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【 アトピー性皮膚炎 】と漢方薬による治療

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎とは痒(かゆ)みをともなう湿疹が慢性的に回復と悪化を繰り返す炎症性皮膚病です。一言でアトピー性皮膚炎といってもカサカサした乾燥傾向が強い方からジュクジュクした滲出液に悩まされる方までさまざまです。非常に痒みがつらい場合もあれば、外観的異常のみでそれほど掻痒感を訴えられない方もいらっしゃいます。

アトピー性皮膚炎は決して珍しい病気ではなく、小児を中心にしばしばみられます。諸説ありますが、小学生のおよそ5%程度がアトピー性皮膚炎を患っているというデータもあります。多くの場合は小学校を卒業するころになると自然に治癒しますが、それ以降も症状が慢性的な経過を辿ることもしばしばです。

そもそも「アトピー(atopy)」とはギリシア語で「奇妙なこと」を意味する「atopia」に由来します。このことからも昔は「奇妙で得体のしれない皮膚病」と捉えられていたことが分かります。

しかし、今日では皮膚のバリア機能の低下と免疫の過剰反応によって起こる病気であり、そこに遺伝的要因などが関連していることが分かっています。現代西洋医学的にもある程度の治療法が確立されてはいますが、それでも上手くいかない例も多く、現在でもアトピーな部分(奇妙な部分)を残している皮膚病といえるでしょう。

アトピー性皮膚炎の原因

上記でも簡単にふれたとおり、アトピー性皮膚炎は皮膚の乾燥によるバリア機能の低下と免疫系の過剰な反応によって引き起こされていることが分かっています。より具体的に、皮膚に関しては保湿成分であるセラミドとフィラグリンの低下、免疫に関してはIgEという抗体の過剰反応がアトピー性皮膚炎の主な原因といえます。

セラミドとフィラグリンは皮膚の表面部分において水分を保持する役割を担っています。体質的にセラミドやフィラグリンが不足しがちな方は皮膚の潤いが失われやすく、さらに皮膚表面のバリア機能も失われてしまいます。結果的に免疫が過剰反応してしまう物質(アレルゲンと呼ばれます)が体内に侵入しやすくなってしまいます。

アトピー性皮膚炎における代表的なアレルゲンにはダニ、カビ、犬や猫のフケや毛、ホコリなどのハウスダスト、さらに一部の食品成分(卵、牛乳、そば、大豆、小麦、米、ピーナッツ、生魚など)が挙げられます。

バリア機能が失われると当然、上記のようなアレルゲンだけではなく細菌やウイルスも侵入しやすくなり、感染によっても炎症が起こりやすくなります。保湿機能も失われると皮膚は乾燥して、ちょっとした刺激にも反応してしまう過敏な状態になってしまい痒みが生じます。ここで皮膚を掻いてしまうとさらに皮膚表面の角質層を傷つけるという悪循環に陥ってしまいます。

アトピー性皮膚炎ではアレルゲンに対して大量のIgE抗体が作られてしまい炎症反応や痒みが連鎖的に起こります。このような特定のアレルゲンに対してIgE抗体が「暴走」してしまうタイプのアレルギーにはアトピー性皮膚炎の他に気管支喘息、花粉症を含めたアレルギー性鼻炎、食物や薬剤に対するアレルギー、蕁麻疹(じんましん)なども含まれます。

アトピー性皮膚炎の主な原因は上記のようなものですが、症状を悪化させる要因もある程度、明らかにされています。代表的なものに精神的ストレス、過労、睡眠不足、夏場の汗や冬場の乾燥、ウールやポリエステル製の繊維による刺激、衣服を不潔にしたまま放置する、アルコールやつらい食べ物などの刺激物の摂取、女性の場合は生理不順などが挙げられます。

アトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎の症状は何といってもつらい皮膚の痒みです。患部は炎症により赤くなり、腕や膝の裏側(四肢屈曲部)や首といった頻繁に動かされる部分、顔などに起こりやすいです。アトピー性皮膚炎の炎症は患部が左右対称に現れやすいという特徴もあります。

年齢によって炎症が起こりやすい部分に差も見られます。乳児期は炎症が頭部に起こりやすく、徐々に手足や体幹に拡大してゆきます。幼児・小児期になると四肢屈曲部や首、頭部に集中しやすくなります。思春期以降は四肢屈曲部にくわえて上半身全体に炎症が現れやすいです。肌の状態にも違いが出やすく、乳児期はジュクジュクとした湿潤傾向が強く、年齢とともに徐々に乾燥傾向が強まりやすいです。

アトピー性皮膚炎の症状はそのつらい痒みだけではありません。外観的に患部が目立つ場合も多く、他人の視線が過度に気になってしまう結果、引きこもりがちになってしまったり自分に自信が持てなくなってしまうなどの精神的な問題も生じてしまいます。

アトピー性皮膚炎の西洋医学的治療法

西洋医学的な治療法は保湿薬によるスキンケア、副腎皮質ステロイド薬を中心とした抗炎症薬、そして抗アレルギー薬が核となります。標準的な保湿薬と抗アレルギー薬を使用し、炎症の強さによって抗炎症薬のレベルを調節してゆくのが定石になります。

保湿薬には保湿効果にくわえて血流増加作用やケロイド化を防ぐ力もあるヒルドイド(ヘパリン類似物質)、プロペト(白色ワセリン)、尿素クリーム、亜鉛華軟膏などが代表的です。

抗炎症薬は副腎皮質ステロイド薬の外用が中心となります。副腎皮質ステロイド薬はその抗炎症作用の強さから下記のように5つにクラス分け(より下に行くほど強力)されており、肌の状態から適切なレベルの薬を選択する必要があります。

「weak」
プレドニゾロン(一般名も同じ)

「medium」
レダコート(一般名:トリアムシノロンアセトニド)
アルメタ(一般名:アルクロメタゾンプロピオン酸エステル)
キンダベート(一般名:クロベタゾン酪酸エステル)など

「strong」
メサデル(一般名:デキサメタゾンプロピオン酸エステル)
ザルックスやボアラ(ともに一般名:デキサメタゾン吉草酸エステル)
リンデロンV(ベタメタゾン吉草酸エステル)など

「very strong」
アンテベート(一般名:ベタメタゾン酪酸プロピオン酸エステル)
パンデル(一般名:酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン)
マイザー(一般名:ジフルプレドナート)など

「strongest」
デルモベート(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)
ダイアコートやジフラール(一般名:ジフロラゾン酢酸エステル)など

その理由として抗炎症作用の強さと副作用の強さは比例するからであり、むやみに高いレベルの副腎皮質ステロイド薬を使用するのは賢明ではありません。副腎皮質ステロイド薬(外用薬)の主な副作用としては感染症のかかりやすさ、色素の脱失、毛細血管の拡張、皮膚の萎縮、多毛化、そして酒皶様(しゅさよう)皮膚炎です。

酒皶様皮膚炎とは外用の副腎皮質ステロイド薬を顔面に長期間使用したケースで見られる特徴的な副作用です。具体的には使用した部分の全体的な紅色化、盛り上がった湿疹やニキビの出現、皮膚の脱落、つっぱり感、ほてり感などです。

抗炎症薬には副腎皮質ステロイド薬以外に免疫抑制薬の外用薬も含まれます。代表的なものがプロトピック(一般名:タクロリムス)軟膏であり、顔や首の炎症にしばしば用いられます。

抗アレルギー薬は主にアトピー性皮膚炎による痒みを抑える目的で使用されます。頻用されるものにアゼプチン(一般名:アゼラスチン)、アレジオン(一般名:エピナスチン)、アレグラ(一般名:フェキソフェナジン)、クラリチン(一般名:ロラタジン)、エバステル(一般名:エバスチン)、アゼプチン(一般名:アゼラスチン)、などが挙げられます。

抗アレルギー薬の作用はIgE抗体が過剰反応することで放出され、炎症を助長するヒスタミンやロイコトリエンなどのケミカルメディエーターのはたらきを抑制することで症状を緩和させます。

アトピー性皮膚炎の漢方医学的解釈

漢方医学の視点からアトピー性皮膚炎を考えると、主な原因に身体を栄養して健康な状態に保つはたらきを担っている血(けつ)の不足が挙げられます。血が不足すると栄養不良による肌乾燥の他に、疲労感、動悸や息切れ、ドライアイ、不安感、不眠なども起こりやすくなります。

血(けつ)は陰(いん)の性格を持ち、陽(よう)を抑制しています。簡単にいえば血が冷却水のようにはたらき、適度に身体内の熱をコントロールしているのです。しかしながら、血の不足した状態である血虚(けっきょ)に陥ってしまうとこの熱をコントロールできなくなってしまいます。この状態を陰虚火旺(いんきょかおう)と呼びます。

さらに陽(熱)が優勢になってしまうと風(ふう)が発生します。これを血虚生風(けっきょせいふう)と呼びます。イメージとしては熱気球を飛ばすためにバーナーで火を焚くと強い風(かぜ)が起こるような感じです。

風(ふう)はしばしば身体に痒み、特に風(かぜ)のようにあちらこちらに素早く患部が移動してしまうような痒みを起こします。アトピー性皮膚炎の典型的な症状である皮膚の乾燥は血虚、炎症などの熱性症状は陰虚火旺、痒みは血虚生風によって起こることが多いです。

しかし、そもそも全ての発火点である血虚はなぜ起こってしまったのかを考える必要もあります。血虚を引き起こす要素はさまざまですが、主には精神的ストレス、過労、睡眠不足、暴飲暴食による消化器の衰弱、食欲不振や虚弱体質などが挙げられます。

これらのなかで食欲不振や虚弱体質は気虚(ききょ)と呼ばれる症状にあたります。気虚のイメージとしては元気が不足している状態というのが一番わかりやすいでしょう。気は血の原材料でもあり、気が不足すると必然的に血も不足し血虚の状態に進んでしまうのです。さらに精神的ストレス(これを肝気鬱結(かんきうっけつ)と呼びます)は身体に強い負荷を強いることで血を消耗することが知られているので注意が必要です。

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漢方薬を用いたアトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎の発火点は血虚によるものでしたから、血を補う漢方薬である補血薬(ほけつやく)を含んだ漢方薬が治療において中心的な役割を担います。血を補う作用のある生薬の補血薬(ほけつやく)には地黄、当帰、芍薬、阿膠、何首烏などが挙げられます。

その他に陰虚火旺を鎮めるために補血薬にくわえて黄連、黄芩、黄柏、山梔子、知母、石膏などの清熱薬(せいねつやく)も併用されます。清熱薬の多くは炎症を抑えるはたらきも持っているのでアトピー性皮膚炎治療には不可欠です。痒みを抑えるためには風を鎮める生薬である防風、荊芥、連翹、薄荷、蒺藜子、蝉退なども重要です。

上記の他にも肝気鬱結(精神的ストレス)が顕著ならば柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの気の流れを改善する理気薬(りきやく)が加えられます。食欲不振や体力不足などの気虚症状があるようならば人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などの補気薬(ほきやく)も必要です。血の不足が深刻な場合は血と気を同時に補うと効果的に治療ができます。

これら以外にもアトピー性皮膚炎は複合的な疾患なので臨機応変に漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。

生活面での注意点と改善案

アトピー性皮膚炎を改善するためには生活面の対応が非常に重要です。そのなかでもスキンケアと食生活はその中心を担っています。

スキンケア

入浴によって皮膚の汚れ(アレルゲンだけではなく皮膚から出る老廃物や汗の残り)をしっかり洗い流す必要があります。しかし、この「しっかり」がポイントです。アトピー性皮膚炎の肌は角質層が破壊されているのでより刺激に敏感になっています。ゴシゴシと強く洗ってしまうと角質層をさらに傷つけてしまうので絶対に避けるべきです。

肌を洗う際は石鹸の泡でなでるように洗いましょう。入浴後は充分に保湿薬のクリームやローションを塗ることが大切です。可能ならばお風呂から出てから5分以内が良いとされています。これは温かい水分は素早く皮膚から逃げてしまうからです。

副腎皮質ステロイドの軟膏やクリームを使用する場合、その量は感覚的には少しべたつくくらいが適量といわれています。より具体的には、外用薬を人差し指の第一関節まで出し、それを手のひら2枚分の面積を目安に塗りましょう。

紫外線対策

保湿の他にも夏場は紫外線によるダメージも見逃せません。ここで問題になってくるのがどのようにして紫外線を防ぐかです。結論としては可能な限り衣服や帽子で紫外線を防ぐのが一番です。

日焼け止めはたしかに紫外線を防いでくれるのですが、保湿薬とは違って基本的には肌に有害な物質を含んでいるので可能な限り、使用しないのが賢明でしょう。患部に塗るのは絶対に避けるべきです。

食事

スキンケアと同じくらい食生活の改善も重要です。味付けが濃い、辛みが強い、脂肪分の多い食事は身体内に熱を生じやすくしてしまいます。そうなると掻痒感や炎症が助長されてしまいますので控えめにしましょう。

過剰な水分、特に冷えた清涼飲料水の摂り過ぎは脾胃(消化器)のはたらきを鈍くしてしまうので注意が必要です。脾胃は血や気の「製造工場」になりますので、脾胃が弱まってしまうと血虚や気虚におちいりやすくなってしまいます。

食事のポイントとしては和食中心に腹八分目が質的にも量的にも良いでしょう。そうはいっても味の濃いものやつらいものも食べたくなるのが人間です。これらは「食べてはいけないもの」ではなく「食べ過ぎてはいけないもの」ですので、やや控えめな量で他の食品と併せて食べることは問題ありません。冷えたアイスクリームなども温かいお茶と一緒に食べるなどの工夫をして頂ければと思います。

アレルゲン対策

アレルゲンの除去はアレルギー反応を未然に防ぐ意味でも不可欠です。アレルゲンを探し出す検査でどのような物質に過敏に反応しやすいかを知っておけば症状の悪化を未然に防ぐことができます。

過去にご来局された方で掃除をするたびに症状が悪化するという方がいらっしゃいました。その方はハウスダストにアレルギーがあったので積極的に掃除をしていたのですが、結果として掃除機の排気で舞い上がったホコリに反応してしまったようです。後に長袖とマスク着用で掃除をしたら症状が悪化しなくなったとのことでした。

その他の注意点

寝ている時など無意識に皮膚を掻いてしまうことを防ぐのは非常に難しいです。そこで創傷を防止するためにあまり爪を長く伸ばさず、掻いても皮膚を傷つけない状態にしておくことも有効です。他にも手から患部に細菌が移らないように、常に手は清潔にしておくことも大切です。

アトピー性皮膚炎を悪化させる要因であるストレスを溜めないことは重要です。その一方でこれは非常に難しい課題ともいえます。そこでストレス軽減の具体策としては睡眠時間と休日をしっかりと確保することといえます。睡眠不足や過労によって蓄積した疲労は皮膚を乾燥させてしまう血虚に繋がってしまいます。

アトピー性皮膚炎の改善例

改善例1

患者は30代前半の男性・会社員。幼い頃はハウスダストに反応するアレルギー性鼻炎や喘息を持病としており、さらに両腕と膝の関節部分を中心とした乾燥をともなうアトピー性皮膚炎に悩まされていました。

成人してアレルギー性鼻炎などは自然に治りましたが、アトピー性皮膚炎だけは上半身を中心に残りました。定期的に皮膚科に通って保湿薬とmediumからstrongレベルの副腎皮質ステロイド薬を処方されており、使用すると症状は落ち着くも根本的に体質改善したいと考えて当薬局にご来局。

この方は顔色が悪く、黒ずんだ色をしていました。唇もやや紫がかった赤色。アトピー性皮膚炎の患部は赤みが目立ちかゆみも強く、寝ているうちに無意識に掻きむしってしまうこともあるという。他にも「仕事中もいつの間にか掻いてしまうことがあり、黒いノートパソコンに白い皮膚のカスがポロポロと落ちていることがある」とのこと。

この方には血の力を増し皮膚を栄養する地黄と当帰、血の巡りを改善する川芎、炎症を抑える黄連や山梔子などから構成される漢方薬を服用して頂きました。そして、傷の目立つ患部には皮膚の再生を促進する外用薬の紫雲膏を塗って頂くことにしました。

それにくわえて日頃から多く摂っているという冷えた飲み物や食べ物、乳製品、糖分や脂肪分を多量に含んだものは控えるようアドバイス。これは飲食物から血や気を生み出す脾胃の負担を軽減するためです。

漢方薬を服用して5ヵ月ぐらいが経過した頃、乾燥によって剥がれおちてしまう皮膚の面積が目に見えて小さくなってきました。かゆみも赤みの減退と一緒に徐々に軽減されてきたとのこと。しかしながら、アトピー性皮膚炎は他の疾患以上に油断できないので、継続の服用をお願いしました。

それから真夏の時期に多く汗をかくなどして一時的に悪化しましたが、季節が落ち着いてくる頃には外見的にもご本人の主観的にも症状はかなり改善されました。顔色も見るからに血行の悪い暗い色からうすい赤みを含むものに。現在もかゆみが増せば荊芥や連翹、乾燥が進めば何首烏などを含む漢方薬に微調整を続けながら安定した状態を保っています。

改善例2

患者は30代後半の女性・税理士。昔から四肢の関節や首まわりにジュクジュクした湿疹ができやすく、特に湿度の高い梅雨や夏場ではひどくなる。皮膚科で副腎皮質ステロイド薬やプロトピック軟膏を処方されていましたが症状はなかなか緩和しませんでした。

仕事で会社訪問を行う機会も多く、夏場は発汗によって症状がより一層悪化するという。「汗をそのままにしていると本当に悪くなるので、こまめに拭き取るようにしている」とのこと。この年の夏は例年以上に暑さが厳しく疲労感や倦怠感も顕著で、このままでは仕事だけではなく日常生活にも支障が出ると悩み、当薬局にご来局。

この方のご症状は典型的な湿潤をともなうアトピー性皮膚炎でした。湿疹にくわえて皮膚表面にヒリヒリとした熱感があると強く訴えられたので、熱を抑えることも充分に考慮する必要がありました。症状は一目で分かるほど重かったため、根気強く生活改善と漢方薬の服用をお願いしました。

皮膚の状態は湿度が高くなると悪化することを受けて過剰な水分を代謝する麻黄、熱を鎮める石膏などから構成される漢方薬を服用して頂きました。そしてストレスと皮膚は意外にも密接な関係があるので、睡眠時間の確保や過剰な労働は繁忙期を除いて控えて頂くようアドバイス。食事も外食が多いということなので、できるだけ和食を摂るように伝えました。

患っている期間が長かった分、治療は難航しましたが服用から約半強が経った頃には「服に血やジュクジュクが付かなくなったし、かゆみも楽になった」とおっしゃっていだけました。ある程度、アトピー性皮膚炎の症状が沈静化してきた頃、胃腸が弱く体力のない点が病気の根本的な原因と定めて脾胃の状態を底上げする人参や黄耆などから構成される漢方薬に変更。

これは脾胃の状態が悪いと水分代謝にも悪影響(この方のケースでは水っぽさの目立つ湿疹)を及ぼすことがあるからです。漢方薬を変更してまた半年が経った頃には黄色をともなうジュクジュクしていた皮膚も凹凸の少ない皮膚に変わっていました。かゆみもピークの1/5程度とのこと。

その後は皮膚を栄養する血に重点を置いた漢方薬にシフトするなどして現在にいたっています。皮膚に抵抗力もついたためか毎年ひいていた風邪にもかからなくなり、慢性的な疲労感も徐々に改善してゆきました。

改善例3

患者は30代後半の女性・学芸員。幼少から乾燥肌でしたがあまり気にすることなく過ごしていました。しかし、数年前の冬に強いかゆみにおそわれ皮膚科を受診。そこで初めてアトピー性皮膚炎と診断され、保湿を中心とした外用薬が処方されました。一方で真面目に保湿を行ってもなかなか症状が落ち着かなかったので当薬局にご来局。

皮膚の状態は訴えの通り、乾燥してやや粉をふいたような状態でしたが皮膚が脱落したりジュクジュクしたりするような顕著な外見的異常はあまり感じられませんでした。肌以外の症状としては貧血があり、過去には鉄剤を服用していたことも。「座っていることが多い仕事なので、急に立ち上がると乗り物酔いしたようにフラフラして気持ちが悪くなる」という。

この方の症状は血が不足することによって起こる皮膚の栄養不足と考えて、血を補う当帰、地黄、何首烏、かゆみを抑える荊芥などから構成される漢方薬を服用して頂きました。勤務している美術館は展示品を守るため常に乾燥しているとのことでしたので、それまでは入浴後にのみ行っていた保湿をよりこまめにお願いしました。

漢方薬を服用し始めて5ヵ月が経過する頃には皮膚のカサカサ感も薄らぎ、やや薄黒かった肌の色も薄いピンク色になってきました。これは血が補われ、さらに血の流れも改善したからと考えられました。

そして、一番の問題であったかゆみも貧血による立ちくらみや頭重感と歩調を合わせて鎮まっていきました。現在は貧血防止と体力保持も目的として上記の漢方薬に微調節をくわえた形で継続的に服用を続けて頂いています。

おわりに

アトピー性皮膚炎を患っている方の多くは長年の間、その症状に苦しめられています。当薬局にいらっしゃる方の中にも「症状は生まれた時から」というケースもしばしばです。漢方薬による治療も一朝一夕にはゆきません。さらに漢方薬「のみ」でこの病気に立ち向かうのは難しいと言わざるをえません。しかし漢方薬、西洋薬、そして生活習慣の改善という「総力戦」で症状を改善される方はとても多くいらっしゃいます。

当薬局では西洋薬だけを使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方をみているとアトピー性皮膚炎と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、アトピー性皮膚炎にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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