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【 円形脱毛症 】と漢方薬による治療

円形脱毛症とは

円形脱毛症はその名の通り、頭髪が円形に脱毛してしまう病気であり脱毛症においてもっとも頻度が高い病気です。痒みや痛みといった脱毛以外の症状はなく、脱毛の現れ方には好不調の波があるケースが多いです。

円形脱毛症の発症頻度は約1%程度で、男女比に大きな偏りはありません。一方で円形脱毛症はより若年層に多い病気であり、子供でもしばしばみられます。これは一般的な加齢による薄毛と大きく異なる点といえます。

円形脱毛所の症状

円形脱毛症の症状の現れ方はいくつかのタイプに分けられます。最も一般的な単発型は硬貨くらいの大きさの円形脱毛症が単独で現れます。そして多発型は脱毛部が複数個、同時に現れるケースです。複数の脱毛部が重なり合いより大きな脱毛に至ることもあります。円形ではなくいびつに脱毛が起こる蛇行型も存在します。

円形脱毛症からは脱線してしまいますが、頭髪がすべて抜け落ちてしまう全頭脱毛症や、頭髪だけではなく眉毛、まつ毛、腋毛、陰毛などの体毛も抜け落ちてしまう汎発型脱毛症(はんぱつがただつもうしょう)も存在します。ちなみに「汎発」とは「全身に起こる」という意味です。

円形脱毛症の原因

円形脱毛症の原因は明確には解明されてはいませんが、自己免疫疾患説が有力です。つまり、免疫細胞が頭髪を作り出す細胞を誤って攻撃してしまうことで脱毛が起こってしまうという説です。

そして、円形脱毛症はアトピー性皮膚炎などの他のアレルギー疾患や自己免疫疾患と一緒に起こりやすいことも知られています。しばしば、円形脱毛症の原因としてストレスが疑われますが、ストレスはあくまでも円形脱毛症を「起こりやすくする一因」と現在では考えられています。

円形脱毛症の西洋医学的治療法

西洋医学的には主に外用のステロイド薬やステロイド薬の注射が行われます。それ以外にも血行促進作用のあるフロジン(一般名:カルプロニウム)の塗付、やはり血行改善作用のあるセファランチン(一般名も同じ)の服用、抗炎症作用を持つグリチロン(一般名:グリチルリチン)の服用などがしばしば検討されます。

それ以外にも液体窒素やドライアイス、特殊な薬品を用いて人工的にかぶれを起こすなどして発毛を担う細胞を刺激したり、特殊な紫外線を当てて免疫反応の異常を抑制するといった治療法が行われます。

円形脱毛症の漢方医学的解釈

漢方医学において髪は血(けつ)の余り、血余(けつよ)と捉えています。つまり、生命活動を維持するための栄養素である血が充実し、その一部が毛髪に生まれ変わるというものです。したがって、円形脱毛症、全頭脱毛症や汎発型脱毛症は血の不足によって起こると捉えます。

血が不足した状態である血虚(けっきょ)に陥ってしまう原因はいくつか考えられます。過労による疲労の蓄積、慢性疾患、精神的ストレス、出血、さらには血や気の滞り、気の不足などが血虚の代表的な原因です。実際に円形脱毛症を起こすケースではこれらの原因が複雑に絡み合っていると考えられます。

ちなみに円形脱毛症と併発しやすいアトピー性皮膚炎も、多くの場合は血虚によって血が充分に肌を栄養できなくなり起こると考えます。したがって、円形脱毛症の治療とアトピー性皮膚の治療は並行的に行われることも多いです。

漢方薬を用いた円形脱毛症の治療

漢方医学の視点から考えられる円形脱毛症の原因は主に血虚にありました。したがって、円形脱毛症の治療も血を補い、血虚を解消することが中心となります。血を補う生薬である補血薬には地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。これら補血薬は円形脱毛症を治療する漢方薬の核となります。

血虚を改善することは円形脱毛症治療において極めて重要ですが、どうして血虚に陥ってしまったのかを知ることも大切です。特に血は気からつくられるので慢性的な食欲不振や生まれながらの食の細さによって、食べ物から充分な気がつくれない状態は大きな問題となります。

上記のような消化器系のトラブルにくわえて身体の重だるさ、気力の低下、冷え性(冷え症)、動悸や息切れといった気虚(ききょ)が疑われる場合、血とともに気を補うことが不可欠です。気を補う生薬である補気薬には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが含まれます。

気を補う以外にも気の流れが悪ければ気血がもつ栄養作用を充分に発揮することができません。円形脱毛症を患うことは多大なストレスとなります。そして精神的ストレスは気の流れを顕著に悪くしてしまうので柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの気の流れをスムーズにする生薬も必要となってくるでしょう。このように円形脱毛症の治療はただ血を補うのではなく、血が不足した原因を含めて幅広く対応することが求められます。

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円形脱毛症の改善例

30代後半の男性・大学職員。1年ほど前から抜け毛が多くなっていることには気付いていましたが、散髪に行った際に後頭部に500円ほどの大きさの脱毛部を指摘され、その存在に気付いたという。心配になり近所の皮膚科のある病院を受診して円形脱毛症と診断され、外用のステロイド薬とフロジン液を処方されました。しかしながら、それらを服用しても大きな効果は得られず「ネットで買った育毛薬も効かず、やはり身体の内側からも治さないとダメと考えて」当薬局へご来局。

お話を伺うと3年前から現在の職場へ移り、閉鎖的な仕事の仕方に精神的なストレスを強く感じていたという。担当していた広報の仕事は先方の都合で勤務時間が長くなることも多く、ご本人はそれらが円形脱毛症の原因と考えられていました。

さらに円形脱毛症にくわえて体力の低下や疲労感、食欲不振を強く訴えられてもいました。ご本人曰く「学生時代よりも抜け毛の量が増えただけでなく、一本一本が細くなってきた気がする」とのこと。漢方医学的に髪は血の生まれ変わりと考えるので、この方は徐々に血が不足している血虚の状態に陥ってしまったと考えました。

血虚以外にも食欲不振からくる気の不足もあると考え、この方にはまず気の巡りを改善してストレスを緩和する柴胡、血を補う当帰、気を補う人参や黄耆などから構成される漢方薬を服用して頂きました。柴胡にはストレスを緩和するだけではなく免疫調節作用も報告されているので、自己免疫疾患である円形脱毛症治療に用いてしばしば良い結果が出ていました。

漢方薬服用から5ヵ月ほどが経過した段階で、食欲も増して疲労感はだいぶ軽減されていました。お話を伺っていても以前と比べて声に張りと生気を感じました。円形の脱毛部は依然として残っていましたが、抜け毛の量は低下して脱毛部がやや縮小したと喜ばれていました。これらを受けて同様の漢方薬で良いと判断し、根気強く継続の服用をお願いしました。

そして服用から合計で1年半が経った頃には脱毛はきれいに消失していました。この頃には職場にもだいぶ慣れて、精神的なストレスが軽減されていたことも改善に貢献したと感じました。この方は現在も体力の底上げと円形脱毛症の予防も兼ねて同じ漢方薬を継続して服用されています。

おわりに

円形脱毛症に代表される脱毛症全般は痛みや自覚的な機能の低下をともなうものではありません。その一方で美容(外見)の問題は自己肯定感を低下させ、物事への積極性をも削いでしまう可能性があります。それらがストレスとなり、円形脱毛症以外の心身症状を引き起こしているケースも目立ちます。

漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬やサプリメントを使用してもなかなか症状の改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、徐々に改善されることから脱毛症全般と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、円形脱毛症などの脱毛症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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