行動療法などのカウンセリングが行われます。


抜毛症(抜毛癖)の漢方医学的解釈


抜毛症の根本に精神的なストレスが深く関わっていると考えられる場合、漢方医学において感情や精神の安定化を担っている肝(かん)に注目します。漢方医学の理論における肝は気持ちを落ち着けるだけではなく、筋肉の動きや眼のはたらきを維持するという役目を担っています。この肝のはたらきが失調した場合は精神不安、筋肉の過剰な緊張、眼精疲労やドライアイなどが起こってしまいます。


肝はとてもデリケートな臓であり、精神的ストレスに弱いといわれています。したがって、プレッシャーなどで肝のはたらきが悪くなってしまうと抜毛症のような精神不安によって起こりやすい病気が多発するようになります。しばしば、抜毛症がチック症と併発しやすいのは「肝のはたらきの失調」という点で両者が共通しているからといえます。


さらに肝以外にも、肝と関連深い腎(じん)への配慮も必要な場合があります。腎は成長や生殖などを司る精(せい)を蓄えています。肝腎同源(かんじんどうげん)といって、肝が失調すると腎のはたらきも弱まり、逆に腎の精が少なかったりすると肝のはたらきも弱まってしまいます。


精は成長に欠かせないものであり、成長障害、学習障害、低身長や低体重などの精不足と考えられる症状が抜毛症と一緒にあるようならば、漢方薬を用いてそれらに対する治療も行われます。


抜毛症に肝の失調が関与していることは上記で説明したとおりでしたが、根本的になぜ肝が失調してしまったのかを考える必要があります。肝は多くの場合、精神的なストレスによってその力が低下してしまいます。


したがって、まずは周囲に精神的ストレスがないかを考える必要があります。経験的に抜毛症を誘発するストレスとしてハードな受験勉強、学校のクラス替えに伴う環境の変化、家庭環境の変化などが多いと感じます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた抜毛症(抜毛癖)の治療


上記で述べてきた理論のとおり、漢方薬を用いた抜毛症の治療は肝をいたわり、その機能を回復させることが中心となります。肝の力が衰えるということは肝にためられていた血(けつ)が消耗するということであり、それを補うような治療が中心に据えられます。


血を補う生薬である補血薬(ほけつやく)としては地黄、当帰、芍薬、何首烏、酸棗仁、竜眼肉などが代表的です。さらに漢方医学において髪に代表される「毛」は「血の余りから生まれる」と考えるので、抜毛してしまった後の発毛を促進するという意味でも補血薬を含んだ漢方薬は抜毛症の核となります。


抜毛症が精神的ストレスによって引き起こされている場合、それを緩和することは大切です。ストレスをやわらげて、肝血の消耗を抑える理気薬(りきやく)の柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子なども抜毛症治療には不可欠です。成長や発育を促進する場合は腎の精を補う補腎薬(ほじんやく)である鹿茸なども漢方薬を構築する上で重要視されます。


これら以外にも「毛を抜いてしまう」という症状以外の主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


抜毛症(抜毛癖)の改善例


患者は小学5年生の女児。小学4年生の時にお母様が娘様のまつ毛が無くなっているのに気付き抜毛症が発見されました。本人に注意しても止められず、徐々に症状が頭頂部にも出るようになってしまいました。症状は塾に行っている時に多く、しばしばテキストにまつ毛や毛髪が挟まっているという。


お母様が心配して小児心療内科を受診し、カウンセリングを受けるも症状は改善できませんでした。西洋薬の服薬については病院も無理には勧めず、ご家族も抵抗感があったということで保留。当薬局へはお母様がネットで抜毛症に有効な漢方薬があると知り、ご家族でご来局。


ご本人からお話を伺うと「止めようと何度も思っているけれど、止められない」とのこと。表情はとても明るく、特に憂うつ感などはない。一方でお母様曰く「イライラ感が強いのか、少し注意をするとそこから口げんかになってしまう」ということでした。


抜毛症にくわえて爪を剥いてしまう癖もあることがお話の中でわかりました。抜毛症以外の病気や目立つ体質はありませんでしたが、中学校受験対策の塾がタイトなスケジュールで、やや疲労感と食欲の低下がみられました。


まず漢方薬は精神的なストレスを緩和する柴胡を中心に、気持ちの高ぶりを鎮める牡蠣を含んだ漢方薬を服用して頂きました。お母様も塾の点は気になっていたとのことで、追加で受けていた補習は停止することに。


漢方薬服用から3ヵ月が経つ頃には噛まれて深爪になっていた手先がきれいになっていました。しかし、抜毛はまだ止められないということで柴胡、竜骨、芍薬などから構成される漢方薬へ変更。変更からまた3ヵ月が経過すると徐々に頭部の抜毛行為は減り、抜毛部はほぼわからなくなっていました。


抜毛症が少し落ち着いてきた反面、疲労感が抜けていない印象だったので気を補う人参や血を補う当帰を含んだ漢方薬を併用して頂きました。それから数ヵ月後には抜毛症は完全に治まり、まつ毛も生え揃っていました。


疲労感も食欲の向上と歩調を合わせて好転し、心身ともに余裕が出てきた印象。お母様も娘様のイライラ感が緩和され、ケンカをする回数も減ったとおっしゃっていました。塾生活はまだ続くということもありましたので、娘様には微調節を行いつつ漢方薬を継続して頂いています。


おわりに


抜毛症は主に精神的ストレスによって発症するといわれています。前頭部や眉毛など目立つ部分に抜毛が行われると、徐々に社会や他者との接点を持ちにくくなり二次的なストレスを生む悪循環になりがちです。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では抗不安薬などを使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、抜毛症の症状が少しずつとれてくることから、抜毛症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、抜毛症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 マタニティブルー(産後うつ病) 】と漢方薬による治療

マタニティブルー(産後うつ病)とは


マタニティブルーは産後に起こる気分の変調を中心とした諸症状を指し、ほぼ「産後うつ病」「産後精神病」「産褥精神病」「育児ノイローゼ」などと同義に扱われます。マタニティブルーが起こる明確な原因は明らかにされていませんが、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの急激な減少が一因であるという説が有力です。


出産後の女性ホルモンの減少は誰にでも起こるものであり、マタニティブルーもまた誰にでも起こりえるといえます。マタニティブルーの症状は悲しみ、みじめさ、無気力、絶望感、孤独感、不安感、イライラ感、過度な緊張などのネガティブな精神症状を中心とします。それ以外にも強い疲労感、重だるさ、食欲不振、不眠症、集中力の低下、性欲の低下のように多彩な症状が現れます。


マタニティブルー(産後うつ病)の西洋医学的治療法


マタニティブルーの治療法は通常のうつ病などと大きく変わりません。主には抗うつ薬やカウンセリングを中心としたものになります。しかしながら、授乳中の場合は使用できる薬に制限がかかる可能性があります。


マタニティブルー(産後うつ病)の漢方医学的解釈


出産という「大仕事」を成し遂げた身体は疲労困憊しています。
これを漢方の視点からみると気と血が大きく失われた状態といえます。このような状態を気血両虚と呼びます。
気が不足すると疲労感、食欲不振、重だるさ、動悸、息切れ、ふらつきなどの症状が現れます。イメージとしては「元気が無い」状態といえるでしょう。


さらに血が不足すると不安感や不眠といった精神症状に加えてめまいや立ちくらみ、頭のふらつき、動悸、息切れ、ドライアイや眼精疲労、筋肉のけいれん、生理不順などの症状が現れます。これら気血両虚の状態はほぼマタニティブルーの諸症状を網羅しているといえるでしょう。


出産に伴う気血両虚もまた西洋医学的な解釈(女性ホルモンの減少)と同様に誰にでも起こりえるものです。その中でも元来、気や血が不足傾向の方は出産によって気血両虚が深刻化してマタニティブルーに陥りやすいと考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたマタニティブルー(産後うつ病)の治療


マタニティブルーが気と血の不足である場合、治療の柱は気と血を補う漢方薬の使用となります。気を補う生薬(補気薬)には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。血を補う生薬(補血薬)には地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが代表的です。したがって、気血両虚と判断できるマタニティブルーにはこれらの生薬から構成される漢方薬が有効といえるでしょう。


しかし、実際にはそれだけではなく慣れない育児によって精神的なストレスは気の流れを悪くしてしまいます。気の滞りは精神不安を引き起こすので滞っている気の流れをスムーズにする必要もあります。気の流れを円滑にする生薬(理気薬)としては柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが有名です。


マタニティブルー(産後うつ病)の改善例


患者は30代後半の専業主婦。不妊症治療(顕微受精)の末に念願のお子さんを授かりましたが、赤ちゃんの夜泣きや体重があまり増えないことなどに悩み抑うつ傾向に陥ってしまいました。詳しくご症状を伺うと気力の低下や不安感、不眠傾向も強く訴えられました。東京へは夫の転勤ではじめて来たため相談できる友人もいないので辛いとのこと。


この方は気持ちの落ち込みが顕著だったのでまず気の流れを改善する生薬(理気薬)である柴胡、半夏、厚朴、香附子などを含む漢方薬を中心に服用して頂きました。それに加えて地域の育児施設を利用して友人をつくることも併せて提案しました。


漢方薬を服用して3ヵ月が経った頃にはだいぶ気分も晴れてきたとのこと。育児施設でも少しずつ顔見知りの方も増えてきたご様子。この頃になると赤ちゃんもハイハイをするようになり、イタズラも多くなるので非常に疲れるという。そこで気を補う生薬(補気薬)である人参、黄耆、大棗、白朮などを加えた漢方薬に変更しました。


それから数ヵ月後には気持も楽になり、夜泣きのとき以外はよく眠れるので体力的にも余裕が出てきたとのこと。ご一緒にいらした赤ちゃんも小柄ではありましたが、お顔はぷっくりとして元気に食事も摂って成長中。現在もたまにため息が多くなることがあるということで、気の流れを改善する漢方薬を継続して服用して頂いています。


おわりに


マタニティブルーは非常に「今日的な病」といえるでしょう。様々なメディアで産後うつ病の患者数が増加しているというニュースを見聞きします。核家族化が進んだ結果、周囲に子育ての相談ができる両親や親族がいないという状況では誰でも大きなプレッシャーとストレスを受けることは想像に難くありません。


第一子の子育てとなれば夜泣きや授乳、ミルクや食事の準備にオムツ替えと何もかもが初体験のオンパレードです。あまりの環境の激変におかしくならないという方がおかしい(?)とさえ思えてきます。したがって、ストレスをコントロールする意味でも頑張りすぎないことがとても大切です。「60点なら大成功。40点で合格点」という気持ちで100点満点を目指さない子育てをお勧めしたいと思います。


私が住んでいる東京都豊島区は保健師さんの定期訪問や区民ひろばといった親子で利用できるサービスがいくつかあります。意外と内容も充実しており、積極的に利用することで他のお母さんから情報が得られたり悩みを相談することもできるようです。決して一人だけで悩まず、安心できる「居場所」を探してみてください。


当薬局にはマタニティブルーの症状が漢方薬の服用によって精神面と体力面の両方とも好転する方がとても多くいらっしゃいます。マタニティブルーにお困りの方は是非一度、当薬局にご来局ください。

【 イップス 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局とイップス


当薬局では長年、イップスに有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その主な理由としてはイップスをはじめとするジストニア全般に対して有効な西洋医学的治療法が確立されていないことが挙げられます。それ以前にイップスは「病気」と認識されず、本格的な治療法の開発が行われていないというのが現状です。


その一方で心身の緊張感を緩和する漢方薬はイップスに対して有効であることを経験的にも実績面からも知っています。このページではイップスに対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


漢方相談の流れ…当薬局のご来局からアフターフォローについて


漢方薬の価格と種類…粉薬や煎じ薬の解説とそれぞれの価格について


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一二三堂薬局の漢方薬の安全性…漢方薬の残留農薬や放射性物質への対策について


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イップスとは


イップス(Yips)とは精神集中が必要なゴルフのパッティングの際などに起こる、緊張やプレッシャーからくるふるえを指します。スコットランド出身のプロゴルファーであるトミー・アーマーが最初に呼称しはじめたといわれているように、基本的には「ゴルフ用語」とされています。しかし、上記の定義において「ゴルフのパッティングの際など」と表現するように、現在ではゴルフに限らず多くのスポーツに用いられる言葉となっています。


イップスは筋肉が意識していないのに緊張してしまう病気であるジストニアの一種といえます。その中でもイップスはプロゴルファーにとってのスイングのように職業柄の特殊な動きに限ってジストニアの症状が出てしまう職業性ジストニアといえます。


他の職業性ジストニアには速記者や学生など「書く」ことの多い方に発症しやすい書痙、ピアニストやバイオリニストがその楽器のみ演奏できなくなってしまうフォーカルジストニアなどが挙げられます。


イップスの原因


現在、どうしてイップスが起こってしまうのか明確に解明はされていません。しかしながら、イップスが発症する原因として精神的ストレス(失敗してしまったプレーの記憶、過剰なプレッシャー、フォームの変更など)が関与していることから、それらが脳や特定の神経に悪影響を及ぼしていると考えられています。


イップスの症状


イップスは元来、過剰な筋肉の緊張によってパッティングが円滑にできなくなってしまう症状を指していました。その後、アプローチ、ドライバーショット、バンカーショットなどにも同様の症状が起こることからパッティングに限らず幅広く用いられる「ゴルフ用語」となりました。


さらにイップスはゴルフという一競技の枠を飛び出し野球、テニス、卓球、弓道、アーチェリー、射撃、ダーツなどの競技にも用いられる「スポーツ用語」となっています。したがって、イップスは今日的には「特定のプレーのみが筋肉の過剰な緊張によってできなくなってしまう病気」といえるでしょう。


具体的には野球の場合は送球、フライのキャッチ、バントなどのプレーのみができないという症例が挙げられます。弓道やアーチェリーでは弦を引けない、または弦を離せないといった症例が見られます。例外はありますがイップスは腕や手を使った精密さが要求されるプレーに起こりやすいといわれています。


下記で詳しくご紹介しますが、当薬局にはゴールキーパー(サッカー)の方がゴールキックのみ行えないということでいらっしゃったことがあります。この症例などから、やや極論になってしまいますがイップスは競技の数だけ、さらにはプレー動作の数だけ存在するといえるでしょう。上記で挙げた野球や弓道などは特にイップスが起こりやすい競技でしたが、これ以外の競技でもイップスは起こりえるのです。


イップスの西洋医学的治療法


イップスはその原因が明確に解明されていないことなどから、確実な西洋医学的治療法やトレーニングによる克服法はまだ確立されていません。しかしながら、一般的なジストニア治療のように筋弛緩薬や抗不安薬が主に用いられます。薬物療法以外にも認知行動療法のようなカウンセリングも行われるケースもあります。


イップスの漢方医学的解釈


イップスの症状は筋肉の動きが制御できないことが根本にあります。漢方医学において筋肉の動きは肝(かん)がコントロールしていると考えます。漢方医学の理論における肝は筋肉の動きだけではなく、眼のはたらきを維持したり、精神や感情を安定化させるはたらきを担っています。この肝のはたらきが何らかの原因で失調した場合は筋肉の動き、眼のはたらき、気持ちの乱れなどが起こってしまいます。


肝が機能しなくなってしまうことでプレーに関係する筋肉のはたらきも失調し、イップスに繋がることがわかります。さらに気持ちの乱れはイライラ感、理由のない怒り、情緒不安定、ヒステリーなどを誘発し、イップスがより顕著化するという悪循環に陥りがちです。したがって、漢方医学的には肝に注目してイップスの治療を行うことになります。


イップスの症状に肝の失調が関与していることは上記で説明したとおりでしたが、根本的になぜ肝が失調してしまったのかを考える必要があります。肝は多くの場合、精神的なストレスによってその力が低下してしまいます。したがって、まずは過剰な精神的なストレスがないかを考える必要があります。経験的にはイップス克服のために過度な練習をすることで、プレーできない経験を重ねてしまう悪循環に陥っているケースが多いと感じます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたイップスの治療


上記で述べてきた理論のとおり、漢方薬を用いたイップスの治療は肝をいたわることが中心となります。肝の力が衰えるということは肝にためられていた血(けつ)が消耗するということであり、それを補うような治療が中心に据えられます(これを「肝血を補う」「柔肝(じゅうかん)する」と言います)。


血を補う補血薬(ほけつやく)としては地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。特に芍薬は筋肉をリラックスさせる働きも持っているのでイップスの漢方薬にはしばしば含まれます。血を補う力はありませんが葛根は肩から首の筋肉をリラックスさせる働きに優れているのでイップスとそれに伴う首肩のつらい凝りの治療に適しています。


さらに精神的ストレスを緩和することで肝血の消耗を抑える理気薬(りきやく)、具体的には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子なども用いられます。他にも筋肉の緊張や震えを鎮める釣藤鈎、気持ちの乱れを鎮める竜骨、牡蠣などの生薬も併用されることが多いです。


これら以外にも主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて臨機応変に漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


イップスの改善例


改善例1

患者は40代後半の男性・プロゴルファー。約10年前から緊張によって両手の筋肉が過剰に緊張してしまい、パッティングを頻繁に失敗するようになってしまった。この症状は徐々に顕著化し、手の緊張はどんどん強くなってしまいました。パターを持つ手の握力は異常に高まり、筋肉痛が出てしまうほどに。


練習を繰り返しても良くなることはなく、短いパッティングすら全く成功しなくなってしまったとのこと。その後、この症状がきっかけで第一線から引退。ゴルフのレッスンを中心に生計を立てるようになりました。しかしながら、レッスンにおいてもうまく見本のパッティングができないことに悩み、当薬局にご来局。


詳しくお話を伺うと病院で抗不安薬や筋弛緩薬、さまざまなイップス治療の書籍やビデオを使用しても効果はなかったという。先輩からイップス経験者を紹介してもらい、その方から「あまり根を詰め過ぎるな」というアドバイスも受けましたが、どうしても練習をセーブすることはできなかったという。私(吉田)はゴルフの知識は全くなかったので、この方に出会って初めて「イップス」という病気が存在することを教えて頂きました。


イップスという病名は知らなかった一方で、伺ったご症状からこの方の場合は精神的な問題に由来する肝の失調であると考え、柴胡、芍薬、釣藤鈎などから構成される漢方薬を服用して頂きました。柴胡は気の巡りをスムーズにして精神的ストレスを軽減、芍薬や釣藤鈎は痙攣を鎮める効果が期待できるからです。


漢方薬服用から4ヵ月が経過する頃になると強かったパターを握る際の手首や指の緊張感が少し緩んできたとのこと。「昔はパターに手を添えるとその瞬間からジリジリと力が入っていたが、今はその感覚が薄くなってきた」とのこと。良い兆候と考えて同じ漢方薬を服用してさらに3ヵ月が経つ頃にはリラックスした状態でパターを握れるようになったと喜ばれました。


しかし、まだ肩から腕にかけて余分な力が入りフォームがぎこちないという。肩凝りも強いということで葛根や芍薬を含む漢方薬に変更しました。新しい漢方薬に切り替えて3ヵ月が過ぎるとイップスをほぼ克服されて、自然な形で球が打てるようになってきたとのこと。ご本人曰く「少しパッティングから距離を置きたくて打つのを控えていたが、先日、無性に打ちたくなって打ったら意外とスムーズに打てた」という。


レッスンの際にもパッティングの見本が「しっかりできるかまだドキドキはするが、できるようになってきている」とおっしゃられていました。それからもイップスの症状は現れることなく、現在も「イップス予防薬」ということで同じ漢方薬を服用して頂いています。


イップスの改善例2

患者は大学2年生の男性。私でも知っているくらいの大学サッカー界の名門校に所属しておりポジションはゴールキーパー。1年前の重要な試合で自陣からのゴールキックに失敗して失点のきっかけをつくってしまった。それ以降も何度か不運なプレーが重なりスランプに陥ってしまったという。


以前から足元のプレーは決して得意ではなかったが、単純なキックにも過剰に緊張してしまうようになった。特にゴールキック時には利き足が硬直するほど緊張してしまい、現在は他の選手にキックを頼んでいるという。


お話を伺うとボールのキャッチやランニングなど他の動作には何ら問題はないということで、イップスの「サッカー版」ともいえる症状でした。将来の針路として大学卒業後もサッカーを続けたいとのことで、満足なプレーができない現状にご来局当時はとても落胆されていました。精神的にもかなり不安定になっており、この方には柴胡、竜骨、牡蠣を中心とした気持ちを安定化させる漢方薬をまず服用して頂きました。


漢方薬服用から3ヵ月が経つと気分の浮き沈みはだいぶ落ち着き、冷静に物事が考えられるようなってきたという。しかし、不運にも足を強く打撲してしまいプレーができない状態とのこと。ここで一旦、血の流れを改善して怪我の回復を促進する漢方薬に変更。1ヶ月後には後遺症も無く怪我は完治していました。怪我の間、全くプレーできなかった影響を心配しましたがご本人は「むしろ気分転換になった」とのこと。


かなり精神面に余裕が出てきた印象だったので、この段階で身体の緊張を取り除く漢方薬にシフトしてゆきました。新しい漢方薬を服用し始めてから3ヵ月が経過した頃、学内の紅白戦でキックを用いる突発的なプレーをうまく処理できたとのこと。同じ試合でのゴールキックの場面でも「半分、やぶれかぶれ」に自分でキック。予想以上に違和感なくプレーできたという。


その後も同じ漢方薬を服用して頂き、年末の天皇杯の季節になる頃には問題なくプレーできるようになっていました。この方はイップスが完治された後も、怪我や体調不良の際にたびたびご来局されていますが、特に再発されることなく元気にプレーされています。


ドーピングと漢方薬


今日、国際的なスポーツイベントにおいてドーピングが問題となっています。このドーピングには故意のものとそうではないものがあります。故意のドーピングは運動能力を向上させることを目的に使用が制限されている薬品を用いることです。


そして故意ではないドーピングとは主に治療目的で規制されている成分を含む薬品を知らずに使用してしまうケースです。例えばドーピングで規制されているエフェドリンは市販されている風邪薬に広く含まれています。


一方、漢方薬はドーピングとは縁遠いイメージですが、実は大いに注意が必要です。上記に挙げたエフェドリンは麻黄や半夏に含まれており、これらの生薬を含む漢方薬を服用していた場合、場合によってはドーピングと判定される危険性があります。


それならば麻黄や半夏を含まない漢方薬なら服用していても問題ないかというと、そうでもないのです。その理由は生薬に含まれている成分が完全に解明されているわけではないからです。収穫の時期や産地によって成分に微妙な変化が起こる可能性も否定できません。


上記の理由から、一二三堂薬局ではドーピングの検査が行われるほどの競技レベルの方に漢方薬はお渡ししないことにしております。漢方薬には未知の成分も含まれている可能性もあるので、成分単位で申請が必要なTUE(治療目的使用に関わる除外措置)を漢方薬において行使することはできません。これは一二三堂薬局の漢方薬に限らず、すべての漢方薬の使用において行使はできません。


繰り返しになりますが一二三堂薬局はこれらの理由から、ドーピングに注意が必要な競技者に漢方薬をお渡しできません。どうぞご理解頂ければと思います。


おわりに


イップスはその独特な症状から医療機関で治療することが難しい厄介な病気といえます。「イップス」という言葉を生み出したトミー・アーマーもまた自身の症状がきっかけで表舞台から退いたといわれています。その一方でスポーツ界においてゴルフなどの一部の競技以外ではイップスの存在自体もあまり知られていません。したがって、誰にも病状を相談できずに悩まれている方も多くいらっしゃいます。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では筋弛緩薬や抗不安薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、イップスの症状が少しずつとれてくることから、イップスと漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、ゴルフに限らずイップスにお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 呑気症(空気嚥下症) 】と漢方薬による治療

呑気症(空気嚥下症)とは


呑気症(どんきしょう)とは意図せずに多くの空気を飲み込んでしまい、ゲップや腹部の張り、吐気といった不快感が生じるものです。呑気症はしばしば空気嚥下症(くうきえんげしょう)とも呼ばれます。


人間は普段から食事の際、食べ物や飲み物と一緒に空気も飲み込んでいます。一方で呑気症の場合はその量が多かったり、食事以外の時にも無意識に空気の飲み込みが行われてしまいゲップなどの症状が起こります。


呑気症では空気を吸い込んだことによる上記のような症状以外にも、歯のかみしめによる顎(あご)の痛み、首や肩の凝り感といった症状が起こることもあります。これらの症状を「噛みしめ呑気症候群」と呼びます。


呑気症(空気嚥下症候群)の原因


呑気症の原因はまだはっきりとわかっていませんが、精神的なストレスとの関連が強いと考えられています。特に緊張感や不安感が大きい時などに生じやすいとされています。


一方で呑気症によりゲップが繰り返されることで胃酸の逆流を誘発し、喉に炎症が起こってしまう逆流性食道炎の原因になってしまうこともあります。


呑気症(空気嚥下症)の症状


呑気症は空気の飲み込みによるゲップ、吐気、胸やけ、胃痛、腹部膨満感(お腹の張り)、ガス(おなら)といった症状を引き起こします。ゲップやガスを出すことで一時的に症状が緩和されることもありますが、多くの場合において症状はすぐにまた現れてしまいます。


患っている方は知人との会食の際など、ゲップやガスを出しにくい状況がよりストレスとなってしまい、症状が悪化する悪循環にも陥りやすいのが呑気症の特徴です。


大量の空気の吸い込みによっておこる胃腸症状に加えて、呑気の際に歯をかみしめてしまうことによっておこる「噛みしめ呑気症候群」と呼ばれる症状が現れることもあります。噛みしめ呑気症候群は無意識のうちに歯をかみしめてしまうことで起こる、顎の痛みやだるさ、肩首の凝り痛み、頭痛、眼痛、歯の摩耗とそれによる刺激に対しての痛みなどが含まれます。


呑気症(空気嚥下症)の西洋医学的治療法


呑気症は西洋医学的にその原因が不明確なので、西洋薬による治療法はまだ確立されていません。その一方で鎮吐薬や消化酵素薬といった消化管機能改善薬を用いるケースが多いです。それらに加えて精神症状が顕著な場合は安定剤の使用も検討されます。


呑気症(空気嚥下症)の漢方医学的解釈


呑気症は漢方医学において気滞との関連が深いと考えられます。気滞とは主に精神的ストレスなどによって気の巡りが悪くなることによって起こる病的状態です。


気滞によって起こる典型的な症状としては喉のふさがり感、ゲップ、胸部や腹部の膨満感、食欲不振、吐気、胃や腹部の張り痛み、ガス、下痢や便秘といった排便トラブル、憂うつ感やイライラ感、生理不順や生理痛、不眠など非常に多岐にわたります。


気の巡りが悪くなると上記の通り、精神症状に加えて消化器系の症状が起こりやすいことが知られています。呑気症は特に上腹部で生じた気滞による症状が顕著化した、胃気滞と呼ばれるケースと考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた呑気症(空気嚥下症)の治療


呑気症を気滞と捉えた場合、その治療方法は滞ってしまった気の巡りを改善する理気が中心となります。したがって漢方薬は気の流れを良くする柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの理気薬を含んだものがしばしば用いられます。


上記に加えて呑気症が慢性化すると空気を吸い込んでしまうことを過度に心配して食欲不振に陥ってしまうことも少なくありません。もし食欲不振、疲労感や気力の低下などの気虚(気の不足)症状も顕著なケースでは人参、黄耆、白朮、大棗、甘草などの補気薬も含めます。


呑気症の原因が気の滞りの場合、そこから連鎖的に気の不足やさらには血や津液の巡りにも支障が出てしまいます。したがって呑気症の治療には総合的な視野が欠かせません。「呑気症」という病名にだけこだわらず、心身においてどのようなトラブルが起こっているのかを把握することがとても大切です。


生活面での注意点と改善案


呑気症を気滞の一症状と考えた場合、過剰な精神的ストレスの蓄積は避けるべきです。しかしながら、ストレスは避けようとして避けられるものではありません。まず建設的な対処法としては休日や睡眠時間を削り過ぎないことが大切です。


そして食生活においては脂肪分や香辛料が多いもの、炭酸飲料は避けるべきです。加えてできる限り温かい食べ物を摂るように努めましょう。


気の巡りの改善には早歩き程度のウォーキングも有効です。心身がリラックスされ、筋肉の過剰な緊張による腹部の張り感や首肩凝りの改善にもつながります。噛みしめ呑気症が顕著な場合、マウスピースの装着も有効です。


呑気症(空気嚥下症)の改善例


患者は30代前半の男性・会社員。もともと緊張しやすく、緊張してしまうと吐気やゲップが出やすかったとのこと。現在の会社に就職し、先輩たちと一緒に食事を摂るようになると緊張からか吐気やゲップに加えて腹部の張り感も現れるようになったという。これらのご症状が出始めてからは、簡単にのみ込める麺類ばかり食べているとも。


消化器内科を受診して鎮吐薬と胃酸分泌を抑制する薬を半年服用してもご症状の改善は見られず、当薬局にご来局。ご様子を伺うと典型的な呑気症のご症状に加えて腹痛と便秘もあり、ご症状は消化器全体に現れていました。そこでまず呑気症などの原因は気滞によるものとみて、気を巡らす柴胡、芍薬、枳実、半夏、陳皮などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


服用から3ヵ月が経つとだいぶゲップや吐気といった上腹部のご症状は改善してきましたが、今度は疲労感や軟便が気になるとの訴え。そこで半夏や陳皮に加えて人参、白朮、茯苓などの気を補う漢方薬に切り替えてまた数ヶ月服用して頂きました。


服用から半年以上が経過したころにはほぼ呑気症と思われるご症状は消え、同僚たちとも問題なく会食が行えるまで回復されました。その一方で体格的にやせ形で体力も決して充実しているといえない方でしたので、引き続き、気を補いつつ巡りも改善するこの漢方薬を継続的に服用して頂いています。


おわりに


「呑気症」や「空気嚥下症」という病名は知名度が低い一方で、ゲップや吐気、膨満感といった症状に長年悩んでいる方は決して少なくありません。消化器内科や心療内科などを受診してもなかなか改善されないケースも多い病気です。


漢方薬を用いた呑気症の治療はその方の症状に合わせて調節が幅広く行える点が強みになります。当薬局をご来局の方の多くが典型的な呑気症の症状に加えて緊張感や不安感、過敏性腸症候群による腹痛や下痢なども併せ持っています。このような方にも対応できるのが漢方薬の優れた点です。呑気症でお困りの方は是非一度、ご来局頂ければと思います。

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