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【 潰瘍性大腸炎 】と漢方薬による治療

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎はその名の通り、大腸に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍を形成する疾患です。びらんとは大腸表面の粘膜が炎症によって傷つけられている状態であり、潰瘍はさらに深く粘膜よりも下まで凹状に侵されている状態です。したがって、潰瘍はびらんが悪化した病態といえるでしょう。

潰瘍性大腸炎は炎症が起こる部位によって大きく3つに分けられます。炎症が肛門に近い直腸に限定される直腸型、さらに直腸からS状結腸や下行結腸にまで炎症が広がる左側大腸炎型、そして大腸全体に炎症が拡大した全大腸炎型です。病態としてはより後者の方が重いといえます。

潰瘍性大腸炎は近年、大きく増加傾向のある病気のひとつです。日本において患者数は10万人以上といわれており、決して「マイナーな病気」ではありません。欧米ではさらに日本より患者数が多く、発症率は10倍近いというデータもあります。

潰瘍性大腸炎の発症年齢は男女ともに10~30歳代の若年者に多い傾向はありますが、中高年以降でもしばしば発症します。潰瘍性大腸炎の発症に関して目立った男女比は認められていません。

しばしば、同じ炎症性腸疾患ということで潰瘍性大腸炎はクローン病と比較されます。一方でクローン病は大腸だけではなく口から肛門まであらゆる場所に非連続的な炎症ができるという点などで異なります。

潰瘍性大腸炎の原因

潰瘍性大腸炎の明確な発症原因は不明ですが、有力なのが自己免疫疾患説です。自己免疫疾患とは本来ならば攻撃する必要がない身体(潰瘍性大腸炎の場合は大腸)に対して誤って攻撃を行ってしまう抗体ができてしまう病気の総称です。

潰瘍性大腸炎の発症率は日本よりも欧米において高いことが知られています。その点から潰瘍性大腸炎の発症には欧米式の食習慣や環境が関与しているという説が挙げられています。他にも精神的なストレスや腸内細菌叢の乱れによって症状が悪化しやすいといわれています。

潰瘍性大腸炎の症状

潰瘍性大腸炎の主な症状としては頻回の下痢、下腹部の痛み、発熱、体重の減少が挙げられます。潰瘍性大腸炎の下痢には膿や血液、粘液を含むことがあり、多い方では1日に10回以上の便通がある場合もあります。

便意と一緒に痛みをともなう場合も多く、排便後も残便感が生じるケースもしばしばです。このような症状をしぶり腹やテネスムスと呼びます。他の症状としては出血による貧血、慢性的な疲労感、食欲不振、下腹部の張り感、頻脈などが挙げられます。

潰瘍性大腸炎の合併症には大腸の穿孔(「せんこう」と読み、穴が開くことです)による大出血、大腸がん化、結腸の巨大化、胆管炎、関節炎による関節痛、肌の紅斑や壊疽性膿皮症、眼の虹彩における炎症などが挙げられます。このように潰瘍性大腸炎の合併症は消化器のみに限定されず、多岐にわたるケースもあります。

潰瘍性大腸炎の西洋医学的治療法

上記の通り、潰瘍性大腸炎の発症原因は不明であり、西洋医学的治療法も対処療法に限られてしまいます。具体的には薬物療法、血球成分除去療法、そして手術が挙げられます。

薬物療法は炎症を鎮めるサラゾピリンやアザルフィジンEN(ともに一般名:サラゾスルファピリジン)、ペンタサ(一般名:メサラジン)が代表的です。有効成分にペンタサと同じメサラジンを含むアサコールは特に大腸で薬効を発揮しやすいように工夫されており、潰瘍性大腸炎の治療に特化されています。同じくメサラジンを含むリアルダは服用回数が1日1回で済むように設計されています。

上記の他に非常に強い抗炎症作用を持つ副腎皮質ステロイド薬のプレドニン(一般名:プレドニゾロン)も使用されますが、副作用も強いので使用には慎重さが求められます。一般的にはより軽症の場合は坐薬の副腎皮質ステロイド薬、より重症の場合は内服薬が用いられます。

免疫のはたらきを抑えることで改善を目指す免疫抑制薬のイムランやアザニン(ともに一般名:アザチオプリン)、サンディミュンやネオーラル(ともに一般名:シクロスポリン)も用いられます。炎症を起こす物質を中和する抗体を製剤化したレミケード(一般名:インフリキシマブ)やヒュミラ(一般名:アダリムマブ)は副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬がうまく効かない場合などに選択されます。

血球成分除去療法とは血中に存在する免疫を担っている白血球(特に顆粒球)を特殊なフィルターやカラムで除去した後、再び身体に戻す治療法です。しばしば副腎皮質ステロイド薬が無効なケースに用いられます。

手術は薬物治療や血球成分除去療法がうまくゆかない場合、穿孔による大出血を起こしている場合に選択されます。つまり、手術は重症の方に選択されるものであり、手術方法は基本的に大腸の全摘出となります。

潰瘍性大腸炎の漢方医学的解釈

漢方医学的に考える、潰瘍性大腸炎特有の症状は単一の原因ではなくいくつかの要因が複雑に絡み合って生み出されているものだと考えられます。そのなかでも下痢を起こす根本的な病的状態が脾胃気虚(ひいききょ)です。

脾胃とは消化器機能全般を指しており、それら機能が弱まっている状態が脾胃気虚といえます。脾胃気虚の代表的な症状としては食欲がない、食べると腹部が張る、軟便や下痢が何回も続くといったものが挙げられます。このように潰瘍性大腸炎を患っている方の根本には脾胃気虚があると考えられます。

しかしながら、脾胃気虚には激しい炎症や腹痛は見られません。これらの激しい症状は多くの場合、湿熱(しつねつ)が関与していると考えます。湿とは身体内において有効活用されない余分な水分のようなものであり、脾胃気虚などによって生み出されやすい病的物質です。

この湿が何らかの要因(湿の長期間の放置、暴飲暴食、ストレスなど)によって熱を帯びたものが湿熱です。湿熱が引き起こす症状としては激しい下痢(場合によっては血便)や腹痛、腹部の張り感、食欲不振、吐気、口の中の粘り、口の中の苦みや酸み、身体の重だるさと疲労感などが挙げられます。

出血はしばしば熱が暴れることによって起こると考えるので、湿熱における「熱」の性質が強く出ている場合に粘血便の症状が現れると考えられます。したがって、基本的に潰瘍性大腸炎の根本には脾胃気虚があり、さらに脾胃気虚などによって生み出された湿熱が潰瘍性大腸炎特有の症状を起こしていると考えられます。

漢方薬を用いた潰瘍性大腸炎の治療

上記で説明したとおり、潰瘍性大腸炎の根本には脾胃気虚があると考えられますが、特有の症状を起こしているのは湿熱でした。したがって、漢方薬を用いた根治療法としては脾胃の気を補い、対処療法としては湿と熱を除去する必要があります。実際に漢方薬を調合する場合にはこれら根治療法と対処療法を上手く組み合わせる必要があります。

基本的には症状が激しく出ている場合はそれらを抑えることに比率を置き、ある程度、症状が鎮まってきた段階で根治療法を開始するというのが「定石」です。まず、根治療法の核になるのは脾胃気虚を解消するために気を補う補気薬(ほきやく)たちです。具体的には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。

これらは消化器のはたらきを改善するはたらきに優れていますが、下痢症状が目立つ場合は湿の影響が強いと考えて水分代謝を促進する利水薬(りすいやく)である茯苓、猪苓、沢瀉、蒼朮などが追加されます。その他に山薬、蓮肉、薏苡仁、山査子は止瀉作用が優れているので潰瘍性大腸炎にしばしば用いられます。

対処療法としては潰瘍性大腸炎特有の激しい症状を起こしていた熱を鎮める清熱薬(せいねつやく)が用いられます。主に黄連、黄芩、黄柏、山梔子などが中心となります。これら清熱薬は湿を乾燥させるはたらきもあるので湿熱対策には一石二鳥です。

これら以外にも精神的ストレスが強い場合、それらが気の流れを滞らせることで脾胃を弱め、湿を生み出す原因にもなります。適宜、気の流れを円滑にする理気薬(りきやく)である柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などを検討する必要があります。このように潰瘍性大腸炎に対する漢方薬は複数の要素をカバーしながら、症状の現れ方なども考慮に入れて構築してゆくことになります。

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潰瘍性大腸炎の改善例

患者は30代前半の男性・司法書士。子どもの頃から身体は丈夫で体力も人一倍あると自信を持っていましたが、社会人生活4年目に突然の腹痛と下痢に襲われるようになりました。最初の頃は仕事で頑張り過ぎてストレスが溜まっているくらいに考えていたということですが、血便やドロッとした粘膜がついた便も出るようになり、急いで病院を受診。

そこで初めて潰瘍性大腸炎と診断されました。最初の頃は「病名から慢性胃炎の腸バージョンくらいに思っていた」とのこと。ペンタサなどを中心に病院で処方された炎症を抑える坐薬を継続使用したおかげで一時的に症状は緩和しました。

しかし、薬の使用をおろそかにして、さらに仕事の増加も重なり発症から3年が経った頃に再び症状が悪化。S状結腸で大規模な炎症が起こっており、服薬を再開するもしばしば出血をともなう軟便、腹痛、発熱、疲労感が続き西洋医学以外の治療も試したい考えて当薬局に来局。

詳しくお話を伺うと、食欲はあるということでしたが顔色が色白から黄色でとても線の細い方だと感じたことをよく覚えています。ご本人曰く、昔はもっとふっくらしていたが、この5~7年間でとても痩せてしまったという。便通は1日6~8回くらいで出血があるとのこと。

この方には病院の薬のしっかりとした服用をお願いしつつ、炎症を抑える生薬である黄連、黄芩、山梔子、さらに血を補う生薬である地黄、当帰、出血を抑える生薬である艾葉、筋肉の緊張を緩和して痛みを和らげる芍薬などから構成される漢方薬を胃腸の負担を考慮して食後に服用して頂きました。

くわえて、常用していた度数の高いアルコールや脂肪分の多い食べ物は出来る限り控えるようお願いしました。他にも疲労感を溜め過ぎないよう睡眠時間の確保もあわせてお願いしました。

服用から4ヵ月が経過した頃には貧血によるものと考えられた疲労感は軽減。顔色もやや赤みが見て取れました。高熱や腹痛が出て事務所の仕事を休むこともほぼ無くなったとのこと。服薬中、心配していた漢方薬による食欲不振や胃もたれも起こりませんでした。便通はまだ緩さはあるということですが、出血は無し。

良い傾向だと感じ、同じ漢方薬を数ヵ月服用して頂き、半年が過ぎる頃には多少の軟便傾向以外のほとんどの自覚症状はなくなりました。その一方で事務所の繁忙期になると疲労感と比例して腹痛と下痢が起こるということで、人参、黄耆、白朮などの気を補い消化器機能を底上げする漢方薬に変更を行いました。

新しい漢方薬にして3ヵ月程度が過ぎた頃には午前8時~午後9時くらいまで勤務が長引く時も体力と集中力が持続するようなったとおっしゃられていました。潰瘍性大腸炎の症状自体も昔のように体力が付いてからは出なくなっていました。しかし、潰瘍性大腸炎は慢性に推移しやすい病気でもあるので、予防と体力増進の意味も込めて継続服用中して頂いています。

おわりに

潰瘍性大腸炎の原因は自己免疫疾患説が有力ですが、高脂肪食、過剰なアルコールや香辛料、食物繊維の不足、そしてストレスなどが症状を悪化させることも知られています。潰瘍性大腸炎は年間、約8000人ずつ患者数が増えているともいわれており、今日の日本におけるストレス社会の一面を反映しているのかもしれません。

潰瘍性大腸炎の症状は波のように好不調を繰り返しながら慢性的に推移しがちです。長期間にわたり続く腹痛や頻回の便通は大きく生活の質を落とし、それ自体が強いストレスを生み出す悪循環に陥りがちです。

当薬局では生活習慣の改善と漢方薬の服用によって潰瘍性大腸炎の状態が好転する方がとても多くいらっしゃることから、潰瘍性大腸炎と漢方薬とは「相性」が良いと実感しています。是非一度、潰瘍性大腸炎でお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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