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【 乏精子症 】と漢方薬による治療

乏精子症とは

乏精子症(ぼうせいししょう)とは精子の数が少なく、自然妊娠に至るのが難しい状態といえます。データによって幅がありますが自然妊娠には精子の絶対数が4000万以上が望ましく、乏精子症は精子の濃度が2000万個/ml以下と定義されます。

しかしながら、精子の状態はその濃度や絶対数だけでは判断はできません。妊娠に至るには精子の運動率や奇形率などの要素も重要であり、精子のコンディションを知るためには重要です。精子の数が充分であっても精子の前に進む力が弱かったり、受精に適さない形状だと自然妊娠が成立しにくいからです。

乏精子症の原因

乏精子症の原因は大きく分けて二つ挙げられます。ひとつは精索静脈瘤であり、もうひとつは造精機能障害です。

精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)とは

精索静脈とは精子をつくりだしている精巣に到る血管のひとつです。この精索静脈において何らかの原因で血液の逆流が起こり、血管がこぶ状になってしまう病気が精索静脈瘤です。

血液が滞ることによって精巣に熱がこもり、その影響で造精機能が低下してしまいます。したがって精索静脈瘤は広い意味では造精機能障害の原因の一つとも考えることができます。精索静脈瘤は乏精子症だけではなく精子無力症の原因にも繋がります。

造精機能障害とは

造精機能障害とは何らかの影響で精子をつくっている精巣の機能が低下している状態を指します。上記における「何らかの影響」には喫煙のような生活習慣から精索静脈瘤による精巣へのダメージなどが挙げられます。その一方でなぜ造精機能が低下しているのか不明な場合も多いです。

乏精子症の西洋医学的治療法

精索静脈瘤が認められる場合は静脈を結ぶことでこぶを無くす低位結さく術と呼ばれる手術が行われます。しかしながら、精索静脈瘤のような明確な原因がない、またはわからない造精機能障害に対しては確立した治療法が存在しません。そのようなケースでは採取された精子を用いて人工受精などが選択されます。

上記にくわえて最近ではTESE(TEsticular Sperm Extraction)と呼ばれる手術も実施されています。しばしば「テセ」と発音されるTESEとは精巣内精子採取術のことであり、外科的に陰嚢から精子を回収する手術です。

主に重度の乏精子症や無精子症に対して用いたれる手術であり、具体的には陰嚢を切開し、採取した精巣から精子を回収します。TESEの変法として顕微鏡を用いてより入念に精子を探索するMD-TESE (MicroDissection-TESE)、顕微鏡下精巣内精子採取術も存在します。

乏精子症の漢方医学的解釈

漢方医学的に生殖活動には腎(じん)が深く関わっています。この「腎」とは西洋医学的な「腎臓」ではなく、生命の誕生や成長などに関与する精(せい)が貯蔵され、それに基づいたはたらきを行う漢方医学的な腎を指しています。

精は今風の表現を借りるならば「生命エネルギーの結晶」のような存在です。私たちの身体内に存在している精は両親から受け継いだ精と、主に食べ物を摂取することによって後天的に獲得された精が合わさったものです。この精を消費してゆくことで成長と発達、身体機能の充実、そして生殖活動を行っているのです。

加齢や慢性的な疲労、先天的な精の不足によって精の少ない状態、つまり腎虚と呼ばれる状態に陥ります。典型的な腎虚のイメージとしては年齢を重ねることで起こる身体の不調や病気です。具体的には腰痛、視力や聴力の低下、体力の低下、記憶力の低下、身体の冷え、頻尿、脱毛、そして精力の低下や精子のコンディション低下などの男性不妊症全般が挙げられます。

精の不足以外にも男性器を栄養する血の不足も乏精子症につながります。さらに血の不足だけではなく、上記で述べたとおり精は食べ物から後天的に取り入れられるので消化器(漢方医学的には脾胃(ひい)と呼びます)の調子が悪ければこの改善も大切です。

漢方薬を用いた乏精子症の治療

腎に蓄えられている精の充実が生殖活動に欠かせないことは既に述べてきたとおりです。したがって、漢方薬を用いて精を補給することが乏精子症の最も直接的な治療法となります。

精を補うことは腎の働きを補うことにもなるのでこれを補腎と呼び、補腎する生薬を補腎薬と呼びます。具体的な補腎薬には鹿茸、地黄、山茱萸、枸杞子などが挙げられ、主にこれらを含む漢方薬が用いられます。特に鹿の育ち盛りの角である鹿茸は精を補う力が強く頻繁に用いられます。漢方薬ではありませんが黒胡麻、黒豆、きくらげなどの黒い食べ物が精を補う食品として有名ですので積極的に摂るのが良いでしょう。

精を補給するだけではなく男性器を栄養する血を充実させることも非常に重要な漢方薬の役目です。血を補う生薬である補血薬としては上記でも登場した地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などがあり、しばしば精を補う漢方薬と併せて使用されます。

肝腎同源という言葉があり、肝に蓄えられている血と腎に蓄えられている精は相互変換が可能と考えられています。つまり、臨床的には精の補充と血の補充は不可分といえます。

その他にも脾胃の状態を改善する生薬である補気薬も欠かせません。食欲不振や下痢軟便傾向、慢性的な疲労感が強い場合には積極的に補気薬を含んだ漢方薬も使用されます。具体的には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などを含んだ漢方薬です。

乏精子症の治療に用いられる漢方薬はこれら精や血を補う生薬を中心に気を補う生薬などを配するという形が基本となります。これら以外にも個人によって体質は異なりますのでそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。

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乏精子症の改善例

患者は30代後半の証券会社社員。ご結婚されてから3年が経過してもなかなか子宝に恵まれず、ご夫婦で不妊症専門のクリニックを受診。奥様は過去に子宮筋腫で手術した経験もあったので、そちらの状態を心配していたとのことですが結果は問題なし。逆にその際に受けた精子の検査で予想外にも乏精子症と精子運動率の顕著な低下が明らかになりました。

ご夫婦で話し合い、受診したクリニックでまずは人工受精を5回行いましたがうまくいかず体外授精も1回行うも結果は芳しくありませんでした。奥様も仕事をしながらの不妊治療だったので、徐々に疲労も濃くなり一旦は治療を中止。中止している間に何もしないのも…と考えて漢方薬の服用を決めて当薬局へご来局。

詳しくご主人様のご様子を伺うと精子の濃度が500万/mlで運動率が20~15%という状態。自覚症状としては長い勤務時間による慢性的な疲労に加えて腸が弱く軟便気味ということでした。くわえて疲労がたまると身体は疲れているのに目は逆にさえてしまって入眠がうまくできないとのこと。まず、ご主人様には人参と白朮を中心とした漢方薬と鹿茸製剤を併用して頂きました。その他に禁煙の徹底(奥様の強い要望でもありました)と睡眠時間と休日の確保をお願いしました。

漢方薬服用から3ヵ月が経つと疲労感も軽減して、疲れ過ぎて眠れないという状態が減ってきました。睡眠時間の確保のために接待を何とか「回避」して早めの帰宅もできているのとのこと。結果的に晩御飯は自宅で摂ることが多くなり、栄養面の改善も疲労回復の後押しになったと考えられました。だいぶ緩和したということでしたがまだ軟便傾向が続いているということで漢方薬は人参と白朮の他に止瀉作用もある蓮肉や山薬を含んだ漢方薬に変更。鹿茸製剤はそのまま維持。

それからまた5ヵ月が経過すると便通も改善し、体力的にはかなり余裕も出てきたご様子でした。体調面が上向く一方でなかなか結果が出なかったので漢方薬の再変更をするか否か、少々悩み出した頃に漢方薬を取りに来られた奥様からご妊娠のご報告を受けました。

奥様はその後、無事に3000gを超える男児をご出産。出産はとても順調だったとのことですが出血が約700mlあったということで、退院後に血を補い体力を回復する漢方薬を1ヵ月ほど服用して頂きました。ご主人様は漢方薬を服用していると体力的にもお腹の調子も良く、食後の眠気も起きにくくなったということで第一子誕生後も服用を継続されています。早めの帰宅も継続できているようで、繁忙期でも大きく体調を壊すことなく過ごされています。

おわりに

精子は基本的に毎日、精巣でつくられておりその造精活動は日頃の体調などに非常に影響を受けやすいことが知られています。したがって、乏精子症を患っていても睡眠時間の確保や禁煙などの生活習慣の見直しにくわえて、漢方薬の服用で精子のコンディションを向上させることが可能です。

漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから精子濃度や運動率の向上などが見られることから乏精子症をはじめとする男性不妊症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、乏精子症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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