成人の身体はおよそ60%が水分で構成されているといわれています。この水分は動脈血として、心臓から送り出されて身体の組織に供給されています。
同時に組織から排出された不要な成分や水分は、静脈やリンパ管に送られ回収されています。
むくみとは、静脈やリンパ管に回収されるべき水分が、皮下の組織に過剰にたまってしまう状態を指します。専門的には浮腫(ふしゅ)と呼ばれます。
漢方相談を受けていると、若い女性を中心に、むくみは冷えや首肩こりと並んでお悩みの方が多い症状だという印象があります。
余分な水分は静脈やリンパ管に流れ、回収されていきます。特に下肢では、筋肉の収縮が静脈血の流れを助けています。
女性は男性と比較して筋肉量が少ないので、水分の「回収力」が低くなりがちです。結果として足などにむくみが起こりやすい傾向があります。
他にも女性ホルモンの変動によって、水分代謝が変化することも知られています。具体的には生理開始前から生理開始直後にかけて、むくみやすくなります。
むくみは心臓、腎臓、肝臓の機能低下、静脈血のうっ滞や静脈瘤、橋本病に代表される甲状腺機能低下症などで起こることが知られています。
もし長期間、むくみが起こっているようなら一度、医療機関を受診されることをお勧めします。
橋本病につきましては橋本病・甲状腺機能低下症に漢方という選択肢で解説しておりますので、ご参照ください。
特定の病気が絡んでいない場合でも、生活習慣の乱れからむくみが起こることもあります。
具体的には運動不足、同じ姿勢で長時間を過ごす、アルコールや水分の摂り過ぎ、塩分や糖分の過剰摂取、冷えなどによってむくみは起こりやすくなります。
当薬局には水分の摂り過ぎによってむくみ、さらに頻尿や下痢にまでなっている方がたまにいらっしゃいます。
熱中症対策などのためにこまめな水分補給は必要です。一方で不快症状がいくつも出るほど摂るのは健康的とは言えません。
むくみは慢性化すると身体の重だるさ、むくんでいる部分の動かしにくさや冷えなどをともなうことがあります。
そこまで顕著なものではなくても、同じ靴が夕方になるときつく感じられたり、靴下の跡がなかなか消えないような方はむくみがあると考えられます。
むくみが現れやすい場所として、起床時は顔やまぶた、日中は下半身に起こりやすい傾向があります。
これは睡眠中は横になっているので全身にまんべんなく水分が分布するのに対して、起床後は立っていたり座ったりしていることが多いので、重力によって水分が下半身へ移動するからです。
むくみを起こしている病気が明確な場合は、まずその病気の治療が優先されます。
それにくわえて、余分な水分を尿として排出させる利尿薬が主に用いられます。
一方で明確なむくみの原因が分からない場合も少なくありません。そのような場合は、血流を助ける弾性ストッキングの使用、塩分摂取の制限などが行われます。
漢方の視点に立って考えるとむくみには水滞(すいたい)が強く関係しています。
水滞は文字通り、水分の巡りが悪くなっている状態です。水分が偏ってたまることで、不快症状の原因となります。
水滞による代表的な症状としては、むくみ、めまい、頭痛、倦怠感、食欲低下、軟便や下痢などが挙げられます。
水滞は脾、肺、腎といった、水分代謝に深く関与している内臓の不調で生じやすいです。
加えて梅雨や夏などの湿気の影響を受け、水滞が生じたり、悪化することもあります。
漢方薬を用いてむくみを改善する際は、水滞を取り除き、水分代謝を促すことが中心となります。
「滞っているものがあるなら、それをしっかり巡らす」という、漢方のシンプルな思想が反映されています。
水滞を改善する生薬としては、白朮、蒼朮、茯苓、猪苓、沢瀉などが挙げられます。
これらは利水薬(りすいやく)と呼ばれ、むくみを改善する漢方薬の中心として使用されます。
水滞があるとむくみに加えて、消化器の不調も現れやすくなります。
むくみの他に食欲低下や軟便、疲労感などが目立つなら、人参、黄耆、大棗、甘草などの生薬が有効です。
これらの生薬は補気薬(ほきやく)と呼ばれ、消化器の状態を整えるとともに、生命活動を支える気も補います。
疲労感、気力の低下、息切れ、風邪の引きやすさなど、気の不足と考えられる症状もあるなら、これらの改善も同時に期待できます。
水分の流れが悪くなると、それに悪影響を受けて気や血の巡りも悪くなることがあります。
気の巡りが悪くなると、胃腸の張り、喉の圧迫感、胸苦しさ、憂うつ感などが現れやすくなります。
全身がむくんで倦怠感が強い、身体が重いのでさらに気分も沈んでしまうようなケースです。
むくみに加えて上記のような症状が顕著なら、柴胡、薄荷、枳実、厚朴、香附子などの理気薬(りきやく)が使用されます。
血の巡りが悪くなると、首肩こり、頭痛、冷えのぼせ、肌の暗赤色化、生理痛などが起こりやすくなります。
これらの改善には、血を巡らす働きがある当帰、川芎、延胡索、牡丹皮、桃仁、紅花などが使用されます。
運動不足は水滞に加えて気と血の巡りを悪くしてしまうので、デスクワーク中心の社会人はより注意が必要です。
足を中心とした下半身のむくみ解消には、軽いウォーキングが有効です。
足の筋肉を動かすことによって、静脈の流れが良くなり、余分な水分が停滞するのを防ぎます。
仕事などで長時間同じ姿勢でいるのも良くありませんので、定期的な屈伸運動などを行うのが好ましいです。
適度な圧迫力のある弾性ストッキングやタイツを使用するのも良いでしょう。
むくみに加えて冷え性(冷え症)もある方は、しっかりとお風呂に入ることをお勧めします。
お風呂に入ることで足に水圧がかかり、むくみの改善が期待できます。
さらに入浴時に足首から太ももの付け根に向かってマッサージを行うのもよいでしょう。
下半身のむくみが気になる場合は、横になって足を心臓より少し高い位置に上げて休むのもよいです。
足を高くすることで、重力によって下半身にたまりやすくなった血液や水分が戻りやすくなります。
クッションや枕などを利用して、無理のない範囲で足を高くするとよいでしょう。
患者は30代後半の女性・看護師。仕事柄、運動不足にはならないものの、立っていることが多いのでむくみやすいとのこと。
特に勤務時間の後半になると足のむくみが強く、痛みや張り感を覚えることもある。
勤務先の病院から帰宅するため、靴をはき替える時には足がパンパンになっているのがわかるという。
詳しくお話を伺うと、むくみのほかに足の冷え、首と肩の凝り、生理痛があることがわかりました。
そこでこの方には水滞を除く茯苓や沢瀉、血の巡りを改善する当帰や川芎を含んだ漢方薬を服用していただきました。
加えて日頃からシャワーのみで過ごしていると伺ったので、しっかりと湯船につかるようお願いしました。
他にも買い物の際などは少しでよいので遠回りして、足の筋肉を積極的に使うことも併せてお伝えしました。
服用から3か月が経つと顕著だった足のむくみは大きく改善されていました。
帰りに外履きの靴に履き替える際も、靴べらを使わずスムーズに履けるようになったとのことです。
その一方で冷えが気になりだしたということで、身体を温める桂皮や細辛を含んだ漢方薬に変更しました。
新しい漢方薬にして2か月が経過すると冷え性と一緒に生理痛や不快な肩や首の凝りも軽くなっていました。
漢方薬を変更してもむくみが悪くなることはなく、こちらも順調に改善されました。
この方は季節によって内容を微調節しながら漢方薬を継続していただいています。
漢方相談を受けていると、女性を中心にむくみに悩んでいる方はとても多い印象があります。
ほかにも身体の重だるさ、血行の悪化による冷え、首や肩の凝りなどをともなうケースもしばしばみられます。
むしろ、むくみだけのご相談は稀で、上記のような複数の体調不良のひとつとしていらっしゃる方が多いです。
漢方薬はむくみを改善するだけではなく、むくみを起こしている原因や、それ以外の諸症状の改善にも力を発揮します。
慢性的なむくみでお悩みの方はぜひ池袋の一二三堂薬局へご相談ください。【執筆・監修:吉田 健吾(薬剤師・一二三堂薬局代表)】