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【 腰痛(坐骨神経痛などを含む) 】と漢方薬による治療

腰痛とは

つらい腰の痛みは老若男女問わず、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。実際、日本において腰痛は最も多い病気の一つといわれています。しかし、腰痛と一言で表現してもその内容は腰の筋肉の捻挫から疲労骨折まで多彩です。本ページではそのなかでも慢性的に続いている腰痛について解説してゆきます。

腰痛の原因と症状

ここではよく見られる腰痛の原因別に症状の特徴などを解説してゆきます。

姿勢の悪さによって起こる腰痛

机に向かってパソコンを扱う仕事が多い今日の日本において、姿勢の悪さはなかなか避けられないかもしれません。そもそも、良い姿勢とは背骨が縦に緩やかにS字カーブを描いている状態です。猫背や腰が反り過ぎているとS字カーブは描けず、腰椎(背骨の下部、腰のあたりの背骨です)付近の筋肉や靭帯が疲労して痛みが生じてしまいます。

姿勢の偏りや運動不足に起因する腰痛の多くはレントゲンといった画像診断でも異常は発見されません。したがって、西洋医学的な治療は鎮痛効果のある貼り薬の使用といった対処療法に限定されてしまいます。

ぎっくり腰(急性腰痛症)

腰痛で最も有名なのはこのぎっくり腰ではないでしょうか。西洋医学的には急性腰痛症、欧米では「魔女の一撃」とも表現されます。ぎっくり腰は腰を使った急な動き(重いものを一気に持ち上げる、バットを思いっきり振るなど)によって腰の筋肉や靭帯に起こる捻挫とされます。捻挫が起こった部分には炎症が起こり、つらい痛みが発生します。

坐骨神経痛

坐骨神経痛もぎっくり腰と並んで腰痛の代表格といえる存在です。その一方で坐骨神経痛は症状に対する名前であって病名ではありません。坐骨神経痛とはなんらかの原因で坐骨神経が刺激されて起こる痛みの総称なのです。したがって、下記で解説している椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎変性すべり症などを含めた幅広い腰痛をまとめて「坐骨神経痛」と呼称しています。

この坐骨神経とは腰から足にまで続く長く太い神経であり、坐骨神経痛を患うと神経に沿って下肢にしびれや痛み、麻痺などが生じるという特徴があります。つまり、腰のみではなく下半身に幅広く不快症状が現れることになります。

椎間板ヘルニア

腰椎を構成する椎骨(ついこつ)と椎骨の間にはクッション材の役割を担っている椎間板が存在します。椎間板ヘルニアはこの椎間板が何らかの原因で飛び出してしまい、神経を圧迫することで痛みが生じます。

椎間板ヘルニアの特徴としては神経圧迫によって起こる下肢のしびれや麻痺を伴う点です。椎間板ヘルニアはしばしば高齢者の病気と思われがちですが、若い方が重い荷物を急に持ち上げた際などにも起こります。

脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)

脊柱とは簡単にいえば背骨のことです。この脊柱の中には脊柱管という空洞があり、そこには馬尾(ばび)などの神経や靭帯が収められています。狭窄とは狭くなることであり、脊柱管狭窄症は脊柱管の空洞が狭くなって起こる腰痛ということになります。

より詳しく説明すると、主に加齢によって椎間板が弱くなったり、靭帯の弾力性が低下したりすると徐々に脊柱管が狭くなってしまいます。そして、脊柱管が狭くなったことで、そのなかに収められていた神経が圧迫され、痛みが生じるのが脊柱管狭窄症です。椎間板ヘルニアと同じように腰痛だけではなく下肢のしびれや麻痺が特徴です。

腰椎変性すべり症

しばしば略されて「すべり症」と呼ばれます。その名の通り、椎間板というクッション材を挟んで積み上がっている腰椎同士がすべるようにずれてしまう病気です。多くは腰椎が前にすべってしまい、脊柱管内に収められている神経が圧迫されることで腰痛が起こります。脊柱管狭窄症と同様に加齢によって起こりやすくなる腰痛の一つです。

圧迫骨折

加齢によって骨密度が減少する病気を骨粗鬆症(こつそしょうしょう)といいます。椎骨は特に骨粗鬆症を患いやすく、圧迫骨折が起こりやすい部分とされています。椎骨の圧迫骨折による腰痛は背中の中央部から上にかけて発生しやすい特徴もあります。

腰痛の西洋医学的治療法

西洋医学的な治療はその原因によって大きく異なります。一方、多くの場合において非ステロイド性消炎鎮痛薬の貼り薬や飲み薬が用いられます。上記でも挙げた椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎変性すべり症などには鎮痛薬を用いて痛みを抑えつつ運動療法で改善を目指します。

下肢のしびれなどの神経障害が顕著な場合は手術が選択されます。骨粗鬆症による圧迫骨折に対しては手術の他にカルシウムやビタミンDを使用して骨形成を促します。

広く用いられている飲み薬の非ステロイド性消炎鎮痛薬、有名なものはロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)やボルタレン(一般名:ジクロフェナク)は痛みを取り除く力に優れている反面、胃腸障害の副作用が起こりやすいことが知られています。長期服用している場合は胃潰瘍や十二指腸潰瘍に注意する必要があります。

非ステロイド性消炎鎮痛薬でもセレコックス(一般名:セレコキシブ)、モービック(一般名:メロキシカム)、ハイペンやオステラック(ともに一般名:エトドラク)、異なる分類の解熱鎮痛薬であるカロナール(一般名:アセトアミノフェン)などは比較的、胃腸への負担が少ないといわれています。しかし、負担が無いわけではないので漫然とした長期服用は避けるべきです。

「生活面での注意と改善案」でより詳しく解説しますが、腰痛に対しては適度な運動(特に腹筋を鍛えるような運動)が非常に重要です。過度に腰痛を気にするあまり、横になってばかりいると筋肉が弱まり回復を遅らせてしまうこともあります。

腰痛の漢方医学的解釈

漢方医学的に見ても腰痛の原因はいくつか考えられます。そのなかでも頻繁に遭遇するのが血(けつ)の滞りである瘀血(おけつ)が関与しているもの、うまく利用されていない水分の塊である水湿(すいしつ)が関与しているもの、そして加齢に伴う腎虚(じんきょ)が関与しているものです。

漢方医学的に痛みが起こるメカニズムは、身体の機能維持や活動に不可欠な気や血の流れがせき止められた場合に発生すると考えます。腰痛以外にも生理痛や頭痛などにおいて刺すような鋭い痛みは瘀血が絡んでいることが多いです。他にも腰痛にくわえて高血圧、静脈瘤、多発するアザ、顔色の黒色化などが見られるようならば瘀血の存在が疑われます。

水湿の場合、何らかの原因で水湿が発生してしまうとそれが気や血の流れを悪くして痛みを発生させます。水湿が絡んだ痛みは鈍く重いという特徴があります。しばしば、夏場の高温多湿な状態で悪化する腰痛や関節リウマチなどは水湿が絡んでいるケースが多いです。

そして、腎虚とは現代風にいえば加齢によって起こる諸症状の原因とされます。腎虚になると腰痛以外にも足腰の弱り、下肢の冷え、歩行障害、排尿障害などの症状が引き起こされます。腎虚由来の痛みはマッサージや温めることで一時的に回復しやすい傾向があります。

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漢方薬を用いた腰痛の治療

漢方薬による腰痛の治療は主に瘀血、水湿、そして腎虚の改善を目指すことになります。しかし、多くの場合はこれらが重なり合って痛みを起こしているので特にどの病因が色濃いのか判断し、臨機応変な対応が必要になります。

まず、瘀血によるケースでは血の流れを促す活血薬(かっけつやく)である当帰、桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが使用されます。血は気の力によって巡っているので、気の滞りによっても血の流れは悪くなってしまいます。そこで気の流れをスムーズにする理気薬(りきやく)の柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子なども併用されます。

水湿が気や血の流れを止めているなら、水湿を除去する利水薬(りすいやく)である白朮、蒼朮、沢瀉、猪苓、茯苓などが使用されます。水湿はしばしば脾胃(消化器)の不調が原因で生まれやすいので、脾胃の状態を向上させる人参、大棗、甘草などの補気薬(ほきやく)も併せて用いられることが多いです。

腎虚による腰痛の場合、腎の力を補う補腎薬(ほじんやく)である鹿茸、地黄、山茱萸、山薬、枸杞子などが用いられます。腎虚による下肢の冷えなどが顕著な場合は身体を温める作用に優れている桂皮、乾姜、細辛、呉茱萸、附子などの散寒薬(さんかんやく)も追加されます。

腎虚に限らず、散寒薬によって患部が温められると瘀血や水湿も取り除きやすくなります。したがって、散寒薬は秋から冬にかけて悪くなる、つまり冷えによって悪化しやすい腰痛にしばしば使用されます。

これら以外にも主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。

 

生活面での注意点と改善案

腰痛が発生した直後、つまり急性期は基本的に患部を冷やして安静にすることが基本です。しかし、慢性になった腰痛に関しては患部を温めて軽い運動をすることで症状の緩和に繋がります。

運動の注意点としては腰に負担をかけやすい深くお辞儀をするような、大きく前かがみになる運動(体勢)は避けるべきです。しかし、逆にいえばそれ以外の運動はそれほど問題になりません。むしろ、家事やウォーキングといった軽運動は筋肉が硬直化するのを防ぐためにも積極的に行うべきです。

普段から正しい姿勢を意識することも大切です。直立姿勢の場合、頭が腰より前に出ている猫背の姿勢や、腰が反り過ぎてお腹が出ている姿勢は要注意です。耳、手の指先、かかとが地面に対して垂直に一直線上に並ぶ姿勢を意識しましょう。

机に向かってパソコンなどを使う仕事を長時間する場合、頭部が首の骨の上にまっすぐ「載っている」状態を意識しましょう。頭部が前のめりになると腰痛だけではなくつらい肩凝りの原因にもなります。

腰痛の改善例

改善例1

患者は30代前半の男性・建築士。学生時代は腰痛と無縁の生活を送っていましたが、建築士の仕事を始めた頃から慢性的な腰痛に悩まされてきました。病院を受診しても明確な原因は不明で鎮痛作用のある貼り薬を使用しても症状は緩和されませんでした。

建築士という仕事柄、椅子に長時間座ったままの姿勢が悪いと考えて適度な運動や色々なタイプの椅子を試してみるも効果は出ませんでした。腰痛の症状は徐々に悪化して、30代になった頃には立ち上がるたびに針を刺し込まれたような痛みが出るようになってしまいました。

詳しくお話を伺うと、腰痛以外の症状としては首と肩の凝りや疲労時の頭痛がありました。くわえて「どうしても平日は椅子に座っていることが多いので、休日は散歩に出たりしていますが、長時間歩いたり立っていると腰がつらくなる」とのこと。この方にはまず、筋肉の緊張を取り除く芍薬を中心に血の巡りを改善する牡丹皮や延胡索を含む漢方薬を服用して頂きました。くわえて、身体を動かさないと血の巡りがどうしても悪くなるので、痛みが出ない範囲でウォーキングなどの軽運動も併せてお願いしました。

服用から3ヵ月が経過した頃には以前よりも腰の動かせる範囲が広がりましたが、やはりつらい痛みは残っているとのこと。この頃、建築士として独立開業した頃から腰痛は特に悪化したというお話を伺いました。設計の仕事だけではなく営業や会計などまで一人でやらなければならないことに強いストレスを感じているともおっしゃっていました。

このお話を受けて痛みの原因はストレスによる気の流れの滞りにもある考え、柴胡や枳実といった気の流れを改善する生薬を含んだ漢方薬を併用して頂きました。新しい漢方薬の組み合わせにしてから約4ヵ月がたった頃には痛みは半分以下になり、痛み自体が出る頻度も大幅に減少していました。

痛みが緩和したことでストレスも軽減され、充分な睡眠もとれるようになったことも良い循環に繋がっていると感じました。腰痛だけではなく、首肩の凝りや頭痛を訴えられることも少なくなりました。この方は徐々に気の流れを緩和する漢方薬のみで痛みがコントロールできるようになったので、この漢方薬を柱に現在も服用を継続されています。

改善例2

患者は60代前半の男性・税理士。50代前半に腰椎変性すべり症を発症して以来、腰痛と左足のしびれに悩まされるようになりました。病院の治療で仕事や日常生活を送るうえで問題ない程度まで回復はしましたが、冬になると痛みは強くなりとても辛いという。

詳しくお話を伺うと痛みは冷えによって顕著に悪くなり、温かいお風呂に入ると少し良くなる。それ以外にもしびれと頻尿(特に夜間尿)が目立ち「夕食後から冷たい水分を摂るのは控えているけれども、夜中に2回はトイレで起きる」とのこと。腰は痛みだけではなく重だるさと、他の部位よりも冷えがある。

これらのご症状からこの方の腰痛には腎虚が強く関与していると考えて、腎虚を回復する地黄や鹿茸を中心に身体を温める生薬を含む漢方薬を服用して頂きました。一般的に加齢とともに腎虚の症状は悪化しやすいので、まずは根気強い漢方薬の服用も併せてお願いしました。

漢方薬を服用し始めて4ヵ月が経った頃には下肢の冷えはだいぶ緩和して、厚着をして蒸れることも無くなったと喜ばれました。痛みは依然として残っているとのことでしたが、しびれも含めて回復を感じられるとおっしゃられました。

この年の冬は寒さが厳しかったので身体を温める生薬を追加するなどして微調整を行いました。それからさらに半年強が経過した頃には腰痛の症状が大きく改善し、軽い登山に行けるまでになっていました。夜間尿の回数も明け方の1回だけになり、睡眠も充分にとれているとのこと。しびれ感も下肢の冷えの緩和とともに気にならなくなっていました。

腎虚を回復する漢方薬はいわば「抗老化薬」といえるものなので、この方には強く継続をすすめて現在も季節性も考慮しながら微調節を行いつつ服用して頂いています。腎虚には老化によって起こる諸症状(この方のような腰痛や腰の重み、冷え、頻尿、その他にも体力の低下や視力や聴力の低下など)が含まれているのでそれを回復する漢方薬は、そのひとつで多くの症状を改善することが期待できます。

おわりに

近年、腰痛を患われている方がとても多くなった印象を受けます。特に病院に行っても原因不明で処理されてしまう腰痛が目につきます。やはり長時間労働による運動不足や同じ姿勢のままでいることが主な原因と考えられます。このタイプの腰痛を患っている方の割合は多い一方、西洋医学的な治療が難しいといわれています。

漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方がとても多くいらっしゃることから、腰痛と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、腰痛にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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