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【 過敏性腸症候群 】と漢方薬による治療

過敏性腸症候群とは


過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)とはその名の通り、腸がさまざまな刺激によって過敏に反応し、下痢や便秘、腹痛などを起こしてしまう病気です。しばしば過敏性腸症候群の英語名である「Irritable Bowel Syndrome」の頭文字をとってIBSとも呼ばれます。


専門書や病気の解説サイトなどにおいて過敏性腸症候群は「器質的な異常が見られない」「機能性の疾患である」というように紹介されます。この表現は一般の方にはわかりにくいですが、簡単にいえば「腸に炎症や傷があるわけではないのに、しっかりとはたらいていない状態」を指しています。このことから過敏性腸症候群は機能性ディスペプシアと並んで、代表的な機能性消化管障害に位置付けられます。


しばしば、漢字が並んだ長い病名であり同じ「腸」の字が入ることから潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)と混同されている方もいらっしゃいます。潰瘍性大腸炎とは大腸(多くは大腸の直腸)に原因不明の炎症が起こり下痢や血便を起こす、過敏性腸症候群とはまったく異なった病気です。やや脱線してしまいますが、まれにネット上などで「過敏性大腸炎」と表記されているのを目にします。これは過敏性腸症候群と潰瘍性大腸炎の両病名を混ぜこぜにしてしまった完全な誤用です。


過敏性腸症候群の原因


過敏性腸症候群を引き起こす明確な原因は不明であり、個人差も大きいといわれています。そのなかでも通勤や通学の前、テストやスピーチの際などで高まる緊張状態が過敏性腸症候群の引き金になりやすいといわれています。


精神的な緊張以外にも脂肪分の多い高カロリー食品、乳製品、コーヒーを含むお茶類、柑橘類、香辛料、アルコールなども症状を悪化させることが示唆されています。もし、「朝の通勤前には症状が起こりやすい」といった傾向がわかっているようなら、上記のような食品を朝食では摂らない工夫も病状緩和に有効です。


過敏性腸症候群には性差も認められており、男性の方が女性よりも約3倍もかかりやすいという報告もあります。その一方で生理前や生理中に症状が悪化する女性も少なくありません。したがって、過敏性腸症候群は遺伝子レベルから患っている方が置かれている社会的な背景、心理的な状態まで幅広い原因が潜んでいる可能性があります。


過敏性腸症候群の症状


過敏性腸症候群はさまざまな刺激によって消化管(小腸や大腸)が強い収縮を起こし、痛みをともなった下痢や便秘などを起こす病気です。男性は下痢型、女性は便秘型が多いといわれています。さらに下痢と便秘を繰り返してしまう混合型、どれにも当てはまらない分類不能型も存在します。


上記以外にも腹痛、腹鳴、腹部の不快感もしばしばみられます。さらに便意や腹痛は突然現れることが多いので「また下痢になってしまうのではないか」という不安感にも苦しめられることになります。


過敏性腸症候群はしばしば同じ機能性消化管障害である機能性ディスペプシアを併発します。機能性ディスペプシアとは過敏性腸症候群と同様に、胃に炎症のようなトラブルがないのに食後のもたれ、胃痛、胸やけ、吐気、満腹感による食欲不振といった症状が現れる病気です。


過敏性腸症候群の西洋医学的治療法


過敏性腸症候群の中心的な症状は下痢や便秘といった便通のトラブルです。過敏性腸症候群の第一選択(最初にもちいるべき薬)であるポリカルボフィルカルシウムを有効成分とするコロネルやポリフルは便の水分バランスを整えることで下痢にも便秘にも使用されます。


コロネルやポリフルにくわえて、腸のはたらきを調整することで下痢にも便秘にも有効なセレキノン(一般名:トリメブチン)、下痢と腹痛の改善を得意とするイリボー(一般名:ラモセトロン)もしばしば使用されます。


上記の他には腸内環境を整える乳酸菌製剤、腸管の収縮をやわらげて腹痛を除くトランコロン(一般名:メペンゾラート)、生薬のアカメガシワを含んだマロゲンなどが頻用されます。憂うつ感や不安感といった精神的な症状が目立つ場合は抗うつ薬であるパキシル(一般名:パロキセチン)なども検討されます。


過敏性腸症候群は精神面の影響を無視できない病気なので、パキシルやベンゾジアゼピン系の抗うつ薬も有力な治療薬候補となります。一方で抗うつ薬はふらつき、眠気、吐気などの副作用も現れやすいので注意が必要です。薬物治療以外にも精神的ストレスが原因として明白な場合はカウンセリングを中心とした認知行動療法が行われることもあります。


過敏性腸症候群の漢方医学的解釈


漢方医学的に過敏性腸症候群を考えると、その原因は大きく分けて2つ考えられます。ひとつは脾胃(ひい)の問題です。脾胃とは簡単に表現してしまえば腸を含めた消化器のことを指します。そしてもうひとつが肝(かん)の問題です。肝とはアルコールを解毒したりする西洋医学的な肝臓のことではなく、気の流れをコントロールしたり血をたくわえるはたらきをもつとされる漢方医学的な肝を指します。


ではまず、脾胃と過敏性腸症候群について説明いたします。繰り返しになってしまいますが脾胃は西洋医学的には消化器であり、この消化器のはたらきが弱くなってしまった状態を脾気虚(ひききょ)と表現します。


脾胃は食べ物から人間に必要な気(き)、血(けつ)、津液(しんえき)の生産に関わる「エネルギー工場」のような存在です。このエネルギー工場が何らかの原因で「操業停止」になってしまうと下痢を中心とした消化器症状だけではなく、疲労感、倦怠感、息切れ、めまいやふらつきなどの多彩な症状が現れます。脾気虚の方は普段から疲れやすくて体力がない虚弱体質気味といえるでしょう。脾気虚に陥ってしまう原因としては栄養不足、慢性病後の体力消耗、過労などが挙げられます。


それでは脾胃につづいて肝についてです。肝は気の円滑な流れをコントロールしており、正常に気が流れていれば心身ともに健康な状態が保たれます。しかしながら、この肝は精神的ストレスに敏感であり、比較的簡単にダメージを受けてしまいます。その結果、肝がしっかりと働けなくなってしまうと気の流れが滞り、イライラ感や怒り、胸や喉に閉そく感を覚えるなどの症状が出てきます。


このような精神不安を中心とした症状を肝気鬱結(かんきうっけつ)と呼びます。そして、肝気鬱結をほっておくと気の滞りは脾胃にも悪影響を及ぼします。このような肝の悪影響が脾胃に及ぶことを肝脾不和(かんぴふわ)や肝胃不和(かんいふわ)と呼びます。


脾胃は人間のエネルギー源である気、血、津液を作り出しますが、脾胃自体もはたらくために気が必要です。したがって、気の滞りによって脾胃もしっかりと働かなくなり下痢や便秘、下腹部痛、下腹部の張り、食欲不振、ゲップ、吐気、嘔吐などの症状が現れてしまうのです。


他にも漢方医学的な過敏性腸症候群の原因はいくつも考えられますが、大筋で精神的ストレスと過労が主な原因と考えて良いでしょう。この点は西洋医学な観点とほぼ共通していると考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた過敏性腸症候群の治療


上記で紹介したとおり、過敏性腸症候群の原因は漢方医学的に考えると大きく分けて脾気虚と肝気鬱結が挙げられました。したがって、気を補ったり気の巡りを改善することが過敏性腸症候群の治療につながります。


消化器の力が低下している脾気虚は気の不足なので、気を補う漢方薬を使用することになります。気を補う生薬である補気薬(ほきやく)には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。これらから構成される漢方薬を服用することで脾胃の力が増し、食べ物からしっかりと気、血、津液が生まれるようになります。そして、気が充実してくれば消化器がしっかりはたらくようになり、下痢や疲労は回復してゆきます。


そして消化器の力を鈍くしてしまう肝気鬱結の解消には、肝のはたらきを助けてあげる必要があります。より具体的には気が流れやすくすることが重要になります。気の巡りを改善する代表的な生薬である理気薬(りきやく)には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。


これらにくわえて肝に血を与えることでその力を回復させるために地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの血を生み出す生薬(補血薬)もしばしば使用されます。しかし、血を補う生薬は胃に負担をかけることもあるのでその方の体質にしたがって使用は慎重に行われます。


このように漢方薬は同じ過敏性腸症候群であっても症状や体質によって大きく内容が変わってきます。漢方薬を継続的に服用することで悩まれている症状だけではなく、病気のより根本的な原因までも取り除くことができるようになります。身体は元来、病気に打ち勝つための力とバランスを保つ能力が備わっています。漢方薬はそれらの力を根本から底上げする「お手伝い」ができるのです。


生活面での注意点と改善案


漢方薬の服用は過敏性腸症候群に打ち勝つ力になると説明しましたが、日々の生活面を見直すこともこの病気に対抗するための有効な手段となります。過敏性腸症候群は西洋医学的にも漢方医学的にもストレス、特に精神的なストレスの影響を強く受けていると考えます。


ストレス社会といわれる今日において精神的ストレスを完全に消し去ることは非常に困難です。その一方で過敏性腸症候群が身体にかかっている負担に対する「警報」を鳴らしているということは覚えておいて頂きたいと思います。過剰な仕事を抱え込まない、趣味の時間を大切にする、しっかりと睡眠をとるといった基本的なことが重要となってきます。


さらに過敏性腸症候群は消化器の病気ということもあり食事面の改善も有効です。まず、強いアルコールや辛いものなどの刺激物は炎症を悪化させる可能性があるので控えた方が良いとされています。脂肪が多い食品や乳製品も人によっては症状を悪化させることがあるので注意が必要です。


食事の回数を多くして食べる量を減らすことも有効です。しかしながら、多忙な生活を送る方が多い今日、なかなか実現は困難だとも感じられます。ですが「朝食を抜いて一日二食、夕飯は大食いの早食い」という状況は見直すべきです。一日三食でゆっくり質量ともにバランスをとることが大切です。


すでに述べた刺激物だけではなく冷たい食べ物や水分を多く含んだ食べ物は脾胃の力を弱めてしまうので控えた方が良いでしょう。具体的にはサラダ、フルーツ、清涼飲料などです。サラダやフルーツは食物繊維を豊富に含んでいるので便通改善に良いのですが、多くの場合は冷えたまま摂ることが多くなってしまいます。


サラダは温野菜へ、フルーツはせめて常温にして食べることが望ましいです。しばしば、胃腸が弱い方はその改善を目的としてヨーグルトを多く摂られていますが、やはり上記と同じ理由で常温またはすこし温める方が良いです。


過敏性腸症候群の改善例


改善例1

患者は30代前半の男性・高校教師。子どもの頃から体力はあまり無い方で、しばしば下痢や軟便を起こしていました。年齢が上がるにつれて便通異常は落ち着いてきましたが、教師としてはたらきだしてから腹痛を伴う下痢と軟便の症状が再発。特に授業中、トイレに行けないと考えると余計にお腹が張り腹痛と便意が強くなってしまうとのこと。


より詳しくお話を伺うと、下腹部はいつも冷えており食欲も落ち気味で全体的に元気がない印象でした。この方にはまず脾胃の状態を立て直す補気薬である人参や黄耆、そして気の流れを改善する柴胡や陳皮を含む漢方薬を調合しました。


服用から2ヵ月が経った頃には腹部の張りと痛みはだいぶ鎮まり、便通も我慢できるようになったとのこと。この頃から気温が下がり始めたので身体を温める生薬である散寒薬の乾姜や山椒を含んだ漢方薬に微調整を行いました。


服用開始から通算で約半年が経過すると、便通は1日2回ほどに落ち着き、腹痛は完全に消えたとのこと。この方は部活顧問にも携わり仕事量が増加したことを受けて、体力増進の意味で補気を中心とした漢方薬を継続して頂いています。


改善例2

患者は20代後半の女性・会社員。半年前の転職をきっかけに緊張時の下痢や腹痛に襲われるようになってしまいました。転職先の条件や人間関係は良好とのことですが、頻繁に社外へ赴き大勢の前で発表を行わなければならず、発表当日の朝は出勤前から3回ほどトイレに行く状態になってしまいました。


勤務への支障が出ることを心配し、病院を受診して過敏性腸症候群と診断されました。受診した病院でいくつかの薬を服用するも大きく改善はされなかったとのこと。心療内科の受診も進められましたが抵抗があり、当薬局へご来局。


過敏性腸症候群についてより細かいご症状を伺うと、下痢と腹痛の他にグルグルという腹鳴や常に便意があるという。「お腹の音が誰かに聞かれていないか心配になり、そうすると余計に便意が強くなる」という。過敏性腸症候群以外の症状としては寝つきの悪さがありました。


この方には気の巡りを改善する柴胡、筋肉の緊張をやわらげる芍薬、水分代謝を改善する白朮や茯苓から構成される漢方薬を調合いたしました。日常生活面ではコーヒーをオフィスにいる間に3杯以上は飲むと伺ったので、ノンカフェインの温かいお茶に切り替えてもらいました。


漢方薬服用から3ヵ月が経つと、服用前と比較して入眠がしやすくなり体力に余裕が出てきたとのこと。プレゼンの前の便通回数も半分程度に減っていました。その一方で便意とガスが腸を移動しているような腹鳴はまだ残っていました。同じ漢方薬で継続していただくか悩みましたが、厚朴や陳皮を含んだ漢方薬に変更しました。


新しい漢方薬にして2ヵ月ほどが経過するとガスによる腹部の張り感や便意も鎮まり、とても気にされていた腹鳴も気にならなくなったとのこと。便通も1日1~2回程度で安定し、睡眠の調子も引き続き悪くないという。この方は毎年、冬になると腹痛や軟便が起こりやすくなるということで、季節に合わせて内容を調節して継続服用して頂いています。


おわりに


近年、過敏性腸症候群を患われている方がとても多くなった印象を受けます。やはりストレス社会と呼ばれる今日の世相を反映しているのかもしれません。過敏性腸症候群による症状自体が新たなストレス源となって、さらに症状が悪化する悪循環に陥っている方も少なくありません。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方がとても多くいらっしゃることから、過敏性腸症候群と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、過敏性腸症候群にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 潰瘍性大腸炎 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と潰瘍性大腸炎


当薬局では長年、さまざまな潰瘍性大腸炎に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その主な理由としては潰瘍性大腸炎に対して有効な西洋医学的治療法が確立されていないことが挙げられます。


その一方で下記でご紹介するような漢方薬は潰瘍性大腸炎に対してとても有効であることを経験的にも実績面からも知っているからです。このページでは潰瘍性大腸炎に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


漢方相談の流れ…当薬局のご来局からアフターフォローについて


漢方薬の価格と種類…粉薬や煎じ薬の解説とそれぞれの価格について


アクセス…JR池袋駅から当薬局までの順路について


一二三堂薬局の漢方薬の安全性…漢方薬の残留農薬や放射性物質への対策について


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潰瘍性大腸炎とは


潰瘍性大腸炎はその名の通り、大腸に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍を形成する疾患です。びらんとは大腸表面の粘膜が炎症によって傷つけられている状態であり、潰瘍はさらに深く粘膜よりも下まで凹状に侵されている状態です。したがって、潰瘍はびらんが悪化した病態といえるでしょう。


潰瘍性大腸炎は炎症が起こる部位によって大きく3つに分けられます。炎症が肛門に近い直腸に限定される直腸型、さらに直腸からS状結腸や下行結腸にまで炎症が広がる左側大腸炎型、そして大腸全体に炎症が拡大した全大腸炎型です。病態としてはより後者の方が重いといえます。


潰瘍性大腸炎は近年、大きく増加傾向のある病気のひとつです。日本において患者数は10万人以上といわれており、決して「マイナーな病気」ではありません。欧米ではさらに日本より患者数が多く、発症率は10倍近いというデータもあります。


潰瘍性大腸炎の発症年齢は男女ともに10~30歳代の若年者に多い傾向はありますが、中高年以降でもしばしば発症します。潰瘍性大腸炎の発症に関して目立った男女比は認められていません。


しばしば、同じ炎症性腸疾患ということで潰瘍性大腸炎はクローン病と比較されます。一方でクローン病は大腸だけではなく口から肛門まであらゆる場所に非連続的な炎症ができるという点などで異なります。


潰瘍性大腸炎の原因


潰瘍性大腸炎の明確な発症原因は不明ですが、有力なのが自己免疫疾患説です。自己免疫疾患とは本来ならば攻撃する必要がない身体(潰瘍性大腸炎の場合は大腸)に対して誤って攻撃を行ってしまう抗体ができてしまう病気の総称です。


潰瘍性大腸炎の発症率は日本よりも欧米において高いことが知られています。その点から潰瘍性大腸炎の発症には欧米式の食習慣や環境が関与しているという説が挙げられています。他にも精神的なストレスや腸内細菌叢の乱れによって症状が悪化しやすいといわれています。


潰瘍性大腸炎の症状


潰瘍性大腸炎の主な症状としては頻回の下痢、下腹部の痛み、発熱、体重の減少が挙げられます。潰瘍性大腸炎の下痢には膿や血液、粘液を含むことがあり、多い方では1日に10回以上の便通がある場合もあります。


便意と一緒に痛みをともなう場合も多く、排便後も残便感が生じるケースもしばしばです。このような症状をしぶり腹やテネスムスと呼びます。他の症状としては出血による貧血、慢性的な疲労感、食欲不振、下腹部の張り感、頻脈などが挙げられます。


潰瘍性大腸炎の合併症には大腸の穿孔(「せんこう」と読み、穴が開くことです)による大出血、大腸がん化、結腸の巨大化、胆管炎、関節炎による関節痛、肌の紅斑や壊疽性膿皮症、眼の虹彩における炎症などが挙げられます。このように潰瘍性大腸炎の合併症は消化器のみに限定されず、多岐にわたるケースもあります。


潰瘍性大腸炎の西洋医学的治療法


上記の通り、潰瘍性大腸炎の発症原因は不明であり、西洋医学的治療法も対処療法に限られてしまいます。具体的には薬物療法、血球成分除去療法、そして手術が挙げられます。


薬物療法は炎症を鎮めるサラゾピリンやアザルフィジンEN(ともに一般名:サラゾスルファピリジン)、ペンタサ(一般名:メサラジン)が代表的です。有効成分にペンタサと同じメサラジンを含むアサコールは特に大腸で薬効を発揮しやすいように工夫されており、潰瘍性大腸炎の治療に特化されています。同じくメサラジンを含むリアルダは服用回数が1日1回で済むように設計されています。


上記の他に非常に強い抗炎症作用を持つ副腎皮質ステロイド薬のプレドニン(一般名:プレドニゾロン)も使用されますが、副作用も強いので使用には慎重さが求められます。一般的にはより軽症の場合は坐薬の副腎皮質ステロイド薬、より重症の場合は内服薬が用いられます。


免疫のはたらきを抑えることで改善を目指す免疫抑制薬のイムランやアザニン(ともに一般名:アザチオプリン)、サンディミュンやネオーラル(ともに一般名:シクロスポリン)も用いられます。炎症を起こす物質を中和する抗体を製剤化したレミケード(一般名:インフリキシマブ)やヒュミラ(一般名:アダリムマブ)は副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬がうまく効かない場合などに選択されます。


血球成分除去療法とは血中に存在する免疫を担っている白血球(特に顆粒球)を特殊なフィルターやカラムで除去した後、再び身体に戻す治療法です。しばしば副腎皮質ステロイド薬が無効なケースに用いられます。


手術は薬物治療や血球成分除去療法がうまくゆかない場合、穿孔による大出血を起こしている場合に選択されます。つまり、手術は重症の方に選択されるものであり、手術方法は基本的に大腸の全摘出となります。


潰瘍性大腸炎の漢方医学的解釈


漢方医学的に考える、潰瘍性大腸炎特有の症状は単一の原因ではなくいくつかの要因が複雑に絡み合って生み出されているものだと考えられます。そのなかでも下痢を起こす根本的な病的状態が脾胃気虚(ひいききょ)です。


脾胃とは消化器機能全般を指しており、それら機能が弱まっている状態が脾胃気虚といえます。
脾胃気虚の代表的な症状としては食欲がない、食べると腹部が張る、軟便や下痢が何回も続くといったものが挙げられます。このように潰瘍性大腸炎を患っている方の根本には脾胃気虚があると考えられます。


しかしながら、脾胃気虚には激しい炎症や腹痛は見られません。これらの激しい症状は多くの場合、湿熱(しつねつ)が関与していると考えます。湿とは身体内において有効活用されない余分な水分のようなものであり、脾胃気虚などによって生み出されやすい病的物質です。


この湿が何らかの要因(湿の長期間の放置、暴飲暴食、ストレスなど)によって熱を帯びたものが湿熱です。湿熱が引き起こす症状としては激しい下痢(場合によっては血便)や腹痛、腹部の張り感、食欲不振、吐気、口の中の粘り、口の中の苦みや酸み、身体の重だるさと疲労感などが挙げられます。


出血はしばしば熱が暴れることによって起こると考えるので、湿熱における「熱」の性質が強く出ている場合に粘血便の症状が現れると考えられます。したがって、基本的に潰瘍性大腸炎の根本には脾胃気虚があり、さらに脾胃気虚などによって生み出された湿熱が潰瘍性大腸炎特有の症状を起こしていると考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた潰瘍性大腸炎の治療


上記で説明したとおり、潰瘍性大腸炎の根本には脾胃気虚があると考えられますが、特有の症状を起こしているのは湿熱でした。したがって、漢方薬を用いた根治療法としては脾胃の気を補い、対処療法としては湿と熱を除去する必要があります。実際に漢方薬を調合する場合にはこれら根治療法と対処療法を上手く組み合わせる必要があります。


基本的には症状が激しく出ている場合はそれらを抑えることに比率を置き、ある程度、症状が鎮まってきた段階で根治療法を開始するというのが「定石」です。まず、根治療法の核になるのは脾胃気虚を解消するために気を補う補気薬(ほきやく)たちです。具体的には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。


これらは消化器のはたらきを改善するはたらきに優れていますが、下痢症状が目立つ場合は湿の影響が強いと考えて水分代謝を促進する利水薬(りすいやく)である茯苓、猪苓、沢瀉、蒼朮などが追加されます。その他に山薬、蓮肉、薏苡仁、山査子は止瀉作用が優れているので潰瘍性大腸炎にしばしば用いられます。


対処療法としては潰瘍性大腸炎特有の激しい症状を起こしていた熱を鎮める清熱薬(せいねつやく)が用いられます。主に黄連、黄芩、黄柏、山梔子などが中心となります。これら清熱薬は湿を乾燥させるはたらきもあるので湿熱対策には一石二鳥です。


これら以外にも精神的ストレスが強い場合、それらが気の流れを滞らせることで脾胃を弱め、湿を生み出す原因にもなります。適宜、気の流れを円滑にする理気薬(りきやく)である柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などを検討する必要があります。このように潰瘍性大腸炎に対する漢方薬は複数の要素をカバーしながら、症状の現れ方なども考慮に入れて構築してゆくことになります。


潰瘍性大腸炎の改善例


患者は30代前半の男性・司法書士。子どもの頃から身体は丈夫で体力も人一倍あると自信を持っていましたが、社会人生活4年目に突然の腹痛と下痢に襲われるようになりました。最初の頃は仕事で頑張り過ぎてストレスが溜まっているくらいに考えていたということですが、血便やドロッとした粘膜がついた便も出るようになり、急いで病院を受診。


そこで初めて潰瘍性大腸炎と診断されました。最初の頃は「病名から慢性胃炎の腸バージョンくらいに思っていた」とのこと。ペンタサなどを中心に病院で処方された炎症を抑える坐薬を継続使用したおかげで一時的に症状は緩和しました。


しかし、薬の使用をおろそかにして、さらに仕事の増加も重なり発症から3年が経った頃に再び症状が悪化。S状結腸で大規模な炎症が起こっており、服薬を再開するもしばしば出血をともなう軟便、腹痛、発熱、疲労感が続き西洋医学以外の治療も試したい考えて当薬局に来局。


詳しくお話を伺うと、食欲はあるということでしたが顔色が色白から黄色でとても線の細い方だと感じたことをよく覚えています。ご本人曰く、昔はもっとふっくらしていたが、この5~7年間でとても痩せてしまったという。便通は1日6~8回くらいで出血があるとのこと。


この方には病院の薬のしっかりとした服用をお願いしつつ、炎症を抑える生薬である黄連、黄芩、山梔子、さらに血を補う生薬である地黄、当帰、出血を抑える生薬である艾葉、筋肉の緊張を緩和して痛みを和らげる芍薬などから構成される漢方薬を胃腸の負担を考慮して食後に服用して頂きました。


服用から4ヵ月が経過した頃には貧血によるものと考えられた疲労感は軽減。顔色もやや赤みが見て取れました。高熱や腹痛が出て事務所の仕事を休むこともほぼ無くなったとのこと。服薬中、心配していた漢方薬による食欲不振や胃もたれも起こりませんでした。便通はまだ緩さはあるということですが、出血は無し。


良い傾向だと感じ、同じ漢方薬を数ヵ月服用して頂き、半年が過ぎる頃には多少の軟便傾向以外のほとんどの自覚症状はなくなりました。その一方で事務所の繁忙期になると疲労感と比例して腹痛と下痢が起こるということで、人参、黄耆、白朮などの気を補い消化器機能を底上げする漢方薬に変更を行いました。


新しい漢方薬にして3ヵ月程度が過ぎた頃には午前8時~午後9時くらいまで勤務が長引く時も体力と集中力が持続するようなったとおっしゃられていました。潰瘍性大腸炎の症状自体も昔のように体力が付いてからは出なくなっていました。しかし、潰瘍性大腸炎は慢性に推移しやすい病気でもあるので、予防と体力増進の意味も込めて継続服用中して頂いています。


おわりに


潰瘍性大腸炎の原因は自己免疫疾患説が有力ですが、高脂肪食、過剰なアルコールや香辛料、食物繊維の不足、そしてストレスなどが症状を悪化させることも知られています。潰瘍性大腸炎は年間、約8000人ずつ患者数が増えているともいわれており、今日の日本におけるストレス社会の一面を反映しているのかもしれません。


潰瘍性大腸炎の症状は波のように好不調を繰り返しながら慢性的に推移しがちです。長期間にわたり続く腹痛や頻回の便通は大きく生活の質を落とし、それ自体が強いストレスを生み出す悪循環に陥りがちです。


当薬局では生活習慣の改善と漢方薬の服用によって潰瘍性大腸炎の状態が好転する方がとても多くいらっしゃることから、潰瘍性大腸炎と漢方薬とは「相性」が良いと実感しています。是非一度、潰瘍性大腸炎でお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 クローン病 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局とクローン病


当薬局では長年、さまざまなクローン病に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その主な理由としてはクローン病に対して有効な西洋医学的治療法が確立されていないことが挙げられます。その一方で下記でご紹介するような漢方薬はクローン病に対してとても有効であることを経験的にも実績面からも知っているからです。


このページではクローン病に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


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クローン病とは


クローン病(Crohn’s Disease)は口腔から肛門まで消化管のあらゆる場所に炎症が起こる炎症性腸疾患です。クローン病という病名のなかの「クローン」とは1932年に米国の医師であるクローンらによって報告されたことに由来します。


クローン病は消化器のなかでも小腸の後半部分、大腸へとつながる部分である回腸に炎症が起こりやすいです。その点から限局性腸炎、肉芽腫性回腸炎、回結腸炎などとも呼ばれますがクローン病という呼び名が一般的です。


クローン病の発症年齢は男女ともに10~20歳代の若年者に多いという特徴があります。男女比も確認されており、その比率は約2:1で男性がかかりやすい病気といえます。


同じ炎症性腸疾患ということでクローン病と潰瘍性大腸炎としばしば比較されます。潰瘍性大腸炎は患部が病名の通り大腸に限定的であり、消化管全体に炎症が起こりえるクローン病と異なります。


クローン病の原因


クローン病の根本的な発症原因は不明です。しかしながら、より男性に発症が多い点から遺伝因子が関係している可能性が高いです。他にも自己免疫疾患説、喫煙、ウイルスや細菌の感染などが発症に関与していると考えられています。


現代日本においてクローン病の発症率は10万人当たりで約20人といわれていますが、顕著な増加傾向にあります。欧米諸国ではさらに日本よりも発症率が高く、約10倍の頻度といわれています。この点からクローン病の発症には欧米式の生活習慣(食習慣や環境)と相関があるといえそうです。


クローン病の症状


クローン病の主な症状は出血をともなうこともある下痢、腹痛、発熱、体重減少が挙げられます。その他にも合併症として腸の狭窄、大腸の穿孔(「せんこう」と読み、穴が開くことです)による大出血、口内炎、胃潰瘍、肛門病変、関節炎、肌の紅斑、眼の虹彩における炎症などが存在します。


上記に挙げた肛門病変には痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍、裂肛(切れ痔)などが含まれます。特に痔ろうと肛門周囲膿瘍は慢性的に下痢が続いた場合に起こりやすく、クローン病の合併症としてしばしばみられます(くわしくは 痔ろう(あな痔)(肛門周囲膿瘍を含む)と漢方薬による治療をご参照ください)。


クローン病の西洋医学的治療法


クローン病の根本的な治療法はありません。そのため、消化管で起こっている炎症を抑えることが西洋医学的な治療の中心となります。具体的には栄養療法、薬物療法、血球成分除去療法、そして手術が挙げられます。


栄養療法は炎症のために消化管が栄養素をうまく吸収できない時などに行われます。アミノ酸、ミネラル、ビタミンといった栄養素を含んだエレンタールのような液状の内服薬を口から摂ったり、鼻からチューブを入れて胃に送る経腸栄養療法が挙げられます。消化管を介しての吸収が難しい場合は静脈に直接的に栄養素を送る完全静脈栄養と呼ばれる方法もあります。


薬物療法は炎症を鎮めるサラゾピリンやアザルフィジンEN(ともに一般名:サラゾスルファピリジン)、ペンタサ(一般名:メサラジン)が代表的です。他に非常に強い抗炎症作用を持つ副腎皮質ステロイド薬のプレドニン(一般名:プレドニゾロン)も使用されますが、副作用も強いので使用には慎重さが求められます。一般的にはより軽症の場合は坐薬の副腎皮質ステロイド薬、より重症の場合は内服薬が用いられます。


免疫のはたらきを抑えることで改善を目指す免疫抑制薬のイムランやアザニン(ともに一般名:アザチオプリン)、ロイケリン(一般名:メルカプトプリン)も用いられます。炎症を起こす物質を中和する抗体を製剤化したレミケード(一般名:インフリキシマブ)やヒュミラ(一般名:アダリムマブ)は副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬がうまく効かない場合などに選択されます。


血球成分除去療法とは血中に存在する免疫を担っている白血球(特に顆粒球)を特殊なフィルターやカラムで除去した後、再び身体に戻す治療法です。しばしば副腎皮質ステロイド薬が無効なケースに用いられます。


手術は薬物治療や血球成分除去療法がうまくゆかない場合、穿孔による大出血を起こしている場合に選択されます。つまり、手術は重症でその他の治療法では対応が難しいケースに選択されるものとなります。


クローン病の漢方医学的解釈


漢方医学的に考える、クローン病特有の症状は単一の原因ではなくいくつかの要因が複雑に絡み合って生み出されているものだと考えられます。そのなかでも下痢を起こす根本的な病的状態が脾胃気虚(ひいききょ)です。


脾胃とは消化器機能全般を指しており、それら機能が弱まっている状態が脾胃気虚といえます。
脾胃気虚の代表的な症状としては食欲がない、食べると腹部が張る、軟便や下痢が何回も続くといったものが挙げられます。このようにクローン病を患っている方の根本には脾胃気虚があると考えられます。


しかしながら、脾胃気虚には激しい炎症や腹痛は見られません。これらの激しい症状は多くの場合、湿熱(しつねつ)が関与していると考えます。湿とは身体内において有効活用されない余分な水分のようなものであり、脾胃気虚などによって生み出されやすい病的物質です。


この湿が何らかの要因(湿の長期間の放置、暴飲暴食、ストレスなど)によって熱を帯びたものが湿熱です。湿熱が引き起こす症状としては激しい下痢(場合によっては血便)や腹痛、腹部の張り感、肛門周囲の化膿、口内炎、食欲不振、吐気、口の中の粘り、口の中の苦みや酸み、身体の重だるさと疲労感などが挙げられます。


出血はしばしば熱が暴れることによって起こると考えるので、湿熱における「熱」の性質が強く出ている場合に粘血便の症状が現れると考えられます。したがって、基本的にクローン病の根本には脾胃気虚があり、さらに脾胃気虚などによって生み出された湿熱がクローン病特有の症状を起こしていると考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたクローン病の治療


上記で説明したとおり、クローン病の根本には脾胃気虚があると考えられますが、特有の症状を起こしているのは湿熱でした。したがって、漢方薬を用いた根治療法としては脾胃の気を補い、対処療法としては湿と熱を除去する必要があります。実際に漢方薬を調合する場合にはこれら根治療法と対処療法を上手く組み合わせる必要があります。


基本的には症状が激しく出ている場合はそれらを抑えることに比率を置き、ある程度、症状が鎮まってきた段階で根治療法を開始するというのが「定石」です。まず、根治療法の核になるのは脾胃気虚を解消するために気を補う補気薬(ほきやく)たちです。具体的には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。


これらは消化器のはたらきを改善するはたらきに優れていますが、下痢症状が目立つ場合は湿の影響が強いと考えて水分代謝を促進する利水薬(りすいやく)である茯苓、猪苓、沢瀉、蒼朮などが追加されます。その他に山薬、蓮肉、薏苡仁、山査子は止瀉作用が優れているのでクローン病にしばしば用いられます。


対処療法としてはクローン病特有の激しい症状を起こしていた熱を鎮める清熱薬(せいねつやく)が用いられます。主に黄連、黄芩、黄柏、山梔子などが中心となります。これら清熱薬は湿を乾燥させるはたらきもあるので湿熱対策には一石二鳥です。


これら以外にも精神的ストレスが強い場合、それらが気の流れを滞らせることで脾胃を弱め、湿を生み出す原因にもなります。適宜、気の流れを円滑にする理気薬(りきやく)である柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などを検討する必要があります。


他にも痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍が顕著な場合はこちらの治療を優先させることもしばしばです。このようにクローン病に対する漢方薬は複数の要素をカバーしながら、症状の現れ方なども考慮に入れて構築してゆくことになります。


クローン病の改善例


患者は20代後半の男性・税務署勤務の公務員。20代前半のときから口内炎が多くできるようになりました。「一人暮らしを始めた時期と重なっていたので、最初の頃は食生活の乱れやビタミン不足かと考えてサプリメントを服用していました」がなかなか症状は鎮まりませんでした。


それから毎朝1日1回、順調だった便通が徐々に多くなり出血を伴う下痢も起こり始めました。右下腹部に刺し込むような痛みも起こるようになり、とうとう仕事にも支障が出るようになってしまいました。忙しさなどから病院には行っていませんでしたが「血便があまりにもショックで急いで消化器内科に行きました」とのこと。


受診した病院でクローン病と診断。ペンタサやプレドニンを中心に炎症を抑える薬が処方され、仕事も含めた日常生活はギリギリこなせるまで回復しました。その一方で消化器の不調と同じくらい倦怠感が強く、その改善を望まれて当薬局へご来局されました。


ご症状についてお話を伺うと、少しは軽減したものの下腹部の痛み、下痢、消化管からの出血が原因と考えられる貧血、そして疲れやすさなどに悩まされているとのこと。鉄剤を服用して貧血の数値自体は改善したとのことですが、顔色はすぐれませんでした。


クローン病のご症状は過労によって悪化しやすいので、繁忙期の年度末になると仕事を休んでしまうこともあるという。繁忙期での欠勤は同僚に大きな迷惑をかけてしまうので何とかしたいとおっしゃられていました。


この方のご症状は貧血によると思われる疲労感が顕著なため、まずそれに対応する方針を立てました。漢方薬の内容としては炎症を抑える生薬である黄連、黄芩、黄柏、山梔子、血を補う地黄、当帰、芍薬などから構成される漢方薬を服用して頂きました。血を補う漢方薬は胃に負担をかけることもあるので、食欲はあるとのことでしたが慎重に食後服用をお願いしました。


漢方薬を服用しはじめて4ヵ月くらいが経過した頃には右側の下腹部痛も緩和され、トイレに立つ回数も減少。顔色もご来局当時と比較すると徐々に良くなってこられました。しかしながら、「仕事が繁忙期を迎えて、その上さらに相続税絡みの仕事も増えてしまい大変……。ストレスも多く食欲が落ちてきている」ということで漢方薬に変更を行いました。


具体的には精神的なストレスを緩和し、さらに炎症を抑えるはたらきもある柴胡、気を補う白朮や甘草、血を補う当帰や芍薬などを中心とする漢方薬へチェンジ。体力の消耗を抑えるため可能な限り、睡眠不足にはならないようにお願いしました。


新しい漢方薬に切り替えてから2ヵ月が経った頃には「空腹感は無いけれど作業のようにとりあえず食事をしていた」という状態からは脱し、食欲は普段通りに戻りました。消化器に負担をかけない和食中心の食事を心がけたことも手伝って、腹痛や下痢だけではなく疲労感も気に病むレベルではなくなりました。


その後、繁忙期も含めて連続して欠勤することも無くなり、心配していた貧血症状はまれに立ちくらみはあるものの特に問題はないという。これは脾(消化器)の状態が安定したことで食べ物から生まれた気や血が充実し、気虚や血虚から改善したからと推察されます。この方は現在、体力強化の意味も含めて漢方薬の服用を継続されています。


おわりに


クローン病の主症状である頻回の下痢や腹痛は仕事や学生生活に大きな支障となってしまいます。下痢が長く続いてしまうと痔ろうや肛門周囲膿瘍のリスクも高まります。近年、免疫の過剰反応を抑える西洋薬が充実してきたことでクローン病治療の幅は大きく広がりました。その一方でそれらを使用しても改善が見られない方も少なくありません。


クローン病の原因はまだはっきりとしませんがストレスの多い生活、高脂肪食、過剰なアルコールや香辛料、食物繊維の不足などが症状を悪化させることも知られています。当薬局へはこれら生活習慣の改善と漢方薬の服用によって状況が好転する方がとても多くいらっしゃることから、クローン病と漢方薬とは「相性」が良いと実感しています。是非一度、クローン病でお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 神経性嘔吐症(心因性嘔吐症) 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)


当薬局では長年、神経性嘔吐症に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつは神経性嘔吐症はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬は神経性嘔吐症の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページでは神経性嘔吐症に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


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神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)とは


神経性嘔吐症とは主に精神的なストレスが原因で嘔吐してしまう病気であり、しばしば心因性嘔吐症とも呼ばれます。神経性嘔吐症には吐気が強く現れるのみで、ほとんど嘔吐しないケースもあります。この場合は神経性嘔気(おうき)症や心因性嘔気症と呼ばれたりもします。


吐気や嘔吐を引き起こす精神的ストレスには様々なものが挙げられます。お子様の場合には学校のイベント(学芸会や修学旅行など)、定期テストなどが代表的です。しかし、上記のような明確なストレス源が無い場合、または見つからない場合もしばしばです。


神経性嘔吐症はお子様に多い病気とされますが、成人にも見られる病気です。成人のケースでは仕事にまつわる事柄、例えば定期的な会議やプレゼンテーション、良好ではない人間関係などがストレス源となりやすいです。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の原因


神経性嘔吐症はお子様に多い病気でした。その理由は脳(より厳密には延髄)に存在する嘔吐中枢と呼ばれる部分がお子様の場合、まだ未発達だからと考えられています。嘔吐中枢が未発達だと少々の刺激によっても嘔吐や吐気が起こりやすくなってしまいます。


しかし、嘔吐中枢が成熟している成人でも処理しきれない過大なストレスがあればそれが刺激となって神経性嘔吐症を発症することがあります。したがって、神経性嘔吐症は嘔吐中枢のみに帰結される問題ではなく、ストレスの強弱も含めた問題といえます。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の症状


神経性「嘔吐」症という名前が示す通り、その中心的な症状は嘔吐になります。しかし、神経性嘔吐症を患っていても必ずしも嘔吐するわけではなく、乾嘔(からえずき)をともなう吐気や胃の不快感が主訴となるケースも多く見受けられます。神経性嘔吐症の間接的な問題として、嘔吐時の胃酸によって虫歯や食道炎、さらに摂食障害(拒食症)を引き起こしてしまう可能性が挙げられます。


症状の現れ方も常に吐気や嘔吐があるケース、イベント前などの緊張時に現れるケース、食前や食後に現れるケースなどさまざまです。吐気や嘔吐よりも食事に対する不安感や食欲低下が強く現れてしまうことも少なくありません。したがって、神経性嘔吐症の症状には個人差があり、その現れ方も十人十色といえます。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の西洋医学的治療法


基本的にはカウンセリングや薬物療法が用いられます。薬物療法の場合、主に制吐薬や抗不安薬などが使用されます。頻回に嘔吐してしまう場合は脱水症状にも注意を払う必要があります。


抗不安薬を用いる場合はその副作用である眠気やふらつき、さらに服薬初期は消化器系症状のトラブルも起こりやすいので充分注意する必要があります。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の漢方医学的解釈


神経性嘔吐症は主に気の滞りによって脾胃(消化器)の機能が低下して起こると考えられます。漢方用語で気の滞りのことを気滞(きたい)と呼びます。したがって、神経性嘔吐症は気滞によって引き起こされた病気といえるでしょう。


気滞のよって起こる典型的な消化器系症状としては吐気、嘔吐、ゲップ、食欲不振、胃痛、胃もたれ、下腹部痛、腹部の張り、ガスの溜まり、下痢や軟便などが挙げられます。消化器系以外の気滞による症状としてはイライラ感、落ち込み、不眠症などの精神症状などが代表的です。


そもそも気は身体内を巡る生命エネルギーのような存在であり、脾胃を含めた臓腑はこの気の力によって正常にはたらいています。そのような気は精神的なストレスや気の不足(気の不足を気虚(ききょ)とも呼びます)によって流れが滞ってしまうと充分に力を発揮できなくなるという特徴があります。


気は食べ物から脾胃のはたらきで生まれます。この考えは現代における生物学的に食べ物が糖質、アミノ酸、脂肪酸に分解されて、それらが身体活動の基礎となっている事実と似ています。


再び漢方医学の話に戻り、気の滞りは脾胃を含めた臓腑の機能を低下させてしまいます。したがって、一度、気の滞りが起きると「気の滞り(気滞)」→「脾胃の機能低下」→「気の不足(気虚)」→「さらに気が滞る」という負のサイクルに陥りやすくなってしまいます。


神経性嘔吐症に限らず、気滞によって起こる消化器系症状や精神症状がなかなか自然に治らず、慢性化しやすい背景には上記のような悪循環が深刻化している場合が多いです。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の治療


神経性嘔吐症は気の滞りによって起こる病気でしたので、その治療は気の流れをスムーズにすることが中心となります。気の流れを円滑にする生薬(理気薬)には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。この中でも陳皮や半夏は制吐作用に優れているのでしばしば神経性嘔吐症治療の漢方薬に用いられます。


気滞の症状に加えて慢性的な疲労感、身体の冷えなどの気虚の症状が強いようなら並行して気を補うことも大切となります。気を補う生薬(補気薬)としては人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが代表的です。


理気薬と補気薬は相性が良く、それらを組み合わせることで嘔吐や吐気だけではなく食欲不振や疲労感を効率的に緩和することができます。


上記に加えて精神症状が強い場合は竜骨、牡蠣などの鎮静作用に優れた生薬も用いられます。神経性嘔吐症は吐き気や嘔吐という症状を中心に、食欲不振や腹痛などさまざまな症状が付随しがちです。したがって、神経性嘔吐症は個人差の多い症状に対して臨機応変に漢方薬を調合する必要があります。


神経性(心因性嘔吐症)嘔吐症の改善例


患者は小学校6年生の男児。性格的には繊細で感受性が強く、低学年の頃から学芸会や運動会などの緊張するイベント前になると吐気を訴えていました。高学年になってもその傾向は治まらず、むしろ悪化してゆきました。今は特にイベントに関係なく日常的に吐気や腹痛があり、次第に食べること自体にも臆病になってしまったという。


心配されたお母様と一緒に小児科をまわり、最終的には神経性嘔吐症と診断されました。その小児科で制吐薬と少量の抗不安薬が処方されましたが、めまいやふらつきの副作用が強く出てしまい服用は中止。それでも何か薬はないかとお母様がネットで調べ、漢方薬の服用を思いつき当薬局へご来局。


詳しくご様子を伺うと、吐気は朝に強く、嘔吐を怖がるあまり最近は充分にご飯を食べられていないとのこと。栄養ドリンクや野菜ジュースなどの飲み物やゼリーなら抵抗感が少ないということで、水分中心の食生活になっていました。


体重も軽く、腕は細くて骨の「節」が目立っていました。顔色も青白く、貧血の可能性も考えられました。こちらのお子様には吐気を鎮める半夏、陳皮、食欲を増す人参、大棗、甘草などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬服用から3ヵ月が経つと、しばしば起こっていた嘔吐をすることはまったく無くなっていました。漢方薬も少し甘みがあるので(甘草と大棗の味だと思われます)、抵抗感なく服用できているということ。顔色も良くなり、元気も出てきたということで同じ漢方薬を服用して頂きました。


そして服用から半年が経過する頃には普通の食事も摂れるようになり、とても苦手だった外食も友達だけでも行けるようになっていました。中学生になり、部活動もはじめられましたが体力的にも問題はないとのこと。


吐気とそれに対する恐怖感は消え、性格も良い意味でアバウトになったとお母様がおっしゃられました。漢方薬はその後も体力強化と吐気予防の意味で継続して服用して頂いています。


おわりに


神経性嘔吐症はつらい吐気や嘔吐だけではなく、お子様の場合は食への抵抗感から食べる量が減り発育の妨げにもなります。大人の方にも神経性嘔吐症はしばしばみられ、仕事のストレスなどと重なり症状を悪化させてしまっているケースも見受けられます。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、吐気や食欲不振などの症状が少しずつとれてくることから、神経性嘔吐症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、神経性嘔吐症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 呑気症(空気嚥下症) 】と漢方薬による治療

呑気症(空気嚥下症)とは


呑気症(どんきしょう)とは意図せずに多くの空気を飲み込んでしまい、ゲップや腹部の張り、吐気といった不快感が生じるものです。呑気症はしばしば空気嚥下症(くうきえんげしょう)とも呼ばれます。


人間は普段から食事の際、食べ物や飲み物と一緒に空気も飲み込んでいます。一方で呑気症の場合はその量が多かったり、食事以外の時にも無意識に空気の飲み込みが行われてしまいゲップなどの症状が起こります。


呑気症では空気を吸い込んだことによる上記のような症状以外にも、歯のかみしめによる顎(あご)の痛み、首や肩の凝り感といった症状が起こることもあります。これらの症状を「噛みしめ呑気症候群」と呼びます。


呑気症(空気嚥下症候群)の原因


呑気症の原因はまだはっきりとわかっていませんが、精神的なストレスとの関連が強いと考えられています。特に緊張感や不安感が大きい時などに生じやすいとされています。


一方で呑気症によりゲップが繰り返されることで胃酸の逆流を誘発し、喉に炎症が起こってしまう逆流性食道炎の原因になってしまうこともあります。


呑気症(空気嚥下症)の症状


呑気症は空気の飲み込みによるゲップ、吐気、胸やけ、胃痛、腹部膨満感(お腹の張り)、ガス(おなら)といった症状を引き起こします。ゲップやガスを出すことで一時的に症状が緩和されることもありますが、多くの場合において症状はすぐにまた現れてしまいます。


患っている方は知人との会食の際など、ゲップやガスを出しにくい状況がよりストレスとなってしまい、症状が悪化する悪循環にも陥りやすいのが呑気症の特徴です。


大量の空気の吸い込みによっておこる胃腸症状に加えて、呑気の際に歯をかみしめてしまうことによっておこる「噛みしめ呑気症候群」と呼ばれる症状が現れることもあります。噛みしめ呑気症候群は無意識のうちに歯をかみしめてしまうことで起こる、顎の痛みやだるさ、肩首の凝り痛み、頭痛、眼痛、歯の摩耗とそれによる刺激に対しての痛みなどが含まれます。


呑気症(空気嚥下症)の西洋医学的治療法


呑気症は西洋医学的にその原因が不明確なので、西洋薬による治療法はまだ確立されていません。その一方で鎮吐薬や消化酵素薬といった消化管機能改善薬を用いるケースが多いです。それらに加えて精神症状が顕著な場合は安定剤の使用も検討されます。


呑気症(空気嚥下症)の漢方医学的解釈


呑気症は漢方医学において気滞との関連が深いと考えられます。気滞とは主に精神的ストレスなどによって気の巡りが悪くなることによって起こる病的状態です。


気滞によって起こる典型的な症状としては喉のふさがり感、ゲップ、胸部や腹部の膨満感、食欲不振、吐気、胃や腹部の張り痛み、ガス、下痢や便秘といった排便トラブル、憂うつ感やイライラ感、生理不順や生理痛、不眠など非常に多岐にわたります。


気の巡りが悪くなると上記の通り、精神症状に加えて消化器系の症状が起こりやすいことが知られています。呑気症は特に上腹部で生じた気滞による症状が顕著化した、胃気滞と呼ばれるケースと考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた呑気症(空気嚥下症)の治療


呑気症を気滞と捉えた場合、その治療方法は滞ってしまった気の巡りを改善する理気が中心となります。したがって漢方薬は気の流れを良くする柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの理気薬を含んだものがしばしば用いられます。


上記に加えて呑気症が慢性化すると空気を吸い込んでしまうことを過度に心配して食欲不振に陥ってしまうことも少なくありません。もし食欲不振、疲労感や気力の低下などの気虚(気の不足)症状も顕著なケースでは人参、黄耆、白朮、大棗、甘草などの補気薬も含めます。


呑気症の原因が気の滞りの場合、そこから連鎖的に気の不足やさらには血や津液の巡りにも支障が出てしまいます。したがって呑気症の治療には総合的な視野が欠かせません。「呑気症」という病名にだけこだわらず、心身においてどのようなトラブルが起こっているのかを把握することがとても大切です。


生活面での注意点と改善案


呑気症を気滞の一症状と考えた場合、過剰な精神的ストレスの蓄積は避けるべきです。しかしながら、ストレスは避けようとして避けられるものではありません。まず建設的な対処法としては休日や睡眠時間を削り過ぎないことが大切です。


そして食生活においては脂肪分や香辛料が多いもの、炭酸飲料は避けるべきです。加えてできる限り温かい食べ物を摂るように努めましょう。


気の巡りの改善には早歩き程度のウォーキングも有効です。心身がリラックスされ、筋肉の過剰な緊張による腹部の張り感や首肩凝りの改善にもつながります。噛みしめ呑気症が顕著な場合、マウスピースの装着も有効です。


呑気症(空気嚥下症)の改善例


患者は30代前半の男性・会社員。もともと緊張しやすく、緊張してしまうと吐気やゲップが出やすかったとのこと。現在の会社に就職し、先輩たちと一緒に食事を摂るようになると緊張からか吐気やゲップに加えて腹部の張り感も現れるようになったという。これらのご症状が出始めてからは、簡単にのみ込める麺類ばかり食べているとも。


消化器内科を受診して鎮吐薬と胃酸分泌を抑制する薬を半年服用してもご症状の改善は見られず、当薬局にご来局。ご様子を伺うと典型的な呑気症のご症状に加えて腹痛と便秘もあり、ご症状は消化器全体に現れていました。そこでまず呑気症などの原因は気滞によるものとみて、気を巡らす柴胡、芍薬、枳実、半夏、陳皮などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


服用から3ヵ月が経つとだいぶゲップや吐気といった上腹部のご症状は改善してきましたが、今度は疲労感や軟便が気になるとの訴え。そこで半夏や陳皮に加えて人参、白朮、茯苓などの気を補う漢方薬に切り替えてまた数ヶ月服用して頂きました。


服用から半年以上が経過したころにはほぼ呑気症と思われるご症状は消え、同僚たちとも問題なく会食が行えるまで回復されました。その一方で体格的にやせ形で体力も決して充実しているといえない方でしたので、引き続き、気を補いつつ巡りも改善するこの漢方薬を継続的に服用して頂いています。


おわりに


「呑気症」や「空気嚥下症」という病名は知名度が低い一方で、ゲップや吐気、膨満感といった症状に長年悩んでいる方は決して少なくありません。消化器内科や心療内科などを受診してもなかなか改善されないケースも多い病気です。


漢方薬を用いた呑気症の治療はその方の症状に合わせて調節が幅広く行える点が強みになります。当薬局をご来局の方の多くが典型的な呑気症の症状に加えて緊張感や不安感、過敏性腸症候群による腹痛や下痢なども併せ持っています。このような方にも対応できるのが漢方薬の優れた点です。呑気症でお困りの方は是非一度、ご来局頂ければと思います。

【 痔核(いぼ痔) 】と漢方薬による治療

痔について


痔とは肛門とその周辺で起こる病気の総称であり、主に痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)を含んだものといえます。これらは「痔」というひとつの病気にまとめられていますが、その症状や原因は大きく異なります。本ページでは痔核(いぼ痔)について解説を進めてゆきます。


なお、裂肛(切れ痔)については裂肛(切れ痔)と漢方薬による治療、痔ろう(あな痔)については痔ろう(あな痔)(肛門周囲膿瘍を含む)と漢方薬による治療のページをご参照ください。


肛門の構造について


肛門は主に肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の開閉によって排便をコントロールしています。肛門括約筋の上部(身体のより内側)には歯状線(しじょうせん)と呼ばれる直腸と肛門を隔てる「境界」のようなくぼみがあります。この歯状線の上部は痛みを感じにくい直腸粘膜になっており、下部の肛門上皮には知覚神経が存在するので痛みに敏感な部分となっています。


痔核(いぼ痔)とは


痔核(いぼ痔)は直腸や肛門の静脈がうっ血することで生じる凸状のいぼを指します。歯状線からより上部にできたものが内痔核、より下部にできたものを外痔核と呼びます。痔核(いぼ痔)は男女ともに多く、3種類の痔のうち最も占める割合が高い痔でもあります。


痔核(いぼ痔)の原因


痔核(いぼ痔)の代表的な原因には慢性的な便秘、排便時の力み過ぎ、長時間の座位などが挙げられます。女性の場合は妊娠や出産をきっかけに発症することも多いです。特に便秘は直腸や肛門に対して継続的に圧力をくわえて血行を悪くしてしまうので、痔核(いぼ痔)だけではなく裂肛(切れ痔)においても主要な発症原因となります。したがって、しばしば痔核(いぼ痔)と裂肛(切れ痔)は併発する傾向があります。


その他にも下半身の冷え、精神的なストレス、長時間の自転車の運転、激しい運動、辛い物やアルコールの摂り過ぎなども血行を悪くしたり炎症を助長させてしまうので痔核の原因となる恐れがあります。


痔核(いぼ痔)の症状


痔核(いぼ痔)の症状はその発症する部分によって異なります。肛門のより奥にあたる直腸に生じる内痔核では痛みを感じることはほとんどありません。したがって、内痔核の主な症状は出血となります。内痔核が慢性化してしまうといぼが大きくなり肛門から脱出することもあります。この状態を脱肛(だっこう)と呼び、いぼが下着に触れるなどして不快感を覚えることで外痔核を患っていると自覚するケースもしばしばです。


外痔核は歯状線からより下部、肛門の近くに生じる痔核(いぼ痔)なので場所によっては初期の段階から指で触れることができます。外痔核の起こる場所は知覚神経が存在するので便の通過といった刺激で強い痛みを生じます。くわえて内痔核と同様に痔核(いぼ痔)に傷が生じるとそこから出血も起こります。


痔核(いぼ痔)の西洋医学的治療法


西洋医学的な痔核(いぼ痔)の治療は薬物療法と手術療法の2つに大別されます。薬物療法は主に痔核(いぼ痔)の原因となる便秘を改善する薬、そして炎症や痛みを抑える薬などがもちいられます。薬物療法は症状の軽い痔核(いぼ痔)に対して選択されます。


手術療法では直接的に痔核(いぼ痔)の除去が行われます。手術方法としては痔核(いぼ痔)の根元をクリップで固定し、血流をせき止めることで壊死を誘発する方法が挙げられます。他にも痔核(いぼ痔)に薬剤を注射して患部の退縮を促す方法もとられます。


痔核(いぼ痔)の漢方医学的解釈


漢方の視点から痔核(いぼ痔)を考えると、血の滞りと便秘が主な原因と考えます。この他にも食生活の乱れ(アルコールや辛いものの摂り過ぎ)は身体内に悪性の熱を生じ、患部の炎症が強まってしまいます。痔核(いぼ痔)を由来とする出血が続くと気血の不足も問題となります。したがって、肛門周辺の症状にばかり注目するのではなく全身的なケアも大切となります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた痔核(いぼ痔)の治療


漢方薬による痔核(いぼ痔)の治療は血の滞りである瘀血(おけつ)の除去と便通の改善が中心となります。血の巡りを改善する生薬としては桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬が代表的です。便秘に対しては大黄、芒硝、麻子仁といった便通を促すものが繁用されます。一方で疲労感が強くて胃腸が弱いような方の便秘には、気の力を補って消化器の力を向上させる漢方薬も検討されます。


炎症が目立つ場合には黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏といった清熱薬を多く含んだ漢方薬を、出血が顕著な場合は阿膠や艾葉といった止血作用の優れた生薬を含む漢方薬をもちいます。すでに貧血によるめまいや立ちくらみがある方には血を補う地黄や芍薬に代表される補血薬を止血作用のある生薬と組み合わせた漢方薬が良いでしょう。


痔核(いぼ痔)の治療は上記のように血の巡りや便秘の改善が中心となります。その一方で痔核(いぼ痔)の症状は意外かもしれませんが個人差が大きいので、患っている方の体質や生活環境も考慮して漢方薬は調合されます。


生活面での注意点と改善案


痔核(いぼ痔)の主な発症原因・悪化原因は便秘です。したがって、便秘対策は痔核(いぼ痔)のケアと直結します。朝食を摂らなかったりダイエットで食事量を極端に減らしてしまうと消化器の動きが鈍り、便秘になりやすくなってしまいます。


日頃から積極的に摂りたい食品としては海藻類や野菜といった食物繊維を豊富に含んだものであり、これらは便通をスムーズにしてくれます。逆にアルコール類や辛い物は患部を刺激してしまうので控えましょう。強いお酒と一緒に辛いキムチを摂るような食生活は痔全般にとって良くありません。


便秘改善にくわえて血行を良くすることも重要です。毎日の入浴は肛門周辺を清潔に保つことで感染を防ぐだけではなく血行改善が期待できます。長時間のデスクワークは肛門周辺を常に圧迫することになるので、意識的に立ち上がり軽運動を行うことが望ましいです。


痔核(いぼ痔)の改善例


患者は30代後半の男性・化粧品会社の研究員。職業柄、机に向かっている時間がとても長く大学院生のころから痔核(いぼ痔)を患っていました。場所は肛門のすぐそばで入浴中に触れることができる位置に「小豆くらいのポコッとした膨らみがあるくらいだった」とのこと。


特に大きな不具合はなく忙しくもあったので放置していましたが、排便後のトイレットペーパーに鮮血が付くようになり病院を受診。診察によって外痔核だけではなく内痔核もあることが分かりました。病院から処方された炎症を鎮める座薬を使用すると一時的には改善するもすぐに再発。手術も検討しましたが、再発する可能性もあると伝えられて一旦保留。当薬局にご来局へ。


ご様子を伺うと肛門に近接している外痔核は徐々に大きくなってしまい、痛みが起こるようにもなっていました。「仕事中は頻繁に座る位置をずらさないと痛みで落ち着かない」という。症状が急に悪化した時期は社内の一時的な異動でストレスがとても強かったとのこと(現在はもとのセクションに戻っている)。


この方には血を巡らすことを得意とする桃仁や牡丹皮を中心とする漢方薬を服用していただきました。くわえて外痔核には傷の回復を促進する軟膏の紫雲膏(しうんこう)を塗っていただくことに。漢方薬をはじめて2ヵ月が経つと外痔核の痛みはなくなり、発症当時の小豆サイズ以下にまで縮んでいました。


順当に回復していると考えて同じ漢方薬を調合していましたが、いぼの退縮と比較してなかなか便通後の出血が治まりませんでした。そこで止血作用に優れている阿膠や艾葉を含んでいる漢方薬に変更を行いました。


新しい漢方薬に変更して3ヵ月程が経過すると内痔核由来の出血は止まり、トイレットペーパーや便器に血が付くことはなくなりました。出血が止まったためか以前と比較して疲労も感じにくくなったとのこと。その後は痔核(いぼ痔)の再発予防の意味を含めて最初に調合した血の巡りをスムーズにする漢方薬に変更。椅子にはクッションを置いたり、意識して身体を動かすなどの改善策も効果を上げ、この方は痔核(いぼ痔)や出血が再び起こることなく過ごされています。


おわりに


痔核(いぼ痔)を含めた痔全般は命にかかわる病気ではありません。その一方で外痔核は特に痛みが強く現れやすく、患ってしまうとデスクワーク中心の方にとってはつらい病気といえます。内痔核が慢性化すると出血によって貧血に陥ってしまうケースもみられます。


漢方において痔核(いぼ痔)治療は患部にのみ着目するのではなく、血の巡りの状態を中心に全身のご症状やご体質をもとにして薬を調合します。このような西洋医学とは異なったアプローチを行うことで慢性的な痔核(いぼ痔)の改善に良い結果が出ております。なかなか改善されない、または再発を繰り返してしまうような痔核(いぼ痔)にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 裂肛(切れ痔) 】と漢方薬による治療

痔について


痔とは肛門とその周辺で起こる病気の総称であり、主に痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)を含んだものといえます。これらは「痔」というひとつの病気にまとめられていますが、その症状や原因は大きく異なります。本ページでは裂肛(切れ痔)について解説を進めてゆきます。


なお、痔核(いぼ痔)については痔核(いぼ痔)と漢方薬による治療、痔ろう(あな痔)については痔ろう(あな痔)(肛門周囲膿瘍を含む)と漢方薬による治療のページをご参照ください。


肛門の構造について


肛門は主に肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の開閉によって排便をコントロールしています。肛門括約筋の上部(身体のより内側)には歯状線(しじょうせん)と呼ばれる直腸と肛門を隔てる「境界」のようなくぼみがあります。この歯状線の上部は痛みを感じにくい直腸粘膜になっており、下部の肛門上皮には知覚神経が存在するので痛みに敏感な部分となっています。


裂肛(切れ痔)とは


裂肛(切れ痔)とは肛門の皮膚(肛門上皮)が切れてしまった状態を指します。肛門上皮には痛みを感じる知覚神経が通っているので、裂肛(切れ痔)の主な症状は痛みと出血になります。裂肛(切れ痔)は便秘が主な原因となり、この点は痔核(いぼ痔)と共通しています。したがって、裂肛(切れ痔)は痔核(いぼ痔)と併発するケースがしばしばみられます。


裂肛(切れ痔)は比較的、女性に起こりやすいタイプの痔です。これは男性よりも女性の方が体質的に便秘になりやすいからと考えられています。くわえて肛門括約筋の力がより強い、肛門がより締まりやすい若年層が患いやすいです。


裂肛(切れ痔)の原因


裂肛(切れ痔)の主な原因は慢性的な便秘です。これは固い便が肛門上皮を通過する際に同部を傷つけてしまうからです。裂肛(切れ痔)は排便時に強い痛みが起こるので、裂肛(切れ痔)を患っている方は排便を我慢しがちになってしまいます。そうなると便秘は悪化し、固い便が肛門上皮によりダメージを与えてしまいます。


裂肛(切れ痔)の主な原因は便秘でしたが、下痢もその原因となります。これは下痢が長く続くと肛門上皮に炎症が起こりやすくなり、結果的に炎症の生じている部分がもろくなってしまうからです。したがって、裂肛(切れ痔)は便秘と下痢を含めた便通トラブル全般によって引き起こされる病気といえます。


裂肛(切れ痔)の症状


裂肛(切れ痔)の特徴的な症状は鋭い痛みと出血です。発症初期のころは痛みが生じるのは排便時や排便直後ですが、慢性化すると排便に関係なく痛みが起こります。裂肛(切れ痔)による出血量は多くはありませんが、長期間放置すると貧血になってしまう恐れもあります。


裂肛(切れ痔)を繰り返してしまうと次第に患部が盛り上がり、肛門ポリープを形成してしまうこともあります。肛門ポリープは通常の肛門上皮と比較して伸縮性が弱く、便の通り道が狭くなってしまいます。結果的に排便をさまたげられ、便秘をより悪化させてしまいます。このような状態を肛門狭窄(こうもんきょうさく)と呼びます。


裂肛(切れ痔)の西洋医学的治療法


裂肛(切れ痔)の西洋医学的な治療は薬物療法と手術療法に分けられます。薬物療法では便秘を改善する薬、痛みや炎症を鎮める薬、そして細菌感染を防ぐ抗生物質などが治療の中心となります。手術療法は主に中程度から重度の裂肛(切れ痔)に対して行われます。その内容としては狭窄が顕著な場合は肛門の拡張、傷が深い場合は患部の縫合が実施されます。


裂肛(切れ痔)の漢方医学的解釈


漢方の視点から裂肛(切れ痔)を考えると、便秘と血の滞りが主な原因と考えます。前者の便秘はイメージ通りだと思いますが、漢方において傷や打撲で生じる病変は血がうまく巡っていない状態ととらえます。裂肛(切れ痔)では高頻度で出血を伴うので、血の消耗も見逃せない問題となります。


この他にも食生活の乱れ(アルコールや辛いものの摂り過ぎ)は身体内に悪性の熱を生じ、患部の炎症が強まってしまい治療を難しくします。したがって、肛門周辺の症状にばかり注目するのではなく全身的なケアも大切となります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた裂肛(切れ痔)の治療


漢方薬による裂肛(切れ痔)の治療は便秘の改善と血の滞りである瘀血(おけつ)の除去が中心となります。便秘に対しては大黄、芒硝、麻子仁といった便通を促す生薬を多く含んだ漢方薬が使用されます。一方で胃腸虚弱で疲れやすい体質の方の便秘に対しては気の力を補って消化器の力を向上させる、排便する力を向上させる漢方薬がより適しています。


血の巡りを改善するには桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬を豊富に配合した漢方薬がもちいられます。特に延胡索(えんごさく)は鎮痛作用にも優れているので痛みの強い裂肛(切れ痔)に適しています。


患部の炎症が目立つ場合には黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏といった清熱薬を多く含んだ漢方薬を、出血が顕著な場合は阿膠や艾葉といった止血作用の優れた生薬を含む漢方薬をもちいます。すでに貧血によるめまいや立ちくらみがある方には血を補う地黄や芍薬に代表される補血薬を止血作用のある生薬と組み合わせた漢方薬が良いでしょう。


裂肛(切れ痔)の治療は上記のように便秘や血の巡りの改善が中心となります。その一方で裂肛(切れ痔)の症状は意外かもしれませんが個人差が大きいので、患っている方の体質や生活環境も考慮して漢方薬は調合されます。


生活面での注意点と改善案


裂肛(切れ痔)の主な発症原因・悪化原因は便秘です。したがって、便秘対策は裂肛(切れ痔)のケアと直結します。朝食を摂らなかったりダイエットで食事量を極端に減らしてしまうと消化器の動きが鈍り、便秘になりやすくなってしまいます。


日頃から積極的に摂りたい食品としては海藻類や野菜といった食物繊維を豊富に含んだものであり、これらは便通をスムーズにしてくれます。逆にアルコール類や辛い物は患部を刺激してしまうので控えましょう。強いお酒と一緒に辛いキムチを摂るような食生活は痔全般にとって良くありません。


便秘改善にくわえて血行を良くすることも重要です。毎日の入浴は肛門周辺を清潔に保つことで感染を防ぐだけではなく血行改善が期待できます。長時間のデスクワークは肛門周辺を常に圧迫することになるので、意識的に立ち上がり軽運動を行うことが望ましいです。


裂肛(切れ痔)の改善例


患者は30代前半の女性・中学校教師。20代後半に出産を経験し、その頃から裂肛(切れ痔)ができやすい体質になってしまいました。最初のうちはあまり気にしていませんでしたが出産から1年が過ぎた頃になると裂肛(切れ痔)による出血がトイレットペーパーにしばしば付着するように。痛みも激しく「トイレのたびにビリリッと電気が走ったような痛みがある」という。次第に長時間座っているのがつらい状態にまで悪化してしまいました。


困り果てて当薬局にご来局される頃には裂肛(切れ痔)だけではなく、ボコッと5ミリくらいの痔核(いぼ痔)が形成され、そこからも出血して下着が汚れてしまうことも。仕方なく勤務中などは生理用パットを常に着用するまでになっていました。


この方は便秘をきっかけに血の巡りが妨げられてしまったと考え、血流を改善する生薬である桃仁や延胡索に加えて止血効果のある阿膠と艾葉から構成される漢方薬を服用して頂きました。それと併せて皮膚の再生を促す紫根を中心とする軟膏剤である紫雲膏(しうんこう)を患部に塗ってもらうことにしまいた。生活習慣の面においては炎症を助長する刺激物(アルコール類や辛い物など)などの摂取を控えるようお伝えしました。


漢方薬を服用し始めて4ヵ月が経過する頃には裂肛(切れ痔)による痛みは半分程度にまで改善されていました。トイレットペーパー越しからもわかる大きさであった痔核も小さくなったとのこと。漢方薬にくわえて職員室でデスクワークを行うときは円形クッションを使うなど生活面の改善も功を奏したと考えられます。一方でまだ出血が残っており、やや貧血気味で立ちくらみがあるとの訴えがあったので血を補う地黄や芍薬などから構成される漢方薬に変更へ。


この漢方薬を服用して約3ヵ月が経った頃には切れ痔(裂肛)からの出血も無くなり、トイレットペーパーがピンク色っぽく変色することもなくなりました。痔核(いぼ痔)自体も凸状に出てくることなく、下着に当たって痛むことはなくなりました。新しい漢方薬の方が便通もスムーズということもあり、現在も予防の意味も込めて同じ服用を継続していただいています。


おわりに


裂肛(切れ痔)になってしまうきっかけは便秘を中心とした便通のトラブルでした。これにくわえて精神的なストレスによって裂肛(切れ痔)になってしまうケースも少なからず見受けられます。ストレスは下痢や便秘を繰り返す過敏性腸症候群に代表される、消化器系の不調を起こす原因となります。結果的に精神的な負担によって裂肛(切れ痔)になりやすい環境が生まれてしまうのです。


慢性的なストレスは現代人にとって避けることのできない問題です。したがって、裂肛(切れ痔)は現代病としての側面もあるといえます。漢方薬をもちいた裂肛(切れ痔)の治療はこのような精神面へのケアも含めて、心身全体を視野に入れて治療を行います。長患いの裂肛(切れ痔)にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 痔ろう(あな痔)(肛門周囲膿瘍を含む) 】と漢方薬による治療

痔について


痔とは肛門とその周辺で起こる病気の総称であり、主に痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)を含んだものといえます。これらは「痔」というひとつの病気にまとめられていますが、その症状や原因は大きく異なります。本ページでは裂肛(切れ痔)について解説を進めてゆきます。


なお、痔核(いぼ痔)については痔核(いぼ痔)と漢方薬による治療、裂肛(切れ痔)については裂肛(切れ痔)と漢方薬による治療のページをご参照ください。


肛門の構造について


肛門は主に肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の開閉によって排便をコントロールしています。肛門括約筋の上部(身体のより内側)には歯状線(しじょうせん)と呼ばれる直腸と肛門を隔てる「境界」のようなくぼみがあります。この歯状線の上部は痛みを感じにくい直腸粘膜になっており、下部の肛門上皮には知覚神経が存在するので痛みに敏感な部分となっています。


痔ろう(あな痔)とは


痔ろう(あな痔)とは細菌感染による化膿によって肛門内と肛門外を結ぶ穴ができてしまう病気です。症状としては患部の腫れと痛み、膿の排出、高熱などが挙げられます。痔ろうの簡単なイメージとしては「肛門以外の穴が化膿によって肛門の近くにできてしまう病気」といえます。なお「痔ろう」という病名の漢字表記は「痔瘻」であり、「瘻」には「腫れ物」という意味があります。


細菌感染は多くの場合、歯状線にある溝に便がたまることをきっかけに起こります。溝にたまった便に潜んでいる大腸菌などが化膿を起こし、そこに膿だまりである肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)が形成されます。この肛門周囲膿瘍が悪化し、成長してゆくといよいよ皮膚を破って肛門内から肛門外に続く穴ができてしまいます。これが痔ろう(あな痔)ができるまでの基本的な流れとなります。


痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)は便秘によって起こりやすくなる痔でした。一方の痔ろう(あな痔)は下痢が主な原因となります。これは液状の下痢の方が歯状線のくぼみに便が残りやすいからです。したがって、日頃から下痢になりやすい方、特定の病気によって下痢が慢性的に続いているような方は注意が必要です。


痔ろう(あな痔)の原因


痔ろう(あな痔)の主な原因は下痢です。慢性的な下痢を引き起こす病気に潰瘍性大腸炎やクローン病が挙げられます。したがって、潰瘍性大腸炎やクローン病を患っている方はしばしば痔ろう(あな痔)を併発してしまうことがあります。その他にもアルコールや辛い物の摂り過ぎ、精神的なストレス、免疫力の低下なども痔ろう(あな痔)の原因となります。


痔ろう(あな痔)が男性に多い理由としては飲酒機会の多さや食生活の乱れをきっかけとする下痢が女性よりも多い点が挙げられます。他にも精神的な緊張の高まりによって起こる過敏性腸症候群においても、女性は便秘の症状が現れやすいのに対して男性は下痢になりやすい傾向があります。


痔ろう(あな痔)の症状


痔ろう(あな痔)の主な症状は肛門周辺の腫れによる痛み、患部からの膿の排出、高熱などが挙げられます。 ある程度の膿が体外に排出されると一時的に症状はやわらぎます。しかし、歯状線付近にくぼむができていることに変わりはないので再び膿がたまってしまうことになります。つまり、痔ろうは一度発症するとなかなか改善の難しい痔といえます。


痔ろう(あな痔)の西洋医学的治療法


西洋医学的な痔ろう(あな痔)の治療はほぼ手術療法に限定されます。この点が痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)といった他の痔と異なる点です。手術の方法は直接的に痔ろう(あな痔)によって形成された穴をくりぬく方法や、特殊なゴムをもちいて徐々に穴をふさいでゆく方法などがとられます。


痔ろう(あな痔)の漢方医学的解釈


漢方の立場から痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍を考えると、その発症には身体内に生じている悪性の熱や気血の不足が関係しているケースが多いです。「悪性の熱」とは西洋医学的な発熱のことではなく暴飲暴食や精神的ストレスの蓄積などによって生じるものです。このような熱が身体内にこもっているとさまざまな炎症が起こりやすくなってしまいます。気血の不足は抵抗力の低下を引き起こし、感染が容易に広がってしまいます。


その他にも痔ろう(あな痔)と肛門周囲膿瘍による強い痛みには血の流れが悪くなっている瘀血(おけつ)の状態もかかわっています。気血の不足は消化器の不調や痔ろう(あな痔)以外の病気による体力の消耗などが考えられます。


このように個人によって痔ろう(あな痔)発症の原因やその後の経過は異なります。したがって、同じ痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍という病名の方でもその対応方法はそれぞれ異なることになります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた痔ろう(あな痔)の治療


漢方薬による痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍の治療は身体内にこもっている熱を除いたり、気血を補うことで抵抗力を底上げすることが中心となります。その他にも積極的に膿を排出したり、血の巡りを改善したりすることも大切となります。


患部の熱感や痛みが強い場合は熱を鎮める黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏などの清熱薬を多く含んだ漢方薬がもちいられます。胃腸が弱く、下痢や軟便になりやすい方には消化器の状態を改善して気を補う人参、黄耆、大棗、白朮、甘草といった補気薬が配合されている漢方薬がより適しています。しっかりと気を補うことは痔ろう(あな痔)の再発防止にもつながります。


慢性的な患部からの出血や痔ろう(あな痔)が長患いになっている方は血の不足が心配されます。このようなケースでは地黄、当帰、芍薬、阿膠などの補血薬を必要になります。まだ膿が充分に出ていない場合は排膿作用に優れている桔梗や枳実を含んだ漢方薬をもちいます。


上記の他にも血の流れの改善や傷の回復を促進する漢方薬も状態によっては必要になります。このように痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍を患っている方の症状や体質、痔ろう(あな痔)以外のトラブルの有無などによっても治療方針は異なってきます。


生活面での注意点と改善案


一度、痔ろうが完成してしまうと生活習慣を変えるだけで好転させることは困難と言われています。その一方で再発防止の観点から生活の見直しは有効です。まず、痔ろう(あな痔)の主な原因は慢性的な下痢なので下痢対策がとても大切となります。アルコールや冷たい清涼飲料水の摂り過ぎ、野菜不足(食物繊維不足)の食生活には注意が必要です。くわえて過労や睡眠不足は免疫力を低下させ、細菌感染を起こりやすくしてしまいますので余裕を持った生活サイクルを心がけましょう。


痔ろう(あな痔)の改善例


患者は50代前半の男性・製薬会社の会社員。40代前半に一度、痔ろうを患い手術を行っていました。手術後数年間は安定した状態が続いていたとのことですが、地元の福岡を離れて東京に単身赴任をきっかけに痔ろう(あな痔)が再発してしまったという。


ご本人は「接待などでお酒を飲む機会も多くなり、仕事も忙しくて生活全体がやや乱れた時期だった」とのこと。再手術を検討しましたが、病院の提案する手術が3週間ほどの入院が必要ということでいったん保留。入院ができるくらい仕事量が落ち着くまで何かしたいと思いたち当薬局へご来局。


お話を伺うと患部から膿と腫れによる少々の痛みがあるとのこと。強く発熱することはない。最も気になるのは膿が下着を汚してしまうことでした。そこでこの方には膿の排出を促進する桔梗や枳実から構成される漢方薬を服用していただきました。くわえて接待でのお酒の量は極力減らすようお願いしました。


最初の1ヵ月は以前より多く膿が出たとのことですが徐々に量は減り、漢方薬の服用から3ヵ月が経過すると下着を汚してしまうことはなくなったとのこと。患部の痛みもこれに比例して減少。この段階で、もともと緊張すると腹痛や軟便になりやすいと伺っていたので筋肉の緊張を緩和する芍薬と肌の回復を促す黄耆を含む漢方薬を服用していただくことにしました。くわえて患部には傷の回復を促進する紫雲膏(しうんこう)を塗っていただくことに。


漢方薬を変更して4ヵ月程度が経つと、開口部だった部分の腫れも鎮まり痔ろう(あな痔)を自覚するような症状はほぼなくなりました。腹痛にくわえて便通もよくなり、一定の固さの便が1日1回に固定されたとのこと(以前は日によって2~3回の便通があった)。


この頃、季節は夏となり「毎年、梅雨になると夏バテしてお腹の調子も悪くなる」ということだったので、気を補い消化器の力を向上させる人参や白朮を含んだ漢方薬へ再変更。その後、梅雨の時期になっても顕著に身体が重くなったり以前のように軟便に戻ることなく過ごされました。


通算して漢方薬を1年弱服用した頃に単身赴任が終了し、自宅のある九州へ戻ることになりました。仕事も一時期の忙しさではなくなったことを契機に最初の手術を行った地元の病院を受診。すると「現状では特に手術の必要はない」という診断がおりたとのこと。


その後、漢方薬は梅雨の時期になるとご注文が入り福岡へ発送するパターンが続きました。家族のいる自宅からの通勤となり生活環境が好転したのも手伝ってか、肛門の周りに腫れが出ることなく今も過ごされています。


おわりに


痔ろう(あな痔)は痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)と比較すると発症の頻度は高くありません。その一方で発症すると治療が難しく再発もしやすいことが知られています。痔ろうに対して西洋医学的な治療法はほぼ確立していますが、場合によっては入院期間が数週間に及んでしまうこともあります。


社会人の場合、数週間とはいえ入院治療がすぐに行えないケースもあるでしょう。手術後も軟便が続き再発を心配されている方も少なくありません。痔ろうの治療は手術療法が最優先されますが、上記のようなケースの方で状態が好転するケースはしばしばです。慢性的な痔ろう(あな痔)や痔ろう(あな痔)手術後の体質改善をご検討の方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 舌痛症 】と漢方薬による治療

舌痛症とは


舌痛症(ぜっつうしょう)とは舌に器質的な異常がないのに痛みが起こる病気です。「器質的な異常がない」とは舌に傷や潰瘍などの眼に見える異常が存在しない状態という意味です。くわえて、炎症を感知するような臨床検査値にも異常は現れないため、舌痛症は客観的に有無や程度を把握するのが困難な病気といえます。


舌痛症の発症には男女比がみられ、更年期を迎える40~50代の女性に多いことが知られています。研究によって幅はありますが、女性の方が男性に比べて10倍近く発症しやすいという報告もあります。


舌痛症の原因


舌痛症の明確な原因はまだ明らかになっていません。一方で更年期の女性に多い点などからホルモンとの関連や遺伝的な要因が関係しているという説が挙げられています。くわえて精神的なストレスや歯科治療(入れ歯の挿入や矯正など)をきっかけに症状が悪化したり慢性化しやすいことが知られています。


純粋な舌痛症とは異なり、舌に痛みを起こす病気などは多岐にわたります。具体的には亜鉛や鉄分といったミネラル不足、ビタミンB12に代表されるビタミン不足、薬の副作用によるドライマウス、口の中が乾燥してしまうシェーグレン症候群や糖尿病、口内炎を起こすベーチェット病、帯状疱疹ウイルスやヘルペスウイルスへの感染、口腔カンジダ症などが挙げられます。舌痛症の診断を確定させるためにはこれらの可能性を排除する必要があります。


舌痛症の症状


舌痛症の痛みの現れ方やその表現には大きな個人差があります。そのなかでも焼けるようなヒリヒリ感と表わす方が多く、このことから舌痛症は口腔内灼熱症候群(こうくうないしゃくねつしょうこうぐん)、バーニングマウス症候群とも呼ばれます。


他にも針で刺されるようなチクチク感やピリピリ感があったり、痛む場所がコロコロと変わるケースもしばしばです。痛み以外にも味覚の低下、舌の乾燥感、しみるような感覚、しゃべりにくさ(ろれつが回らない)、食欲の低下、吐気、漠然とした違和感などを訴えられる方もいらっしゃいます。


痛みの強度も持続的であり日常生活や仕事が困難になるようなケースから、たまに痛む程度まで様々です。その一方で食事を摂っている時、睡眠時、発声時、午前中などでは痛みが軽快しやすいことが知られています。痛む場所は舌の先端である舌尖(ぜっせん)から側面の舌縁(ぜつえん)に到る「Uの字」に現れやすいです。


慢性的に痛みが強く現れる方の場合、精神的に追い込まれてうつ病を患われてしまうケースもあります。しかしながら、舌痛症からガンといった重篤な病気に繋がったり、他者にうつる(感染する)といった報告はないので過度な心配は禁物といえます。


うつ病ほどではなくても痛みによるストレスで胃痛や腹痛、首肩の凝り、頭痛、頭重感、眼精疲労、めまい、不眠、疲れやすさといった自律神経失調症と考えられる症状を訴えられる方もいらっしゃいます。


舌痛症の西洋医学的治療法


舌痛症の原因が不明なため、西洋医学的な治療法は確立されていません。一方で精神的なストレスで悪化する傾向が顕著な方に対しては、抗うつ薬や抗不安薬が持つ鎮痛効果を期待してしばしば用いられます。


具体的にはエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)、ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)、ソラナックス(一般名:アルプラゾラム)、デパス(一般名:エチゾラム)、ランドセンやリボトリール(ともに一般名:クロナゼパム)、リーゼ(一般名:クロチアゼパム)、リフレックスやレメロン(ともに一般名:ミルタザピン)、ルボックス(一般名:フルボキサミン)などが挙げられます。


他にも神経のトラブルによって生じる痛みである神経障害性疼痛を鎮めるリリカ(一般名:プレガバリン)、ビタミンB12製剤であり末梢神経の傷を回復させるメチコバール、亜鉛を含んだ胃粘膜保護薬であるプロマック(一般名:ポラプレジンク)、その他にも胃酸を抑制する薬や副腎皮質ステロイド薬の軟膏剤などもしばしば使用されます。


舌痛症の漢方医学的解釈


漢方医学的な視点から舌痛症を考えると、何らかの原因で身体の内部で発生した熱が関与していると考えます。この熱は西洋医学的な体温計で測れる「熱(発熱)」を指しているのではなく、漢方独自の概念である「熱」となります。


具体的には精神的なストレスの蓄積、辛い物やアルコールの摂り過ぎ、感染症などによって引き起こされた熱が五臓六腑(ごぞうろっぷ)を侵し、結果的に舌の痛みを生じさせます。このケースの熱は実熱(じつねつ)に分類され、舌痛症にくわえてどの五臓六腑が障害されているかによって舌の痛み以外の症状が発生します。


他にも身体を適度にクールダウンする津液(しんえき)や血(けつ)といった物質が過労、慢性病に対する闘病、加齢などによって減少することで発生する熱も存在します。この場合の熱は身体に必要なものが虚したことで起こる熱なので虚熱(きょねつ)と呼ばれます。


さらに熱以外にも消化器の力が低下している脾虚(ひきょ)の状態でも舌に痛みが現れることがあります。経験的に舌痛症の痛みは挙げてきた複数の原因が重層的に絡んだ結果として起こっているという印象を受けます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた舌痛症の治療


舌痛症の原因が熱による場合、その熱を鎮める漢方薬をもちいることで痛みを除くことが出来ます。もし熱が虚熱の場合、津液や血を補う漢方薬が舌痛症の根本治療につながります。多くの場合、虚熱であっても少量の熱を鎮める生薬をもちいて、積極的に熱によって生じている痛みの軽減を図ります。


熱を抑える代表的な清熱薬(せいねつやく)としては黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏などが挙げられます。これらの生薬を含む漢方薬は舌の灼熱感が強く、色は赤々としている実熱の舌痛症に有効であることが多いです。


津液を補う代表的な滋陰薬(じいんやく)には麦門冬、天門冬、枸杞子などが挙げられます。血を満たす補血薬(ほけつやく)には地黄、芍薬、当帰、酸棗仁、竜眼肉などが使用されます。これらを含む漢方薬は虚熱による舌痛症治療の中心となります。虚熱による舌痛症の特徴としては口腔内の乾燥感、舌がV字に痩せている、舌に深い溝がある点などが挙げられます。


他にも疲労感が強くて食が細い方には消化器の調子を改善する補気薬(ほきやく)を多く含んだ漢方薬も使用されます。このように舌痛症の治療には原因ごとに内容が異なった漢方薬が使用されることになります。


舌痛症の改善例


改善例1

患者は50代前半の女性・パート勤務。40代後半頃からしばしば舌の先にヒリヒリする違和感を覚え始めていました。一方で普段の生活に支障が出るわけでもなく、食事や会話に問題はなかったので症状は放置していました。


しかしながら、更年期障害と考えられる強いのぼせ感、イライラ感、寝つきの悪さ、重だるさなどが現れ始めると比例して舌の違和感も増大。徐々に熱感をともなう痛みに変わってゆきました。さすがに家事やパートの仕事をこなすのが辛くなり、婦人科を受診しました。


婦人科からは低用量ピルが処方され、服薬を開始。酷かったのぼせはだいぶ楽になり、その他の症状も緩和されました。一方で舌の痛みは変わらず、逆に食欲の増加と口臭が起こるようになってしまいました。婦人科からは心療内科も勧められましたが抵抗があり、漢方薬での治療を希望し当薬局へご来局。


ご症状を伺うと、舌の痛みは常にある一方で「何かを食べていると痛みが弱まるので、ついつい間食が多くなってしまった」とのこと。結果的に体重は増加傾向で、痛みが強くなり始めてから5~6kgは増えてしまったという。舌の状態は舌尖にやや赤みがあり、黄色くて厚い舌苔(ぜったい)がありました。


この方には過剰な熱を鎮める黄連や黄芩などから構成される漢方薬を調合しました。最初のうちは苦くて服用が大変だとこぼされていましたが、数ヵ月が経つと「逆に苦みで身体が引き締まるような気がする」と慣れられたご様子。舌の痛みは少しずつ軽減され、痛みを感じない時間帯もあるとのこと。間食も減ったので体重は2kgほど減りました。


同じ漢方薬を粘り強く継続して頂き、半年強が過ぎる頃になると舌尖の赤みは弱まり舌苔も薄く白色に変わりました。痛みも順調に緩和し、以前の弱い違和感を覚えるレベルにまで鎮まりました。くわえて「子供たちから口が臭いといわれなくなった」とのこと。


舌痛症が改善された後も漢方薬を服用していると些細なことでイライラすることも減り、睡眠も深くとれるようになったということで継続服用して頂いています。なかなか改善されなかった重だるさも体重が更年期障害発症前の水準まで減ると、大きく軽減されました。


改善例2

患者は40代後半の女性・大学職員。数年前から舌の側面に傷が出来ているような痛みが現れました。最初のうちは知らない間に舌を噛んでしまったかと思い、特にケアもせず過ごしていましたが痛みは消えませんでした。口内炎のたぐいかと考えて市販のビタミン剤を使用しても効果はなし。


定期的に歯のクリーニングで受診している歯科医に相談すると初めて舌痛症の可能性を指摘されました。紹介された内科で血液検査などを行っても異常は見られず、舌痛症と診断されました。内科からは少量の抗不安薬を処方されましたが、服用するとめまいでフワフワしてしまい継続できず、漢方薬での治療を希望し当薬局へご来局。


ご症状を伺うと舌の痛みは一定ではなく、職場で強くなりやすい傾向がある。痛む場所は舌の中央が多く「4~5本の極細の焼けた針でチュンチュンと突かれたような痛みがある」という。舌痛症以外の症状としては喉のつまり感、吐気、食欲の低下、腹部の張り、緊張のしやすさと気分の沈み、疲労感が挙げられました。


くわえて「今の職場は神経質な人が多くて、いつも空気がピリピリとしている」とのこと。さらに仕事以外にも同居している義理の母の介護も重なり、精神的な負担はかなり強い状態。舌の状態はやや厚い白色の舌苔があり、潰瘍や傷のような外観の異常はなし。顔色は青白く、体型はやせ形。


この方は気の滞りにくわえて気自体が不足していると考えました。そこで気をスムーズに巡らす香附子や蘇葉、気を補う人参や白朮などから構成される漢方薬を調合しました。くわえて気の流れを良くするため、疲れを持ち越さない程度にウォーキングをお願いしました。職場でも何か理由を付けて歩いてもらい、座りっぱなしは避けて頂きました。


漢方薬を服用して3ヵ月程が経過すると徐々に食欲が高まり、吐気や喉が塞がったような不快感は薄れてゆきました。一方で痛みに大きな変化はありませんでした。変更も考えましたが、ご本人が「すぐに疲れて横になることも減り、少しずつ体力的にも精神的にも楽になってきている」とおっしゃられたので同じ形で継続。


さらに数ヵ月が経つと舌の真ん中に生じていた痛みの範囲が小さくなり、緊張が高まる場面でも以前ほど痛みが気にならなくなりました。引き続き、消化器を含めた体調全般が安定していたのでその後も同様の漢方薬を服用して頂きました。


最終的には1年半ほど漢方薬を続けて頂き、舌痛症による痛みはほぼ消失。仕事中はいつも緊張して身体に力が入っている不快な感覚がありましたが、そちらも楽になりました。その後は消化器重視のケースと緊張緩和重視のケースで漢方薬を使い分けしつつ、舌痛症を再発することなく過ごされています。


おわりに


舌痛症は視覚的にも血液検査などを受けても異常が発見できない病気です。舌痛症のくわしいメカニズムも明らかにされていないこともあり、西洋医学的な治療が困難な病気のひとつといえます。そのため、様々な医療機関や診療科を受診しても症状が改善されず、途方に暮れている方も少なくありません。


漢方薬の治療は病名や西洋医学的な原因に縛られず、患っている方のご症状と体質からアプローチすることが可能です。漢方薬を服用し始めてからご体調が好転する方がとても多くいらっしゃることから、舌痛症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、舌痛症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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