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【 疲労感(疲れ) 】と漢方薬による治療

疲労大国 日本

以前、製薬会社の方から「日本ほど栄養ドリンクやビタミン剤が販売されている国は無い」というお話を伺いました。たしかにドラッグストアにはいくつもの栄養ドリンクや疲労回復をうたったサプリメントが並んでいます。

博報堂が2016年に行った調査(生活定点2016)によると「肉体的に疲れを感じていることが多い」「精神的に疲れを感じていることが多い」と答えた方は両方とも40%超でした。特に20~30代が強く心身両面の疲労感を訴える傾向があります。疲労感は長時間労働や共働きが一般的となった現代において誰もが抱く悩みといえるでしょう。

その一方でつらい疲労感はその背景に特定の疾患がない場合、病院などでは治療の対象とはなりにくく解決が難しい問題といえます。実際、当薬局には病院では異常なしといわれたけれど「漠然とした疲れ」「寝てもとれない疲労感」を訴えてご来局される方がとても多くいらっしゃいます。漢方医学的な視点から疲労感を見てみると、それは健康と病気の間に位置する未病(みびょう)の状態であり、「立派な病気」と捉えて治療の対象となります。

疲労感(疲れ)の漢方医学的解釈

疲労感と気虚

漢方医学的に疲労感を考えた場合、それを気虚の一症状と扱うのが最も適切でしょう。気虚の「気」とはその名のとおり、元気の「気」であり人間の身体活動に不可欠なエネルギーを指します。このエネルギーがなんらかの原因で不足してしまった状態を気虚と呼びます。

気虚の典型的な症状としては疲労感、身体の重だるさ、気力の低下、動悸、息切れ、めまい、日中の眠気、冷え性(冷え症)、食欲不振、下痢や軟便、風邪などにかかりやすいといったものが挙げられます。気からは身体を栄養する血(けつ)や身体を潤す津液(しんえき)も生まれるので、気の不足は結果的には血や津液の不足も引き起こしてしまいます。

血の不足である血虚に陥ると顔色の青白さ、ふらつき、動悸、息切れ、眼精疲労やドライアイ、筋肉のひきつり、不眠、不安感といった症状が起こりやすくなります。津液不足になると口の渇き、皮膚の乾燥、空咳や切りにくい痰などの症状がみられやすくなります。さらに気の不足は気の滞りにもつながるのでイライラや憂うつ感、のどや胸のつまり感、吐気、胃や腹部の張り、移動性の痛みなどに代表される気滞(きたい)の症状も出てくるでしょう。

気虚の原因

気虚の主な原因は2つ考えられます。まずひとつは気をうまく生み出せなくなってしまった可能性が挙げられます。気は食べ物から脾胃(漢方における消化器のことです)を介して生まれるので、ストレスや暴飲暴食などによって脾胃が弱ってしまった場合や生まれつき体質的に脾胃が弱いケースは気虚につながります。

そしてもうひとつの可能性としては気の過剰な消耗です。長時間労働による疲労の蓄積や慢性的な病気などによって生み出される以上の気が消費された場合にはやはり気虚に陥ってしまいます。それ以外にも血の不足である血虚から気虚に移行してしまう場合や、気や血の原料にもなる精(せい)が不足している場合なども考えられるでしょう。

漢方薬を用いた疲労感(疲れ)の治療

上記で説明したように疲労感と気虚は関連性が高く、それに対応する漢方薬を調合することが大切になります。しかしながら、気虚を引き起こす原因は多いうえに複雑なので、ここではしばしば遭遇するケースについて紹介してゆきたいと思います。気虚を引き起こす原因として、まず脾胃の力が不足している場合が考えられます。この状態を脾虚(ひきょ)とも呼びます。食欲不振、下痢や軟便が続いているような脾虚の方は十分に食べ物が消化吸収されず、栄養素がうまく身体に取り込めていないのです。

上記のような脾虚の方は人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などの脾胃の力を高める生薬(補気薬)から構成される漢方薬を服用するのが有効です。徐々に食欲がついて消化器の調子も良くなれば気も充実してくるでしょう。食欲は普通にある方でも過労などで気を消耗している場合は補気を中心とした漢方薬を使用します。これは補気薬自体にも直接的に気を補う効果があるからです。

精神的なストレスなどによって食欲不振や無気力に陥ってしまう場合はその対処も重要になってきます。精神的なストレスは気の流れを悪くして脾胃の働きを弱めたり、気虚を悪化させてしまうこともあるので注意が必要です。気の流れを改善する生薬(理気薬)としては柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが代表的です。

気の不足は結果的に血の不足を起こすことを考慮して気虚の段階から血を生み出す生薬(補血薬)を含む漢方薬が用いられる場合もあります。
代表的な補血薬には熟地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。

これら以外にも疲労感を抱えている方の疲労以外の症状や体質は微妙に異なります。そのために詳しくお話を伺い臨機応変に漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。

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生活面での注意点と改善案

疲労感は軽い散歩、水泳、サイクリングなどによって身体機能を高めることで軽減につながります。一方で激しい運動や過度な休息は逆効果になることも知られており注意が必要です。気虚の状態は外敵から身を守る力も弱くなっているので冬のように風邪やインフルエンザが流行る季節はうがい手洗いなどの基本的な感染症予防も重要になります。

疲労感の改善例

患者は30代前半の女性・歯科衛生士。学生の頃は体力がある方でしたが大学病院に就職した頃から、人間関係や神経を使う仕事内容の影響なのか疲労感が抜けにくくなってしまいました。その傾向は結婚と出産でさらに顕著となり、仕事と子育ての両立が徐々に難しくなってしまいました。市販のサプリメントを使っても効果がなく、何か悪い病気になったかと心配して職場の病院を受診。

しかし、特に問題は発見されず疲労感の他にめまいや立ちくらみがあったのでアデホスとビタミンB12を処方されました。それらを2ヵ月ほど服用しても特に改善は見られず、ちょうど病院に置いてあった雑誌で漢方薬の特集を見て興味を持ち、当薬局にご来店。

詳しくお話を伺うと疲れやめまいの他に腹部の張り感と弱い吐気、四肢の冷え、動悸などが認められました。この方の症状から典型的な気虚と判断し人参、黄耆、大棗など気を補う生薬に加えて桂皮や乾姜という身体を温める生薬を含んだ漢方薬を服用して頂きました。そして睡眠不足気味でもあったので、できる限り6時間以上の睡眠と15分間を目安にした半身浴をお願いしました(この方は普段、シャワーだけで済ませていたので)。

漢方薬の服用から約4ヵ月が経過する頃には身体も温まり食欲が出てきて疲労感もあまり感じなくなったとのこと。その一方でめまいと動悸は依然として残っていました。ここでめまいと動悸は血虚からきていると判断し、補気に配慮しながら地黄や当帰といった血を補う漢方薬に変更しました。

新しい漢方薬にしてから3ヵ月が過ぎるとめまいや動機も無くなり、疲労感もほぼ消失。
仕事後の保育園へのお迎えや子育てにも余裕が出てきたとのこと。この方は現在も補気と補血のバランスをご症状に応じて微調節しながら漢方薬を継続服用して頂いています。

おわりに

近年、強い疲労感を訴えられる方がとても多くなった印象を受けます。コンビニに行くとリポビタンDやレッドブルに代表される栄養ドリンクやエナジードリンクが所狭しと陳列されている点からも、疲労回復に対する需要が強いことがわかります。これは長時間労働が当たり前となった今日の世相を反映しているのかもしれません。

漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬やサプリメントを服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、疲労感が少しずつとれてくることから、疲労感と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、抜けきらない疲労感にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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