片頭痛はその名前の通り、頭部の片側に起こる痛みを指します。しかしながら、両側頭部に痛みが現れることもしばしばです。ときに「偏頭痛」と表記されている場合もありますが、正式には「片頭痛」がもちいられます。片頭痛は首や肩の凝りから起こる緊張型頭痛と並んでよくみられる頭痛であり、若年から中年の女性に起こりやすいといわれています。片頭痛の痛みは脈を打つリズムで現れやすいという特徴があり、その痛みは日常生活に支障をきたすほどになるケースもあります。
他の片頭痛の特徴としては前兆や随伴症状(片頭痛と一緒に現れる症状)の存在が挙げられます。代表的な片頭痛の前兆として、実際には存在しない独特の光が視界や視界の欠損が現れる閃輝暗点(せんきあんてん)が挙げられます。しばしば起こる片頭痛の随伴症状としては吐気や嘔吐、感覚過敏などが存在します。
片頭痛の原因はまだ完全にはわかっていません。しかし、何らかの影響で血管が広がり、その血管を取り巻いている神経が刺激されて痛みが起こると考えられています。血管を広げてしまう要素、片頭痛を起こしやすくしてしまう要素としては精神的・肉体的ストレス、過労、睡眠不足や過眠、過度の空腹や満腹、雨や台風の接近といった天候変化、人混み、強い音や光などが代表的です。女性の方が片頭痛の起こる頻度が高いため、女性ホルモンや遺伝の影響も指摘されています。
片頭痛の主な症状は片側の側頭部に生じる強い痛みです。「片」頭痛という病名ではありますが、実際には両側頭部や眼の奥に痛みを感じることもあります。片頭痛の痛みは脈拍のリズムでズキズキと痛むことが多く、このような痛みを拍動性(はくどうせい)の痛みといいます。この痛みは緊張型頭痛などと比較すると強く、仕事や日常生活に支障をきたしてしまうほどです。
片頭痛の特徴に閃輝暗点(せんきあんてん)と呼ばれる独特の前兆症状が挙げられます。閃輝暗点は自分にしか見えない光や視野の欠損が現れるというものです。シンプルに表現すれば、片頭痛が現れる前に目の前が光でチカチカしたり一部が見えなくなったりするというものです。多くの方は閃輝暗点の光を「ギザギザがつながったような光」「トゲのような光が連続して見える」「光の歯車が現れる」などと表現されます。閃輝暗点以外にも片頭痛が起こる前に身体の重だるさ、眠気、感情の乱れ、過食衝動などが現れることもあります。
片頭痛にはしばしば随伴症状がみられる点も特徴といえます。片頭痛の主な随伴症状としては吐気や嘔吐、胃もたれ、頭痛がないときは気にならないような音・光・臭いなどに対して過敏になるといったものが挙げられます。 随伴症状とはやや異なりますが、片頭痛の痛みは身体を動かすとより強くなる傾向があるので寝込んでしまったり、活動の積極性が低下する傾向があります。
西洋薬を使用した片頭痛の治療は大きく分けて2種類の薬が使用されます。まずは一般的に市販もされている鎮痛薬が挙げられます。代表的な鎮痛薬はロキソニン、バファリン、カロナール、ボルタレンなどが代表的です。そしてもうひとつはトリプタン製剤と呼ばれる片頭痛に特化したタイプの薬です。トリプタン製剤は主に血管を収縮させたり、痛みを感じさせる物質を抑制させることで効果を発揮します。
両者は優秀な薬ですが、鎮痛薬の多くは胃腸の粘膜に負担をかけて胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因にもなってしまいます。トリプタン製剤は血管を収縮させるはたらきがあるので高血圧症、脳血管障害、心筋梗塞や狭心症などを患っている方には基本的に使用できません。くわえて、これらの薬は高頻度に使用すると下記で解説します薬物乱用頭痛を引き起こす可能性があるので、慎重に使用されます。
薬物乱用頭痛は鎮痛薬を日常的に使い過ぎることによって起こる頭痛です。薬物乱用頭痛はしばしば鎮痛薬誘発性頭痛、反跳性頭痛、薬物誤用頭痛などとも呼ばれます。「薬物乱用」と聞くと覚醒剤や脱法ドラッグのようないわゆる禁止薬物を連想しがちですが、この場合の薬物は一般的な頭痛にもちいられる鎮痛薬を指しています。
薬物乱用頭痛のくわしいメカニズムはまだわかっていませんが、鎮痛薬を使用し過ぎることで耐えられる痛みのラインが徐々に下がってしまい、些細な痛みにも敏感になってしまうと結果と考えられています。薬物乱用頭痛の危険性が高まる状況として、鎮痛薬を1ヵ月のうちに10~15日以上服用し、それを3ヵ月以上継続すると起こりやすいといわれています。
慢性的な頭痛を患っている方でついつい気軽に鎮痛薬を服用されている方、痛みが起こる前から予防的に鎮痛薬を服用される方などは薬物乱用頭痛も混在しているタイプの頭痛となっている可能性もありますので充分な注意が必要です。
漢方の立場から片頭痛を考えるとその原因は大きく分けて3つが考えられます。ひとつは外邪の影響を受けて現れるケース。もうひとつは気の流れが悪くなって起こるケース。そして気の不足が原因となるケースです。この3つの原因以外にも片頭痛の引き金となる要素はありますが、どのようなケースでもこれらは少なからず片頭痛に関与していると考えられます。
まず外邪とは簡単に表現すれば寒さや暑さといった環境要因といえます。外邪は身体に侵入すると気血の流れを妨げて痛みを起こします。片頭痛において問題となりやすいのは風寒邪や風熱邪です。
気の流れが悪い状態、つまり気滞の状態は主に精神的なストレスが積み重なることで起こります。気滞による頭痛は側頭部に起こりやすい傾向があるので、片頭痛の場合は気滞の有無をしっかりチェックする必要があります。
気は巡りが悪くなる他に不足しても痛みが生じます。気が不足した気虚と呼ばれる状態になると頭部を充分に栄養することができずシクシクとした鈍い痛みが繰り返し起こるようになります。
解説しきれませんでしたが、これら以外にも血や津液の巡りが悪くなってしまったことによる頭痛も存在します。しかし、多くの場合において片頭痛は上記3つのケースが複雑に関連し合って起こっています。
漢方薬による片頭痛の治療は痛みを起こしている原因によって大きく異なってきます。風寒邪などの外邪が繰り返し侵入していると考える場合は外邪を発散させる漢方薬。精神的なストレスによって片頭痛が悪化するようなら気の巡りを改善する漢方薬。そして、疲労によって痛みが現れるようなら気を補う漢方薬がそれぞれ適しています。各原因による痛みはその現れ方が異なりますので、それらを手掛かりに治療法を導いてゆきます。
秋から冬の寒い季節に片頭痛が起こりやすい、首や肩のこわばりや凝りも強い場合は風寒邪を追い出す麻黄、桂枝、細辛、生姜、紫蘇葉といった辛温解表薬を多く含む漢方薬が選択されます。頭の痛みにくわえてほてり感や張り感、眼の充血などがみられるなら風熱邪を追い出す葛根、柴胡、薄荷、連翹、升麻といった辛涼解表薬を配合した漢方薬が有効です。
精神的なストレスが溜まっている方、イライラ感とともに顔面の紅潮、ほてり、めまい、そして割れるような強い拍動性の痛みが現れるケースでは気の巡りを改善する柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などの理気薬を豊富に含む漢方薬が適しています。
疲れがたまる夕方から夜にかけて痛みが目立つ、昔から食が細く風邪をひきやすいような方には気を補う人参、黄耆、白朮、大棗、甘草に代表される補気薬を中心とした漢方薬を服用するのがよいでしょう。
現実的には単一の原因で片頭痛が起こっているケースは稀であり、患っている方の状態をしっかりと把握してバランスよく漢方薬を調合する必要があります。さらに生活環境や季節の変化も考慮する必要があります。
片頭痛は血管が広がることで痛みが起こるので、血管を収縮させることと血管を広げないようにすることが大切になります。実際に痛みが起こっているときは強い光や音といった強い刺激のない場所で休みましょう。
安静にしつつこめかみの部分を保冷材などで冷やしたり、手で押さえることが有効です。コーヒーや日本茶に含まれているカフェインは血管収縮作用があるのでこれらを飲むのもよいでしょう。逆に入浴や運動は痛みを強くしてしまうので控えましょう。
片頭痛を起こしやすくする食品としてはチョコレート、アルコール(特に赤ワイン)、チーズやヨーグルトに代表される乳製品、ハムやソーセージ、かんきつ類などが有名です。生活面においては睡眠不足や過眠、空腹や満腹、刺激の強い人混みなどが片頭痛を引き起こす要因になりえます。
一方ですべての人が挙げてきた要因で片頭痛が誘発されるわけではなく、とても個人差が大きいことが知られています。したがって、自身でどのようなケースにおいて片頭痛が起こりやすいかを日ごろから意識しておくことが大切です。
患者は40代前半の女性・会社役員。管理職として主に人事を担当しており、5~6年前から異動の計画を練るころになると細い釘が刺し込まれるような片頭痛が起こるようになった。度重なる面接など神経を使う仕事が重なる時期でもあるので「半ば、仕方がないと思っていた」という。しかし、年齢とともに体力の低下もあり、片頭痛によって仕事への影響が無視できなくなった。
当薬局へご来局されたときはすでに病院から薬が処方されており、その薬である程度は痛みのコントロールができていました。そのために片頭痛が出やすい繁忙期以外にも予防的に服用するようになっていました。しかしながら、完全に痛みを除くことはできず医師からも薬に頼り過ぎないように注意も出ていました。
くわしくご症状をうかがうと片頭痛は繁忙期以外にも強い日差しに当たった後にも起こりやすいという。片頭痛以外にも眼の疲れや充血も顕著で、いつも複数の目薬を鎮痛薬と一緒に持ち歩いているのだと薬専用のポーチを見せてくれました。
この方には精神的ストレスを緩和する、気の巡りを改善する柴胡や熱を鎮める山梔子などを含む漢方薬を服用していただきました。漢方薬以外ではどんなに忙しくても睡眠時間を最優先で確保するようにお願いしました。
漢方薬を服用して1ヵ月で眼の充血や疲れがなくなり、目薬を使う頻度がとても減ったとのこと。同じ漢方薬で4ヵ月が経過すると病院の薬を服用しなくても「痛みが現れてもなんとか仕事に支障が出ない、ギリギリのラインまで痛みが弱くなってきた」とのこと。
しかしながら、完全には痛みは除かれず「痛みの雰囲気が変わり、鋭さより鈍いような重いような痛みがある」という。痛みが現れやすいタイミングはやはり日に当たった外出後でした。そこで痛みの引き金が疲労、つまり気の低下と考え直して気を補う人参や黄耆を中心とした漢方薬へ変更。
新しい漢方薬にして3ヵ月程度が経つと重だるいような痛みも1/4程度にまで改善されていました。一方で面接や書類作成が積み重なる繁忙期になると「釘が刺さるような痛み」が出やすくなるので、最初に調合した気を巡らす漢方薬と後の気を補う漢方薬を時期や痛みの種類によって使い分けて頂くことにしました。
漢方薬を開始してほぼ1年が経つと病院の片頭痛の薬をほとんど服用せず、眼のトラブルも含めて漢方薬のみでご症状を抑えることが出来るようになりました。肉体的な体力の衰えを感じる頻度も減ったということもあり、この方には引き続き2種類の漢方薬を継続して頂いています。
片頭痛の痛みは肩や首の凝りから起こる緊張型頭痛と比較して重く鋭いものといわれています。痛みによって仕事や家事に支障が出てしまうケースも多く、生活の質を大きく下げてしまう病気といえます。
近年、病院でもちいられる新型の薬によって片頭痛の治療は大きく進歩しました。その一方で新型の薬でも効果が出ない方や副作用によって継続的な使用が難しい方もいらっしゃいます。そのような方を中心に漢方薬は有力な選択肢といえます。慢性的な片頭痛にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。