閉経関連尿路性器症候群は、主に閉経に伴う女性ホルモンの低下によって、外陰部・腟(ちつ)・尿道・膀胱などにさまざまな不調が現れる症候群です。
日本語表記が非常に長いため、病名の英語表記であるGenitourinary Syndrome of Menopauseを略して、GSMと呼ばれることもあります。
代表的な症状としては、陰部の乾燥、頻尿、尿意切迫感、再発性膀胱炎、外陰部痛、性交痛などが挙げられます。
GSMの概念はまだ一般的とは言いにくく、「年齢による変化」として我慢してしまっている方も少なくありません。
女性ホルモンの急激な減少によって引き起こされる症状を更年期障害と呼びます。
閉経関連尿路性器症候群は知らなくても、更年期障害は知っているという方が大半ではないでしょうか。
GSMと更年期障害は女性ホルモンの減少という共通の原因を持つ病気といえます。
GSMは女性ホルモンの減少によって、潤いの不足といった身体的変化が起こっている状態です。
一方で更年期障害は女性ホルモンの急激な減少に、うまく身体が適応できない状態といえます。
一般的な傾向として、更年期障害は低ホルモン状態に身体が慣れれば、徐々に軽快することが多いです。
しかしながら、GSMの場合は女性ホルモン不足によって身体の組織が変化してしまうため、症状が慢性化しやすいです。
実際には更年期障害による、のぼせ、発汗、イライラ感、不眠などの症状とGSMが混在して発症するケースも少なくありません。
更年期障害については、更年期障害に漢方という選択肢で解説していますので、あわせてご覧ください。
過去に萎縮性腟炎や老人性腟炎と呼ばれる病気がありました。
これらは加齢とともに現れる、陰部の乾燥や性交痛などの腟に関連したトラブルを含む病名でした。
一方、現在では腟だけでなく尿路症状まで含めた幅広い症状と合わせて、GSMという名称が用いられるようになりました。
GSMの最大の原因は、閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の急激な低下です。
閉経は45~55歳の10年間に起こることが多いので、GSMもこの期間以降に発症することが多いです。
女性ホルモンには、腟や尿道周囲の粘膜を健康に保ち、潤いや弾力を維持する働きがあります。
閉経前後になると女性ホルモンの減少とともにこの働きも弱まり、粘膜が薄くなって乾燥しやすくなります。
他にもGSMの発症には加齢や運動不足による血行不良、骨盤底筋(こつばんていきん)の衰え、患部の洗い過ぎなども関係します。
加齢などによって血行が悪くなると、陰部の栄養不足から粘膜の衰えや乾燥につながりやすくなります。
骨盤底筋は骨盤の底で、子宮、膀胱、腸などを支えている「ハンモック」や「ネット」のような筋肉であり、尿道や肛門を引き締める働きも担っています。
この筋力が低下すると子宮下垂などの内臓下垂に加えて、尿漏れ、頻尿、便失禁などが起こりやすくなってしまいます。
良かれと思い、陰部をしっかり洗浄することが逆効果になってしまうこともあります。
1日に何回もボディソープや温水便座を使用して陰部を洗浄してしまうと、汚れ以外にも潤いを保つための脂質も洗い流してしまいます。
結果的に保湿力の低下からより乾燥が進んだり、洗浄時の摩擦で陰部に痛みを生じさせてしまうこともあります。
閉経関連尿路性器症候群の代表的な症状として、陰部や腟の乾燥、それに伴うヒリヒリ感などが挙げられます。
一二三堂薬局にいらっしゃる方においても、陰部の乾燥や不快感を何とか改善したいと訴えられるケースが非常に多いです。
不快感の表現も、ヒリヒリ感や灼熱感、弾力性の低下によるツッパリ感、下着が擦れることによる痒みなど様々です。
GSMには「陰部の乾燥」のイメージが強いですが、実際にはそれ以外の膀胱粘膜や尿道粘膜の乾燥や萎縮も起こります。
結果として膀胱や尿道が過敏になり、頻尿や夜間尿、尿意切迫感が生じやすくなります。
粘膜は潤いを与える以外にバリア機能も担っています。このバリア機能が低下すると繰り返す膀胱炎や尿道炎を引き起こしてしまいます。
陰部の乾燥は摩擦に対しての抵抗力を低下させてしまうので、わずかな刺激に対しても痛みを感じやすくなります。
痛みは歩行時や性交時などの摩擦をともなう場面で生じやすく、他にも尿や汗が刺激になってしまうこともあります。
婦人科や泌尿器科では、主に以下のような治療が行われます。
GSMの代表的な治療法はエストロゲンを中心としたホルモン補充療法です。
ホルモン補充の方法も、口から服用する内服薬の他に、腟錠や外用薬も存在します。
他にはデリケートゾーンの潤いを保つための保湿剤などの使用が推奨されます。
漢方医学的にGSMの状態を考えると、主に加齢による陰虚の状態と捉えられます。
陰虚とは身体を潤す津液(しんえき)や、身体に栄養を与える血の不足した状態を指します。
陰虚は加齢、疲労の蓄積、病後の消耗などによって引き起こされます。
陰虚に陥ると、身体の乾燥、口の渇き、疲労感、目のかすみ、ほてり、体重の低下などが起こりやすくなります。
漢方において、五臓六腑のひとつである腎は泌尿器や生殖器の働きをつかさどっています。
腎の働きは加齢とともに弱まり、泌尿器などのトラブルが徐々に増えてしまいます。このような状態を腎虚と呼びます。
腎虚の代表的な症状としては、頻尿や夜間尿、性力低下、腰痛、関節痛、皮膚・筋肉・骨・歯の軟弱化などが挙げられます。
陰虚と腎虚は重なり合っている部分も多く、GSMの場合は両者が混在している状態といえます。
他にも血行不良の状態である瘀血(おけつ)、精神症状が多く現れる気滞(きたい)も併発してしまうことも少なくありません。
漢方の視点からGSMを見る際、どのような濃淡でこれらが存在しているかを考える必要があります。
漢方薬によるGSMの治療は、津液や血を補う補陰と、腎の働きを底上げする補腎が中心となります。
多くの場合、補陰と補腎を軸にしつつ、個別の症状と体質に合わせて漢方薬は調合されていきます。
陰部を中心に身体の乾燥が顕著な場合は地黄や麦門冬といった補陰作用に優れた生薬が使用されます。
地黄は下記で挙げる補腎作用もあるので、GSMにはしばしば用いられます。
頻尿や尿漏れなどの泌尿器トラブルが目立つケースでは、山茱萸、山薬、鹿茸といった補腎薬を含んだ漢方薬が使用されます。
頻尿は冷えで悪化することが多いので、あわせて桂皮や乾姜などの身体を温める生薬とセットで使用されることも多いです。
GSMの症状の現れ方は陰部の乾燥や頻尿など、一定の共通点があります。したがって、漢方薬も補陰と補腎が治療の中心となります。
しかしながら、疲労感が強い方、冷えが目立つ方、逆にほてりで困っている方など個人差も少なくありません。
漢方薬を調合する際は、その個人差を見極めてカスタマイズすることが大切になります。
GSMの悪化要因の一つに血行不良が挙げられます。患部の血行が悪くなると栄養不足から乾燥や弾力性不足に陥りやすくなります。
血行改善のためにも、患部に負担がかからないレベルでウォーキングやヨガなどの軽運動は有効です。
他には喫煙は顕著に血行を悪くしてしまうので、禁煙も推奨されます。
冷えは血行不良につながりますので、間接的にGSM対策となります。
具体的にはクーラーで下半身を冷やし過ぎない、シャワーではなく入浴する、薄着を避けるなどが有効です。
入浴は優れた冷え対策方法ですが、下記で挙げる陰部の洗い過ぎには注意してください。
陰部の症状が気になるあまり、過度に洗浄してしまうと潤い不足を加速させてしまいます。
1日に何度も陰部を洗浄する、陰部を強くこするように洗う、そして温水便座の洗浄機能を頻繁に使用するのは避けましょう。
患者は50代前半の女性・会社員。元々、当薬局で肉体疲労や眼精疲労の改善を目的に漢方薬を調合していました。
長年、同じ漢方薬を健康維持の目的で服用されていましたが、徐々に陰部の乾燥が気になるようになりました。
特に秋以降の乾燥した季節になると、乾燥による不快感がより強く現れるようになりました。
改めてご様子を伺うと、陰部の乾燥とヒリヒリ感、それに伴うイライラ感、そして頻尿があるとのこと。
この方には潤いを与える力に優れた地黄や麦門冬、精神面を安定化する茯苓や蓮肉を含んだ漢方薬を調合いたしました。
服用から4か月ほどが経過すると、下着が擦れる際の不快感やイライラ感が薄れてきました。
その一方でトイレの近さは改善されませんでした。そこで補腎作用に優れた山茱萸や鹿茸を含んだ漢方薬に変更を行いました。
新しい漢方薬に変更すると、気温が高い時期を中心にトイレに行く回数が減ってきました。心配していた精神症状の再発もありませんでした。
その後、乾燥しやすくなる秋以降でも、陰部の不快感や頻尿に困ることなく過ごすことができるようになりました。
漢方薬の服用は、多忙な時期は疲労回復作用を強化するなど調節を加えながら、継続していただいています。
閉経関連尿路性器症候群(GSM)は陰部の乾燥感やヒリヒリ感だけでなく、不快な症状を避けるために外出が減ってしまうなど、日常生活に大きな制限が生じてしまうこともあります。
一方でデリケートな症状であるため周囲に相談しづらく、「年齢のせいだから仕方ない」と我慢してしまっている方も少なくありません。
ご自身の症状が治療可能だと認識していない方も多いでしょう。漢方薬はGSMによる諸症状を、総合的に改善できる可能性があります。
「病院では異常なしと言われた」「治療を受けているがつらい」「体質から改善を考えたい」という方は、お気軽に池袋の一二三堂薬局へご相談ください。【執筆・監修:吉田 健吾(薬剤師・一二三堂薬局代表)】