健康な女性の身体において生理(月経)は女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンなどの増減によって起こっています。
多くの場合、生理は25~38日程度の周期で定期的にやってくるといわれています(特に28~30日周期が平均的とされています)。
したがって、継続的に24日以下の周期で生理があったり、39日以上の間隔での生理がある場合は生理不順の状態と考えます。加えて周期がバラバラでいつ生理が来るのか予想不能なケースも生理不順に含まれます。
一方で誰しも少々、生理のサイクルが乱れることはありますし、個人差もあります。例えば毎月、規則正しく生理がきているのに、ある月だけ40日で生理がやってきた場合などは過度の心配はありません。
なお、生理不順には生理周期の問題だけではなく生理による出血が起こっている期間(月経持続日数)の異常も含まれますが、本ページでは主に生理周期の異常に焦点を絞って解説を行います。
稀発月経とは生理の周期がいつも39日以上あいてしまう状態を指します。稀発月経は卵巣から放出される女性ホルモンの分泌が不十分である場合などに起こります。
加えて女性ホルモンの乱れによって排卵が行われていないケースでは、不妊症の原因にもなってしまいます。
不妊症についてはこちらのページで詳しく解説していますのでご参照ください。
頻発月経とは継続的に生理が24日以下の頻度でやってきてしまう状態です。頻発月経は稀発月経と同様に女性ホルモン分泌の乱れ、特にプロゲステロンの分泌不足によって起こりやすくなります。
プロゲステロンの分泌が不十分だと子宮内膜がしっかり成熟できず、受精卵が着床しにくくなってしまいます。頻発月経は不妊症に加えて頻繁な出血による貧血も問題となります。
無月経を生理不順のカテゴリーに含むか議論はありますが、本ページではあわせて解説いたします。
無月経とは性成熟期以降で生理が3ヵ月以上起こらない状態を指します。この無月経の状態には初経前や閉経後、そして授乳中などの生理的無月経(つまりは正常な「無月経」です)は含みません。
病的無月経では、18歳を迎えても初潮が無い場合を原発性無月経、初潮があった後の生理停止を続発性無月経と呼びます。
頻度の高い続発性無月経では視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモンの不足が原因となるケースが多いです。
生理周期はエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモン、さらにはそれらの放出をコントロールするゴナドトロピンやゴナドトロピン放出ホルモンなどによってコントロールされています。
複数のホルモンの複雑なバランスによって成立している生理周期はその分、デリケートな存在ともいえます。
生理を乱す(ホルモン分泌を乱す)原因の代表としては過労や無理なダイエットによる肉体的なストレス、そして仕事のプレッシャーなどの精神的なストレスが挙げられます。
そもそも生理は妊娠と出産を成立させるための定期的な準備サイクルです。心身がストレスによってダメージを受けている状態での妊娠や出産は母体の危機であり、それらは回避される必要があります。
生理不順はいわば「安全装置」が作動している状態ともいえるのです。
生理不順が起こっている場合、しばしばサイクルの乱れ以外にも多くの症状(月経随伴症状)が現れます。
月経随伴症状の代表的なものに生理痛(月経困難症)、腰痛、下肢痛、重だるさ、腹部の張り、下痢や便秘、胸の張り、イライラ感、不安感、眠気などが挙げられます。
特に漢方相談を受ける中で、生理不順、生理痛、そして不妊症がセットになるケースが非常に多いと感じます。
生理不順の西洋医学的治療は、生理を乱している病気の治療と言い換えられます。
具体的には高プロラクチン血症、多嚢胞性卵巣症候群、無排卵周期症、甲状腺ホルモンの分泌異常などが明確である場合、その治療法に沿うことになります。
上記に当てはまらない場合は生活習慣の改善に加えて低用量ピルによるホルモン治療が中心となります。
生理不順を漢方医学の視点からみると血のトラブルと関連が深いと考えます。
特に血の不足である血虚と血の滞りである瘀血(おけつ)のケースが多いです。加えて血は五臓が協同して生まれ循環することで機能しています。したがって、生理不順の原因は非常に多岐にわたることになります。
生理周期が長くなってしまう稀発月経のケースでは血虚の可能性を考えます。
血虚の場合、疲労感、めまいや立ちくらみ、動悸や息切れといった症状も現れやすいです。加えて生理痛がシクシクとした鈍痛となり、それが生理中から生理後も続くことが多いです。
瘀血はしばしば頻発月経の原因となります。瘀血は気の停滞や冷えによって起こりやすいので、憂うつ感やイライラ感といった精神症状、そして冷え性(冷え症)があわせて現れやすいです。
瘀血の生理痛は刺すような強い痛みとなる点も特徴的です。瘀血は子宮筋腫や子宮内膜症といった婦人科系疾患の原因にもなります。
生理痛全般につきましてはこちら、子宮筋腫はこちら、そして子宮内膜症についてはこちらに、それぞれ独立した解説がございますので、あわせてご覧ください。
無月経の場合は五臓における腎のトラブルが考慮されます。
腎には生命エネルギーの結晶といえる精が蓄えられています。精は成長や発育、そして生殖活動などをつかさどっています。
過労や加齢によって精が消耗されてしまうと、生理の停止や不妊症につながってしまいます。
生理不順は多くの要素が複雑に絡み合った結果として現れるケースがほとんどです。
漢方相談を受けていると、仕事による疲労と睡眠不足、そこに精神的ストレスも加わって生理が乱れているケースが多いです。
したがって、心身の症状や体質に加えて生活環境なども考慮して生理不順の原因を探ることが漢方治療には大切です。
漢方薬を用いた生理不順の治療はいかに血の状態を改善するかにかかっているといっても過言ではありません。
その一方で血虚や瘀血といった血のトラブルはその原因が非常に多彩なので、治療に用いられる漢方薬も数多く存在します。
疲労感、めまい、動悸といった血の不足が目立つ場合、血を補う生薬(補血薬)である地黄、芍薬、当帰、阿膠などを含んだ漢方薬が用いられます。
生理痛が強いといった、瘀血が顕著な場合は血を流す力に優れている生薬(活血薬)である桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索を含んだ漢方薬の出番です。
しかしながら、現実的には血虚と瘀血は深くつながりあった病態なので、上記の生薬をバランスよく配置した漢方薬を用いる場合がほとんどです。
さらになぜ血虚や瘀血が起こっているのかも考える必要があります。
元々体質的に胃腸が弱い方の場合、食べ物や飲み物から気血が生み出されにくくなっている可能性があります。
そのような場合は人参、黄耆、白朮、大棗、甘草などといった消化器を元気にする補気薬を含んだ漢方薬が選択されます。
冷えが血の流れを阻んでいるようなら身体を温める散寒薬の附子、桂皮、乾姜、呉茱萸、細辛などを用います。
上記は生理不順に用いられる漢方薬のほんの一例です。実際には気の巡りや精の不足なども充分に考慮する必要があります。
生理不順の治療に用いられる漢方薬はその方の症状や環境によって大きく異なることになるのです。
当薬局にご来局される生理不順や生理痛に悩んでいる女性のほぼすべてに共通しているのが冷え性(冷え症)です。
冷えは上記のように血の流れを悪くしてしまうので子宮の栄養状態が悪くなり生理不順だけではなく、生理痛、不妊症などを起こしやすくなります。
まずはこれ以上身体を冷やさないようにすることが大切になります。
服装に関しては特に冬の服装、ファッション重視の薄着は問題になりがちです。
以前、「ファッションは我慢」という言葉を聞いて妙に納得したことを記憶しています。しかし、金銭面の我慢ならともかく、健康に問題が出てきては我慢している場合ではありません。
しばしば、「生足」「へそ出し」「ノースリーブ」という「冷え性(冷え症)・三種の神器」を携えてご来局される方も多くいらっしゃいます。
そうなるといくら漢方薬で対応しても、薬効が相殺されてしまい十分な効果が期待できなくなってしまいます。
まず、冷え性(冷え症)の方は「毛糸の靴下」「下着の上に毛糸のパンツ」「腹巻」という「保温・三種の神器」がお勧めです。
その他にもカーディガンや毛布などを持ち歩くと外出時のクーラー対策にもなります。これは夏場の予期せぬクーラーにも有効です。
他にもぬるめのお風呂に長く浸かるといった方法も冷え性(冷え症)には有効です。
熱すぎるお風呂は長く浸かっていられないので結果的には身体の芯まで温まらなくなってしまいますので注意してください。
さらにシャワーは身体の汚れを落とすものであり、温めるものではありませんので冬だけではなく夏もしっかりと湯船に浸かることをお勧めいたします。
患者は20代後半の女性・美容師。学生の頃から生理不順と強い生理痛に悩まされていたという。
生理周期はバラバラで、傾向としては短いサイクルでやってくることが多かった。生理痛は市販の鎮痛薬で対応できたが、いつ生理が来るのかわからない状態は大きなストレスになったとのこと。
社会人になってからは疲労感や立ちくらみも目立ち、仕事に支障も出てきたため当薬局へご来局。
くわしくお話を伺うと上記のご症状に加えて全身の冷え性(冷え症)、足のむくみ、肌乾燥、軟便傾向など複数のご症状に悩まされていた。
この方は気と血の不足、さらにそこから血の巡りも悪化している病態と捉えました。そこで漢方薬は当帰、芍薬、人参、白朮、乾姜などを含んだものを服用して頂きました。
この方は生理不順や生理痛が特に目立つ冬の時期から服用を開始されたので、効果の実感がなかなか難しい状態が続きました。
しかし、根気強く服用して頂き春の陽気がしっかりしてくる頃には強い生理痛に悩まされることは大幅に減っていました。生理周期もやや短めでしたが「いつ生理がくるのかわからずハラハラする」という状態ではなく、定期的なサイクルになっていました。
夏になる頃には身体を温める生薬は含まず、夏バテにならないように胃腸の調子を整えることも重視した漢方薬に切り換えて服用を継続して頂きました。
その効果もあり、猛暑日が続く夏場もダウンすることなく過ごすことができていました。服用開始からまる1年が経つと生理不順を中心とした婦人科系のトラブルも解消し、仕事も含めた生活面での支障はなくなりました。
久しぶりにほぼ1年間を通じて健康体でいられたということで、この女性には気血を補うことを中心に継続的に漢方薬を服用して頂いています。
生理不順は多くの女性が悩まされているトラブルのひとつです。当薬局へご来局される女性の多くが生理不順に加えて生理痛や冷え性(冷え症)も患っているケースが非常に目立ちます。
近年は女性が仕事に家事に大忙しで、ゆっくりと休息をとったりする余裕が失われつつあることもその原因かもしれません。
漢方薬は生理不順だけに着目するのではなく、乱れている身体バランスを整えることで生理不順の治療を目指します。
その結果として、それまで悩まされていた上記のようないくつもの症状も、同時に改善していくこともしばしばです。生理不順にお困りの方はぜひ一度、当薬局へご来局頂ければと思います。【執筆・監修:吉田 健吾(薬剤師・一二三堂薬局代表)】