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【 上咽頭炎 】と漢方薬による治療

上咽頭炎とは

上咽頭炎(じょういんとうえん)とは鼻の穴の奥にある上咽頭に慢性的な炎症が起こっている状態です。近年、上咽頭における炎症は単なる空気の通り道の炎症ではなく、さまざまな心身両面の症状に関係していることがわかってきました。

上咽頭の位置

上咽頭は鼻の穴の奥に広がる鼻腔(びくう)のさらに奥に位置しています。口側から見える「のどちんこ」と呼ばれる口蓋垂(こうがいすい)の奥上部あたりにありますので、私たちが日常的に見える場所ではないことがよく分かります。

上咽頭のはたらき

上咽頭の表面は粘膜で潤っており、粘膜からは線毛(せんもう)と呼ばれる微小な毛が伸びています。

線毛は異物を捉え、鼻水などと一緒に押し流すように体外へ排出します。鼻から吸い込んだ空気にはさまざまな細菌、ウイルス、カビ、ゴミなどが含まれていますので、上咽頭は空気清浄機のフィルターのようなはたらきを担っているのです。さらに上咽頭には免疫細胞も集まっており、上記でも挙げた細菌やウイルスなどを迎え撃つ最前線にもなっています。

やや脱線しますが、鼻ではなく口呼吸をしてしまうと汚れた空気が上咽頭を経由せずに侵入してしまいます。そうすると上咽頭のフィルター機能が生かされないので、風邪やインフルエンザなどの感染症や呼吸器系のトラブルになりやすくなってしまいます。

上咽頭炎の症状

上咽頭炎の症状は大きく3つに分けられます。ひとつは上咽頭の炎症によってその周辺で起こる症状、2つ目は全身の炎症症状、そして自律神経の乱れによる症状です。

上咽頭のまわりで起こる症状

上咽頭のまわりで起こる症状としては、喉の痛み、喉のつまり感やイガイガ感、声の出しにくさ、咳、痰、首肩こり、頭痛、舌の痛み、鼻の臭い、後鼻漏(こうびろう)などが挙げられます。

後鼻漏(こうびろう)とは粘性の強い鼻水が鼻からではなく、後方の喉側に落ちてしまう症状を指します。喉を中心に不快感が強く、しばしば上咽頭炎の主症状となります。

全身の炎症症状

上咽頭での炎症をきっかけに免疫系が過剰に反応し、炎症が全身に拡大してしまうことがあります。結果的に上咽頭炎と関連が薄そうなアトピー性皮膚炎(慢性皮膚炎)、腎炎、関節炎などが発症・悪化しやすくなります。

自律神経の乱れによる症状

上咽頭の周辺には迷走神経と呼ばれる自律神経が通っています。自律神経とは臓器などのはたらきを自律的、つまり無意識下でコントロールし、生命維持を行ってくれる神経のことです。

自律神経が正常に機能しているおかげで私たちは意識をしなくても呼吸、拍動、消化、発汗などがスムーズに行われています。反対に上咽頭で起こった炎症が自律神経を刺激してしまうと、心身両面に悪影響を及ぼしてしまうこともあります。

具体的には疲労感、めまい、耳鳴り、食欲低下、吐き気、下痢、便秘、気分の沈み、イライラ感、不眠、集中力の低下などが挙げられます。このように自律神経の乱れは身体症状だけではなく、精神面の症状も引き起こすことがあります。

上咽頭炎の原因

上咽頭は鼻から吸い込んだ空気の通り道であり、ウイルス、細菌、ハウスダスト、排気ガスなどに絶えず晒されています。上咽頭ではこれらの侵入を防ぐため、粘膜や線毛が汚れを捉えたり、免疫のはたらきによって「防衛」しています。

しかし、空気の汚れた環境での長時間滞在などで処理しきれないほどの負担がかかると上咽頭炎のリスクは上昇してしまいます。

他にも過労や睡眠不足などによって免疫系のバランスが崩れ、正常に機能しなくなることでも上咽頭炎は起こりやすくなると考えられています。

上咽頭炎の西洋医学的治療法

上咽頭炎の代表的な治療法としてBスポット療法が挙げられます。Bスポット療法は上咽頭擦過療法(じょういんとうさっかりょうほう)や、その英語名の頭文字を取ってEATとも呼ばれます。

ちなみにBスポット療法の「B」とは、鼻や喉の空洞を指す鼻咽腔(びいんくう)のローマ字表記のBです。

Bスポット療法とは抗炎症作用や止血作用のある塩化亜鉛溶液をガーゼなどに浸し、それを直接患部の上咽頭に塗り付けるというものです。炎症のある部分に炎症を抑える薬を直接塗るという、シンプルで歴史もある治療法です。

Bスポット療法は効果の高い治療法の一方、治療の初期は痛みや出血が生じやすいといったデメリットもあります。薬の服用のように自宅で出来る治療法では無いので頻繁に耳鼻科に通院する必要もあります。

Bスポット療法以外の治療法としては内服の抗アレルギー薬、痰・鼻水の粘りを弱めて排出しやすくする薬などが使用されます。

上咽頭炎の漢方医学的解釈

漢方医学の視点から上咽頭炎を考えるとその発症には主に熱証(ねつしょう)と瘀血(おけつ)が深く関与しています。

熱証の一般的な症状としては炎症の他に、ほてり、充血、出血、皮膚の発赤や化膿、イライラ感、不眠などが挙げられます。熱証においては身体的な症状にくわえて精神的なトラブルも起こります。

上咽頭炎のような慢性的な熱証が起こる原因はさまざまですが、主には暴飲暴食(特にアルコール、辛いもの、脂肪分の多いもの)、精神的なストレス、肉体疲労の蓄積と体力の消耗、感染症などが挙げられます。

瘀血とは血の巡りが悪くなっている病態を指します。瘀血によって引き起こされる症状としては、出血、肌のアザや目のクマ、首や肩の凝り、頑固な固定性の痛み、冷えのぼせ、女性の場合は生理痛や生理不順などが挙げられます。

瘀血が起こる主な原因としては上咽頭炎のような炎症、怪我や手術による外傷、精神的なストレス、慢性病の罹患、運動不足などが代表的です。

上咽頭炎は主に上記で挙げた熱証と瘀血が複雑に絡んで発症していると考えられます。これら以外にも、後鼻漏が顕著なら水分代謝の停滞、精神面でのトラブルが強ければ気の流れの滞りなども発症の原因と考えられます。

漢方薬を用いた上咽頭炎の治療

上咽頭炎の背景に熱証や瘀血が関与している場合、その解消が症状の改善に繋がります。特に熱証は上咽頭炎の多くのケースでみられます。

喉の不快感や痛み、粘性で黄色の後鼻漏や痰、患部の出血がある場合は熱証が強いと考えられます。このような方には黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏といった熱を鎮める清熱薬を含んだ漢方薬が有効です。

上咽頭炎を患っている期間が長い方や、首や肩の凝りが強い場合は瘀血が絡んでいる可能性が高いので桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬を含んだ漢方薬の使用が検討されます。

上記以外にも精神的なストレスが強くイライラ感や眠りの質が悪い方には気の流れを改善する柴胡や薄荷、後鼻漏が多いケースでは水分代謝を促す茯苓や白朮などを含んだ漢方薬も使用されます。

このように漢方薬を用いた上咽頭炎の治療は症状の現れ方、元々の体質、置かれた環境などによって大きく変わってきます。

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生活面での注意点と改善案

上咽頭炎を改善する上で食生活の改善はとても大切です。上記でも簡単に触れましたがアルコール、辛いもの、脂肪分の多いものは炎症を悪化させやすいです。完全にゼロにするのは現実的ではありませんが、「ビールと一緒にキムチとカルビ肉」のような食生活は控えましょう。

上咽頭炎にくわえてアトピー性皮膚炎、慢性鼻炎、副鼻腔炎といった炎症性の持病を持っている方は食生活により注意が必要です。

食生活にくわえて睡眠時間の確保も大切です。睡眠不足は傷ついた上咽頭の回復を妨げてしまうので、23:00~24:00までには入眠できるようにしたいです。乾燥は上咽頭において異物を排出するはたらきを低下させてしまうので、秋や冬は寝室を適度に加湿しましょう。

上咽頭の改善例

患者は50代の女性・管理栄養士。数年前から起床後に喉の奥に痰のようなものがダラダラと流れ落ちる後鼻漏があった。痰のように吐き出してスッキリすることも出来ず、時間が時間とともに不快な症状が落ち着くのを待つしかなかった。

徐々にデスクワークの支障になるほどの首肩の凝りも出始めたので耳鼻科を受診。そこでは軽い副鼻腔炎と診断され抗生物質で治療を開始。やや後鼻漏は減った印象はあったが完治には至らず。

その後にネットで自身の症状を調べると上咽頭炎に多くあてはまると感じ、Bスポット療法を行っている遠方の耳鼻科を受診した。

そこで改めて上咽頭炎の診断を受けてBスポット療法を開始。治療初期は強い痛みとともに薬液が塗られた綿棒にべったりと血が付いたが、定期的に3ヵ月程定通院すると出血量も痛みもかなり減ったという。

肝心の後鼻漏や首肩こりは半分近くに減ったが完治には至らず、管理職となり仕事が忙しくなるにつれて通院も不定期となってしまった。通院以外の治療法を調べるうちに漢方薬を思いつき当薬局へご来局。

ご来局時に詳しくご症状を伺うと、慢性的な後鼻漏や首肩凝りにくわえて後頭部を中心とした頭痛、喉の不快感をきっかけとしたイライラ感、寝付きの悪さ、胃腸の張り感など多彩な不調がみられました。

この方には炎症を鎮める黄芩や黄連、血の巡りを改善する桃仁や牡丹皮などから構成される漢方薬を服用して頂きました。

日常生活の注意点としてはアルコールや辛いものにくわえて、眠りを妨げるカフェインを含んだコーヒーや緑茶も控えるようお願いしました(管理栄養士の方に食事の注意をするのはとても気が引けましたが…)。

服用開始直後は苦くて飲みにくいとおっしゃられていましたが、3ヵ月程で味は慣れてきたとのこと。不快な後鼻漏は続いている一方で、凝りや頭痛はほぼ起こらなくなりました。

ちょうどこの時期は異動があり、新しい人間関係にまつわるストレスも溜まっていました。そこで炎症を鎮める生薬は維持しつつ、柴胡や薄荷を含んだ気の巡りを改善する漢方薬に変更を行いました。

新しい漢方薬に変更後は睡眠の質が良くなり、支離滅裂な夢を見たり、理由もなくイライラすることは減少へ。「後鼻漏以外の体調は本当に良くなった!」という、喜びきれないお声を頂きました。

漢方薬をどのように調合していくか悩んでいた頃、ちょうど花粉症の季節となりました。この方は例年、洪水のような鼻水や目の充血が出て困るということで水分代謝を改善する麻黄や蒼朮、炎症を鎮める石膏を中心とした漢方薬へ変更。

この変更が鼻水といった花粉症の症状だけではなく後鼻漏にも効果を発揮し、当初から困っていらっしゃった上咽頭炎の症状はほぼ解消されました。心配していた凝りや頭痛なども再発することはありませんでした。

花粉症シーズン後は炎症の抑制や気の巡りを整える漢方薬を改めて調合し、大きく体調を崩すことなく過ごされています。

おわりに

上咽頭炎は上咽頭という一部分のトラブルに留まらず、全身的な体調不良を引き起こしてしまう不思議な病気です。鼻炎や副鼻腔炎などと比べて知名度も低く、体調不良の原因が上咽頭炎と判明していないケースも潜在的に多いと推測されます。

上咽頭炎は外科的治療であるBスポット療法以外に有効な治療法に乏しく、改善が難しい病気でもあります。漢方薬は身体の内側からアプローチを行える、上咽頭炎の数少ない治療法です。慢性的な上咽頭炎でお困りの方は是非、漢方薬による治療もご検討ください。

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