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【 神経性嘔吐症(心因性嘔吐症) 】と漢方薬による治療

神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)とは

神経性嘔吐症とは主に精神的なストレスが原因で嘔吐してしまう病気であり、しばしば心因性嘔吐症とも呼ばれます。神経性嘔吐症には吐気が強く現れるのみで、ほとんど嘔吐しないケースもあります。この場合は神経性嘔気(おうき)症や心因性嘔気症と呼ばれたりもします。

吐気や嘔吐を引き起こす精神的ストレスには様々なものが挙げられます。お子様の場合には学校のイベント(学芸会や修学旅行など)、定期テストや入学試験などが代表的です。しかし、上記のような明確なストレス源が無い場合、または見つからない場合もしばしばです。

神経性嘔吐症はお子様に多い病気とされますが、成人にも見られる病気です。成人のケースでは仕事にまつわる事柄、例えば定期的な会議やプレゼンテーション、良好ではない人間関係などがストレス源となりやすいです。

神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の原因

神経性嘔吐症は比較的お子様に多い病気です。その理由は脳(より厳密には延髄)に存在する嘔吐中枢と呼ばれる部分がお子様の場合、まだ未発達だからと考えられています。嘔吐中枢が未発達だと少々の刺激によっても嘔吐や吐気が起こりやすくなってしまいます。

しかし、嘔吐中枢が成熟している成人でも処理しきれない過大なストレスがあればそれが刺激となって神経性嘔吐症を発症することがあります。したがって、神経性嘔吐症は嘔吐中枢のみに帰結される問題ではなく、ストレスの強弱も含めた問題といえます。

神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の症状

神経性「嘔吐」症という名前が示す通り、その中心的な症状は嘔吐になります。しかし、神経性嘔吐症を患っていても必ずしも嘔吐するわけではなく、乾嘔(からえずき)をともなう吐気や胃の不快感が主訴となるケースも多く見受けられます。

神経性嘔吐症の間接的な問題として、嘔吐時の胃酸によって虫歯や食道炎、さらに摂食障害(拒食症や過食症)を引き起こしてしまう可能性が挙げられます。

症状の現れ方も常に吐気や嘔吐があるケース、イベント前などの緊張時に現れるケース、食前や食後に現れるケースなどさまざまです。吐気や嘔吐よりも食事に対する不安感や食欲低下が強く現れてしまうことも少なくありません。したがって、神経性嘔吐症の症状には個人差があり、その現れ方も十人十色といえます。

神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の西洋医学的治療法

基本的にはカウンセリングや薬物療法が用いられます。薬物療法の場合、主に制吐薬や抗不安薬などが使用されます。頻回に嘔吐してしまう場合は脱水症状にも注意を払う必要があります。

抗不安薬を用いる場合はその副作用である眠気やふらつき、さらに長期間の使用で耐性や依存性が形成されやすいので、適切な服用を心掛ける必要があります。

神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の漢方医学的解釈

神経性嘔吐症は主に気の滞りによって脾胃(消化器)の機能が低下して起こると考えられます。漢方用語で気の滞りのことを気滞(きたい)と呼びます。したがって、神経性嘔吐症は気滞によって引き起こされた病気といえるでしょう。

気滞のよって起こる典型的な消化器系症状としては吐気、嘔吐、ゲップ、食欲不振、胃痛、胃もたれ、下腹部痛、腹部の張り、ガスの溜まり、下痢や軟便などが挙げられます。消化器系以外の気滞による症状としてはイライラ感、落ち込み、不眠症などの精神症状などが代表的です。

そもそも気は身体内を巡る生命エネルギーのような存在であり、脾胃を含めた臓腑はこの気の力によって正常にはたらいています。そのような気は精神的なストレスや気の不足(気の不足を気虚(ききょ)とも呼びます)によって流れが滞ってしまうと充分に力を発揮できなくなるという特徴があります。

気は食べ物から脾胃のはたらきで生まれます。この考えは現代における生物学的に食べ物が糖質、アミノ酸、脂肪酸に分解されて、それらが身体活動の基礎となっている事実と似ています。

再び漢方医学の話に戻り、気の滞りは脾胃を含めた臓腑の機能を低下させてしまいます。したがって、一度、気の滞りが起きると「気の滞り(気滞)」→「脾胃の機能低下」→「気の不足(気虚)」→「さらに気が滞る」という負のサイクルに陥りやすくなってしまいます。

神経性嘔吐症に限らず、気滞によって起こる消化器系症状や精神症状がなかなか自然に治らず、慢性化しやすい背景には上記のような悪循環が深刻化している場合が多いです。

漢方薬を用いた神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の治療

神経性嘔吐症は気の滞りによって起こる病気でしたので、その治療は気の流れをスムーズにすることが中心となります。気の流れを円滑にする生薬(理気薬)には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。この中でも陳皮や半夏は制吐作用に優れているのでしばしば神経性嘔吐症治療の漢方薬に用いられます。

気滞の症状に加えて慢性的な疲労感、身体の冷えなどの気虚の症状が強いようなら並行して気を補うことも大切となります。気を補う生薬(補気薬)としては人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが代表的です。

理気薬と補気薬は相性が良く、それらを組み合わせることで嘔吐や吐気だけではなく食欲不振や疲労感を効率的に緩和することができます。

上記に加えて精神症状が強い場合は竜骨、牡蠣などの鎮静作用に優れた生薬も用いられます。神経性嘔吐症は吐き気や嘔吐という症状を中心に、食欲不振や腹痛などさまざまな症状が付随しがちです。

上記のように神経性嘔吐症は比較的症状に個人差の大きい病気という印象があります。したがって症状の強弱やもともとの体質に対して臨機応変に漢方薬を調合する必要があります。

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神経性(心因性嘔吐症)嘔吐症の改善例

患者は小学校6年生の男児。性格的には繊細で感受性が強く、低学年の頃から学芸会や運動会などの緊張するイベント前になると吐気を訴えていました。高学年になってもその傾向は治まらず、むしろ悪化してゆきました。

今は特にイベントに関係なく日常的に吐気や腹痛があり、次第に食べること自体にも臆病になってしまったという。体重もあまり増えず、正常範囲内から下へ外れてしまいました。

心配されたお母様と一緒に小児科をまわり、最終的には神経性嘔吐症と診断されました。その小児科で制吐薬と少量の抗不安薬が処方されましたが、めまいやふらつきの副作用が強く出てしまい服用は中止。

もともとお母様が薬膳に興味があり、メニュー作りにも活用していました。その延長で神経性嘔吐症に有効な漢方薬はないかとネットで調べ、当薬局へご来局。

詳しくご様子を伺うと、吐気は朝に強く、嘔吐を怖がるあまり最近は充分にご飯を食べられていないとのこと。お子様自身が栄養ドリンクや野菜ジュースなどの飲み物やゼリーなら抵抗感が少ないと訴えられたので、当時は水分中心の食生活になっていました。

腕は細くて骨の「節」が目立っていました。顔色も青白く、貧血の可能性も考えられました。こちらのお子様には吐気を鎮める半夏、陳皮、食欲を増す人参、大棗、甘草などから構成される漢方薬を服用して頂きました。

漢方薬服用から3ヵ月が経つと、しばしば起こっていた嘔吐をすることはまったく無くなっていました。漢方薬も少し甘みがあるので(甘草と大棗の甘味)、抵抗感なく服用できました。顔色も良くなり、元気も出てきたということで同じ漢方薬を服用して頂きました。

そして服用から半年が経過する頃には普通の食事も摂れるようになり、とても苦手だった外食も友達だけでも行けるようになっていました。中学生になり、部活動もはじめられましたが体力的にも問題はないとのこと。

吐気とそれに対する恐怖感は消え、性格も良い意味でアバウトになったとお母様がおっしゃられました。漢方薬はその後も体力強化と吐気予防の意味で継続して服用して頂いています。

おわりに

神経性嘔吐症はつらい吐気や嘔吐だけではなく、お子様の場合は食への抵抗感から食べる量が減り発育の妨げにもなります。大人の方にも神経性嘔吐症はしばしばみられ、仕事のストレスなどと重なり症状を悪化させてしまっているケースも見受けられます。

漢方薬は病院の制吐薬などでは対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。

そして漢方薬を服用し始めてから、吐気や食欲不振などの症状が少しずつとれてくることから、神経性嘔吐症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、神経性嘔吐症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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