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【 血栓性静脈炎 】と漢方薬による治療

血栓性静脈炎とは

血栓性静脈炎とは静脈内部に血栓ができて静脈を塞いでしまう病気です。患部は炎症によって腫れて痛みを伴います。炎症による痛みのほかに血栓ができたことで血流が悪くなり、患部は赤紫色~暗黒色に変色してしまいます。これら患部の変色、腫れ、痛みは血栓性静脈炎の特徴的な症状といえます。

この血栓性静脈炎が生じる静脈は体の表面に近い表在静脈に位置します。やや脱線しますが身体のより内部に位置する深部静脈に血栓が生じた場合は静脈血栓塞栓症(じょうみゃくけっせんそくせんしょう)と呼ばれます。静脈血栓塞栓症はしばしばエコノミークラス症候群とも呼称されます。今日的にはこちらの名称の方が「市民権」を得ている印象です。

血栓性静脈炎の原因

血栓性静脈炎はまず血栓が静脈(表在静脈)に生じることで起こります。血栓が生まれてしまう原因としては打撲、静脈への注射といった外傷性のものと血液が固まりやすい基礎疾患(血小板増多症など)を持っているケースが挙げられます。

上記以外にも長時間、同じ体勢をとることで血流が悪くなり血栓を生じやすくなります。具体的には長い飛行機や車での移動、意外なものでは手術や出産時なども同じ姿勢を余儀なくされる場合が多く血栓が生じやすいといわれています。

血栓性静脈炎の症状

血栓性静脈炎の主な症状は腫れや痛みといった炎症による症状と患部の変色です。患部は下肢が多いのも血栓性静脈炎の大きな特徴といえます。その他にも発熱、患部の熱感や圧迫感、静脈の盛り上がりなども挙げられます。

血栓が形成され「下流側」の血流が一段と悪化すると患部は数十センチ以上も伸びる場合もあります。血栓性静脈炎を放置すると肥大した静脈が動脈の血流まで悪化させてしまうケースもあり局所的な栄養失調から最悪、組織の壊死に至ります。

さらに静脈に生じた血栓がはがれ、心臓を経由して肺に至る肺塞栓症やその他の深部静脈血栓症を二次的に引き起こしてしまうこともあります。

血栓性静脈炎の西洋医学的治療法

血栓性静脈炎の西洋医学的治療は存在している血栓を溶かすことと、これ以上血栓が生まれないようにすることに重点が置かれます。前者にはウロキナーゼなどの血栓溶解薬、後者にはヘパリンに代表される抗凝固薬が用いられます。

下肢に血栓性静脈炎が起こっている場合は患部を持ち上げた状態で安静にすることも大切になります。その他にも炎症による痛みが強い場合は消炎鎮痛薬なども用いられます。

血栓性静脈炎の漢方医学的解釈

漢方医学の視点から血栓性静脈炎を考えると、漢方医学独特の概念である瘀血(おけつ)との関係性が高いといえます。瘀血とは簡単に表現すれば血(けつ)の滞りや脈内から血が漏れ出てしまったことによって生まれる病的な物質といえます。

上記のように現代西洋医学的な「血栓」と漢方医学における「瘀血」のイメージは重なり合うところが多いです。一方で瘀血にはより幅広く、血の巡りが悪くなっている状態を指します。

瘀血によってもたらされる症状は非常に多岐にわたります。その中でも代表的な症状としては頑固な局所的に現れる痛みや腫れ、肌の暗色化や硬化、アザや眼下のクマのできやすさ、静脈瘤、肩こりや頭痛、冷えのぼせなどが挙げられます。その他にも女性の場合は子宮筋腫や子宮内膜症などによる強い生理痛、生理不順、経血の塊の増加といったものも含まれます。

上記のような症状に加えて瘀血が生まれたことで血の供給量低下、さらに気も不足したり流れが妨げられたりもします。漢方医学的に血が不足した状態を血虚(けっきょ)、気が不足した状態を気虚(ききょ)、気の流れが滞っている状態を気滞(きたい)と呼びます。

血虚の症状としては疲労感、身体の重だるさ、動悸や息切れ、めまいや立ちくらみ、肌の乾燥、顔色の蒼白化、髪質の低下や脱毛、不眠症や不安感の増大などが挙げられます。血虚による身体症状の多くは西洋医学における貧血と似たものになります。

気虚では疲労感、食欲不振、体重の減少、手足の強い冷え、風邪をひきやすい、胃下垂や脱肛などの内臓下垂、むくみ、不正性器出血や皮下出血といった出血傾向が代表的です。気滞が起こると喉、胸部、腹部などの張り感や苦しさ、息苦しさ、吐気、憂うつ感やイライラ感、鈍痛などの症状が起こります。

基本的に瘀血の状態に陥ってしまうと連鎖的に血虚、気虚、気滞などが現れやすくなります。したがって、瘀血の症状に加えてこれらによる諸症状も併せて改善を目指すケースがほとんどです。

漢方薬を用いた血栓性静脈炎の治療

上記のとおり、血栓性静脈炎には瘀血が深く関与していると考えられます。したがって、血栓性静脈炎の治療は瘀血を取り除く活血薬(かっけつやく)を含んだ漢方薬が中心となります。代表的な活血薬には桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが挙げられます。

さらに血は気の後押しによって循環しているので、気の不足(気虚)や気の滞り(気滞)は血の巡りを悪くしてしまいます。血の流れが悪くなると上記で説明した通り、より一層の気虚や気滞を招いてしまいますので気への着目は大切です。

気虚が顕著な場合(疲労感が強く食欲が無いなど)では気を補う補気薬が併せて用いられます。主な補気薬(ほきやく)としては人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。気滞が明らかなケース(胸や腹の張り感、イライラ感など)では気の流れを緩和する理気薬(りきやく)が用いられます。多用される理気薬には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。

その他にも血の不足(血虚)もまたしばしば瘀血を引き起こします。これは水をまくためのホース内に充分な水量が無いと、勢いよく水が流れない状態に似ています。血虚によって起こる症状(顔色の悪さ、めまいや立ちくらみなど)が目立つならば血を補う補血薬(ほけつやく)も用いられます。代表的な補血薬には地黄、当帰、芍薬、阿膠などが挙げられます。

経験的に血栓性静脈炎の治療には上記の活血薬+補血薬+理気薬の組み合わせが基本となり多用されます。衰弱が顕著な場合や胃腸が弱い方の場合は理気薬を補気薬に切り替え、より消化器にやさしい漢方薬が使用されます。

これまで瘀血の原因と解消法を書いてきましたが、これら以外にも瘀血を生む原因は身体の冷えや外傷などいくつも存在します。したがって、上記以外にも様々な治療法が存在します。瘀血の解消(血栓性静脈炎の治療)には個々人の状態に合せて漢方薬を選び取ることが非常に大切になります。

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血栓性静脈炎の改善例

患者は50代後半の女性・専業主婦。昔からむくみが気になっていましたが、40代に入った頃から左足のふくらはぎに青黒い静脈が目立つようになってきました。「お風呂の中でさするようにマッサージをすると、少し良くなるので当初はあまり気にせず過ごしていた」という。

しかし、徐々に静脈はボコボコと数ミリ浮かび上がってきて触れると少々の痛みを感じました。心配になり病院を受診すると軽度の血栓性静脈炎と診断され血栓を溶かす薬を処方されました。数ヶ月間、しっかり服用したので徐々に症状は緩和してゆきましたが、その年の冬に再発。

自分の母親が過去に高脂血症の薬の長期服用で副作用が出たという経験から、病院の薬を長く飲むのが怖いということで当薬局へご来局。お話を伺ってゆくと血管の少々の盛り上がりと痛み、その他に下肢の冷えやむくみが気になるという。特に当時はむくみが強く「夕方になると朝方は履けた靴が履けなくなることもある。とても重だるい感じがする」とのこと。

これらの全体的なご症状などから血行を回復する生薬と津液(しんえき)の巡りを促進する生薬から構成された漢方薬を服用して頂きました。具体的には血の巡りを改善する当帰や川芎、水分代謝を改善する茯苓や沢瀉を含んだ漢方薬を使用しました。

くわえて、近所への買い物にも車を出してしまうくらい歩いていないということで、出来る限りウォーキングや階段を使うなど足の筋肉を動かすようお願いしました。他にはやや長めの入浴もあわせてお願いしました。これは足への負荷や水圧によって身体が引き締まり、むくみを解消する効果を狙ってのものです。

漢方薬服用から4ヵ月が経つと血栓性静脈炎独特の青い凸状の血管が薄くなってきました。足のむくみもやわらぎ、夕方にはパンパンになっていた足の重みもあまり感じないとのこと。以前は舌もむくみ大きくなっていたので、しばしば噛んで傷をつくっていましたがその頻度も低下。

その一方でヒリヒリするような痛みと冷えが依然として気になるということで、活血作用を持ちながら鎮痛効果に優れた延胡索を含む漢方薬に変更しました。新しい漢方薬にしてから3ヵ月が経過すると足の冷えが緩和される一方で熱感のような痛みは鎮まり、静脈の痕も気にならない程度になっていました。

ご本人曰く「これでわざわざ色の付いたストッキングばかり履かなくてすむ」とのこと。この方には予防の意味も込めて血流を良くして身体を温める生薬から構成されている漢方薬を半分量で継続的に服用して頂くことにしました。現在もむくみの状態なども見ながら微調節を行いながら、良好な状態を保っています。

おわりに

血栓性静脈炎は患部の痛みや外見的な問題だけではなく、その血栓がはがれて肺などに移行してしまうと深刻な事態に発展する危険性もある病気です。したがって、病院からのお薬が出ている場合はしっかりと継続的に服用する必要があります。しかし、手先の冷えや痛みなどはなかなか西洋薬で改善しにくいという問題も残されています。

漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、血栓性静脈炎特有の肌の変色や痛みなどの症状が少しずつとれてくることから、血栓性静脈炎と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、血栓性静脈炎にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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