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【 血行不良(血流の改善) 】と漢方薬による治療

血行不良とは

近年、健康意識の高まりとともに血行に対しても注目が集まっています。健康雑誌などでもしばしば「血行改善」「血流を良くする」といった特集を目にします。私たちの心臓は常に血液を身体に巡らせるために拍動しています。

健康診断では血圧の状態や貧血の有無を確認します。血行や血流への関心の高さは、私たちの意識のなかで血が「健康」「生」と強くリンクしているからかもしれません。

血液には酸素や栄養素だけではなく細菌やウイルスから身体を守る白血球や抗体、さらにはホルモンや処理される老廃物なども含んでいます。この血液が心臓のはたらきでしっかりと身体を巡ることで健康が維持されています。逆に血行が悪くなってしまうと、これらの循環が滞り身体に不具合が出てしまうことは想像に難くありません。

西洋医学的に血行不良を考えると、主に血栓(けっせん)や動脈硬化によって血管が塞がれている状態などが挙げられます。心臓を取り巻く血管の血行が悪くなれば心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患、脳の場合は脳梗塞や脳出血によって脳卒中に到ってしまいます。

一方の漢方医学においては瘀血(おけつ)という独自の概念があり、これが一般の方が抱く「血行不良」状態のイメージに近いといえます。つまり、「血行を改善する」「血液ドロドロを解消する」「血の巡りを良くする」ことは、漢方的には瘀血の状態を改善することといえます。そこで、本ページではこの瘀血に焦点を当ててゆきたいと思います。

なお、厳密には滞っている血(けつ)そのものを瘀血と呼び、瘀血が形成されてしまっている状態を血於(けつお)と呼びます。瘀血は病的産物であり、血於は病的状態ということです。しかしながら、多くの場合は両方をひっくるめて瘀血と表記することが多いので、本ページでもその方針を採っています。

瘀血とは

漢方医学において血(けつ)は身体を栄養したり、精神状態を安定させるはたらきを担っています。前者は西洋医学における「血液」の考えと近いですが、後者のメンタルヘルスにも関係している点では異なります。

したがって、瘀血に陥ってしまうと全身的または局所的なこり感や痛み、さらに栄養不良状態、不安感や不眠といった精神症状も現れてしまうと漢方では考えます。このように漢方において血行不良はとても幅広い症状を引き起こすものと考えます。下記では瘀血の原因や具体的な症状、そして瘀血を改善する漢方薬について解説してゆきます。

血行不良(瘀血)の原因

漢方の考え方では血はそれ自身のみで身体のなかを巡るのではなく、気の力を受けて巡っています。したがって、気が不足した気虚(ききょ)や気が滞った気滞(きたい)の状態に陥ると瘀血が生まれやすくなってしまいます。

具体的には過労や大病によって気を消耗したり、精神的なストレスを受け続けることで気の巡りが停滞したりすると瘀血は生まれやすくなります。その他にも身体の冷やし過ぎ、むくみに代表される水分代謝異常、打撲や捻挫、さらには血自体の不足である血虚(けっきょ)などによっても瘀血は引き起こされます。

上記のように血は非常に多くの原因によって停滞し、瘀血が形成されてしまいます。結果的にさまざまな体調不良の背景には血行不良(瘀血)がセットで潜んでいるとも解釈できます。長時間労働やストレスが蔓延している現代社会において、瘀血が皆無という方は少数派といえるでしょう。

血行不良(瘀血)の症状

血行不良、つまりは瘀血によって起こされる症状はとても多彩です。そのなかでもしばしばみられるのが下記で挙げた諸症状になります。血行不良は幅広い症状をもたらす一方で、血流が改善されることで悩まされていた複数の症状が好転することも多いです。

頻繁にみられる身体症状

肩こり、首こり、頭痛、腰や背中の痛み、関節痛、胸痛、しびれ、肌の色素沈着(アザ、シミ、クスミ、眼下のクマ)、冷えのぼせ、しもやけを含む手足の末端の冷え、動悸、むくみ(浮腫)、赤ら顔、疲労感、重だるさなど

婦人科系の症状

不妊症、生理不順や無月経、不正性器出血、生理痛、子宮内膜症や子宮筋腫といった生理痛をもたらす病気、月経前症候群(PMS)によるイライラ感、経血の暗色化と塊の増加など

血管と関連が強い症状

高血圧症、静脈瘤、動脈瘤、内出血、皮下出血、紫斑、痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)、具体的な病名では心筋梗塞や狭心症、脳梗塞や脳出血を含む脳卒中、血栓性静脈炎、精索静脈瘤など

その他の症状

抜け毛の増加による薄毛、ED(勃起不全)、肌の乾燥や荒れ、爪がもろくなり割れやすくなる、ドライアイ、便秘、健忘(記憶力の低下)、不眠など

血行不良(瘀血)による痛みの特徴

上記ではさまざまな瘀血による諸症状を挙げてきましたが、痛みをともなうものが非常に多いです。さらに瘀血によって起こる痛みにはいくつかの特徴があります。

主には痛む場所が固定されている、刺すような強い痛みがある、夜間に悪化しやすい、患部が腫れたりしこりができる、患部が紫色や赤黒く暗色化するといった点が挙げられます。

より具体的には、疲れがたまる夕方以降に首肩こりと一緒に痛みがある、長時間のデスクワーク後につらい腰痛に襲われる、古傷が何年経っても痛むケースなどにはほぼ確実に瘀血が関与しています。他にも出血や炎症をともなう病気全般にはしばしば瘀血が関与しています。

血行不良(瘀血)による栄養状態の悪化

血の巡りが悪くなると必然的に血の供給量も低下してしまいます。そうなると瘀血の症状にくわえて血虚の症状も目立ってきます。血虚の症状とは栄養不良の状態と考えればわかりやすいでしょう。

すでに挙げた肌や眼の乾燥、爪のもろさ、抜け毛の増加による薄毛、ED(勃起不全)などは瘀血の症状というよりも瘀血由来の血虚症状といえるでしょう。一方で血虚はさらなる瘀血の原因にもなるので、瘀血+血虚の症状は頻繁しやすいです。

漢方薬を用いた血行不良(瘀血)の治療

血行を改善する漢方薬は主に活血薬(かっけつやく)を中心に、理気薬(りきやく)や補血薬(ほけつやく)を組み合わせたものになります。活血薬とはそれ自体に血行改善作用のある生薬であり、桃仁、当帰、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが代表的です。

理気薬とは気の流れが悪くなっている気滞を解消する生薬です。血は気の力によって身体中を巡っているので、気の巡りが悪くなると血の流れも悪くなってしまいます。血行不良はしばしば気滞によって起こるので理気薬は血行改善に不可欠な生薬といえます。

気の流れは主に精神的ストレスによって悪くなります。精神的なストレスに晒されて、身体が硬くなり肩こりが悪化するようなケースは典型的な気滞由来の瘀血の症状といえます。代表的な理気薬には柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などが含まれ、ストレスを緩和するはたらきを持っています。

瘀血は気滞の他に血虚によっても引き起こされますし、瘀血から血虚に陥るケースもしばしばです。血虚を改善する補血薬には主に地黄、芍薬、当帰、酸棗仁、竜眼肉などが挙げられます。栄養状態がすぐれないような方には補血薬が不可欠となります。

上記の他にも血行は冷えによっても悪化しやすいので、その際には身体を温める散寒薬(さんかんやく)が使用されます。代表的な散寒薬には附子、桂皮、乾姜、呉茱萸、細辛などが含まれます。冷え以外にも水分代謝の滞りや気の不足によっても瘀血は起こります。したがって、個々人の症状や体質によって漢方薬は変化してゆきます。

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血行不良(瘀血)の改善例

改善例1

患者は30代後半の女性・システムエンジニア。仕事柄、座ったままディスプレイを長時間見ていることが多く、慢性的な肩こりと痛みに悩まされていました。肩こりは悪化すると後頭部の痛みにもつながり、そこからイライラ感が増し、集中力も低下気味。血流改善を訴えるサプリメントや健康器具、さらに岩盤浴や鍼灸などを試しても効果はありませんでした。

首の骨に問題でもあるのかと思い整形外科を受診しても特に異常は指摘されず鎮痛作用のあるロキソニンテープが処方され、使用していましたが好転せず当薬局へご来局。「1日に何回も首を回したりマッサージをしているが良くはならない。たかが肩こりかもしれないけれど我慢の限界」とのこと。

よりくわしくご症状を伺うと、慢性的なこりのご症状は首から背中にかけて僧帽筋全体に及んでいました。肩こりや頭痛の他にも生理痛や足の冷えとむくみも気になるという。顔色はやや浅黒く、手足は軽くどこかに当たっただけでアザができやすい体質。この方のご症状は典型的な瘀血によるものであり、血を巡らす桃仁や牡丹皮から構成される漢方薬を調合しました。

漢方薬を服用して3ヵ月が経過すると生理時に毎月服用していた鎮痛薬を使わなくても済むようになりました。頭痛の頻度も低下したとのことでしたが、肩こりによる不快感はあまり変わりませんでした。そこで首肩の筋肉をリラックスさせる作用のある葛根を含んだ漢方薬に変更しました。くわえて出来るだけ座りっぱなしではなく、歩くことを意識して頂きました。

新しい漢方薬に変えて1ヵ月ほどで「首を横に振ってポキポキと鳴らすことが少なくなった気がする」とのこと。ウォーキングを意識して行ったことも手伝ってか下肢の冷感やむくみによる重だるさも少しずつ軽くなっていました。

この方は全体的に緩やかな改善が見られたので、数ヵ月間は同じ漢方薬を継続していただくことにしました。その後も首肩のこりや頭痛に悩まされることも減り「繁忙期には吐気がするほどの不快感があった肩こりは完全に起こらなくなった」という。

生理痛を中心とした婦人科系のトラブルも軽減し「漢方を飲んでいると抜け毛が減って、肌もカサカサせずに調子が良いので」美容目的もかねて継続されています。冬季は身体を温める桂皮や乾姜を含む漢方薬に変更するなど微調節は行いつつ、一貫して血を巡らす内容で漢方の服用を続けていただいています。

改善例2

患者は40代前半の男性・会社員。昔から赤ら顔でほてり感を感じやすい体質でしたが、数年前からその症状が悪化。上半身は不快なほてり感があり、下半身は腰から下に顕著な冷えが現れるようになりました。毎年、受けている健康診断では軽度の高血圧症が指摘され、これ以上悪化すると本格的な治療が必要とのこと。年々、これらの症状が悪くなっていると感じ、当薬局へご来局。

暖かくなってくる春先になると、ほてりが目立ち始めて頭痛が起こることも。「頭痛が出だして痛み止めを飲むようになると、春が来たんだなと実感する」という。一方で鎮痛薬を服用すると必ず胃に不快感が生じるので出来るだけ服用は控えている。

よりくわしくご症状を伺うと赤ら顔や頭痛、上半身のほてりと下半身の冷え、その他に肩こりや抜け毛の多さ、そしてドライアイも顕著であることがわかりました。苦笑しながら「PCを使っていると眼がすぐに乾燥する。デスクの上には抜け落ちた髪が目立ち、それを見つけると非常に衰えを感じる」という。

これらのご症状や体格などから血を巡らす当帰や川芎、血を補う力に優れている地黄などを含んだ漢方薬を調合しました。くわえて禁煙とお酒の減量をお願いしました。ご本人も何かのきっかけがないと生活習慣の改善はできないと考えていたとのことで、前向きなご様子でした。

漢方薬を開始して2ヵ月が経つと、首の上部から背中にかけての張り感が緩和されて肩こりが気になることはなくなりました。一方で季節は初夏に入り、顔を中心としたのぼせ感は依然として強く、肩こりほどの改善は実感できないとのこと。季節も考慮して、血行改善を維持しつつ黄芩や黄連といった過剰な熱を冷ます生薬も含んだ漢方薬に変更しました。

新しい漢方薬は苦くて飲みにくいとのことでしたが不快な熱感は軽減され、飲酒後のような顔の赤みも薄くなり「奥さんからも酔っ払いみたいと言われることはなくなった」とのこと。他にはドライアイで点眼薬を使う頻度も減少しました。

季節は冬になり、ヒーターが入るようになっても例年のような強烈なのぼせ感に襲われることはありませんでした。腰から下の冷感も緩和され、分厚いタイツをはかなくても済んでいるとのこと。気温が低くなると悪化しやすかった血圧も正常血圧から正常高値血圧の範囲内に収まりました。

春が訪れても頭痛や肩こりに悩まされ、仕事に集中できなくなることはなく過ごせているとのこと。「身体の不調が減って気持に余裕ができた。ストレスも軽くなった気がする。そのおかげか抜け毛も落ち着いた」ということで、継続的に漢方薬を服用していただいています。

おわりに

スムーズな血の巡りは生きてゆくうえで欠かせないものです。血が滞って瘀血の状態に陥ってしまうと心身両面に悪影響が及んでしまいます。血の停滞は生命エネルギーである気や有益な水分を指す津液(しんえき)の停滞にもつながってしまいます。

長時間労働をこなし運動不足の現代人はおおむね瘀血に由来する体調不良を抱えています。漢方薬は瘀血を解消することで生活の質を改善することが出来ます。上記で挙げたような血行不良による症状にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

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