陰部や肌の乾燥は更年期以降の女性に多くみられる症状であり、当薬局でもご相談の多い肌トラブルの一つです。
女性の場合、閉経前後になると女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が大きく減少してしまいます。
エストロゲンには肌や粘膜に潤いを与える作用があるので、その低下は保湿力の低下につながってしまいます。
特に陰部の乾燥による違和感やヒリヒリ感、かゆみ、性交時の痛みなどに悩まされる方は少なくありません。
しかし、陰部の症状はデリケートな問題であるため、医療機関や薬局に相談することをためらう方も多くみられます。
また、肌の乾燥についても「年齢のせいだから仕方がない」と単なる加齢現象として見過ごされがちです。
しかし、これらの症状は日常生活の快適さや生活の質(QOL)に大きく影響することがあり、適切な対策によって改善が期待できる場合もあります。
更年期以降の乾燥症状は、単に水分不足が原因ではなく、女性ホルモンの低下による皮膚や粘膜の変化が深く関わっています。
そのため、保湿ケアだけでは十分な改善が得られないこともあります。
当ページでは、更年期以降に陰部や肌が乾燥しやすくなる理由、現れやすい症状、考えられる対策について詳しく解説します。
閉経関連尿路性器症候群という病気をご存じでしょうか?
比較的最近生まれた概念であり、その英語名を略してGSMとも呼ばれています。
GSMは主に閉経に伴うエストロゲンの低下によって、外陰部・腟(ちつ)・尿道・膀胱などにさまざまな不調が現れる症候群です。
GSMの代表的な症状としては、陰部の乾燥、頻尿、尿意切迫感、再発性膀胱炎、外陰部痛、性交痛などが挙げられます。
一二三堂薬局にご来局された方においても、後にご自身がGSMだったと分かったケースも少なくありません。
GSMについては閉経関連尿路性器症候群(GSM)に漢方という選択肢で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
年齢とともに皮脂や天然保湿因子(NMF)、セラミドなどが減少し、皮膚の水分保持能力が低下します。
その結果、外気の乾燥の影響を受けやすくなり、秋以降を中心に乾燥が起こりやすくなってしまいます。
熱いお湯での入浴や洗浄力の強い石鹸の使用は、皮膚を保護する皮脂まで取り除いてしまい、乾燥を招くことがあります。
特にGSMに陥っている方は、衛生面を気にし過ぎるあまり、陰部などを洗い過ぎてしまうケースがみられます。
肌や粘膜の潤いを保つためには、たんぱく質や必須脂肪酸、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛などの栄養素が重要です。
極端なダイエットや偏った食生活によってこれらの栄養素が不足すると、皮膚や粘膜の維持が難しくなり、乾燥症状が現れやすくなることがあります。
ストレスや睡眠不足はホルモン分泌や自律神経の働きを乱し、乾燥や肌荒れを悪化させることがあります。
特に睡眠中は活発な皮膚のターンオーバー(新陳代謝)が行われているので、睡眠不足は肌再生を妨げてしまいます。
漢方医学的に身体の乾燥を考えると、主に加齢による陰虚の状態と捉えられます。
陰虚とは身体を潤す津液(しんえき)や、身体に栄養を与える血の不足した状態を指します。
陰虚は加齢、疲労の蓄積、病後の消耗などによって引き起こされます。
陰虚に陥ると、身体の乾燥、口の渇き、疲労感、目のかすみ、ほてり、体重の低下などが起こりやすくなります。
漢方において、五臓六腑のひとつである腎は泌尿器や生殖器の働きをつかさどっています。
腎の働きは加齢とともに弱まり、泌尿器などのトラブルが徐々に増えてしまいます。このような状態を腎虚と呼びます。
腎虚の代表的な症状としては、頻尿や夜間尿、性力低下、腰痛、関節痛、皮膚・筋肉・骨・歯の軟弱化などが挙げられます。
陰虚と腎虚は重なり合っている部分も多く、GSMの場合は両者が混在している状態といえます。
他にも血行不良の状態である瘀血(おけつ)、精神症状が多く現れる気滞(きたい)も併発してしまうことも少なくありません。
漢方の視点から乾燥を見る際、どのような濃淡でこれらが存在しているかを考える必要があります。
漢方薬による乾燥の治療は、津液や血を補う補陰と、腎の働きを底上げする補腎が中心となります。
多くの場合、補陰と補腎を軸にしつつ、個別の症状と体質に合わせて漢方薬は調合されていきます。
陰部を中心に身体の乾燥が顕著な場合は地黄や麦門冬といった補陰作用に優れた生薬が使用されます。
地黄は下記で挙げる補血作用もあるので、乾燥にはしばしば用いられます。
血の不足は乾燥に加えて、貧血によるめまいや立ちくらみ、疲労、息切れ、動悸、顔色の悪さ(青白い顔色)などが起こりやすくなります。
女性の場合は上記に加えて、生理不順、生理痛、不妊症などの婦人科トラブルの原因にもなります。
血を補う作用のある生薬としては、地黄、芍薬、当帰などが挙げられます。
若い頃は不要だったハンドクリームが手放せないといった、年齢とともに乾燥が悪化するケースは腎虚の可能性が高いです。
上記で挙げた生薬の他に、山茱萸や鹿茸といった補腎薬を含んだ漢方薬が使用されます。
乾燥が起こりやすい方は陰虚や腎虚が背景にあることが多く、漢方薬も補陰と補腎が治療の中心となります。
しかしながら、炎症によるかゆみが強い方、婦人科トラブルのある方、冷えやほてりで困っている方など個人差も少なくありません。
漢方薬を調合する際は、その個人差を見極めてカスタマイズすることが大切になります。
乾燥悪化の要因に血行不良が挙げられます。患部の血行が悪くなると栄養不足から乾燥や弾力性不足に陥りやすくなります。
血行改善のためにも、患部に負担がかからないレベルでウォーキングやヨガなどの軽運動は有効です。
他には喫煙は顕著に血行を悪くしてしまうので、禁煙も推奨されます。
冷えは血行不良につながりますので、間接的に乾燥対策となります。
具体的にはクーラーで下半身を冷やし過ぎない、シャワーではなく入浴する、薄着を避けるなどが有効です。
入浴は優れた冷え対策方法ですが、下記で挙げる陰部の洗い過ぎには注意してください。
陰部の乾燥が気になるあまり、過度に洗浄してしまうと潤い不足を加速させてしまいます。
1日に何度も陰部を洗浄する、陰部を強くこするように洗う、そして温水便座の洗浄機能を頻繁に使用するのは避けましょう。
加湿器の使用は最も直接的な乾燥対策といえます。特に起床後に喉の乾燥と痛みがある方にお勧めです。
他にも入浴直後の肌に潤いがある状態で、素早く保湿クリームを使用すると効果的にケアすることができます。
患者は50代前半の女性・会社員。元々、当薬局で肉体疲労や眼精疲労の改善を目的に漢方薬を調合していました。
長年、同じ漢方薬を健康維持の目的で服用されていましたが、徐々に陰部の乾燥が気になるようになりました。
特に秋以降の乾燥した季節になると、乾燥による不快感がより強く現れるようになりました。
改めてご様子を伺うと、陰部の乾燥とヒリヒリ感、それに伴うイライラ感、そして頻尿があるとのこと。
この方には潤いを与える力に優れた地黄や麦門冬、精神面を安定化する茯苓や蓮肉を含んだ漢方薬を調合いたしました。
服用から4か月ほどが経過すると、下着が擦れる際の不快感やイライラ感が薄れてきました。
その一方でトイレの近さは改善されませんでした。そこで補腎作用に優れた山茱萸や鹿茸を含んだ漢方薬に変更を行いました。
新しい漢方薬に変更すると、気温が高い時期を中心にトイレに行く回数が減ってきました。心配していた精神症状の再発もありませんでした。
その後、乾燥しやすくなる秋以降でも、陰部の不快感や頻尿に困ることなく過ごすことができるようになりました。
漢方薬の服用は、多忙な時期は疲労回復作用を強化するなど調節を加えながら、継続していただいています。
最近の日本において秋は数少ない、快適に過ごせるシーズンといえます。一方で乾燥の始まりの季節でもあります。
乾燥が進んでしまうと肌の感覚が過敏となり、かゆみ、睡眠の質や集中力の低下につながり生活の質を落としてしまうこともあります。
特に閉経関連尿路性器症候群(GSM)による陰部の乾燥は周囲に相談しづらく、「年齢のせいだから仕方ない」と我慢してしまっている方も少なくありません。
ご自身の症状が治療可能だと認識していない方も多いでしょう。漢方薬は乾燥による諸症状を、総合的に改善できる可能性があります。
「病院では異常なしと言われた」「治療を受けているがつらい」「体質から改善を考えたい」という方は、お気軽に池袋の一二三堂薬局へご相談ください。【執筆・監修:吉田 健吾(薬剤師・一二三堂薬局代表)】