貧血とは、赤血球に含まれるヘモグロビンと呼ばれるタンパク質が減少した状態を指します。
人間は生きてゆくために酸素が必要であり、酸素は呼吸によって空気中から肺に取り込まれます。
そして、肺で酸素は血液中の赤血球に取り込まれ、全身に運ばれます。
ヘモグロビンが減少してしまうと、血液はうまく酸素を運ぶことができなくなってしまいます。
したがって、貧血とは血液が酸素を十分に運ぶことができなくなった状態と言い換えることができます。
赤血球はいわば、大切な荷物(酸素)を運ぶ宅配便の「トラック」のような存在です。
そしてヘモグロビンは、トラックの「荷台」にあたる部分で、酸素という荷物を運ぶ役割を担っています。
何らかの原因でヘモグロビンが減少すると、酸素を全身に十分に運ぶことができなくなってしまうのです。
最も一般的な貧血である鉄欠乏性貧血は、その名前の通り、鉄が不足することによって起こる貧血です。
鉄はヘモグロビンを構成する重要な物質です。鉄のイメージとしては、「酸素をつかむための荷台の装置」のようなものです。
鉄が不足すると、ヘモグロビンを十分に作ることができなくなり、酸素を運ぶ能力が低下してしまいます。
この鉄欠乏性貧血は、特に生理のある女性に起こりやすい貧血といわれています。
その理由として、月経による出血で鉄を失ってしまう一方で、食事から摂取する鉄が不足しやすいことが挙げられます。
実際に漢方相談を行っていると、生理のある女性では、鉄不足や鉄欠乏性貧血を訴えられる方が少なくありません。
鉄欠乏性貧血以外にも、さまざまな種類の貧血があります。
例えば、血液をつくる骨髄の細胞が減少することで起こる再生不良性貧血があります。
また、赤血球が通常より早く壊れてしまったり、赤血球を攻撃する自己抗体によって赤血球が減少したりする溶血性貧血もあります。
その他、ビタミンB12や葉酸が不足することで起こる巨赤芽球性貧血などがあります。
本ホームページでは、これらの貧血の中でも特に鉄欠乏性貧血を中心に詳しく解説していきます。
貧血の有無や種類を判断する尺度はいくつか存在します。
その中でもヘモグロビン濃度(ヘモグロビンは「Hb」と表記されることもあります)とヘマトクリット値が有名です。
ヘモグロビン濃度とは1dL(1デシリットル)に含まれるヘモグロビンの重量を指しています。
一方のヘマトクリット値は血液中で赤血球が占める割合を表したものです。
ヘモグロビン濃度とヘマトクリット値の正常値は男女差や年齢などによって微妙に異なります。一方でおおよその目安は下記になります。
●ヘモグロビン濃度:男性13~17 g/dL程度、女性12~15 g/dL程度
●ヘマトクリット値:男性40~50%程度、女性35~45%程度
これらの数値を下回ると貧血が疑われます。さらにどのタイプの貧血かをはっきりさせるためには、追加の検査が必要になります。
基準値を下回ってなくても、年々低下傾向が続いているようなら注意が必要です。
鉄欠乏性貧血が起こる主な原因としては、出血をともなう病気、月経による出血、偏食やダイエットによる鉄の摂取不足が代表的です。
出血を起こす代表的な病気としては胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病、裂肛(切れ痔)、胃がん、大腸がんなどが挙げられます。
女性では、子宮筋腫や子宮内膜症といった婦人科系疾患による不正性器出血も、しばしば貧血の原因となります。
不正性器出血については不正性器出血に漢方という選択肢をご参照ください。
貧血の主な症状としては、動悸、息切れ、立ちくらみ、慢性的な疲労感などが挙げられます。
その他にも、頭の重さ、顔色の悪さ、口内炎ができやすい、爪が割れやすくなったり白っぽくなったりするなどの症状が現れる場合もあります。
また、漢方相談を通してみると、貧血の方には肌や髪の荒れを伴っているケースも多い印象があります。
このように貧血は体調面だけでなく、美容面にも悪影響を及ぼすことがあります。
貧血の特徴として、貧血状態が長く続くと徐々に身体が慣れてくる点が挙げられます。
身体が酸欠状態に慣れてしまうことで、一時的に自覚症状を感じにくくなることがあるのです。
結果的に貧血が改善したと勘違いし、そのまま放置されてしまうケースも多いと考えられます。
自覚症状が減る半面、血液をより全身に送り出そうとする心臓には大きな負担がかかってしまいます。
一時的に自覚症状が軽くなったといっても、全身が酸欠状態になっていることには変わりはないので放置は危険です。
貧血の原因となる疾患(出血をともなう胃潰瘍など)があるようならばその治療が最優先となります。
それと同時に鉄剤を服用するなどして貧血状態の改善を図ります。
鉄剤はしばしば吐き気や食欲の低下をもたらすこともあるので、用法用量を守って慎重に服用しましょう。
鉄剤だけではなく、普段の食事からしっかり鉄を摂取することも大切です。
鉄を豊富に含む食材としては豚や鶏のレバー、アサリやカツオ、ホウレン草やヒジキ、納豆などの豆製品が代表的です。
特に肉や魚介類に含まれている鉄は効率的に吸収される性質があるので、積極的に摂るとよいでしょう。
漢方医学の視点から見て貧血の症状は主に血虚(けっきょ)の状態と考えられます。
血虚の状態は文字通り、漢方医学における血が不足している状態です。
血が不足してしまう原因としては、気の不足、過労や心労、慢性病による消耗、出血などです。
血虚の具体的な症状としては、顔色の蒼白化、めまいや立ちくらみ、頭のふらつき、ドライアイ、肌の乾燥による痒み、脱毛、筋肉のけいれんや硬直、不眠症、不安感、生理不順、不妊症などが挙げられます。
上記の多くは私たちが「貧血」に対してイメージする症状と似ています。一方で血虚においては、不眠症や精神不安といったメンタル面に関係する症状も現れます。
このような精神症状が血虚に含まれる点は、西洋医学的な貧血との大きな違いといえます。
漢方医学において、摂取された飲食物は生命エネルギーである気に生まれ変わります。そして、気は血を生み出す働きにも関わり、血は身体に栄養を与えます。
したがって、気の不足である気虚(ききょ)に陥ると、そこから血虚にも陥りやすくなります。
このような気も血も不足した状態を気血両虚(きけつりょうきょ)と呼びます。
気虚に陥ってしまう原因としては、脾胃(消化器)の不調、過労や慢性疾患による消耗などが挙げられます。
気虚による症状としては疲労感、気力の低下、食欲不振、息切れ、汗の増加、動悸、胸苦しさ、身体の重だるさ、めまい、咳、風邪をひきやすい、内臓下垂、出血傾向などが挙げられます。
気血両虚の状態は上記の症状が合わさったものと考えられますが、すべての症状が均等に現れるのではなく個々人によって強弱が見られます。
しかし、気血両虚のおおまかなイメージとしては「元気がない」「体力がない」といったものに集約されます。
貧血を血と気の不足と捉えた場合、それらを補う補血と補気が治療の基本方針となります。
血を補う生薬としては地黄、芍薬、当帰、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの補血薬が代表的です。
地黄、芍薬、当帰などは血虚による身体症状、疲労感や動悸などが顕著な場合にしばしば使用されます。
不正性器出血などの出血症状があるなら補血を行いつつ、艾葉や阿膠といった止血効果を持つ生薬もあわせてもちいられます。
身体症状だけではなく、不眠や不安感といった精神症状が目立つ方には酸棗仁や竜眼肉がより適しています。
補血薬は消化器の弱い方が服用すると、稀に胃もたれや食欲不振が現れることがあります。
そのような方には消化器の働きを整える作用のある、補気薬とうまく組み合わせる必要があります。
代表的な気を補う生薬には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。
特に人参、大棗、白朮などは気を補う作用に加えて、胃腸の働きを整える効果が期待できます。
このように貧血治療の漢方薬は補血薬や補気薬を個々人の症状と照らし合わせてバランスよく構成することが大切になります。
患者は30代前半の女性・ショップ店員。
高校生の頃から生理が重く出血量も多かったので、生理後は貧血で倒れてしまうこともしばしばでした。
その傾向は専門学校を卒業して就職しても変わらず、仕事中にしばしば立ちくらみや動悸に襲われることもありました。
冷え性(冷え症)やしっかり寝てもとれない疲労感もあり困っていたところ、妹様が当薬局で便秘の漢方薬を服用していたことをきっかけに、ご本人も相談にいらっしゃいました。
第一印象は色白で線が細く、華奢な体型をされた女性という印象でした。
詳しくお話を伺うと、貧血とその症状以外には特に生理後のダラダラとした出血に困っていました。
病院から処方されている鉄剤は服用するとひどい吐き気が出てしまうので、胃薬を飲みながらなんとか少量ずつ服用している状態でした。
この方の場合、生理出血過多の改善が重要と判断して当帰や芍薬など血を補う生薬を軸とした漢方薬を調合いたしました。
他にも、補血作用もあり止血効果もある阿膠と艾葉、さらに消化器の状態を底上げする人参や白朮なども漢方薬に加えました。
そして、日常生活では鉄を多く含む肉や魚などのおかずをできるだけ摂るようお願いしました。
漢方薬服用から約4か月が経った頃には毎回14日間以上続いていた生理出血は7日で治まるようになり、疲労感も徐々に軽減してきました。
よい傾向と考え、同じ処方を基本としながら、冬の気候も考慮して身体を温める乾姜などを加えて継続していただきました。
それからまた4か月が経過した頃にはすっかり貧血による動悸や立ちくらみも消えて「体調の良かった中学生時代に戻ったみたい」とおっしゃっていました。
顔色もほんのり赤みがかり、この時、初めて健康体の妹様とそっくりなお顔の姉妹だと気付きました。
この方は現在も体力向上の意味合いで微調整を加えつつ、漢方薬を継続服用していただいています。
近年、ご来局される若い女性にお話を伺うと驚くほど多くの方が疲労感、足の冷えやむくみ、そして貧血の症状を訴えられます。
この背景には食生活の乱れや長時間労働、そして無理なダイエットを行っている女性が増えている今日の世相を反映しているのかもしれません。
漢方薬は西洋医学的な治療とは異なる視点から、患者様の体質や症状に合わせて治療することができます。
そして、これまでの経験から貧血に伴うさまざまな症状に対して、漢方薬を用いた治療が選択肢の一つになることを実感しています。
ぜひ一度、貧血にお悩みの方は池袋の一二三堂薬局にご相談ください。【執筆・監修:吉田 健吾(薬剤師・一二三堂薬局代表)】