緊張型頭痛とは首や肩の筋肉が緊張することによって起こる頭痛です。主に首筋から後頭部にかけて締め付けられるような痛みを生じます。 頭痛には本ページで取り上げる緊張型頭痛の他にも片頭痛や群発頭痛などが存在しますが、緊張型頭痛はもっとも一般的であり、多くの方にみられる頭痛といわれています。
高頻度に緊張型頭痛がみられる理由として、発症の原因が長時間のデスクワークや慢性的な運動不足といった現代的な生活スタイルに根差しているためであり、年齢や性別に関係なく発症する恐れのある頭痛といえます。その一方で痛みの強さは片頭痛や群発頭痛と比較すると弱く、吐気や嘔吐をともなうことはあまりありません。
緊張型頭痛は首や肩の筋肉が固くなり、血行が悪くなることが引き金となります。血行が悪くなると酸素といった栄養素の供給不足や老廃物代謝の滞りが発生し、その結果として後頭部を中心とした痛みや凝り感が現れてしまいます。
首や肩の筋肉の過剰緊張を起こしてしまう原因としては長い間、同じ姿勢でいたり過度な力が入りっぱなしになっていることなどが挙げられます。より具体的には同じ姿勢でパソコンをもちいた仕事をすることが多い、首肩の冷やし過ぎ、精神的な緊張のしやすさといったものが挙げられます。
緊張型頭痛の症状は圧迫感や締め付け感をともなう痛みであり、左右両方の首筋から後頭部にかけて現れやすいです。「ベルトで頭の周りを締め上げられているみたい」「重だるく鈍い痛み」と表現されることが多いです。痛みは脈を打つリズムで増したり、吐気や嘔吐をともなうことはあまりありません。緊張型頭痛はしばしば首肩の凝りや眼精疲労がたまる夕方以降に出やすい傾向があります。
緊張型頭痛に対しては対処療法的に鎮痛薬をもちいるのが一般的です。首や肩の凝りが顕著な場合は筋弛緩薬を併用する場合もあります。精神的な緊張の高まりが肉体的な緊張に波及していることが明らかなケースでは抗不安薬の使用も検討されます。
しかしながら、抗不安薬には依存性の問題、吐気やふらつきといった副作用の問題もあるので慎重に使用されます。くわえて抗不安薬だけではなく鎮痛薬の連用は下記で解説します薬物乱用頭痛や胃腸障害のリスクを高めてしまうので、過度な使用は好ましくありません。
薬物乱用頭痛は鎮痛薬を日常的に使い過ぎることによって起こる頭痛です。薬物乱用頭痛はしばしば鎮痛薬誘発性頭痛、反跳性頭痛、薬物誤用頭痛などとも呼ばれます。「薬物乱用」と聞くと覚醒剤や脱法ドラッグのようないわゆる禁止薬物を連想しがちですが、この場合の薬物は一般的な頭痛にもちいられる鎮痛薬を指しています。
薬物乱用頭痛のくわしいメカニズムはまだわかっていませんが、鎮痛薬を使用し過ぎることで耐えられる痛みのラインが徐々に下がってしまい、些細な痛みにも敏感になってしまうと結果と考えられています。薬物乱用頭痛の危険性が高まる状況として、鎮痛薬を1ヵ月のうちに10~15日以上服用し、それを3ヵ月以上継続すると起こりやすいといわれています。
慢性的な頭痛を患っている方でついつい気軽に鎮痛薬を服用されている方、痛みが起こる前から予防的に鎮痛薬を服用される方などは薬物乱用頭痛も混在しているタイプの頭痛となっている可能性もありますので充分な注意が必要です。
緊張型頭痛を漢方の視点から考えると、その原因は大きく3つが考えられます。まずは外邪の一種である風寒邪に襲われたケース。さらに気が不足しているケース。そして最後に血の巡りが悪くなっているケースです。 現実的にはこの3つの原因が重なり合って緊張型頭痛を引き起こしていると考えられます。
風寒邪が体表に取り付くと首や背中に痛みや締め付けられるような不快感を起こします。身体を長時間冷やしたり風に当たっていると風寒邪の悪影響を受けやすくなってしまいます。風寒邪は痛み以外にも寒気やふるえ、関節の重だるい痛み、クシャミや鼻水などを引き起こしやすいです。
気が不足してしまうと疲労感や身体の重だるさにくわえて風寒邪に代表される外邪から身体を守るバリア機能も低下してしまいます。したがって、気の不足した状態、つまり気虚の状態では容易に風寒邪による頭痛を誘発してしまいます。なお、気虚に陥ってしまうだけでもシクシクとした鈍い頭痛が起こりやすくなります。
風寒邪が身体に侵入すると血の流れを妨げてしまいます。気は血を巡らす原動力でもあるので気の不足もまた血の流れを悪くしてしまいます。血が滞っている状態、瘀血(おけつ)の状態では決まった同じ部分に鋭い痛みを引き起こします。
これらの原因はそれぞれが独立しているわけではなく強く関連しあっています。したがって、緊張型頭痛を治療の際には各原因の濃淡をしっかりと見極める必要があります。
漢方薬による緊張型頭痛の治療には風寒邪を身体から追い払う、気を補って抵抗力を底上げする、そして血の巡りを改善するという複数の方法をバランスよく行う必要があります。 具体的には緊張型頭痛を患っている方の症状の現れ方、緊張型頭痛以外の症状の有無、体質や生活環境などを総合的に考慮して漢方薬が決定されます。
冬や秋といった寒い時期に痛みが顕著になる、首や肩に締め付けられるような不快感が強い場合は風寒邪を発散させる麻黄、桂枝、細辛、生姜、紫蘇葉といった辛温解表薬を多く含んだ漢方薬が適しています。上記以外にも葛根は首や肩の凝りを緩和するはたらきに優れているのでしばしば緊張型頭痛の治療にもちいられます。
日頃から疲労感が抜けにくく、めまいや立ちくらみがあるような気虚の方には人参、黄耆、白朮、大棗、甘草などの補気薬を含んだ漢方薬が有効です。気が充実してくれば風寒邪が身体に侵入しにくくなり、緊張型頭痛に見舞われる頻度も低下してくるでしょう。
首や肩においていつも同じ場所が強く痛む、刺すような鋭い痛みがある、女性の場合は生理痛も重いといった場合は瘀血の悪影響が考えられます。このようなケースでは桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬が豊富な漢方薬を服用するのがよいでしょう。
緊張型頭痛は多くの場合、肩や首の凝りがきっかけとなって発症したり悪化したりします。したがって、首肩の凝り対策が緊張型頭痛の対策となります。凝りを防ぐためには首周りを入浴などで温めたり、外気やクーラーで冷やし過ぎないことが大切になります。
首や肩を長時間、動かさないでいると血行が悪くなり凝りが起こりやすくなります。デスクワークが中心の方は意識をして首を左右に振ったり、回転させて筋肉の緊張をほぐすようにしましょう。首肩を動かすだけではなく、積極的に全身を使った運動を行うことは凝りの解消に有効です。特に水泳は首や肩、そして全身をバランスよく動かすので勧められます。
患者は30代前半の女性・ファッション関連企業の会社員。一日中、パソコンの前で書類の作成やイベントの進捗状況の確認を行っているために慢性的な両肩の凝りに悩まされていました。特に季節ごとに行われる発表会が近くなると、精神的なストレスの増大もあってか肩凝りは悪化し、後頭部の痛みが現れてしまうという。市販の鎮痛薬を服用すれば痛みは鎮まる一方で、凝り感は解消されませんでした。鎮痛薬を長く飲むことでの胃への負担も心配となり漢方薬の服用を希望され、当薬局へご来局。
くわしくお話を伺うと典型的な緊張型頭痛のご症状にくわえて、生理不順(周期が不規則になり20日や40日で来たりする)や生理痛、そして足先の冷えもありました。全体のご症状からこの方は血の流れが悪くなっていると考え、血を巡らす桃仁や牡丹皮、筋肉の緊張を緩和する葛根や芍薬を含む漢方薬を調合いたしました。
漢方薬を服用されて2ヵ月が経つと、週2回マッサージに行っても残っていた肩の不快感は半分程度になり、頭痛の強さも鎮痛薬を使わなくても済む程度になっていました。その一方で冬のイベントに向けて精神的なプレッシャーが強く、気持ちが沈んでいるとのこと。生理の乱れや生理痛もイベント前はより一層悪くなりやすいということもあり、精神的な緊張を緩和する柴胡や薄荷を含んだ漢方薬に変更しました。
新しい漢方薬に変えて約2ヵ月が経過。冬のイベントも終わった頃にご様子を伺うと精神的には大変ではあったけれど、前回のイベント準備の頃と比較すれば大きく症状は改善されたとのこと。頭痛や肩凝りによって仕事に対する集中力の低下を感じることも少なくなり、強く意識される体調不良はないとのこと。昨年は靴下を二重にしないと耐えられなかった冷えも、頭痛と歩調を合わせるように気にならなくなっていました。
漢方薬を服用していると体力面でも余裕が出てくるということで、引き続き、同じ漢方薬を継続していただくことにしました。漢方薬を開始されて約1年が経つ頃には常に職場、バックの中、そして自宅に常備されていた鎮痛薬も「撤去」され、生理の状態も大きく乱れることはなくなっていました。
緊張型頭痛は長時間のデスクワークや慢性的な運動不足が引き金となって起こる病気です。これらは現代人にとってなかなか避けがたいものであり、緊張型頭痛が頭痛の中でも大きな割合を占めている理由でもあります。
痛みは鎮痛薬をもちいることでほぼ確実に鎮めることができます。その一方で鎮痛薬の連用は消化器に負担をかけたり、薬物乱用頭痛に陥ってしまう危険性もあります。漢方薬による緊張型頭痛の治療はその痛みにだけ着目するのではなく、首や肩の凝りも含めた全身のご症状とご体質をもとにして調合されます。慢性的な緊張型頭痛や首肩の凝りにお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。