レイノー病とは動脈が過剰収縮を起こすことによって、手足の末端への血流が悪化してしまう病気です。
症状としては、しもやけを伴うような強い冷え、しびれ感、痛み、肌の色調変化などを引き起こします。
このような四肢の冷えや皮膚の色調変化などをまとめてレイノー現象と呼びます。
レイノー病と似た言葉に、レイノー症候群というものがあります。
前者のレイノー病は、レイノー現象(冷えやしびれなど)を起こす明確な基礎疾患が無いものを指します。
簡単に言ってしまえばレイノー現象を起こす原因が不明なケースが、レイノー病となります。
そして後者のレイノー症候群の場合、膠原病や振動的外傷(激しく振動する機器の操作など)によってレイノー現象が起こるケースを指します。
漢方薬を調合する場合、症状と体質から調合されますので必要以上にレイノー病とレイノー症候群の差を意識することはありません。
病名ではなく、しびれや痛みの有無などに焦点を当てて、個人に合った形で調合されます。
レイノー病は統計的に女性、特に体力が弱い若年の女性に起こりやすい病気といわれています。
レイノー病からより深刻な病態(例えば足先の壊死など)に移ることは少なく、予後は良好とされています。
一方、レイノー症候群は基礎疾患に依存することからレイノー病ほどの性差や年齢差は存在しません。
予後についても基礎疾患の重さによっては、組織の壊死や皮膚硬化などに移行する場合もあります。
レイノー病はレイノー症候群と違い、明確な原因は分かっていません。
しかしながら、レイノー病は気温の低下、精神的・肉体的ストレス、喫煙などで悪化することが知られています。
具体的には手足の末端に存在する動脈の異常収縮が起こり、冷えなどが現れやすくなります。
血管の収縮は交感神経が副交感神経よりも活発に活動している際に起こるので、自律神経の異常がレイノー病の背景にあると推測されています。
レイノー症候群においては、レイノー現象を引き起こす原因となる疾患が存在します。
代表的なものに膠原病の一種である全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強皮症、閉塞性動脈硬化などが挙げられます。
その他、チェーンソーなどの使用による強い振動が手にかかり、血管や神経にダメージを受けてしまう場合もレイノー症候群の原因となります。
上記で既に述べたとおり、レイノー病とレイノー症候群によって起こる諸症状はレイノー現象と呼ばれています。
レイノー現象には、四肢の冷え、肌の色の蒼白化や暗色化、さらにはしびれ感や痛みといった症状が含まれます。
このレイノー現象はレイノー病とレイノー症候群によって幾つか異なっている点があります。
まずレイノー病の場合、症状は左右対称に現れます。一方のレイノー症候群のケースでは左右非対称に現れやすいといわれています。
さらにレイノー病は予後が良いのに対して、基礎疾患のあるレイノー症候群は症状を放置すると病状が悪化する恐れがあります。
レイノー病の西洋医学的治療は主に血管拡張薬を用いての血流改善となります。
重症の場合は血管を収縮させてしまう交感神経の切除も検討されます。
レイノー症候群の場合は、原因である基礎疾患の治療が間接的にレイノー症候群の治療となります。
上記のような治療以外にも、衣服による防寒、禁煙、睡眠時間を十分にとるといった生活習慣の改善がとても大切です。
手袋、靴下、マフラーなど患部以外も含めて温めることが大切です。
夏場でもシャワーのみで終わらせてしまうと、汚れは落ちますが温める力は不足してしまいます。
治療の一部だと思って、しっかり入浴することをお勧めします。
過剰なストレスは交感神経を優位にして血管を収縮させ、血行を悪くしてしまいます。
意識をしてリラックスする休息時間や睡眠時間を確保することが重要になります。
休息は副交感神経を活発化させ、血管が広がり血流もよくなるのでレイノー現象の緩和に繋がります。
他にも煙草に含まれるニコチンには強い血管収縮作用がありますので、禁煙は症状改善にとても有効です。
禁煙は他の血管系のトラブル(脳梗塞や心筋梗塞など)にも良い影響がありますので、ぜひ取り組みましょう。
レイノー病やレイノー症候群には、漢方医学独特の概念である瘀血(おけつ)が深く関与しているといえます。
瘀血とは、簡単に表現すれば血(けつ)の滞りや、それによって起こる諸症状を指します。
瘀血によってもたらされる症状は非常に多岐にわたります。
その中でも代表的な症状としては、冷え、のぼせ、首肩腰の凝り、刺すような痛みや腫れ、肌の変色や硬化などが挙げられます。
女性の場合は、生理不順、不正性器出血、生理痛なども含まれます。
漢方相談を受けていると、レイノー病による冷えに加えて、生理不順や生理痛を患っているケースは非常に多いです。
瘀血が生まれることで血の供給量が低下し、血の不足が起こってしまうこともあります。
漢方医学的に血が不足した状態を血虚(けっきょ)と呼び、しばしば瘀血とセットで現れます。
血虚の症状としては、疲労感、身体の重だるさ、動悸や息切れ、めまいや立ちくらみ、肌の乾燥、顔色の蒼白化、髪質の低下や脱毛、不眠症や不安感の増大などが挙げられます。
血は生命エネルギーである気の後押しを受けて、身体を巡っています。
さらに気は血に生まれ変わってもいるので、両者は密接に関係しています。
したがって、血のトラブルが気のトラブルに波及することがあります(その逆で、気のトラブルが血のトラブルにもつながりやすいです)。
気の問題は、気の不足である気虚(ききょ)、気の滞りである気滞(きたい)に分けられます。
気虚の症状としては、疲労感、食欲不振、体重の減少、風邪をひきやすい、胃下垂や脱肛などの内臓下垂、不正性器出血や皮下出血のしやすさなどが挙げられます。
上記に加えて気には身体を温める作用もあるので、気の不足はレイノー病などの悪化要因となります。
漢方相談を受けていると「緊張する場面で手先が強く冷えてしまう」というお話もしばしば伺います。
これは精神的ストレスから気の流れが一時的に悪くなり、冷えの症状が出ていると推測されます。
このような気滞が起こると喉、胸部、腹部などの張り感や苦しさ、息苦しさ、吐き気、イライラ感、鈍痛などの症状も起こりやすくなります。
基本的に瘀血の状態に陥ってしまうと連鎖的に上記のような血虚、気虚、気滞などの症状も現れてしまいます。
実際に漢方相談を受けていると瘀血のみが存在するケースはほぼ無く、これらを併発するケースがほとんどです。
レイノー病やレイノー症候群には瘀血が深く関与していると考えられます。
したがって、レイノー病などの治療の中心はこの瘀血を治療することになります。
瘀血を治療する生薬は活血薬と呼ばれ、当帰、芍薬、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索、田七人参などが挙げられます。
この活血薬と、下記で挙げる冷えを除く散寒薬をうまく組み合わせた漢方薬が、レイノー病などの治療の軸となります。
西洋薬において、血管を拡張させる薬はありますが身体を温める薬は存在しません。一方で漢方薬はこの点を非常に得意としています。
手足の冷えや、冷えによるしびれ、肌の変色などがある場合は身体を温める生薬である、散寒薬が活躍します。
散寒薬の具体例としては、附子、乾姜、桂皮、呉茱萸などが挙げられます。
桂皮はシナモン、丁子はクローブのことで、どちらも身体を温めるスパイスとして有名です。
血は気の力によって循環しているので気の不足(気虚)や気の滞り(気滞)は血の流れを悪くしてしまいます。
気虚が顕著な場合(疲労感、気力の低下、食の細さなど)では気を補う補気薬が用いられます。
主な補気薬としては人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。
緊張で冷えが悪化するような、気滞が明らかなケースでは気の流れを緩和する理気薬が用いられます。
しばしば使用される理気薬には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。
レイノー病などの治療は単純に血の流れを良くするだけではなく、個人にあわせて漢方薬を調合することがとても大切になります。
上記で紹介した以外にも、場合によっては血を補ったり、水分代謝を促すようなケースもあります。
ただ血行を良くする、温める、では無いところが漢方薬の奥深さではないでしょうか。
患者は30代前半の女性・介護福祉士。中学生の頃から手足の先が冷えて、しもやけに悩まされていました。
高校では部活動で身体を動かすようになって症状はやや改善するも、専門学校に進学して症状が再発。
自宅近くの診療所を訪ねてレイノー病と診断されるも「確実な治療法は無い」といわれてしまいました。
その後は厚着をするなど「対症療法」でなんとかしのいでいました。
しかし、専門学校卒業後、介護福祉士として働いていると冬の夜勤の時などはまともに仕事ができないくらい手足が冷えて、しびれでうまく歩けない時もあるほどになってしまいました。
このまま放置するわけにもいかず、なんとなくネットでレイノー病のことを検索するうちに当薬局を知り、ご来局されました。
ご様子を伺うと顕著な四肢の冷えと肌の蒼白化、それ以外にも生理周期は順調でしたが強い生理痛、下腹部の冷え、下肢のむくみも気になるとのこと。
生理痛はレイノー病と同じく、冬に重くなる傾向がありました。
この方には桂皮、呉茱萸、細辛といった身体を温める働きに優れた漢方薬を服用していただきました。
漢方薬服用から4か月が経つと、少しずつ手足や下腹部の冷えがとれてきたとのこと。漢方薬の味にも完全に慣れたとおっしゃっていました。
冷えが早い段階で解消されつつ、依然としてむくみと生理痛がまだ残っているということで、漢方薬を変更しました。
新しい漢方薬は血を補い流れも改善する芍薬や当帰、水分代謝を改善する茯苓や白朮などから構成されるものでした。
漢方薬変更から3か月が経過した段階でむくみも生理痛も軽減。毎月服用していたロキソニン(消炎鎮痛薬)を服用しなくても良い状態になっていました。
変更によって四肢を中心とした冷えがぶり返さないか少々心配していましたが、その心配も無くレイノー病の症状は現れませんでした。
服用から丸1年が経ち、冬になってもしもやけや歩行が難しくなるほどのしびれも起こらず、良い状態がキープできました。
この方は現在でも症状や気候に合わせながら服用量や内容を調節して継続的に漢方薬を服用していただいています。
レイノー病は血管が異常に収縮することによって血流が悪化し、冷えなどが起こる病気です。
したがって、理論的には血管を広げる作用がある西洋薬を服用すれば、すべての問題は解決すると思えます。
一方で意外にも当薬局へいらっしゃる方の多くが、病院の薬を服用してもなかなか冷えが消えないと訴えられます。
漢方薬はただ血行を改善するだけではなく、身体を内側から温める働きにも優れています。
この点が漢方薬と西洋薬とで大きく異なる点と考えられます。
当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。
そして漢方薬を服用し始めてから、末端を中心とした冷えやしびれなどの症状が少しずつとれてくることから、レイノー病と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。
レイノー病にお悩みの方はぜひ、池袋の一二三堂薬局へご相談ください。【執筆・監修:吉田 健吾(薬剤師・一二三堂薬局代表)】