人生の節目となる学校への入学。その入学を勝ち取るための受験はいつの時代も大変なものです。小学校受験はお子様がまだ小さい分、親の頑張りによる部分がとても大切になります。逆に高校受験や大学受験になると親の出る幕は少なくなり、お子様本人の努力によるところが非常に大きいです。
一方でこれらの中間に位置する中学受験はお子様と親の両方に強い負荷がかかる点が特徴といえます。特に近年の中学受験は入塾タイミングの前倒しによる長期化、テスト難化による勉強量の増加、受験率の高止まりによる競争の激化が指摘されています。
高校受験生や大学受験生になるとご自身で健康管理や気分転換が出来るようになってきます。一方でまだ心身ともに未熟な小学生が、自立的に体調をケアすることは困難です。ちょっとしたストレスや環境の変化でズルズルと体調を崩してしまうことも少なくありません。
当薬局は元々、お子様を対象とした漢方相談に力を入れてまいりました。くわえて、池袋は早稲田アカデミーや日能研の大型校があることもあり、以前から中学受験ストレスで体調を崩してしまうお子様と保護者の方がしばしばいらっしゃいました。それが最近はより多くなっている印象です。これは上記で挙げたような中学受験激化と無縁ではないでしょう。
漢方薬はお子様でも問題なく服用ができる上に、身体面と精神面の両方にアプローチできることが大きなメリットです。症状の改善以外にも冬場の感染症対策のための、抵抗力を向上する漢方薬などもあります。本ページでは中学受験を完走するための漢方薬について解説します。
当薬局に寄せられることの多い、中学受験生に起こりやすい健康トラブルを下記に挙げました。多くが精神的ストレスや過密スケジュールによる体力の消耗が原因のものです。くわえて、女児の場合は月経がはじまり、それに基づいた不調も少なくありません。
チック症とは意識していないのに身体が動いてしまったり、声が出てしまう病気です。具体的には首・肩・腕などを素早く動かす、まばたき、顔をしかめる、白目をむくように目を動かす、咳払い、鼻を鳴らす、「ん、ん」「あ、あ」といった発声の繰り返しなどが挙げられます。
チック症の動きや発声は無意識に出てしまったり、強い衝動によって起こされるものなので、誰かが注意をして止まるものではありません。症状を指摘してしまうとそれが引き金となり、より症状が悪化してしまうことも少なくありません。特に発声の症状は強く出てしまうと学校や塾の授業中に目立ってしまい、そのストレスで症状が悪化してしまうこともあります。
過敏性腸症候群は精神的なストレスから腹痛や下痢が起こってしまう病気です。しばしば、IBSとも略されます。過敏性腸症候群は腸に炎症や傷ができているわけではなく、ストレスによって腸のはたらきが悪くなっている点が大きな特徴です。
受験本番のテストや模擬試験前、通学や通塾前といった緊張する場面で腹痛などの症状が出やすくなります。下記の神経性嘔吐症と一緒に発症してしまうケースもあります。
神経性嘔吐症はストレスから吐き気や嘔吐が起こってしまう病気です。心因性嘔吐症とも呼ばれます。上記の過敏性腸症候群と同様に、胃に炎症などは見られずストレスによって胃のはたらきが悪くなることで発症します。
吐き気や嘔吐ではなく、なんとなく喉に違和感や圧迫感がある、咳払いをして喉をすっきりさせたい…という形で表現されることもあります。
咬爪症(こうそうしょう)はストレスなどをきっかけに手指の爪や爪の周りの皮膚をむいてしまう症状を指します。問題を解いている時(主に苦戦している時…)などに無意識に爪をむいてしまうケースが多いです。経験的に下記の抜毛症(ばつもうしょう)と併発しやすい印象があります。
抜毛症(ばつもうしょう)はストレスなどで頭髪やまつ毛を抜いてしまう症状を指します。抜毛症は脱毛症のように自然に抜けてしまうのではなく、自分で抜いてしまう点が大きな違いです。
勉強中などにペンを持っていない手で、無意識に抜いてしまうことが多いです。上記の咬爪症とセットで発症することが多く、勉強を一緒に見ていた保護者の方が偶然、お子様の爪や髪の異常に気付き、大慌てで相談に来られるケースもしばしばです。
中学受験の勉強が本格化する小5~6年は初潮が始まる時期と重なります。生理が始まったばかりの頃は周期が乱れやすく、生理痛も起こりやすいです。まだ慣れない経験によって集中力の低下や、貧血による体力の低下にも注意が必要です。
小5~6年になると通塾頻度も勉強量も一気に増加します。元気のある子どもでも体力的に余裕がなくなると精神面の余裕もなくなり、イライラ感、不安感、そして集中力の低下も顕著になってしまいます。思春期特有のメンタルの不安定さや模擬試験の不調などが重なってしまうと、負のスパイラルに陥りやすくなってしまいます。
月経が始まっている女児の場合、生理前にイライラ感や不安感が増したりする場合もあります。これは生理前に多彩な症状が起こる月経前症候群(PMS)の影響と考えられます。
インフルエンザや新型コロナが流行りやすい冬場はちょうど埼玉入試(1月10日~)、千葉入試(1月20日~)、そして東京・神奈川入試(2月1日~)と重なります。感染症対策は試験当日のパフォーマンス以前に、受験できるかどうかを左右してしまいます。当薬局には年末頃から体力・抵抗力を底上げする漢方薬を求められるケースがとても多いです。
「中受沼」という物騒な言葉があるように、沼にはまり、受験生本人以上に保護者の方が先に体調を崩してしまうことも少なくありません(むしろ、そのケースの方が多いです…)。体調不良の内容も身体的なものだけではなく、精神的なものがより多い印象です。
宿題やスケジュール管理、成績の把握、中学校のリサーチ、塾や中学の説明会への参加などはどうしても子ども任せにはできません。この点が高校受験や大学受験と大きく異なる特徴です。保護者がフォローしなければならない領域の広さ、言い換えれば、保護者がフォローできてしまう領域の広さが際限のない消耗につながると考えられます。
保護者は大人とはいえ人間ですので、体力面で消耗してしまうとメンタル面もすり減ってしまい、イライラ感や不安感、場合によっては不眠やうつ状態に陥ってしまうこともあります。
漢方医学において精神的なストレスがかかり続けてしまうと気の巡りが滞り、気滞(きたい)という状態に陥ってしまいます。気滞による具体的な症状としては、気分の沈みやイライラ感、思考力の低下、だるさ、喉や胸の圧迫感、食欲不振、胃痛・腹痛、不眠などが現れやすくなります。
気滞はしばしば、チック症、過敏性腸症候群、神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)、咬爪症、抜毛症などの発症や悪化の原因となります。このような病気や症状が出ている場合、気滞の改善が最優先となります。
気滞を解消するのは気の流れをスムーズにする生薬であり、理気薬(りきやく)と呼ばれます。代表的な理気薬には柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などが挙げられます。多くの場合、これら理気薬だけではなく、下記で挙げる気の補充を行う生薬も含んで漢方薬の調合は行われます。
長時間頭を使ったり睡眠不足になると生命エネルギーである気が不足した気虚(ききょ)の状態となってしまいます。気虚の具体的な症状としては、疲労感、めまいやふらつき、思考力や気力の低下、感染症のかかりやすさなどが挙げられます。
気虚を改善するのは気を補充する生薬であり、補気薬(ほきやく)と呼ばれます。補気薬には人参、黄耆、白朮、大棗、甘草などが含まれ、これらを含む漢方薬が気虚の改善に用いられます。気虚に陥ると気の巡りも悪くなりやすいので、上記の理気薬とセットで漢方薬を調合することが多いです。
当薬局にいらっしゃる中学受験生を抱えた保護者の方に多いのは、圧倒的に精神的な症状です。具体的には強いイライラ感、憂うつ感、不安感、気力の低下、不眠、他にストレスによる過食や食欲不振なども挙げられます。これらの多くは既に挙げた気滞と重なる部分が多いです。
くわえて、不安感や不眠が顕著に強い場合は心血虚(しんけっきょ)の可能性が高いので、酸棗仁や竜眼肉といった補血薬(ほけつやく)を含んだ漢方薬も検討されます。
保護者の方が気滞などに陥るとお子様にも似たような症状が「感染」してしまうことがしばしばあります。漢方の世界では「母子同服(ぼしどうふく)」という面白い格言があります。これはお子様の病気を治すために、保護者も漢方薬を服用して治療するという意味です。
保護者の体調が安定すると、お子様の調子も上向くという経験則は見逃せません。それほど保護者の体調(特に精神状態)はお子様に影響を及ぼしてしまうということを意味しています。もし保護者の方だけではなく、お子様にも気になるご症状があるようでしたら母子同服もご検討ください。
お子様が5年生以上になると塾の課題も飛躍的に多くなり、進行スピードも速くなります。結果的に休息時間や睡眠時間が削られがちです。しかしながら、特に睡眠時間の短縮は気の回復を妨げてしまいます。
気の不足は連鎖的に気の滞りや血の不足などを引き起こし、大きく体調を崩す原因となってしまいます。(難しいとは承知していますが…)睡眠時間や睡眠時間の確保を最優先にお願いしたいです。明確な基準はありませんが受験を直前に控えた6年生でも、入眠時間が24時を過ぎるのは絶対に避けたいです。
睡眠時間の確保は保護者の方にも同じことが言えます。上記の母子同服の例が示す通り、保護者自身の体調管理も重要です。遅くまで保護者ブログやSNSなどを読み漁り、睡眠不足なってよいことは全くありません。
しばしば、お子様が漢方薬を服用して問題はないのか(身体に害はないのか)という質問を保護者の方から受けます。漢方薬も「薬」ですので、服用に注意は必要ですが、上記で挙げたようなトラブルに対応する漢方薬は、お子様がやや長めの期間服用することを前提に調合いたしますので過度な心配はありません。
漢方薬の味につきましても小学校高学年になればほぼ問題なく服用可能です。服用に強い抵抗感があるようでしたら、粉薬の場合はオブラートに包んだり、服薬補助ゼリーなどを使用しても問題ありません。これら以外にも服用のテクニックはございますので、うまく継続できるかと思います。
患者は小学6年生の男児。低学年の頃からチック症があったが自然に改善。4年生になり受験のために通塾を始めた頃からチック症が再発した。特に宿題をこなしている時に首を大きく左右に振る動きや「ん!んっ!」という発声が目立つ。ご本人は小学校の同級生も同じ塾を利用しているので、楽しく通塾出来ているとのこと。
ご両親とともに薬局に来られた際、やはりチック症による動きや発声がみられました。他のご症状としては少々のイライラや、公開模試の直前などに下痢になりやすい(特に塾ではなく外部会場で模試を受ける時はよりトイレが近くなる)。
お子様には気の巡りを良くする柴胡、筋肉の緊張を緩和する芍薬や葛根を含む漢方薬を服用して頂きました。くわえて、入眠する時間が24時直前ということで、出来る限り23時には就寝できるようにお願いしました。
初めの頃は服用に苦戦されていましたが、慣れると真面目な性格が後押しして1日2回を自分で服用できるようになりました。チック症の症状は3ヵ月目に入るとほぼ消失。緊張による下痢も模試会場へ出発する前に、自宅で2回くらいトイレに行けば落ち着くようになりました。
埼玉入試が始まる数週間前からはご両親からの希望もあり、感染症対策として人参や黄耆を含んだ抵抗力と体力を向上させる漢方薬に変更。年末は毎年、息子様だけではなくご家族全員が風邪やインフルエンザになるということで、この時だけはお母様もお父様も同様の漢方薬を服用して頂きました。
手洗いやマスクの徹底も手伝って健康体で埼玉入試へ。無事に埼玉入試で白星を複数得たうえで2月の東京入試を迎えられました。埼玉入試後、少々チック症によるまばたきが増えたことにくわえ、ご本人が「前の漢方を飲んでいる時の方がイライラしたり、焦りにくい」とのことで、以前調合していた心身の緊張を緩和する漢方薬へ再変更。
風邪の心配はありましたが元気に本命の東京入試を迎え、2月2日の時点で志望校の合格を得て受験を終えられました。受験終了とともに漢方薬の終了も検討されましたが、経験的に入学直後は環境の変化からチック症が出やすいので、ゴールデンウィークまで服用して頂き漢方薬も「卒業」されました。
患者は小学6年生の女児。5年生になり初潮をむかえてから集中力の低下、倦怠感、そして強いイライラ感に襲われるようになった。一緒に薬局に来られたお母様曰く「成績もケアレスミスの激増で低空飛行、毎日、娘とバトルしています」とのこと。
ご様子を伺うと生理前から徐々に症状は始まり、生理時は生理痛も重なりコンディションは最悪に。生理痛によって下腹部から脚まで痛むこともあるという。心配になり婦人科を受診したこともあるが、特に病気などは発見されずやや貧血傾向との診断。鉄剤が処方され、服用しても数値はなかなか改善せず。
たしかに顔色はご年齢の割に青白く、生理に関係なく常に倦怠感があるという。塾の合間を縫ってご来局された当日も、だるさのために余裕がないのかお母様としばしば口論(「家に帰って来ても学校の宿題を済まさないから寝るのが遅くなる!」など…)。
娘様には体力を底上げするために血を補う地黄や芍薬、血の巡りを改善する当帰や牡丹皮、そして気の巡りをスムーズにして気持ちを安定させる柴胡や薄荷を含む漢方薬を服用して頂きました。
効果は比較的すぐに現れ、2ヵ月ほどで顕著な疲労感は減り、「超過密スケジュールで心配だった夏期講習も皆勤賞で通過出来た。ケアレスミスが少なくなった分、成績も安定してきた」という。少しずつお母様とのバトルも減少したとのこと。
服用から4~5ヵ月頃には貧血の数値であるヘマトクリット値とフェリチン値の両方が改善。生理前の不快症状や生理痛も勉強や生活の支障にならないレベルまで回復しました。
一方で受験が近づいてきたこともあり、娘様ではなくお母様自身の体調がすぐれないというお話へ。お母様のご症状は強い焦燥感とイライラ感、そして寝付きの悪さでした。眠りの質が悪いので必然的に疲労感も顔色に出ていました。
結果的にお母様には娘様とほぼ同じ漢方薬を調合いたしました。くわえて、多く摂っていたというコーヒーは、含まれているカフェインによる覚醒作用(睡眠を妨げる作用)が心配だったので控えて頂きました。他にも入眠前の日課だった中学受験ブログの閲覧は絶対禁止でお願いしました。
服用から1ヵ月でパニック寸前のような強い焦りはなくなり、「今は焦っても仕方ないか」と客観視できるように。2ヵ月程で適度な眠気に身を任せて入眠も出来るようになっていました。睡眠の質改善については、夜スマホ禁止などの生活習慣の見直しも貢献していたと感じます。
その後、1月の埼玉入試は苦戦するも白星も得て通過。東京入試中の2月2日から生理が来ましたが、大きくコンディションを崩すことなく戦い抜き、無事に合格を勝ち取りました。お母様曰く「娘は意外と平然とこなしていて、私や夫の方がドタバタしていた」とのこと。
受験終了後も漢方薬を服用していると生理周期も安定して生理痛も軽く済むということで継続服用へ。お母様は更年期障害と思われるご症状(ほてりや多汗)が出始めたとのことで、内容を調節して服用して頂いています。
「中学受験は試験を出す側の中学と、対策する側の塾とのイタチごっこで質量ともに増加の一途をたどっている…」とご来局された保護者の方が嘆息されていました。結果としてスケジュールは過密となり、親子とも体調を崩しやすい環境が生まれてしまいました。
あまりにも体調不良が目立つようでしたら、撤退も含めて計画を見直す必要もあるでしょう。一方でご本人の強い希望がある場合、最後まで伴走してあげたいと思うのが親心でもあります。
漢方薬は身体に負担をかけることなく服用が可能で、身体症状だけではなく精神症状も同時にカバーすることができます。お子様のご体調で気になることが御座いましたら、ぜひ、漢方薬を検討して頂ければ幸いです。