結膜下出血(けつまくかしゅっけつ)とはその病名の通り、眼球の表面を覆っている結膜の毛細血管から出血が起きた状態です。結膜とは眼球の白い部分の表面を覆っている透明の膜です。この結膜が何らかの原因で出血し、血が漏れ出すことで白目の部分を赤く染めた状態が結膜下出血です。
多くの場合、10日前後で自然に回復しますが頻繁に繰り返してしまうことも少なくありません。結膜下出血は眼球自体のトラブルではないので視力の低下はともないません。その一方で白目が赤く染まってしまうので外見上の問題が生じてしまいます。
しばしば、結膜下出血と充血は混同されがちですが両者は全く異なる病態です。上記のように結膜下出血は結膜の毛細血管が破れて出血している状態です。一方の充血は網膜の毛細血管が過度に拡がった状態を指します。
結膜下出血が出血した部分を中心にやや広範囲に出血が拡がるのに対して、充血は毛細血管に沿って稲妻のように血管が拡がって見えます。
結膜下出血の原因は主に、発症の原因が分からないもの、眼への外傷、眼の炎症性の病気、そして他の病気に関係したものに分けられます。漢方薬が適用になるのは主に原因不明の結膜下出血になります。
結膜下出血はこれといった明確な原因が無くても起こってしまうことがあります。その一方で体質的に結膜が弱かったりゆるみがある、咳、クシャミ、力み、飲酒、生理、コンタクトレンズや水中メガネの使用などがきっかけとなって起こることもあります。
眼への外傷をきっかけに結膜下出血が起こることもあります。具体的には物が眼にぶつかったり、眼をこすっただけでも結膜が弱い方は出血が起こってしまうことがあります。外傷は結膜下出血以外にも、傷からウイルスや細菌が侵入することで下記の結膜炎の原因にもなるので注意が必要です。
ウイルス感染によって起こる流行性角結膜炎(いわゆる「はやり目」)や急性出血性結膜炎なども結膜下出血の原因となります。一方でこれらは基本的に漢方薬の適用にはならず、眼科でのケアが必要になります。
他の病気とは主に動脈硬化、糖尿病、高血圧症、紫斑病、白血病といった血管が弱くなったり、血液のトラブルによって血が固まりにくくなる(出血しやすくなる)ものが挙げられます。
基本的にこれらに対する西洋医学的治療や生活習慣の改善が結膜下出血の改善につながります。しかしながら、治療を行っても結膜下出血が繰り返し続く場合には漢方薬が適用となります。
結膜下出血の最も特徴的な症状は、白目を覆う結膜からの出血です。場合によっては白目部分の広範囲が血染めになってしまうこともあります。その派手な症状の一方で、痛みや視野の欠損といった症状はありません。人によっては眼のゴロゴロとした不快感や張り感を覚えることがあります。
上記のように結膜下出血において痛みのような顕著な自覚症状はありません。しかしながら、接客業に従事されている方などは仕事上の相手を驚かせてしまったり、外見上の問題から気分の沈みや積極性が低下してしまうなど二次的な問題が生じてしまうケースも少なくありません。
結膜下出血に対する西洋医学的治療は基本的にありません。多くの場合は数週間で自然治癒に至ります。一方で結膜下出血が動脈硬化や糖尿病といった他の病気から発生している場合もありますので、慢性的に結膜下出血が起こる場合はそれらの病気の有無を明らかにする必要があります。
眼への外傷や何らかの病気による結膜下出血でしたら治療の道筋が見出せます。しかしながら、背景となる原因が見つからず、結膜下出血を繰り返してしまうケースは少なくありません。そのような場合には漢方薬が良い適用となります。
漢方医学的に結膜下出血を考えると、その背景には主に熱や血の滞りが潜んでいると捉えます。この場合の「熱」は発熱のことではなく、炎症などを起こしやすい状態や元々の体質を指します。血の滞りは瘀血(おけつ)とも呼ばれ、出血以外にも血栓やアザの原因にもなります。
熱や瘀血を引き起こす原因は多彩です。代表的なものには慢性的なストレスによる気の巡りの悪化、肉体疲労や睡眠不足による気の不足、食生活の乱れや飲酒・喫煙などがその背景にあります。
結膜下出血の改善には主に熱を鎮めたり、血の巡りを改善する漢方薬が主に使用されます。熱や血の停滞の背景にはしばしば気の滞りや不足も関係しているので、それらの可能性も考える必要もあります。
結膜下出血にくわえて、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎のような炎症性疾患、眼の充血、顔のほてり、イライラ感、不眠などが見られる場合は熱を生みやすい体質と考えられます。そのような方には黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏などの清熱薬を含んだ漢方薬を使用します。
結膜下出血以外にも皮下出血やアザができやすい、生理痛、不正生理出血、首肩こり、手足の冷えなどがある方は瘀血の関与が疑われます。桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索といった血行を改善する活血薬から構成される漢方薬の使用が検討されます。
他にも疲労感、食の細さ、気力の低下などがあれば気を補う生薬、気分の沈みや胃腸の張り感などが顕著なら気の流れをスムーズにする生薬も使用されます。このように熱や瘀血への対応を軸にしつつ、その他の症状にも注意を払い漢方薬は調合されます。
結膜下出血は毛細血管が切れることで起こるので、出来るだけ眼に刺激を与えないことが大切になります。具体的には眼をこすらない、こすってしまった際でも炎症を起こさないために手指を清潔に保つ、強く力む動作を避ける、喫煙・飲酒を控える、水中メガネの着用などで眼の周辺を圧迫しないなどが挙げられます。
患者は40代の女性・保険の営業職。しばしば商品説明のために出向いた相手先の方に、眼の出血を驚かれてしまうという。当薬局にいらっしゃった時は右目外側の白目部分がすべて真っ赤に染まっていました。営業職ということもあり、外出・接客が多く非常に困っていらっしゃいました。
詳しくお話を伺うとここ数年間は1ヵ月のうち2回くらい結膜下出血を起こしてしまうという。結果的にほぼ常に眼のどこかが出血している状態になってしまう。結膜下出血以外にはアザのできやすさ、首肩こりなどが挙げられた。眼科にかかっても出血以外の異常はなく、毎年の健康診断においても問題は無い。
この方には熱を鎮める黄連や山梔子、血の流れをスムーズにする桃仁や牡丹皮などから構成される漢方薬を服用して頂きました。日常生活においてはコンタクトレンズではなくメガネの着用と、熱を起こしやすいアルコールや強い香辛料の入ったものは避けるようお願いしました。
服用から3ヵ月ほどで結膜下出血の頻度は半分程度となり、出血してもその範囲が狭くなったので5日くらいで回復するようになりました。その後も継続して頂き、服用から1年でほぼ出血は起こらなくなりました。毎年4~5月は職場が異動などでドタバタし、ストレスも多くて出血も多発していたとのことですが、服用後は春以降も大事に至らず過ごされました。
結膜下出血は失明に至ったり、痛みをともなうものではありません。しかし、発症してしまうと眼という部分は隠すことが困難であり外見上の問題は大きなものです。特に会話の際は目と目を合わせるので接客業の方などは必然的に注目されてしまい、精神的な負担感は強くなってしまいます。
結膜下出血は西洋医学的に治療法が確立されていないので、お困りの方は少なくありません。漢方薬は原因不明の結膜下出血に対しても症状の現れ方や元々の体質をもとにしてアプローチすることが可能です。慢性的にお困りの方は漢方薬を試してみることをお勧めいたします。