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【 フォーカルジストニア(局所性ジストニア) 】と漢方薬による治療

フォーカルジストニア(局所性ジストニア)とは

フォーカルジストニアとは特定の動作を行う際に筋肉の一部が自分の意識に反して、過剰な収縮や硬直が起こる病気です。しばしば、局所性ジストニアや演奏家で起こる場合は奏楽手痙(そうがくしゅけい)とも呼ばれます。

フォーカルジストニアの大きな特徴は常に症状があるのではなく、特定の動作でのみ筋肉のトラブルが起こるという点です。具体的には楽器の演奏、筆記、野球のおける投球やゴルフにおけるパッティングなどのスポーツ上の動作が代表的です。

一二三堂薬局は豊島区池袋にあり、近くに東京音楽大学があるのでしばしばフォーカルジストニアの漢方治療相談を受けております。本ページでは楽器演奏におけるフォーカルジストニアを中心に解説します。

フォーカルジストニア(局所性ジストニア)の症状

フォーカルジストニアは手先や口唇などが意識通りに動かなくなってしまうので、演奏に大きな支障が生じます。発症する楽器はピアノ、バイオリン、ギター、フルート、トランペットなど様々です。共通点としては素早く正確に、細かい動きを要求される楽器という点です。

フォーカルジストニアの起こる状況も個人差があります。練習でも本番でも動きに問題が起こるケースもありますし、本番にのみ症状が現れる場合もあります。

フォーカルジストニアでは特定の動作以外の場合は問題なく身体を動かせる点も特徴的です。具体的にはピアノの演奏は出来ないが、スマホの入力や箸を使っての食事は問題なくこなせるようなケースです。

上記のような特徴は演奏家同士ならよく知られているのですが、一般の方には理解してもらえない場合も少なくありません。そのため、疎外感や孤独感を深めやすいこともフォーカルジストニアの二次的な症状ともいえます。

フォーカルジストニア(局所性ジストニア)の原因

現在のところ、西洋医学的にフォーカルジストニアの明確な原因は解明されていません。一方で脳における運動や姿勢をコントロールしている大脳基底核になんらかの問題が生じていると考えられています。

くわえて発症しやすい方の特性としては完璧主義で練習量が多い、不安感を抱きやすい体質などが挙げられています。

フォーカルジストニア(局所性ジストニア)の西洋医学的治療

フォーカルジストニアの治療法はまだ完全には確立されてはいません。対処療法として筋肉の過剰緊張を緩めるボトックス注射、一部の神経伝達物質の作用をブロックするアーテン(一般名:トリヘキシフェニジル)などが主に使用されます。

フォーカルジストニア(局所性ジストニア)の漢方医学的解釈

漢方医学において筋肉の動きは肝(かん)がコントロールしていると考えます。肝は筋肉の動き以外にも眼の機能を維持したり、精神状態を安定化するはたらきを担っています。

このような肝が精神的ストレスなどでダメージを受けた場合、筋肉の不調が起こり演奏における細かく繊細な動きを難しくしてしまいます。

他にも眼精疲労、ドライアイ、チック症によるまばたき、イライラ感、怒りやすさ、憂うつ感、不安感、不眠などを起こりやすくなってしまいます。

なお「肝」とは西洋医学的な「肝臓」ではなく、あくまでも漢方医学の概念としての肝を指しますのでご注意ください。

漢方薬を用いたフォーカルジストニア(局所性ジストニア)の治療

漢方薬によるフォーカルジストニアの治療は、筋肉の動きをコントロールしている肝の失調を改善することが主となります。

具体的には肝がダメージを受けるとそこに溜められていた血(けつ)が消耗し、肝が担っているはたらきが出来なくなってしまいます。したがって、フォーカルジストニアの治療は肝に不足した血を補うことが中心となります。

血を補う生薬である補血薬(ほけつやく)には芍薬、地黄、当帰、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。特に芍薬は筋肉をリラックスさせる効果があるのでフォーカルジストニア治療の漢方薬にしばしば含まれます。

血を補う力はありませんが葛根は肩から首の筋肉をリラックスさせる効果に優れているので、強い力が入ってしまい首肩こりが顕著な方に適しています。

肝は精神的なストレスでダメージを受けやすいので、その点の考慮はとても大事です。具体的には気の流れをスムーズにしてストレスを緩和する効果のある理気薬(りきやく)が用いられます。

代表的な理気薬としては柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などが挙げられます。筋肉の動かしにくさにくわえて、気分の落ち込み、不安感、不眠、食欲不振、喉のつまり、胃腸の張りなどがあるなら気を巡らす生薬が必要となります。

他にも筋肉の緊張や震えを鎮める釣藤鈎、不安を鎮める竜骨や牡蠣などを含んだ漢方薬もしばしば使用されます。これら以外にも症状や体質の個人差がありますので、臨機応変に漢方薬を対応させる必要があります。

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生活面での注意点と改善案

フォーカルジストニアにおいて決定的に「これをしてはいけない」「これをするべき」というメソッドは確立されていません。一方でフォーカルジストニアを患っている方は、強いストレス下で長時間の練習をこなしていたケースが多いです。

経験的にうまく回復された方は、演奏や練習から少し距離を置いた場合が多いです。ハードな練習をこなしている方はプロの演奏家が多く、仕事であるがゆえに練習を控えるのは困難な立場であることは言うまでもありません。

しかしながら、回復のためにも練習時間を抑えたり、精神的な負担の強い演奏会は回避して頂くことをお願することが多いです。

上記以外には、肝のはたらきが低下すると眼精疲労や精神不安が現れやすくなります。スマホの使い過ぎや睡眠不足はこれらをより悪化させてしまうので控えましょう。

改善例

患者は40代前半の男性・音楽家。バイオリンの演奏を生業として多忙な日々を送っていました。しかし、ある日を境に突然指先が硬直して動かなくなり、満足な演奏ができなくなってしまいました。

不思議とバイオリンの演奏以外の筆記やピアノの演奏などは可能で、他者に自身の症状を理解してもらえないことが二次的なストレスとなっていました。

大学時代の恩師にアドバイスを求めたところ、フォーカルジストニアという病気があることを教えてもらい、病院を受診。ボトックス注射を行いましたが、演奏に違和感が残ってしまい症状は治まりませんでした。

そのような時期に公演を行う劇場に近かった当薬局にご来局。この方のご症状は典型的なフォーカルジストニアと考えられました。漢方薬についてはストレスを緩和する柴胡や厚朴、筋肉をリラックスさせる芍薬や葛根、筋肉の痙攣を静める釣藤鈎などから構成されるものを服用して頂きました。

漢方薬を服用されて数ヵ月で指先から首筋にかけて筋肉が柔らかくなった印象を受けたとのことですが、まだスムーズな演奏ができるようにはなりませんでした。漢方薬の変更も考えましたが、悩んだ末に同じ漢方薬を維持。

くわえて無理は承知でしたがバイオリン演奏からできる限り距離を置くことをお願いしました。ご本人も練習をどうするべきか悩んでいたとのことで、ストレスを感じない最小量の練習を維持することになりました。

それから漢方薬の微調整を数回繰り返して半年以上が経過する頃になると、指が動かせないことへの焦燥感やイライラ感は徐々に鎮まってゆきました。そしてある日、無性にバイオリンが弾きたくなり、試しに弾いてみたところ以前とほとんど同じようにとてもスムーズに演奏できたとのこと。

漢方薬の服用開始から丸2年ぐらいが経過した頃には発症前と全く変わらない演奏が可能となりました。現在も「お守り代わりみたいなもの」として、漢方薬服用を継続されています。

おわりに

フォーカルジストニアは発症の原因がわかっていない不思議な病気です。一方でハードな練習が発症の引き金になっていると言われています。それほどの練習をこなせる熱意のある方ほど発症しやすいとなると、フォーカルジストニアを患った方のつらさは極めて強いものでしょう。

漢方薬は筋肉の過剰緊張だけではなく、憂うつ感や不安感など心身両面からフォーカルジストニアの改善を後押しできます。フォーカルジストニアにお困りの方はぜひ一度、当薬局へご来局頂ければと思います。

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