チック症とは、意識していないのに身体を動かしたり、声が出てしまう病気です。これらの動きや発声は「無意識」であるがゆえに、本人の意思では止められない点がチック症の特徴です。
さらにチック症の症状は、身体の動きが中心の 運動性チック症、発声を中心とする 音声チックに分けられます。
チック症はお子様に多い病気で、特に男児に多い傾向があります。実際、一二三堂薬局にチック症のご相談でいらっしゃる方は、小学生~中学生の男児の方が多い印象ですが、成人の女性や男性の方もいらっしゃいます。
チック症の発生頻度はおおよそ10~20%とされており、決して珍しい病気ではありません。数字的に見ると、小学校低学年の1クラスに数人は発症している計算になります。
トゥレット症候群とはチック症の症状が慢性化して1年以上続いた場合の病名です。簡単に表現すれば「慢性化してしまったチック症」といえます。
チック症は比較的よく見られる病気ですが、トゥレット症候群の発症頻度は0.05%程度と非常に低いことも知られています。
したがって、チック症が発症したからといって必ずしもトゥレット症候群に移行するわけではありません。過度に心配する必要はないでしょう。
くわえて、漢方薬の服用によって大きく改善し、日常生活に支障がないレベルまで安定される方もとても多いです。
チック症の症状は大きく運動性チック症と音声チック症に分けられます。これらは片方のみが出る場合もあれば、両方とも出る場合もあります。漢方薬はどちらのパターンでもしっかり治療可能です。
代表的な運動性チック症の症状としては…
…といったものが挙げられます。他にもスキップするように飛び跳ねる、腕を屈伸する、机などをたたく、物を触る、臭いをかぐといった複雑な動きが出るケースもあります。
音声チック症でしばしば起こるものとしては…
…などが代表的です。漢方相談を受けていると運動性チック症よりも音声チック症の方がより周りに気づかれやすく、ストレスになるというお話をしばしば伺います。
そして稀に漢方薬は運動性チック症しか治療できないと思われている方もいらっしゃいますが、このような音声チック症も漢方薬は治療可能です。
音声チック症の一部に汚言症(おげんしょう)というやや珍しい症状があります。汚言症とは攻撃的で品のない言葉や性的な言葉を勝手に発してしまう症状です。
止めることのできない汚言症は周囲から目立ってしまうだけではなく、会話の内容に関係なく出てしまいます。したがって、友人関係などに代表される人間関係に問題が生じてしまわぬよう、周囲の理解がとても大切です。
長年、漢方相談を受けているとチック症と併発しやすい病気があることに気づかされます。しばしばお見受けするものとしては下記のものが挙げられます。
特定の言葉を繰り返したりしてしまう吃音症(きつおんしょう)
注意力や集中力の低下、行動の衝動性が高まってしまうADHD
頻繁に空気を飲み込んでしまい胃腸の張り感が起こってしまう呑気症
自分自身で髪をまつ毛などを抜いてしまう抜毛症(ばつもうしょう)、爪を剥いてしまう咬爪症(こうそうしょう)
これらの病気は漢方薬の服用でチック症が改善されてくると、歩調を合わせて改善するケースも少なくありません。
チック症の症状は、筋肉の動きがうまくコントロールできない状態といえます。漢方医学では、五臓六腑(ごぞうろっぷ)のうち 肝(かん) が筋肉の動きを司っていると考えます。
また、肝は筋肉の動きだけでなく、眼のはたらきを維持したり、精神や感情を安定させる役割も担っています。
この肝のはたらきが何らかの原因で失調すると、チック症でしばしば見られる筋肉の動きの乱れ、眼の機能低下、気持ちの不安定などが生じてしまいます。
筋肉のはたらきが失調した場合、運動性チック症や一部の音声チック症につながることがわかっています。チック症特有のまばたきも、筋肉と眼のはたらきの失調によるところが大きいでしょう。
気持ちの乱れは、イライラ感、理由のない怒り、情緒不安定、ヒステリーなどを誘発します。そのため、漢方医学ではチック症の治療において肝に注目することが基本となります。
さらに、肝と関連の深い 腎(じん) への配慮が必要となる場合もあります。腎は成長や生殖を司る 精(せい) を蓄えている臓です。
「肝腎同源(かんじんどうげん)」といわれるように、肝が失調すると腎のはたらきも弱まり、逆に腎の精が不足すると肝のはたらきも低下してしまいます。
精は成長に欠かせないものであり、成長障害、学習障害、低身長や低体重など、精不足と考えられる症状がチック症と併存している場合には、漢方薬によってそれらに対する治療も同時に行われます。
チック症の症状に肝の失調が関与していることは上記のとおりですが、そもそもなぜ肝が失調してしまったのかという根本原因を考えることも重要です。肝は、多くの場合、精神的なストレスによってその働きが低下してしまいます。
したがって、まずはお子様に精神的なストレスがないかを確認することが大切です。経験上、受験によるストレス、学校のクラス替えによる環境の変化、家庭環境の変化などが多く見られます。
漢方医学では、チック症の治療は「肝(かん)」と呼ばれるはたらきを整えることが中心になります。肝は筋肉の動きや心の安定に関わるため、ここが弱ってしまうとチック症状が出やすくなると考えられています。
肝の力が弱る原因のひとつに、「血(けつ)」という体をうるおし、筋肉や心を落ち着かせる成分が不足することがあります。そのため、十分な血を補うことがチック症の治療ではとても大切になります。
血を補う働きのある生薬としては、地黄(じおう)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、阿膠(あきょう)、酸棗仁(さんそうにん)、竜眼肉(りゅうがんにく)などがよく使われます。特に芍薬には、筋肉のこわばりを和らげる作用もあるため、チック症状の改善に向いています。
また、精神的なストレスが血の消耗を進めてしまうことがあるため、ストレスを和らげる生薬であり理気薬(りきやく)も重要です。
柴胡(さいこ)、枳実(きじつ)、陳皮(ちんぴ)、半夏(はんげ)、厚朴(こうぼく)、香附子(こうぶし)といった生薬が代表的です。
さらに、筋肉のふるえやけいれんを落ち着かせる生薬である熄風薬(そくふうやく)の釣藤鈎(ちょうとうこう)、天麻(てんま)、または気持ちを安定させる竜骨(りゅうこつ)や牡蠣(ぼれい)、成長を助ける腎の力を支える鹿茸(ろくじょう)なども、必要に応じて組み合わせて使われます。
もちろん、チック症といっても症状や体質はお子様によってさまざまです。そのため、使用する漢方薬の内容も一人ひとりに合わせて細かく調整する必要があります。
以上の理由から、一般の方がご自分にぴったり合う漢方薬を独力で選ぶのは難しいといえます。専門家と相談しながら、お子様の体質や状態に合わせた漢方薬を選ぶことが大切です。
チック症やトゥレット症候群の症状は、本人が「やめよう」と思っても止めることがとても難しいものです。
そのため、まわりの大人が「動かないで!」「止めなさい!」と言ってしまうと、かえってお子様のストレスや緊張が強くなり、症状が悪化してしまうことがあります。
症状が出てもあえて気にしないで見守る「温かい無視」という対応です。そこで大切になるのが、冷たく放っておくという意味ではなく、「症状そのものを叱らない・注目しない」という優しい関わり方です。
これに加えて、お子様が何かできたときには大げさなくらいしっかり褒めてあげることも効果的です。ただし、「今日は首を動かさなくて偉いね」など症状に触れる褒め方は、お子様に症状を意識させてしまうため避けましょう。「宿題を自分から始めて偉いね」「計算が上手になってきたね」など、チックとは関係のない行動を褒めることがポイントです。
また、チック症は眼の疲れ(眼精疲労)や睡眠不足で悪化しやすいことが知られています。これらは体のバランスを崩しやすく、お子様に負担がかかってしまうためです。
テレビ、ゲーム、スマホ、タブレットの長時間使用はなるべく控えたいところですが、現実には完全に禁止することは難しいものです。ご家庭で話し合い、「夜は使わない」「30分ごとに休憩を入れる」など、無理のないルールを決めることが大切です。
そして、ご家庭だけでなく学校側への配慮が必要になることもあります。先生方もチック症について基本的な理解を持っている場合が多いですが、保護者面談などの機会に「叱っても止められるものではないこと」「注意が逆効果になること」などをあらかじめ伝えておくと、より安心して学校生活を送れるでしょう。
小学6年生の男の子です。小学校4年生の頃から、顔をゆがめたり、首を左右に素早く振るなどのチック症状が見られるようになりました。
最初はお母様も「ふざけているのか癖なのか」と判断がつかず注意していましたが、症状は治まることなく続きました。
その後、同級生に症状を指摘されたことをきっかけに、時々学校を休むようになってしまいました。当薬局には、お母様ご自身が以前から漢方薬を服用しており、息子さんにも試してみたいと親子でご来局されました。
詳しく伺うと、顔や首の動きといった典型的な運動性チック症に加え、咳払いをしたり、「うっ!、うっ!」と高い声を出す音声チック症も見られました。また、緊張しやすい性格も影響してか、肩が上がりやすく身体に力が入りやすい状態でした。
息子さんには、心身の緊張を和らげるために柴胡・芍薬・厚朴などから構成される漢方薬を服用していただきました。また、お母様には症状を叱ったり注意したりすることを控えてもらい、息子さんにはゲームやスマホの使いすぎにも注意してもらうようお願いしました。
漢方薬服用から4ヵ月が経つと、大きく身体を動かす症状は減り、咳払いもほとんど見られなくなりました。この頃、お母様は「まつ毛を抜いてしまう癖もなくなった」とお話しくださいました。抜毛症は、チック症と一緒に現れやすいことがあります。
その後も同じ漢方薬を続けていただき、服用開始から10ヵ月で、運動性チック症も音声チック症もほぼ消失しました。現在は、学校で発表会などプレッシャーのかかる場面でまばたきが増えることがありますが、同じ漢方薬を継続して服用していただいています。
患者は中学2年生の男児と30代後半のお母様です。息子様のチック症で悩んでいたお母様が、息子様と一緒にご来局されました。症状としては、まばたきや首を左右に振るなどの典型的な運動性チック症が見られました。
一方で、それ以上に気になったのがお母様の状態でした。息子様に症状を伺おうとすると、その答えが返ってくる前にお母様がさっとご返答されました。お母様いわく「中学校に進学して、友人との人間関係がうまくいかなかったのがチック症の原因だと思う」とのことでした。
その話し方には冷静さだけでなく、強い焦燥感が感じられました。お子様の異常に不安を抱かないご両親はいませんが、その迫力からか、息子様がやや緊張している雰囲気も感じられました。
この様子から、お母様の指摘が正しい部分もあると感じましたが、同時にお母様自身もチック症の原因の一因になっている面があると考えられました。
そこで、このケースでは息子様だけでなく、お母様も一緒に気持ちを落ち着ける漢方薬を服用していただくことにしました。
お母様にも漢方薬を勧めると、最初は怪訝な表情をされましたが、「母子同服(ぼしどうふく)」という言葉があることを伝えて納得していただきました。
母子同服とは、子供の病気を治すために漢方薬を母親(または父親、あるいは両親とも)の場合にも服用してもらう治療法です。
これは、お母様の心配や緊張感が子供にプレッシャーとなっている場合に適した方法です。実際にお母様のお話を伺うと、イライラ感や気分の浮き沈みに悩んでいたとのことでした。
それぞれ漢方薬を服用し始めてから5ヵ月が経過すると、お母様も気持ちが落ち着き、「ついつい症状が出るたびに注意していましたが、今は静観することができるようになりました」とおっしゃいました。
息子様の方はまだまばたきや身体の動きはありますが、かなり改善が見られました。良い傾向と判断し、同じ漢方薬を継続して服用していただくことにしました。服用開始から1年が経った頃には、息子様の症状の大半は落ち着き、漢方薬は無事に卒業となりました。
一方でお母様は「この漢方薬を服用しているとイライラしなくなる。特に生理前のイライラや頭痛がなくなって助かる」とのことで、現在も継続して服用していただいています。
患者は20代前半の男子大学院生です。幼少期より首を動かしたり咳払いをしたりするチック症がありましたが、年齢とともに症状は緩和し、しばらくの間チック症のことを忘れていました。しかし、研究室での閉塞した生活や就職活動の開始をきっかけに、チック症が再発しました。
病院から抗不安薬が頓服で処方されましたが、ふらつきと眠気が強く、服用できなかったとのこと。他の薬を試しても生活に支障が出てしまい、服用を断念されました。
何気なくネットでチック症に関する学術論文を閲覧していると、漢方薬が有効であるという論文を見かけ、服用を決意。当薬局へご来局されました。
伺った症状の経過から、精神的ストレスによって五臓の肝のはたらきが失調してしまったと考えました。そこでまず、ストレスを緩和する柴胡、筋肉のはたらきを整える芍薬、気持ちを鎮める竜骨などから構成される漢方薬を服用していただきました。
服用から3ヵ月が経過した頃には、身体を不規則に動かす場面が少なくなり、それからさらに数ヵ月経った頃には、咳払いや時々見られた無意識の発声もなくなっていました。
無事に電機メーカーに就職された現在も、ストレス緩和と健康維持のために、うまく気を流しつつ、気を補うことにも比重を置いた漢方薬を継続して服用していただいています。
患者は小学2年生の女児です。幼少期より、2歳年下の妹とケンカが絶えず、癇癪(かんしゃく)を起こしてご両親を困らせることが多かったとのことです。
加えて、小学校入学直後から、まばたきや肩を上下させるチック症が現れ始めました。お母様は治療を行うべきか迷っているとき、行きつけの鍼灸院で漢方薬を勧められ、当薬局へご来局されました。
娘様の身長と体重を確認すると、どちらの数値も年長さんくらいの水準でとても小柄でした。お母様によると「偏食があり、食も細くてあまり体力がない。でもいつもイライラして暑がっている」とのことでした。
これらのご様子から、娘様には腎の力を補い、適度に身体をクールダウンする漢方薬を服用していただきました。
漢方薬開始から3ヵ月が経過し、お母様のご様子を伺うと、漢方薬は嫌がらずに服用できているとのことでした。チック症には変化がなかったものの、帰宅後に必ずしていた昼寝をしなくなり、食欲が出てきたといいます。
その後、これまでの漢方薬を減量し、代わりに心身をリラックスさせる漢方薬を追加しました。新しい漢方薬になって2ヵ月が経過すると、妹とおもちゃを取り合うこともなくなり、情緒が徐々に安定してきました。
お母様自身も姉妹に注意する頻度が減り、イライラしなくて済むのでとても助かるとおっしゃっていました。その後、ご本人の怒りっぽさが薄れていくのと比例して、運動性チック症も見られなくなりました。
学年も3年生となり、だいぶ姉らしくなってきたとご両親も喜んでいました。漢方薬については、服用しているとご本人が「調子が良い」と話すため、内容を調節しながら継続されています。
近年、チック症のご相談が非常に増えた印象があります。おそらく、背景には西洋薬を服用させることに抵抗を感じるご両親の気持ちがあると考えられます。
漢方薬は穏やかではありますが、西洋薬では対応しきれない根本的な原因にも対応できるものです。さらに、西洋薬のような目立った副作用の心配もありません。
当薬局には、西洋薬を服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして、漢方薬を服用して症状が好転する方が非常に多くいらっしゃることから、チック症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。
本ホームページでは主にチック症を「子供の病気」として扱ってきましたが、成人された大人の方でも問題なくご対応が可能です。ぜひ一度、チック症でお悩みの方は一二三堂薬局にご来局ください(ご予約はこちらから)。