相談の多い病気

インデックス

【 精子無力症(精子不動症を含む) 】と漢方薬による治療

精子無力症(精子不動症を含む)とは

精子無力症とは活発に前進することができる精子が少ない状態を指します。より厳密には動いている精子が50%未満か活発な前進運動をしている精子が25%未満の場合と定義されています。さらにすべての精子が動いておらず、精子が生きているのかどうか見ただけでは確認できない状態を精子不動症といいます。

男性不妊症において乏精子症や無精子症は精子の「量的」な問題でした。その一方で精子無力症や精子不動症は精子の「質的」問題といえるでしょう。精子無力症のように精子がうまく動けないと子宮を通り卵管に至ることができず、卵子と受精することが困難となってしまいます。

精子無力症(精子不動症を含む)の原因

精子無力症や精子不動症の原因は大きく後天的なものと先天的なものに分けられます。後天的な原因としては精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)による造精機能の低下が挙げられます。これは乏精子症と共通した原因であり、外科的治療によって回復が望めます。(詳しくはこちらの「精索静脈瘤とは」をご参照ください)

精索静脈瘤の他におたふく風邪に代表される高熱を伴う病気によって精巣炎を起こしてしまったケースなどが挙げられます。精巣の持つ造精機能は熱に弱いという特徴があるので精巣の炎症だけではなく、前立腺に起こった炎症の影響を受ける場合もあります。

しかしながら、乏精子症などのように精子無力症や精子不動症も特定の原因が不明なケースもしばしばです。精子無力症や精子不動症を引き起こす先天的な原因に関してもなぜ造精機能に問題が生じてしまうのか詳しくは解明されていません。

精子無力症(精子不動症を含む)の西洋医学的治療法

精索静脈瘤のような明確な原因がわかっている場合、その治療が造精機能の回復に結びつきます。特定の原因がわからない場合は採取した精子から運動が活発なものを選び、人工受精や体外受精を行うことが有効となります。精子不動症の場合、まず生存している精子を選び出してそこから顕微授精などを行うケースが多いです。

精子無力症(精子不動症を含む)の漢方医学的解釈

漢方医学的に生殖活動には腎(じん)が深く関わっています。この「腎」とは西洋医学的な「腎臓」ではなく、生命の誕生や成長などに関与する精(せい)が貯蔵され、それに基づいた働きを行う漢方医学的な腎を指しています。

精は今風の表現を借りるならば「生命エネルギーの結晶」のような存在です。私たちの身体内に存在する精は両親から受け継いだ精と、主に食べ物を摂取することによって後天的に獲得された精が合わさったものです。この精を消費してゆくことで成長と発達、身体機能の充実、そして生殖活動を行っているのです。

加齢や慢性的な疲労、先天的な精の不足によって精の少ない状態、つまり腎虚と呼ばれる状態に陥ります。典型的な腎虚のイメージとしては年齢を重ねることで起こる身体の不調や病気です。具体的には腰痛、視力や聴力の低下、体力の低下、記憶力の低下、身体の冷え、頻尿、脱毛、そして精力の低下や精子のコンディション低下などの男性不妊症全般が挙げられます。

精の不足以外にも男性器を栄養する血の不足も精子無力症や精子不動症につながります。さらに血の不足だけではなく、上記で述べたとおり精は食べ物から後天的に取り入れられるので消化器(漢方医学的には脾胃(ひい)と呼びます)の調子が悪ければこの改善も大切です。

漢方薬を用いた精子無力症(精子不動症を含む)の治療

腎に蓄えられている精の充実が生殖活動に欠かせないことは既に述べてきたとおりです。したがって、漢方薬を用いて精を補給することが精子無力症と精子不動症の最も直接的な治療法となります。

精を補うことは腎の働きを補うことにもなるのでこれを補腎と呼び、補腎する生薬を補腎薬と呼びます。具体的な補腎薬には鹿茸、地黄、山茱萸、枸杞子などが挙げられ、主にこれらを含む漢方薬が用いられます。特に鹿の育ち盛りの角である鹿茸は精を補う力が強く頻繁に用いられます。漢方薬ではありませんが黒胡麻、黒豆、きくらげなどの黒い食べ物が精を補う食品として有名ですので積極的に摂るのが良いでしょう。

精を補給するだけではなく男性器を栄養する血を充実させることも非常に重要な漢方薬の役目です。血を補う生薬である補血薬としては上記でも登場した地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などがあり、しばしば精を補う漢方薬と併せて使用されます。肝腎同源という言葉があり、肝に蓄えられている血と腎に蓄えられている精は相互変換が可能と考えられています。つまり、臨床的には精の補充と血の補充は不可分といえます。

その他にも脾胃を立て直す生薬である補気薬も欠かせません。食欲不振や下痢軟便傾向、慢性的な疲労感が強い場合には積極的に補気薬を含んだ漢方薬も使用されます。具体的には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などを含んだ漢方薬です。

精子無力症と精子不動症の治療に用いられる漢方薬はこれら精や血を補う生薬を中心に気を補う生薬などを配するという形が基本となります。これら以外にも個人によって体質は異なりますのでそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。

ご予約

お問い合わせ

一二三堂薬局は初回完全予約制です。

【定休日】水・日曜日・祝祭日【営業時間】10時〜19時

お電話でのご予約・お問い合わせ

TEL:03-3971-2316

精子無力症の改善例

患者は30代後半の飲食店経営者(奥様も一緒にお店で共働き)。結婚して4年が経過しても奥様は妊娠に至りませんでしたが、ちょうど仕事の独立など忙しい時期でもあったので「授かりものだから」と考えて特に治療などは行っていませんでした。しかし、仕事も軌道に乗り奥様も30代そこそこになったのを機会に「妊娠活動」を開始。

「妊活」の第一歩として不妊症クリニックを夫婦で受診し、そこで初めてご自身の精子無力症を知ったとのこと。精子の運動率はその後の検査も含めて平均で約18%、精子濃度は約1200万/mlという結果。

クリニックからは人工受精では難しいので顕微授精を勧められましたが一旦保留。ご夫婦で悩んでいた時にご主人のお店に来られていた方が漢方薬で持病を治したという話を聞き、その流れで当薬局へご来局。

ご主人様から詳しくお話を伺うと、少し疲れが残りやすい以外は特に体調面での大きな不安は無いとのこと。しかし、横から奥様がご主人様の喫煙や大酒、足のむくみ、そして軟便気味であることなどを指摘されました。ご主人様の舌の状態を確認すると全体的に白色で、両側に歯の跡が凹状に付いていました。

さらに年に一回の保健所で行われている健康診断の結果「太っているが、軽い栄養失調状態」という注意も受けているという。お仕事柄、お客様とお酒(主にビール)を飲む機会が多いのは仕方が無いけれども帰宅後もお酒を飲んでいて困るとも奥様はおっしゃられていました。

上記のお話や舌の状態などからご主人様はビールなどの冷えたお酒で脾胃(消化器)を冷やしてしまい、水湿(すいしつ)、つまり身体内に余分な水分が溜まっている状態と考えました。冷えや水湿よって脾胃のはたらきが弱り、食べ物から充分な気が取り込めていないことで慢性疲労に繋がっていると判断しました。

ご主人様には人参、茯苓、白朮など脾胃の力を向上させ、水湿を除く漢方薬を服用して頂きました。それに加えて精を補う力に優れている鹿茸製剤も併用して頂くことにしました。お酒に関しても量の削減に加えて、飲むときは温かいお酒にするようお願いしました。

漢方薬服用から2ヵ月が経つと、緩かった便通は正常な硬さとなりました。奥様がお酒を勧めるお客さんに「(主人は)肝臓を壊して酒を止められている」と「牽制」したことも功を奏したのかもしれません。お酒はたまに飲み過ぎてしまうこともあるとのことですが、禁煙は徹底して頂きました。漢方薬は同じ形で維持へ。

漢方薬を始めて7ヵ月が経過した頃に不妊症クリニックで受けた精子の検査の結果、運動率が55%で濃度が2300万/mlにまで改善。クリニックからは顕微授精よりも負担の少ない人工受精を勧められ、治療再開を決断されました。

残念ながら一度目の人工受精はうまくゆきませんでしたが三回目で無事に着床して妊娠が成立しました。その後、妊娠中は薬局にはご来局されませんでしたが、出産後三ヵ月が経ち首が据わった頃に家族三人でご来局されました。やや夜泣き体質に困りながらも健康に成長されているとのことでした。

おわりに

精子は毎日、何億何千万という単位で精巣内において生み出されています。そのような「毎日」生み出されている精子は「毎日」の健康状態にデリケートに左右される存在でもあります。

特に精巣に問題が無いとされる方でも仕事のストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、喫煙や飲酒、精巣への熱負担などの要因で精子数が大きく減少することが知られています。それほど精子と日々の健康状態は密接に関連しているのです。

漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局ではビタミン剤や様々なサプリメントを使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、精子の量や運動率などが改善することから漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、精子無力症や精子不動症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

このページの先頭へ