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【 心因性視覚障害 】と漢方薬による治療

心因性視覚障害とは

心因性視覚障害とは精神的なストレスが原因で、目に様々な症状が現れる病気です。精神的ストレスによって引き起こされる身体的トラブルのことを「心身症」と呼びます。心因性視覚障害は目に起こる心身症なので、眼心身症とも呼ばれます。

心因性視覚障害において眼球自体には異常は見られません。眼球を通じて目から入ってきた情報を脳で処理する際に問題が起こっていると考えられています。しかしながら、まだ解明されていない点が多い病気でもあります。

心因性視覚障害の原因は精神的負荷によるものなので、誰にでも起こりうる病気といえます。その一方で、学童期(特に小学校の中~上位学年)のお子様にしばしば起こりやすいことが知られています。性差もあり女性が数倍、発症頻度は高いです。

心因性視覚障害の原因

心因性視覚障害が発症する原因は精神的なストレスです。発症しやすい学童期においては学校での人間関係、受験やそれに対する勉強、中学生以上になると進路や進学の決定、親との関わり合いなどが主なストレス源といえます。

社会人の場合は仕事のプレッシャー、転居などによる環境の変化、結婚や家族との関係、他の持病などもストレスになり得ます。社会との関わりが深く広くなる社会人の場合はひとつの原因だけではなく、複数のストレスが絡み合っているケースが多いです。

くわえて、何を「ストレス」と捉えてしまうかは十人十色です。場合によっては症状が現れているご本人でも、一体何が原因なのか明確に把握できないケースも少なくありません。

心因性視覚障害の症状

心因性視覚障害において最も代表的な症状は視力の低下です。しばしばこれを独立して心因性視力障害(視「覚」ではなく視「力」)とも呼びます。

他にも視野の狭まり、視界のぼやけ、色の見え方の異常、夜盲(夜間の顕著な視力低下)、斜視(左右の目の視線の乱れ)、眼精疲労、眼痛、まぶしさ、まぶたのピクピクとした動きなどが挙げられます。心因性視覚障害の症状は視力検査の結果に対応した眼鏡を使用しても改善されない点が特徴的です。逆にリラックスできていると眼鏡を使わなくても視力が正常化するケースもあります。

心因性視覚障害の症状は特定の状況になると顕著に現れる場合もあります。具体的には緊張するテスト、習い事の発表、仕事のプレゼンの最中などに限って見えにくくなってしまうといったものです。

心因性視覚障害の西洋医学的治療法

心因性視覚障害はその名前の通り、精神的なストレスが原因となります。したがって、心因性視覚障害の根本的治療はストレスの除去ということになります。基本的に強い精神的な症状が無ければ抗不安薬などは使用せず、リラックスできる環境を整えることが大切になります。

お子様の場合、しばしば「メガネ願望」が心因性視覚障害に結びつくケースがあります。このような場合は度のない眼鏡を一時的に使用してもらうことで満足感や安心感を高め、それが有効に作用することもあります。

心因性視覚障害の漢方医学的解釈

漢方医学において目の機能と精神状態には密接な関係があると考えます。その理由として、五臓六腑(ごぞうろっぷ)における肝(西洋医学的な「肝臓」ではありません)は目のはたらきと精神状態の安定化を担っていると考えるからです。

肝が円滑に機能していればしっかりと視力や視界が維持され、精神的にもリラックスすることができます。一方で肝は精神的なストレスに敏感な臓でもあります。慢性的に悩み事やプレッシャーに肝が晒されると、上記のような機能が弱まってしまいます。結果的に視力の低下や眼精疲労に代表される目のトラブルが発生しやすくなります。

肝は目や情緒のコントロールの他に筋肉のはたらきなどもコントロールしています。したがって、心因性視覚障害にくわえて筋肉の硬直や痙攣などが合わせて起こることも考えられます。

漢方薬を用いた心因性視覚障害の治療

漢方薬を用いて心因性視覚障害を治療する場合、目の機能を支配している肝に着目する必要があります。視力の低下や眼精疲労に対しては肝に栄養を与える補血薬(ほけつやく)を使用します。具体的な補血薬としては地黄、芍薬、当帰、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。

肝が不調に陥ると目の症状にくわえて精神的にも不安定になります。これは上記でも述べた通り、肝は気の巡りをコントロールして情緒の安定化に寄与しているからです。したがって、イライラ感や憂うつ感といった精神症状が顕著ならば気を巡らす理気薬(りきやく)も併せて使用されます。具体的には柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などが代表的です。

心因性視覚障害の治療には補血薬や理気薬を中心とした漢方薬が主に使用されます。くわえて疲労感や食の細さが目立つなら気を補う補気薬(ほきやく)、生理痛や首肩のこりなどが強ければ血の流れを改善する活血薬(かっけつやく)の併用も検討されます。

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生活面での注意点と改善案

心因性視覚障害を改善するためには目に優しい生活を送り、目に良くない習慣を減らすことが大切です。前者については目の疲れを癒すために、しっかりと睡眠時間を確保することが非常に大切です。他にも気の巡りを良くしてストレスを軽減する軽運動(ウォーキングなど)も有効です。

一方で目の酷使は避けるべきです。仕事でディスプレイを凝視することが多い方はなおさらプライベートではスマホやタブレットを使用し過ぎないことが大切です。特に夜遅くまでこれらを使用すると睡眠時間の短縮や眠りの浅さに繋がってしまうので要注意です。

しかしながら、現代社会においてディスプレイ類の使用を大きく制限することは難しいでしょう。したがって、まずは「晩御飯以降は1時間しか使用はしない」「ベッドに入ったら使わない」といった現実的なルール作りを行うのが良いでしょう。

心因性視覚障害の改善例

患者は小学6年生の女児。お母様曰く、数ヵ月前から娘様が中学校受験用のテキストを読む際に目を細めたり、眉間にしわを寄せるしぐさが出始めたとのこと。ご本人に尋ねてみると「字がうまく見えないことがたまにある」とのこと。しかしながら、小学校では座席は後ろの方だが気になることはないという。

お母様は心配になり近所の眼科を受診するも特に視力や視野に異常は発見されませんでした。受験勉強が忙しくなってきた時期でもあり眼精疲労と診断され、ビタミンBを含んだ点眼薬が処方されました。点眼を行うと一時的に良くなる感触があるようでしたが、大きな改善は見られませんでした。症状が顕著になるのは自宅学習中にくわえて塾で勉強している時ということが次第にわかってきました。

改めてご症状を詳しく伺うと、目に関するもの以外では特に気になることはないとのこと。一方でお母様からは「受験本番が近付いてきて勉強が一層忙しくなっている。その為なのかイライラして衝突することが多くなった」との指摘。

娘様には目を栄養する地黄や当帰、気の巡らしをスムーズにしてストレスを緩和する柴胡や薄荷などを含んだ漢方薬を服用して頂きました。くわえて、塾からの宿題が多少残ってしまっても11時には就寝するようにお願いしました。

服用から3ヵ月程でテキストを睨むように凝視するしぐさが徐々に減ってきました。一方で頻繁なまばたきが起こるなど、チック症と思われる症状が出始めました。そこで筋肉の緊張を鎮める釣藤鈎や芍薬を含む漢方薬に変更。ディスプレイ類の使用もより控えめにお願いしました。

その後はまばたきや塾での板書が見えないといった訴えは減少。他には怒りっぽさも強く出ることは少なくなり、勉強で忙しい中でもリラックスして過ごされていまいた。中学受験も無事に突破し、学校の授業中でも特に目に関するトラブルが再発することはありませんでした。漢方薬はすぐには止めず、新生活に心身が慣れるまでは服用をお願いしました。そして、中学生活はじめての夏休みの前頃に漢方薬は卒業されました。

おわりに

心因性視覚障害はしばしば大人よりもお子様に起こりやすいことがわかっています。しかし、発症時期が学童期の場合はどうしても精神安定剤といった西洋薬が使いにくいという問題があります。そのような時は漢方薬という選択肢があります。

精神的な側面があるのかはっきりしない場合でも眼精疲労などに有効な漢方薬は豊富に存在します。精神的なご症状にくわえて目のトラブルにお困りの方はぜひ一度、当薬局へご来局頂ければと思います。

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