漢方名処方解説

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6)津液の異常(津液不足・水湿・湿熱)

津液(しんえき)における異常は大きく分けて3つが挙げられます。ひとつは津液が不足している津液不足(しんえきぶそく)、もうひとつは津液の巡りが滞っている水湿(すいしつ)、そして最後は水湿と熱邪が合体した状態である湿熱(しつねつ)です。このページではこれらの内容、解決するための漢方薬などを中心に解説してゆきます。

津液不足(しんえきぶそく)とは

津液不足とはその名の通り、津液が不足した状態を指します。気の不足が気虚(ききょ)、血(けつ)の不足が血虚(けっきょ)であるのと同様に津虚(しんきょ)と呼ばれることもありますが津液不足の方が広くもちいられています。

津液不足の主症状としては喉の渇き、肌や唇の乾燥、尿量の減少、便秘、ほてり感などが挙げられます。津液不足による諸症状は身体の乾燥感と熱感をともなうものとまとめることができます。これは津液と血は身体に潤いを与えるのと同時に、ゆるやかに気の持つ熱性をクールダウンしているからです。津液や血が不足してしまうと気の熱性が相対的に過剰となり、不快なほてり感といった症状が現れやすくなります。このような熱性の症状を虚熱(きょねつ)と呼びます。

津液不足が起こってしまう主な原因としては熱中症などによる脱水、下痢や嘔吐、出血、炎症や発熱をともなう慢性病、継続的な精神的興奮、加齢などが考えられます。

津液不足を改善する漢方薬

津液不足を改善する漢方薬は滋陰剤(じいんざい)と呼ばれます。この理由として、血や津液は陰陽論において気の「陽」と対極をなす「陰」の存在であるからです。しばしば、血と津液をまとめて陰液(いんえき)と呼ぶのはこのためです。

滋陰剤とは主に麦門冬(ばくもんどう)、天門冬(てんもんどう)、地黄(じおう)、人参(にんじん)、五味子(ごみし)などを豊富に含んだ漢方薬です。具体的な滋陰剤としては麦門冬湯(ばくもんどうとう)、滋陰降火湯(じいんこうかとう)、六味地黄丸(ろくみじおうがん)などが挙げられます。現実的には津液のみを補う漢方薬はあまりなく、多くの場合は気や血を補う生薬も含まれた形となります。

水湿(すいしつ)とは

水湿(すいしつ)とは津液の流れが停滞している状態を指します。水湿による主症状としてはむくみ、重だるさ、頭痛や頭重感、下痢や軟便、吐気や嘔吐、食欲不振、めまい、動悸、水っぽい鼻水、咳や痰、湿疹、関節の鈍痛や動かしにくさなどが挙げられます。

人間の身体は水分に満ちているので、その停滞である水湿においてはとても多彩かつ複雑な症状が現れるという特徴があります。そのため「奇病や慢性的な病気には水湿を疑え」といわれるほどです。その他にも水湿による諸症状は湿度が高まる雨の日に悪化しやすい傾向があります。日本は大陸国の中国と比べて湿度が高いので、水湿による悪影響を受けやすい環境といえます。

水湿が引き起こされる主な原因は水分の摂り過ぎ、先天的な胃腸虚弱、湿気の強い職場や住宅といった生活環境などが挙げられます。津液は気の力によって巡っているので、その機能不全である気滞や気虚から水湿に至ってしまうケースも多いです。

水湿を改善する漢方薬

水湿を改善する漢方薬は利水剤(りすいざい)や化湿剤(かしつざい)と呼ばれます。利水剤とは主に白朮(びゃくじゅつ)、蒼朮(そうじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)などを豊富に含んだ漢方薬です。

具体的な利水剤としては五苓散(ごれいさん)、胃苓湯(いれいとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)などが挙げられます。利水剤には分類されませんが利水作用を持つ漢方薬としては当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、真武湯(しんぶとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)、桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)などが挙げられます。

「水湿」という名称について

本ホームページにおいて津液の停滞した状態を「水湿」と説明してきましたが、ほぼ同様の意味を持つ言葉はいくつか存在します。具体的には痰飲(たんいん)、水腫(すいしゅ)、湿(しつ)が挙げられます。厳密には停滞した津液が局所的(主に肺)に存在しているのが痰飲、体表面付近(肌の近く)に集まっているのが水腫、そして全身にまんべんなく存在しているのが湿と説明されます。

しかしながら、これらの区別はアバウトなもので文献によって解釈の異なるケースもしばしばです。日本においては水毒(すいどく)や水滞(すいたい)という呼び名がより一般的です。

湿熱(しつねつ)について

湿熱はその名前が示す通り、水湿と熱邪(ねつじゃ)が結びついた状態を指します。この熱邪とは炎症症状を引き起こすものと表現できます。したがって、湿熱による主症状は食欲不振、吐気や嘔吐、口内炎、胃痛や腹痛、悪臭や膿をともなう便、頻回の便通、粘り気のある痰をともなう咳、ネバネバした鼻汁による鼻閉、ジュクジュクとした湿疹、排尿痛、頻尿や排尿困難、イライラ感などが挙げられます。いくつかの症状を挙げましたが、湿熱は消化器系の症状を起こしやすいという特徴があります。

湿熱が引き起こされる主な原因としては水湿の慢性化、アルコール類や辛くて脂肪分の高い食べ物の摂り過ぎ、肥満、感染症などが挙げられます。中高年の方を中心に問題となるメタボリックシンドロームも湿熱と結びつきやすいといえます。

湿熱を改善する漢方薬

湿熱を改善する漢方薬は主に利水剤に熱を鎮める清熱薬(せいねつやく)をくわえたものとなります。しばしばもちいられる清熱薬としては黄芩(おうごん)、黄連(おうれん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)、竜胆(りゅうたん)、大黄(だいおう)、石膏(せっこう)などが挙げられます。

具体的な湿熱を改善する漢方薬としては竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)、五淋散(ごりんさん)、消風散(しょうふうさん)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)などが挙げられます。

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