和剤局方
人参2.5-3、黄耆2.5-3、白朮3-4(蒼朮も可)、茯苓3-4、当帰3-4、芍薬3、地黄3-4、川芎3、桂皮3、甘草1-2
※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム
体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
十全大補湯は気を補う基本方剤である四君子湯(しくんしとう)と血を補う基本方剤である四物湯(しもつとう)がベースとなった、最も代表的な気血双補剤です。まず、四君子湯と四物湯を合体させたものが八珍湯(はっちんとう)という漢方薬です。この八珍湯に身体を内側から温める桂皮と気を補う黄耆を加え、大棗と生姜を除いたものが十全大補湯です。
疲れやすい、気力がわかない、手足が重だるい、食が細く食後の眠気が強い、軟便などの気虚(ききょ)の症状と、血虚(けっきょ)による顔色が悪い、肌や眼が乾燥する、髪や爪が荒れる、動悸、めまいや立ちくらみなどの症状が合わさった気血両虚(きけつりょうきょ)の状態を改善します。さらに十全大補湯には桂皮がくわえられているので冷え性(冷え症)にも有効です。
近年は十全大補湯の体力を回復させる力に着目して、抗がん剤や放射線治療後といったがん治療による体力低下に対しても使用されます。がんだけではなく幅広い慢性病や出産による体力消耗にも応用が可能です。
幅広い肉体的な不調を改善する十全大補湯ですが、不安感や不眠といった心血虚(しんけっきょ)を原因とするような精神症状には不向きです。このようなケースでは同じ気血双補剤に分類される帰脾湯(きひとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)がより適しています。
しばしば十全大補湯は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)との差が議論されます。これは十全大補湯も補中益気湯も「体力を回復させる漢方薬」として、ともに有名だからだと推測されます。そもそも補中益気湯は分類上、気血双補剤ではなく補気剤(ほきざい)であり十全大補湯のような補血作用はあまりありません。では、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は十全大補湯よりも劣るのかというと、そうではありません。
十全大補湯は優れた補気作用と補血作用がありますが、補血作用を発揮する地黄や当帰は胃もたれを起こしてしまことが少なからずあります。体力が落ちている方はしばしば消化器の機能も低下しているので、そのような方にはまず補中益気湯で気を補い胃腸のはたらきを底上げする必要が出てきます。
他にも補中益気湯は昇提(しょうてい)作用を発揮できる点で十全大補湯と異なります。昇提作用とは気の不足によって起こる胃下垂、脱肛、子宮下垂、さらには慢性的な下痢といった「下降性の症状」を改善する作用を指します。これらの症状が気虚と合せて現れているなら補中益気湯がファーストチョイスとなります。
まとめになりますが、特に消化器系のトラブルがなく気血両虚の症状がみられるなら十全大補湯が最適です。一方でもともと食が細かったり軟便を繰り返すような胃腸虚弱の方は、気血両虚の症状が揃っていても補中益気湯からスタートするのが得策といえるでしょう。
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