相談の多い病気

インデックス

【 起立性調節障害 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と起立性調節障害

当薬局では長年、起立性調節障害に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつは起立性調節障害はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。

実際に当薬局のホームページには「起立性調節障害 治療」「起立性調節障害 副作用」「起立性調節障害 子供」といったキーワードでのアクセスが非常に多いです。上記にくわえてもうひとつは漢方薬は起立性調節障害の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。このページでは起立性調節障害に対する漢方治療について解説させて頂きます。

起立性調節障害とは

起立性調節障害の病態を簡単に表現すれば主に低血圧症による一時的な脳の虚血(きょけつ)状態といえます。虚血とは何らかの理由で血流が低下している状態を指します。やや脱線しますが、しばしば耳にする貧血は血液における赤血球の濃度が低下した状態ですので、虚血とは異なった病態です。脳における虚血が起こる原因はまだ完全には解明されていません。一方で成長途上のお子様は血圧をコントロールする自律神経(特に交感神経)がまだ完全に機能していないためではないかと考えられています。

しかしながら、立ちくらみやめまいのような起立性調節障害の症状が現れていても血圧に問題がないケースもあります。この点に関しましては後述の体位性頻脈症候群をご参照ください。起立性調節障害は決して珍しい病気ではありません。データによって多少の変動幅はありますが学童期の5~10%が患っているといわれています。この確率から単純に考えると30人のクラスに1人以上の起立性調節障害患者がいる計算になりますので、その頻度の高さがわかります。起立性調節障害には男女差も認められており、多くの場合は女子に多いとされています。そしてこの傾向は中学生以降により顕著になるといわれています。

起立性調節障害の原因

起立性調節障害は主に10代前半以降の学童期のお子様に多く見られる病気です。その理由は血圧を調節する自律神経のはたらきがまだ未発達なためと考えられています。「自律神経」とは自律的、つまり意思とは無関係に自動的に調節を行う神経です。自律神経の中でも交感神経は血圧を上昇させる機能を司っており、この交感神経がうまく働かないと充分に血圧が上がらず起立性調節障害特有の症状が現れてしまいます。

この自律神経はしばしば精神的なストレスなどによってうまくコントロールできなくなってしまいます。したがって、起立性調節障害は自律神経の未発達だけではなく、ストレスを受けやすい多感な性格なども発症に関与していると考えられます。

起立性調節障害は学童期のお子様に多い自律神経失調症のひとつです。しかし、近年の調査によって中学生以上の高校生や社会人にも起立性調節障害の諸症状が見られることがわかってきました。この点から起立性調節障害は「自律神経がうまく機能しない子供たちに特有の病気」とはいえないという指摘もあります。

起立性調節障害の症状

起立性調節障害を患うと低血圧によって脳に虚血が起こり、それを補うために頻脈(脈がドクドクと早くなる状態)が現れやすくなります。脳における虚血と頻脈が起こることによって起立性調節障害は多彩な症状を引き起こしてしまいます。起立性調節障害の具体的な症状としては、起床困難、長時間の起立ができない、慢性的な疲労感、めまいや立ちくらみ、吐気や食欲不振、腹痛、頭痛、動悸、息切れ、胸の苦しさ、顔色の悪さ、寝つきの悪さ、イライラや短気などが挙げられます。これらの症状はしばしば類似した症状を呈する貧血と間違われますが、血液検査では赤血球の濃さを示すヘマトクリット値に異常は出ません。

起立性調節障害の大きな特徴は、朝の起床ができないという症状に代表されるように、午前中に症状が悪化しやすいという点です。逆にいえば午後になると症状が軽減される点も起立性調節障害の特徴です。これは時間の経過とともに血圧を上昇させる自律神経である交感神経がはたらき始めるからです。個人差も多いですが、経験的にお昼頃から夕方にかけて「本調子」になる方が多い印象があります。

さらに起立性調節障害には「季節性」もあります。上記の午前と午後の関係のように温暖な春から夏は、秋から冬とは反対に症状が現れやすくなってしまいがちです。この理由は、冬は寒いので血管から大切な熱が逃げ出さないように血管の収縮が起こりやすくなるからです。血管収縮によって血圧は上昇しやすい状態となり、低血圧によって引き起こされていた起立性調節障害の症状が現れにくくなるのです。

起立性調節障害において問題となるのはその症状だけではありません。朝に起床できない結果、学校に遅刻したり欠席することが多くなり徐々に学校から足が遠のいてしまうことが「二次的な症状」として問題となります。さらに時間の経過とともに症状が緩和するので午後には体調も回復することが、他者(しばしば、病気を認識される前のご両親も含めて)からは「学校をさぼっている」「怠けている」と見られてしまいがちです。それに加えて上記で説明したとおり、起立性調節障害は春に悪化しやすい傾向があります。大切な学校の「新シーズン」でつまずいてしまうこともマイナスにはたらきがちです。
起立性調節障害への理解不足や季節性などが相まって不登校を助長してしまうこともしばしばです。これもまた、起立性調節障害の見逃せない「症状」といえます。

起立性調節障害の分類

起立性調節障害はその症状によって、起立直後性低血圧、神経調節性失神、遷延性(せんえんせい)起立性低血圧、そして体位性頻脈症候群の4つに分類されます(しばしばサブタイプとも呼ばれます)。下記では簡単に4つのサブタイプの特徴を解説します。

起立直後性低血圧

起立性調節障害の中でも最も多くみられるのがこの起立直後性低血圧です。その名前の通り、頭を上げた直後に顕著な低血圧が起こり、徐々に回復してゆきます。起立直後性低血圧によって引き起こされる症状としてはめまい、立ちくらみ、脱力感などが挙げられます。

神経調節性失神

神経調節性失神では起立しているときに血圧の低下が起こり、意識低下(失神)を引き起こします。その他の症状としては顔色の蒼白化、吐気、冷や汗、動悸なども現れることがあります。直接的な神経調節性失神による症状ではありませんが、急な意識の低下による転倒時の打撲なども問題となります。

遷延性(せんえんせい)起立性低血圧

遷延性起立性低血圧では頭を上げてから数分後に血圧の低下が起こります。現れる症状は動悸、冷や汗、吐気、動悸、頭痛、脱力感などが挙げられます。名前にある「遷延」とは「長引くこと」「のびのびになること」を意味します。

体位性頻脈症候群

体位性頻脈症候群においては血圧の低下は起こらず、その一方で心拍数の増加がみられます。体位性頻脈症候群による症状は立ちくらみ、ふらつき、脱力感、頭痛などが挙げられます。起立性調節障害において起立直後性低血圧に次ぐ頻度といわれています

ご予約

お問い合わせ

一二三堂薬局は初回完全予約制です。

【定休日】水・日曜日・祝祭日【営業時間】10時〜19時

お電話でのご予約・お問い合わせ

TEL:03-3971-2316

起立性調節障害の西洋医学的治療法

起立性調節障害は自律神経、特に交感神経のはたらきが機能しないことによって起こる低血圧が主な原因でした。したがって、西洋医学的治療法は薬物を用いて血圧を上昇させることが基本となります。

血圧を上昇させるために交感神経を優位にするリズミック(一般名:メチル硫酸アメジニウム)やメトリジン(一般名:ミドドリン塩酸塩)、血管の拡張を防ぎ血圧を維持させるジヒデルゴット(一般名:メシル酸ジヒドロエルゴタミン)が主に用いられます。しかしながら、これらの薬はしばしば頭痛や動悸、食欲不振や吐気などの消化器系の副作用が起こるため慎重に用いられます。

起立性調節障害の中でも血圧低下が起こらない体位性頻脈症候群の場合は頻脈を鎮めるインデラル(一般名:プロプラノロール)も使用されます。インデラルを用いる際は血圧が下がり過ぎることで起こる重だるさやめまい、気管支の収縮による息苦しさなどに注意が必要です。

起立性調節障害の漢方医学的解釈

起立性調節障害における代表的な諸症状は気の不足である気虚(ききょ)や血の不足である血虚(けっきょ)に多くが当てはまります。この気と血の両方の不足を気血両虚(きけつりょうきょ)とも呼びます。したがって、起立性調節障害はおおむね気血両虚の状態と考えられます。気とは一種の生命エネルギーのようなもので、気の不足(気虚)によって慢性的な疲労感、食欲不振、めまいや立ちくらみなどが起こります。

血は身体を栄養するものであり、血の不足(血虚)によってこちらも慢性的な疲労感、動悸や息切れ、頻脈、顔色の蒼白化、肌の乾燥や荒れ、不安感や不眠症などが引き起こされます。血はもともと気を「原材料」として生まれるので、気の不足は放置されると遅かれ早かれ血の不足、つまり気血両虚に至ります。

起立性調節障害は気血両虚以外にも気滞(きたい)の要素も少なからず含んでいるでしょう。気滞とは気がうまく巡らない状態であり、主に精神的ストレスや生活の乱れ、そして気虚をきっかけに起こります。気滞の症状としては胸や腹部の張り感、息苦しさ、胸痛や腹痛、吐き気や食欲不振、気分の落ち込みなどが挙げられます。このように、起立性調節障害は気や血の不足、さらには気の滞りなどが複雑に絡み合って起こっている複合的な病態と考えるのがより妥当でしょう。

これらは決して単純な病態ではありませんし、上記の病的状態を発端としてさらに二次的な病態(血や津液の滞りなど)が含まれるケースも実際には見受けられます。

漢方薬を用いた起立性調節障害の治療

起立性調節障害には多くの場合、気血両虚が深く関与していると考えられます。したがって、不足している気や血を補うことが起立性調節障害治療の中心的な方針となります。
まず気虚を引き起こす原因は多いうえに複雑なので、ここではしばしば遭遇するケースについて紹介してゆきたいと思います。気虚を引き起こす最も多い原因は脾胃(消化器)の力が不足している場合です。

この状態をしばしば脾虚(ひきょ)とも呼びます。食欲不振、下痢や軟便が続いているような脾虚の方は十分に食べ物が消化吸収されず、栄養素がうまく身体に取り込めていないことが多いです。

このような方は人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などの脾胃の力を高める生薬、補気薬(ほきやく)と呼ばれる生薬から構成される漢方薬を服用するのが有効です。徐々に食欲がついて消化器の調子も良くなれば気も充実してくるでしょう。食欲は普通にある方でも気虚の症状が見られる場合は補気を中心とした漢方薬を使用します。これは補気薬自体にも直接的に気を補う効果があるからです。

精神的なストレスなどによって胸や腹部の張り感、胸痛や腹痛、気分の落ち込みなどの気滞症状が現れるケースでは、その対処も重要になってきます。気の巡りが悪くなると脾胃のはたらきが弱まり、気虚を悪化させてしまうこともあるからです。気の流れを改善する理気薬(りきやく)としては柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが代表的です。

気の不足は結果的に血の不足を起こすことを考慮して気虚の段階から血を生み出す補血薬(ほけつやく)を用いることも多いです。具体的には地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などが使用されます。血虚に陥ると動悸や息切れ、さらに不安感や不眠症などの精神症状も現れやすくなるのでこれらの症状が顕著なら補血の考慮は欠かせません。

上記以外にも起立性調節障害を患っている方によって主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。

生活面での改善点と注意点

起立性調節障害において体位性頻脈症候群以外のケースでは血圧の低下が問題となります。したがって、日常生活においては血圧を上げやすくすることが大切となります。具体的には水分と塩分の摂取が血圧向上に役立ちます。一方で水に食塩を溶かした「海水」のようなものを継続的に摂るのは現実的ではありません。そこで、塩分を多めにした温かいスープ類を1日3食の中に必ず入る献立にすることをお勧めします。ポイントとしては消化器を冷やしてはたらきを弱めないように、できるだけ温かい状態で摂ることです。

上記の他に、起床時はゆっくりと起き上がることが大切です。起床予定時間の前にカーテンを開けてもらい日光を浴びて、段階的に頭(上体)を上げてゆきます。睡眠状態の改善も症状改善には不可欠です。夕食後以降はできるだけパソコンやスマホのディスプレイを見ないことを推奨します。これはディスプレイの光によって目が冴えてしまい、入眠困難から睡眠時間の短縮、そして起床困難に繋がりやすいからです。

起立性調節障害の改善例

患者は小学6年生の女児。昔から朝起きが苦手でお母様の手をわずらわせていたとのことですが、小学4年生の頃から立ちくらみや腹痛なども現れるようになってしまった。最初の頃はたまに遅刻してしまうくらいでしたが、腹痛が原因でしばしば欠席することも。お母様も心配して近くでかかりつけの内科をいくつか受診。しかしながら、単なる低血圧や虚弱体質と診断され、特に治療は行われませんでした。

その頃、偶然にも新聞の起立性調節障害の記事が目に留まりました。そこに書かれていた症状がことごとく娘様に当てはまると感じて起立性調節障害の治療経験がある小児科を受診。全体的な症状から起立性調節障害と診断されました。その後、受診した小児科で昇圧薬(血圧を上げる薬)が処方されましたが、服用することで朝は起きられるようになっても、頭痛がひどくなってしまい服用は中止。いくつか薬を変更して朝起きはできるようになっても動悸、吐気、それによる食欲の低下などがどうしても現れてしまい服薬は続けられませんでした。

病院での治療方針に悩まれていた頃、たまたまお母様がネットで「起立性調節障害 漢方」と検索しているうちに当薬局を知り、娘様とご体調が良い夕方にご来局されました。ご様子を伺うとご自身の口から朝起きが苦手、腹痛や立ちくらみによる吐気が辛いとおっしゃられました。それ以外にも小児科から低血圧(収縮期血圧が約65mmHg)と軽度の貧血を指摘されているとのこと。全体的な外見も細身でやや顔色が青白い印象。「食事をすると腹痛が起こるのでは…」という心配が先に立ち、今は朝食はほとんど食べられていない。

娘様にはまず人参、白朮、甘草などから構成される気を補って脾胃の力を増す漢方薬を服用して頂きました。漢方薬を服用し始めて3~4ヵ月が経過した頃には声にも張りが出てきました。これまでは作業的に摂っていたという食事についても、少しずつ食欲も出てきたとのこと。朝食も味噌汁と少量の白米なら摂れるようになりました。くわえてとても気にされていた腹痛はほとんど無くなっていました。朝も徐々に起きられるようになってきましたが、まだ立ちくらみとめまいの症状に変化は出ませんでした。それを受けて気を補う生薬に加えて地黄や当帰といった血を補う生薬も含まれる漢方薬に変更しました。

血を補う生薬は胃腸の弱い方が服用するとまれに食欲の低下やもたれ感が現れるので慎重に用いられます。娘様の場合は徐々に脾胃が強くなっていたので変更を決めました。少々心配もしましたが問題なく服用され、そこから半年が経った頃には立ちくらみや足元がフワフワするようなめまいも消えていました。午前中に症状が目立つ傾向はありますが、遅刻や欠席をしてしまうことは無くなったとのこと。

現在、娘様は中学生になり症状が出やすくなる春先くらいになると予防的に漢方薬をお求めにいらっしゃいます。特に症状自体は出ることも無く元気に過ごされているとのこと。お母様が受けさせている定期的な健診においても少々の低血圧を指摘される程度で貧血はまったく無し。今はテニス部と手芸部に所属されて、活発に過ごされています。

おわりに

起立性調節障害はまだ馴染みが薄い病気であり、午後になると症状が軽快することからしばしば「怠け癖」や「仮病」と疑われてしまうことも多いです。起立性調節障害を患う方はお昼や夕方まで寝込んでしまうこともしばしばで、必然的に就寝時間は遅くなってしまいます。そうなると夜型の生活に移行してしまい、より一層、朝に起きれなくなってしまう悪循環にも陥りがちです。登校日数の減少をきっかけに学校から足が遠のき、不登校になってしまうケースも見受けられます。

起立性調節障害に有効な西洋医学的治療法も副作用の問題などから確立はされていません。漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では昇圧薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、めまいや立ちくらみなどの症状が少しずつとれてくることから、起立性調節障害と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、起立性調節障害にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

このページの先頭へ