しばしば、漢方(中医学)を勉強し始めた方から「どうして古代中国人の考えた世界観などを知る必要があるのか?」という言葉を耳にします。ここで登場する「古代中国人の考えた世界観」とは主に漢方(中医学)における基礎理論の根幹となる陰陽論(いんようろん)や五行論(ごぎょうろん)などを用いて説明された世界の法則のことを指しています。
その他にも「瘀血(おけつ)は血栓のこと?」「漢方に登場する脾(ひ)と西洋医学の脾臓はなぜここまで違うのか…」といったように漢方医学(中医学)と西洋医学の概念が混同してしまい、理解が難しくなってしまうケースも散見されます。
自身の経験も含めておそらく、漢方(中医学)を勉強しようとしている方が最もつまずきやすいところがこの陰陽論、五行論、そして気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)に関連する気血津液論、五臓六腑(ごぞうろっぷ)に関連する臓象学説だと思います(超が付くほどの序盤なのですが…)。
たしかに漢方(中医学)の勉強を始めた直後に「天空や昼は陽であり、大地や夜は陰である…」「春は五行において木に属し…」などと説明されても「これがなんの役に立つんだ!?」「私は補中益気湯や大建中湯がどのような漢方薬なのか知りたいのに…」となってしまっても無理はありません。
基礎理論中の基礎理論である陰陽論や五行論などといった哲学的思想は中国において春秋時代から秦時代の頃にかけて生まれ、理論体系化されたといわれています。西暦にすると紀元前800年~前200年頃であり、日本においては縄文時代の末期です。今日から約2800年前に生み出された大昔の思想ということになります。
詳しい説明は後に行いますが、古代の中国人はその生活を通して、この宇宙に存在するすべての事柄は相対する陰と陽の2つに分けられるとする陰陽論、くわえてすべての事柄は木・火・土・金・水の5つの性質と相互関係を持っているという五行論を構築しました。
陰陽論と五行論という2つの古代哲学に共通するのは「この宇宙に存在するすべての事柄」を対象にしている点です。したがって、両理論は宇宙の運行、四季や気候の変化といった自然環境、そして私たち自身の身体にも適用される万物の理論なのです。この最後の部分、陰陽論と五行論は人体に対してもその法則性が当てはまるという点が漢方(中医学)を理解する上で不可欠なのです。
より具体的には身体内において陰陽論と五行論で展開されている法則の通りに気・血・津液や五臓六腑が機能している、充実している状態が健康な状態といえます。
病気を治療するためにはまず健康な状態を理解しなければなりません。その健康な状態を漢方医学(中医学)の視点に立って知るための出発点がこれから登場する陰陽論、五行論、気血津液論、そして臓象学説といった基礎理論なのです。
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