相談の多い病気

ページ一覧

【 気管支喘息(小児喘息を含む) 】と漢方薬による治療

気管支喘息(小児喘息を含む)とは


気管支喘息は気管支の慢性的な炎症によって咳や呼吸困難などを起こす病気です。小児喘息も基本的な病態は同様であり「こども版の気管支喘息」と考えて良いでしょう。気管支喘息における気管支の炎症は主に免疫系の過剰反応によって引き起こされます。このような免疫異常を起こす物質をアレルゲンと呼び、気管支喘息の大きな原因となります。代表的なアレルゲンはダニの屍骸などを含むハウスダスト、そして花粉やカビなどが挙げられます。


気管支喘息を患っている方は程度の差はありますが、常に炎症が起こり患部は敏感となっています。そうなると健康な方では問題にならないような少々の刺激(タバコの煙や運動など)に対しても反応し、咳や息苦しさといった症状が出てしまいます。


気管支喘息を患いやすい方はその他のアレルギー性疾患、たとえばアトピー性皮膚炎、花粉症を含むアレルギー性鼻炎、ジンマシン、食物アレルギーなどを併発しやすいことが知られています。これは気管支喘息が体質的な要因によって引き起こされていることを示唆しています。


気管支喘息(小児喘息を含む)の原因


気管支喘息の大きな原因はアレルゲンによって引き起こされるアレルギー反応です。アレルギー反応が起こると気管支、特に気管支の細い末梢の部分に炎症が起こります。さらに炎症が起こったことで気管支の壁はむくみ、空気の通り道が細くなってしまいます。この状態が気管支喘息特有の呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)を引き起こします。


炎症はアレルギー反応の結果として起こるものなので、アレルギー反応が起こっていないときは気管支の壁が狭まることはありません。しかし、何度も炎症を繰り返しているうちに壁が元に戻らなくなり、気管支が細くなっている状態が固定化されてしまいます。この点などが気管支喘息と気管支炎の異なる部分です。


アレルギー反応を起こすアレルゲンには個人差がありますが、ハウスダストは多くの方に共通するアレルゲンといえます。ハウスダストとはその名前の通り室内で発生しやすいゴミのことです。具体的にはダニの死骸や糞、カビ、剥がれた皮膚やフケ、髪の毛、ペットの皮膚や毛、服の繊維、食べ物のカスなどが代表的です。ハウスダスト以外にも花粉や特定の食べ物もアレルゲンとなりえます。


気管支喘息を患っている方はまず、検査で自分が何に対してアレルギーを持っているのか知ることが大切です。特に小児喘息の場合はお子さん自身とご両親だけではなく、周囲の方にもアレルゲンを知ってもらうことが大切となります。


気管支喘息の炎症はアレルゲンによるアレルギー反応以外でも起こることが知られています。具体的にはカゼなどの感染症、精神的ストレスや運動、気候の変化、季節の変わり目、タバコや飲酒などです。気管支喘息を患っている方のすべてがこれらによって症状が悪化するわけではありません。しかし、慢性的な炎症によって些細なことが喘息発作を誘発しやすくしてしまいます。


気管支喘息(小児喘息を含む)の症状


気管支喘息の代表的な症状は咳、呼吸困難、そして喘鳴が挙げられます。これらの症状はアレルゲンの侵入などによって突然激しく起こります。これが喘息発作と呼ばれるものです。


気管支喘息の咳は夜から明け方に起こりやすいという特徴があります。多くの場合、喉のつまり感から始まり喘鳴と呼吸困難が続き、切れにくい痰をともなう咳が起こります。咳と痰はより呼吸困難を後押ししてしまい、深刻化すると血中の酸素濃度が低下し、チアノーゼ(皮膚や唇の青色化)や意識障害に至ってしまうこともあります。

呼吸困難は気管支の壁が炎症によって狭くなり、肺へうまく空気が送れないことで起こります。呼吸困難が悪化すると横になるのがつらくなり、前かがみにならないと呼吸ができなくなってしまいます。


喘鳴とは発作時の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という独特の呼吸音です。喘鳴は呼吸困難と同じく、スムーズに空気を肺へ送れないことで起こる気管支喘息の特徴的な症状です。


気管支喘息(小児喘息を含む)の西洋医学的治療法


一昔前の西洋医学的治療は狭くなった気管支の壁を拡張することに主眼が置かれていました。しかし、今日では気管支に起こる慢性的な炎症を抑えることがより有効だと明らかになってきました。


そこで現在では炎症を鎮める効果の強い吸入式のステロイド薬が気管支喘息治療の第一選択となっています。この吸入ステロイド薬は使用方法にコツがいるので小児喘息を患っているお子さんはしっかりと練習を行う必要があります。


吸入式のステロイド薬はあくまでも予防的治療であり、発作時の治療には適していません。発作時には呼吸を楽にする気管支拡張薬や服用するタイプのステロイド薬などが使用されます。


気管支喘息(小児喘息を含む)の漢方医学的解釈


漢方の視点からみると気管支喘息の原因は非常に多くの可能性が考えられます。しかし、どのようなタイプの気管支喘息においても根底には気虚と痰飲が関係しています。気虚とは生命エネルギーである気が不足した状態です。そして痰飲とは津液が停滞したことで生まれる有効活用されない水分を指します。


先天的な体質、くわえて過労や食生活の不摂生などによって気が不足してしまうと脾や肺の機能が低下してしまいます。肺に充分な気が供給されないと呼吸に支障が出て咳や呼吸困難が起こりやすくなります。脾のはたらきが悪くなると水分の代謝がうまくゆかなくなり痰飲がたまりやすくなります。脾で生まれたドロドロとした痰飲は徐々に肺にまで侵入し、さらに肺のはたらきを悪くしてしまいます。


元々、肺という臓は呼吸を通じて身体の外と密接につながっているので季節の変化(乾燥や湿気、急激な寒さ)などに敏感です。漢方的な表現をすれば肺は風寒邪(ふうかんじゃ)や燥邪(そうじゃ)といった外邪の悪影響を受けやすい臓といえます。気虚になると外邪を追い払う抵抗力も低下するので、カゼや環境の影響をより受けやすくなってしまいます。


漢方薬を用いた気管支喘息(小児喘息を含む)の治療


漢方薬をもちいた気管支喘息の治療は気虚の改善と痰飲の除去が中心となります。特に気を補い脾の状態を向上させることは痰飲も生まれにくくするので重要です。


咳や呼吸困難にくわえて疲労感が目立つ気虚の方には人参、黄耆、白朮、大棗、甘草などの補気薬、くわえて痰飲を除く半夏、生姜、蘇葉、杏仁、陳皮などの化痰薬を含んだ漢方薬がもちいられます。水っぽい痰が多く出る場合は水分代謝を改善する利水薬、具体的には白朮、蒼朮、沢瀉、猪苓、茯苓などの使用も検討されます。利水作用にくわえて咳を鎮める作用がある麻黄は特に繁用されます。


補気薬や化痰薬などの他に精神的なストレスが強ければ理気薬、冷えが目立てば散寒薬、炎症が強く粘り気の強い痰がでるケースには清熱薬も使用されます。これら以外にも症状や体質に沿ってしっかりと漢方薬を対応させる必要があります。したがって、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。


気管支喘息の改善例


改善例1

患者は30代前半の男性・システムエンジニア。幼少期には小児喘息を患っていましたが、中学校に進学するとその症状も自然と消失。しかし、社会人となり精神的なストレスも多くなり、生活リズムも乱れると再び喘息の症状が現れるようになったという。


くわしくお話を伺うと仕事でストレスを受けると呼吸が深くできなくなり典型的な咳と喘鳴、そして呼吸困難という喘息の症状が起こりやすくなるという。喘息以外の症状としては食が細く、慢性的に喉の不快感と重だるさが消えないとのこと。


この方にはストレスを緩和し熱(炎症)を抑える生薬である柴胡、咳を鎮める麻黄、痰飲を除く半夏などから構成される漢方薬を服用して頂きました。それにくわえてストレスの蓄積と喘息はこの方に限らず関連があるので、できる限り睡眠時間の確保とリラックスできる環境を整えるようお願いしました。


漢方薬の服用から3ヵ月が経過した頃には頻繁に起こっていた気管支喘息の咳や息苦しさ、そして喉の不快なつまり感は軽減されていました。一方でこの頃は仕事の繁忙期であったので気を補う人参や白朮などを含む漢方薬に変更しました。その後、繁忙期でも喘息発作が起こることもなく乗り切り、現在も微調整を加えながら体力強化の意味も含めて漢方薬の服用を継続して頂いています。


改善例2

患者は小学校高学年のお子さん。保育園時代に小児喘息と診断され、現在も吸入ステロイド薬をもちいた治療を行っている。基本的に症状はコントロールされており、大きな発作が起こることはあまりないとのこと。しかし、ちょっと強く運動をしたりカゼを引くと調子を崩してしまうという。胃腸の弱さや体力不足も気になると訴えられるお母さんと一緒にご来局。


よりくわしくご様子を伺うと小児喘息の他に慢性的な疲れやすさ、食の細さ、腹痛や軟便などの症状があり、さらにカゼを引きやすい体質で困っていることがわかりました。これらの症状などからお子さんは気の不足である気虚に陥っていると考えて人参、黄耆、白朮といった気を補う生薬を含んだ漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬の味の面も含めてしっかり服用できるか心配しましたが、お母さんから問題なく服用できていると教えて頂きました。服用開始から4ヵ月が経つと、食べられる量が少しずつ増えてきて、横になりたいという訴えが減ってきました。この間は一度だけカゼを引いてしまいましたが、発作はなく過ごせているとのこと。


服用開始から1年が経つ頃には体格も良くなり、胃腸の調子も安定していました。やや乾燥気味だった肌も潤いがついて粉を吹くこともなくなりました。その後も小児喘息の発作だけではなく、カゼや感染性胃腸炎などにもかかることもなく元気に過ごされています。


おわりに


気管支喘息は低年齢層を中心に増加傾向が続いている病気のひとつです。これは改善してきたとはいえ大気汚染などの環境問題が影響していると考えられます。くわえて食生活の乱れ、ストレスの多い長時間労働、睡眠不足、運動不足といった生活上の問題も背景にはあるでしょう。


当薬局には西洋薬を服用してもなかなか改善がみられなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方はとても多くいらっしゃいます。このように咳などの症状のみに着目するのではなく、個人の身体面と精神面の両方にアプローチを行う漢方薬は気管支喘息との相性が良いと実感しています。是非一度、気管支喘息にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 咳(咳喘息を含む) 】と漢方薬による治療

咳(咳喘息を含む)とは


咳は呼吸を通じて身体内に入ってくる異物(ウイルスや細菌などの病原体、煙やほこりなど)を排出する一種の防御反応です。このような咳は正常な反応ですが、気管や気管支に慢性的な炎症が起こって呼吸困難に陥ってしまう気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、そして咳喘息などは病的な咳といえます。(気管支喘息に関しては【 気管支喘息 】と漢方薬による治療のページをご参照ください)


気管支喘息や咳喘息以外にも、カゼを含めた感染症によるもの、逆流性食道炎による喉への刺激、さらには精神的なものや声の出し過ぎによるものなど咳を起こす病気や原因はとても多いです。このページでは咳喘息を中心に慢性的な咳の症状を取り上げてゆきます。


咳(咳喘息を含む)の原因


咳が起こる原因は咳を起こしている病気の内容によって異なります。しかし、多くの場合において咳は気管や気管支などの炎症が原因となります。慢性的な咳をもたらす咳喘息もまた、気管などの粘膜に炎症が起こることで咳の症状が現れます。


咳喘息のように呼吸器の炎症があると少々の刺激によって激しい咳き込みが起こりやすくなってしまいます。この刺激もアレルギー性のものと非アレルギー性のものに大きく分けられます。前者にはダニやホコリなどを含むハウスダスト、犬や猫の毛や皮膚、花粉などが代表的なアレルゲン(アレルギー反応を起こす物質)です。後者にはタバコの煙、車や工場の排煙、季節の変化や寒暖差、運動、ストレス、刺激の強い食べ物やアルコールなどが挙げられます。


咳(咳喘息を含む)の症状


ここでは咳喘息について症状をまとめてゆきます。咳喘息の症状はその名の通り、慢性的に続く咳です。かぜなどをきっかけに1ヵ月以上も咳が長引く場合は咳喘息が疑われます。「咳喘息」という病名がついていますが、咳喘息においては気管支喘息に特徴的な喘鳴(「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」という呼吸音)は起こりません。これは気管支喘息と比較して咳喘息は気道の閉塞が強くないからです。


咳以外の咳喘息の症状としては喉のイガイガとした不快感、連続した咳き込みによる呼吸困難などが挙げられます。咳の症状はしばしば早朝や深夜に起こりやすいので、不眠に悩まされてしまう方も少なくありません。咳がいつ起こるか心配になり、物事に対する積極性が低下してしまうケースもみられます。


咳(咳喘息を含む)の西洋医学的治療法


ここでは咳喘息の西洋医学的治療法を挙げてゆきます。咳喘息の治療法は気管支喘息の治療法と大きく差はありません。両者とも呼吸器の炎症を抑えるために吸入ステロイド薬と呼吸を楽にする気管支拡張薬が使用されます。


咳(咳喘息を含む)の漢方医学的解釈


漢方の考え方において咳を起こす原因は大きく2つに分けられます。ひとつは外邪が肺に侵入した結果として起こる咳です。そしてもうひとつは気や津液の不足や津液の滞りなどによって肺のはたらきが悪くなり、咳が起こるというものです。一方で現実的には両者が混在した、複雑な病態となっていることが多いです。


外邪の場合、どのタイプの外邪が侵入したかによって症状も異なります。具体的には風寒邪(ふうかんじゃ)が肺を侵すと咳にくわえて白色の痰、頭痛、水っぽい鼻水や鼻づまりなどが併せて現れやすくなります。風熱邪(ふうねつじゃ)が肺で悪さをすると黄色く粘り気の強い痰が咳とともに出やすくなります。他にも喉の痛みや乾燥感も伴いやすいです。


気が不足した気虚の状態になると、肺の呼吸機能が低下して息切れや疲労感とともに咳が現れやすくなります。気は外邪から身を守るバリアのはたらきも担っているので、その不足は外邪の肺への侵入も容易にしてしまいます。


気虚に陥ると肺だけではなく脾(消化器のはたらきを代表する存在です)の機能も低下し、津液が滞って生まれる病的産物の痰飲がたまりやすくなります。この痰飲は徐々に肺を侵し、より肺のはたらきを悪くしてしまいます。気だけではなく身体に潤いを与える津液が減少すると、喉の不快な乾燥感やほてり感などもみられるようになります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた咳(咳喘息を含む)の治療


漢方における咳の治療は、咳の症状がまさに起こっている場合は外邪の侵入を受けていることが多いのでその発散を優先させます。そして、症状が落ち着いたところで抜本的な体質改善に着手します。 外邪に対しては解表薬、体質改善には補気薬や滋陰生津薬が中心となります。


急性の咳が現れた場合、症状からどのタイプの外邪の影響を受けているのかを判断し、使用される漢方薬が決定されます。風寒邪に対しては身体を温めつつ、風寒邪を追い払う生薬である辛温解表薬を含んだ漢方薬がもちいられます。具体的な辛温解表薬としては麻黄、桂枝、生姜、荊芥、防風、細辛などを含んだ漢方薬になります。特に麻黄は咳を鎮める力が優れているので繁用されます。


風熱邪には過剰な熱を鎮めつつ、風熱邪を発散させる辛涼解表薬を含んだ漢方薬が使用されます。具体的な辛涼解表薬としては葛根、柴胡、薄荷、連翹、升麻などが挙げられます。熱(炎症)による化膿した痰が目立つ場合は清熱作用が強い石膏、咳が強い場合は麻黄などと併せて使用されます。


疲労感や食の細さが目立つような気虚の場合、気を補う補気薬を含んだ漢方薬がもちいられます。代表的な補気薬としては人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。気の状態が上向けば、徐々に脾において痰飲も生まれにくくなります。呼吸器も含めた身体の乾燥感が顕著な場合は潤いを与える生薬(生津薬)である麦門冬や天門冬なども使用されます。


生活面での注意点と改善案


咳を予防するうえで咳はどのようなケースで現れやすいか、または悪化しやすいかを把握しておくことが大切です。例えばハウスダストが咳の原因ならこまめな掃除、季節の変わり目に起こりやすいようならこの時期は睡眠不足や疲れをためないようにするといった対策が可能になるからです。


食生活においては刺激が強く炎症を助長させやすい辛いものやアルコール度数の高いお酒は控えましょう。タバコはそこに含まれるニコチンなどが肺で炎症を起こし、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主原因となりますので絶対に禁煙しましょう。


咳(咳喘息を含む)の改善例


患者は40代前半の女性・塾講師。職業柄、一日中声を出していなければならないので年に数回はつらい咳をともなうカゼを引いてしまうという。約2ヵ月前にもカゼから咳と喉が痛くなったが、なかなか治らず肺の底から出るような強い咳が止まらなくなってしまった。呼吸器内科を受診して治療薬を使用するもスッキリとせず当薬局にご来局。


詳しく現在の様子を伺うと、その途中でもケホケホケホと連続して乾燥した咳が出てしまうような状態。喉の痛みはなく、痰もほとんどないか切れないくらい少ないという。呼吸器以外のご症状としては咳をするのに疲れてしまい、気力も低下気味。食事を摂っている時も咳でむせてしまうこともあるので、食欲もあまり湧かないという。


咳の状態やそれ以外の情報を勘定してこの方はカゼをきっかけに気と津液が不足している状態と判断しました。そこで潤いをつける麦門冬、咳を鎮める半夏、そして気を補う人参などを含んだ漢方薬を服用して頂きました。くわえてこの時期は冬だったので、出来るだけ部屋は加湿するようにお願いしました。


服用から1ヵ月半が経つと顔を赤くするような強い咳き込みはかなり減ったとのこと。その一方で声の出し過ぎからまた喉が痛くなり、黄色いネバネバした痰が出始めていました。そこでこれまでの漢方薬をいったん中止して、炎症を鎮める石膏と膿を出す桔梗を含んだ漢方薬に変更しました。


新しい漢方薬に切り替えて15日ほどで喉の痛みや痰は鎮まったので、最初に調合した漢方薬へ再度変更。それから3ヵ月程度、服用を継続して頂いた頃には咳や切りにくい痰のご症状は消えていました。咳が出なくなってからは疲労感も軽減されたとのこと。季節も春になり、湿度が上がってきたこともご症状の改善を後押ししてくれました。


その後は継続的にこれまでの漢方薬を服用しつつ、喉に痛みなどの違和感を覚えたら早めに以前の石膏と桔梗を含んだ漢方薬を使用してもらうようにお願いしました。この漢方薬の組み合わせにしてからは以前のように頻繁にカゼを引くこともなく、うまく体調をコントロールできるようになりました。


おわりに


慢性的な咳は症状自体がつらいだけではなく、会話を難しくしたり睡眠不足の原因にもなってしまいます。強い咳き込みが続くと肋骨を疲労骨折してしまうこともありますので「たかが咳くらい…」と軽視はできません。


漢方薬は幅広い咳の症状に対応することができます。咳を起こしている原因に対してアプローチすることで咳を起こしにくい身体づくりも行えます。病院の治療薬を服用してもなかなか治らない方や、繰り返し咳の症状に悩まされている方は是非、当薬局へご相談ください。

【 心因性咳嗽(神経性咳嗽) 】と漢方薬による治療

心因性咳嗽(神経性咳嗽)とは


心因性咳嗽(しんいんせいがいそう)はその名前の通り、精神的なストレスや緊張によって引き起こされる咳を指します。しばしば神経性咳嗽とも呼ばれますが同じ意味です。咳が起こる病気は多く存在しますが、心因性咳嗽においては気管支喘息や咳喘息にみられるような呼吸器の炎症はありません。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の原因


心因性咳嗽の明確な原因はわかっていません。しかし、精神的なストレスがきっかけとなって自律神経の交感神経が興奮し、結果として咳が起こっていると考えられます。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の症状


心因性咳嗽は精神的なストレスを受けた時、不安感や緊張感が高まった時などに咳が起こります。多くの場合、咳にくわえて咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)やヒステリー球と呼ばれる喉に異物がつまったような閉塞感や胸苦しさも訴えられます。咳は痰の少ない乾燥したものが中心となり、喉の痛みはあまり起こりません。


呼吸器以外の症状ではストレスによる食欲不振、胃痛、そして腹痛と一緒に下痢や便秘が起こる過敏性腸症候群(IBS)といった消化器のトラブルが併発しやすいです。くわえて精神症状としては不眠、気持ちの沈み、気力の低下などがともないやすいです。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の西洋医学的治療法


心因性咳嗽は炎症や気管支の閉塞が起こっているわけではないので、気管支喘息などにもちいられる吸入ステロイド薬や気管支拡張薬はあまり効果がありません。日常的に精神的ストレスが強い場合は、その解消が優先されます。それでも改善がみられないケースでは精神安定剤などがもちいられます。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の漢方医学的解釈


漢方において心因性咳嗽は気の滞りである気滞をきっかけとした症状と考えられます。精神的ストレスが強くかかると気の巡りをコントロールしている肝のはたらきが失調し、結果として気の巡りが悪くなってしまいます。


気滞に陥ると咳や呼吸の乱れの他にも喉や胸の圧迫されるような不快感、動悸や胸痛、吐気や嘔吐、胃や腹部の張り感や痛み、下痢や便秘、不安感やイライラ感などの症状が起こります。心因性咳嗽は気滞のなかでも咳を中心とした呼吸器の症状が前面に出た状態と捉えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた心因性咳嗽(神経性咳嗽)の治療


心因性咳嗽が気滞によるものと考えられるケースでは、気の巡りを改善させる漢方薬が治療にもちいられます。具体的には理気薬と呼ばれる柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などを含んだ漢方薬です。理気薬には気持ちをリラックスさせるはたらきがあり、特に半夏は咳や吐気を鎮める力も持っているので、心因性咳嗽の改善にしばしばもちいられます。


咳の症状だけではなく、動悸や不安感も目立つようなら竜骨や牡蛎といった重鎮安神薬の使用も検討されます。気が滞っているために脾(脾は消化器のはたらきを代表する存在です)の調子も崩しているようなら人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などの補気薬も併せてもちいられます。このように調合する漢方薬は心因性咳嗽という病名だけではなく、患っている方の背景や咳き以外の症状などから総合的に判断されます。


生活面での注意点と改善案


心因性咳嗽を引き起こしているストレスが明確な場合、その除去が最も効果的な治療といえます。しかし、簡単にストレスを除いたり回避できるケースは少ないでしょう。むしろ、避けられないからこそのストレスともいえます。


そこで心因性咳嗽が目立つ時期はできるだけ肉体的な疲労をためないことが大切となります。これは身体の疲れが蓄積していると、精神的なストレスに対しても抵抗力が下がってしまうからです。具体的には余裕を持った睡眠時間と休日の確保を心がけましょう。


くわえて身体を動かすことは気がスムーズに身体を巡ることを後押しします。一方で無理をしてトレーニングジムに通うような激しい運動の必要はありません。日常生活において身体を動かすことを意識し、軽いウォーキングやエレベーターではなく積極的に階段を利用することなどが大切です。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の改善例


患者は20代後半の男性・システムエンジニア。社会人になってから緊張する場面になるとむせるような咳が出るようになってしまった。その後も症状は徐々に悪化し、会社の先輩と一緒に昼食を摂るだけでも咳が出るようになったとのこと。呼吸器内科や心療内科を受診するも改善がみられず、当薬局へご来局。


詳しくご症状を伺うと、今はプレゼンテーションなどの緊張する場面だけではなく少し心配事が頭に浮かぶだけで咳が出始めてしまうという。症状は朝から夕方にかけて目立ち、特に朝は喉に圧迫されるような不快感もあるので、できるだけネクタイはしたくないとのこと。他にも胃から腹部にかけて張り感があり便秘気味。常に身体のどこかが緊張していてなかなかリラックスがうまくできないと悩んでいました。


この方は気の停滞がとても強いと考えて柴胡、半夏、厚朴、枳実といった気の巡りを改善する生薬から構成される漢方薬を服用して頂きました。くわえて職場ではできるだけ座りっぱなしにせず、ストレスを感じたり、気分がすっきりしない時は軽い運動をするようにお願いしました。


漢方薬を服用して4ヵ月が経過すると、緊張するとまだ咳は出るとのことでしたがネクタイを外したいくらいの喉の不快感は解消されていました。胃や腹部の張り感も減り、食欲も高まってきたとのこと。一方でまだ便秘は続いていました。このタイミングでの微調整も考えましたが、良い方向に向いているので同じ漢方薬を服用して頂くことにしました。


それから3ヵ月が経つと、よほど緊張する場面以外では咳は出なくなり、しつこく残っていた便秘も帰宅後のウォーキングを始めてからは改善されました。この頃には職業病ともいえる肩や腰のこり感も和らいできました。この方は改善後も漢方薬の量をご自身で調節しつつ、継続服用されています。


おわりに


心因性咳嗽は一般的な咳止めではあまり効果は期待できません。咳の原因が不明のまま色々な市販薬を試したり、呼吸器内科や心療内科を巡ってようやく「心因性咳嗽」と診断される方もしばしばです。しかし、病院の精神安定剤が副作用で継続できなかったり、改善がみられないという方も少なくありません。


漢方薬は心因性咳嗽による咳だけに着目するのではなく、その他の心身の症状(たとえば緊張による食欲不振や気分の沈みなど)も含めて改善を目指します。身体と精神の両面にアプローチできる漢方薬は心因性咳嗽と相性が良いといえます。慢性的な心因性咳嗽にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 非結核性抗酸菌症(肺MAC症) 】と漢方薬による治療

非結核性抗酸菌症とは


非結核性抗酸菌症(ひけっかくせいこうさんきんしょう)は結核菌の仲間である抗酸菌によって引き起こされる呼吸器の病気です。非結核性抗酸菌症はしばしば非定型抗酸菌症やその英語名であるNon-tuberculous mycobacterial infectionの頭文字をとってNTM症とも呼ばれます。


非結核性抗酸菌症の主な症状は慢性的な経過をたどる咳や痰です。近年、中年以上の女性を中心に増加している病気です。病名の中に「非結核」と入っていますが西洋医学的な治療法はおおむね結核治療でもちいられる抗生物質が使用されます。しかしながら、結核と比較してうまく治療が行えない(抗生物質が効かない)点が非結核性抗酸菌症の大きな特徴です。


肺MAC症とは


非結核性抗酸菌症の原因となるのは抗酸菌でした。この抗酸菌はある性質を持つ細菌のグループ名であり、「抗酸菌」という固有の名前を持つ細菌が存在するわけではありません。抗酸菌というグループの中には結核があり、その他にも百数十種類の細菌が含まれています。この結核菌以外の抗酸菌によって引き起こされる病気なので「非結核性抗酸菌症」という病名が付けられています。


ややわかりにくいので具体例を挙げてみます。まず「野菜」という名前の野菜は存在しません。野菜というグループの中にニンジン、トマト、キャベツ、キュウリといったさまざまな野菜が含まれています。「抗酸菌」というのも例における「野菜」のようなグループ名であり、抗酸菌のなかには結核菌、MAC菌、カンザシ菌、ライ菌、その他にも多くの細菌が含まれているのです。


抗酸菌には多くの細菌が含まれていると説明しましたが、非結核性抗酸菌症を起こす原因菌の大部分はMAC菌(Mycobacterium avium complexという名前の略でマック菌とも表記されます)で占められています。 このMAC菌によって引き起こされた非結核性抗酸菌症を肺MAC症と呼びます。したがって、現実的には非結核性抗酸菌症肺の非常に多くが肺MAC症といえます。


用語のまとめ


【 抗酸菌 】
結核菌、MAC菌、カンザシ菌(カンサシ菌やキャンサシー菌とも表記されます)、ライ菌などを含む細菌のグループ名。

【 MAC菌 】
上記の通り、抗酸菌に属する細菌のひとつ。厳密にはとても類似している2つの菌をあわせたものです。

【 肺MAC症 】
MAC菌によって起こされる呼吸器系疾患。

【 非結核性抗酸菌症 】
抗酸菌に属する結核菌以外の細菌によって起こる呼吸器系疾患。その大部分がMAC菌による肺MAC症で占められる。

【 NTM症 】
非結核性抗酸菌症の略称です。

【 非定型抗酸菌症 】
非結核性抗酸菌症と同じ意味です。ちなみに「定型」は結核菌による結核を指しています。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の原因


MAC菌を含む非結核性抗酸菌は自然環境に多く生息しており、それらが身体に侵入することで感染すると考えられています。しかしながら、くわしい感染経路やどうして中年以上の女性に感染が多いのかなどは不明です。しかしながら、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)は結核のような強い感染性はなく、人から人へ感染が拡大しないことが知られています。したがって、家族や同僚などに感染が広がることはなく、隔離されて治療が行われることもありません。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の症状


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の主な症状は咳や痰、ときには血の混じった血痰(けったん)が出る喀血(かっけつ)などの呼吸器症状が中心となります。くわえて、体重の減少、倦怠感、発熱、食欲の低下などが現れることもあります。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の症状は全体的に激しいものではなく、症状の進行もゆっくりしています。場合によっては無症状のまま、レントゲンやX線をもちいた健診ではじめて感染がわかるようなケースもあります。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の西洋医学的治療法


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の治療は基本的に結核治療と同様のものとなります。具体的にはストレプトマイシン、クラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール、リファブチン、カナマイシンなどの抗生物質(細菌を倒す薬)を多剤併用することが基本となります。


これらをもちいた治療は結核には非常に有効なのですが、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)に対しての有効性は高いとはいえないものです。くわえて、使用される抗生物質には副作用の強いものもあり、より治療を難しくしています。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の漢方医学的解釈


漢方の視点から考えると、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)には水湿と気虚が深く関係していると考えられます。 水湿は津液が停滞することで生まれる病的産物であり、主に脾(消化器)の不調が引き金となります。気虚は生命エネルギーである気が不足した状態です。


なんらかの原因で水湿が溜まり、肺が侵されると湿性の咳や量の多い痰といった呼吸器系のトラブルが起こりやすくなります。水湿の絡んだ他の症状としては全身の重だるさ、頭重感、めまい、むくみ、食欲不振や吐気、軟便などが挙げられます。


気虚によって起こる呼吸器症状としては咳や痰にくわえて呼吸困難、呼吸の浅さ、息切れのしやすさなどが代表的です。これら以外にも疲労感、かぜの引きやすさ、動悸、食欲不振、めまいや立ちくらみなどが気虚に陥ると現れやすくなります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の治療


多くの非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の背景には水湿や気虚が関係していると考えられます。したがって、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の治療は漢方薬をもちいて水湿(すいしつ)の除去と気を補うことが中心となります。


水っぽい痰のからんだ咳やむくみが目立つようなら水湿を除く白朮、蒼朮、沢瀉、猪苓、茯苓といった利水薬を含んだ漢方薬がもちいられます。疲労感や息切れがあり、頻繁にかぜを引いてしまう方には気を補う人参、黄耆、大棗、甘草などの補気薬を配合した漢方薬が検討されます。


これらにくわえて咳を鎮める力に優れた半夏、麻黄、杏仁、五味子などの生薬も頻用されます。非結核性抗酸菌症(肺MAC症)は個人によって水湿の悪影響が大きいのか、気虚の度合いがより深刻なのかは異なってきます。したがって、ひとりひとりの症状や体質によって治療にもちいられる漢方薬は異なってゆきます。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の改善例


患者は50代後半の女性・専業主婦。数年前から水っぽい痰が出始め、不快に感じていましたが年齢のせいと考えて特に対応せずに過ごされていました。しかし、痰にくわえて咳も出るようになり呼吸器内科を受診。検査の結果、非結核性抗酸菌症における肺MAC症と診断されました。


受診した病院で抗生物質による治療を行い、徐々に症状は緩和されましたが完全な除菌はできませんでした。その後、夫の母の介護や引越なども重なり病院へは行かなくなったとのこと。しかし、最近になってまた痰がからんだ咳が始まり、何とかしたいと思い当薬局へご来局。


くわしくお話を伺うと、咳や痰にくわえて疲労感や身体の重だるさ、痰が絡むことによる食欲の低下が顕著にみられました。体重も半年で3kgほど減ってしまいました。この方にはまず気を補う力に優れた人参、水湿を除くことのできる白朮や茯苓などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


服用から3ヵ月が経つと痰の量は大きく減少し、それにともなって食欲も回復してきました。くわえて、少し動くのが億劫になるくらいの重だるさも軽減されていました。その一方でまだ咳は続いていたので、鎮咳作用の優れた半夏や杏仁を含んだ漢方薬へ変更を行いました。


漢方薬を変更して2ヵ月が経過すると、痰が絡んだ咳も鎮まり呼吸もより深くできるようになりました。体重も1年前と同じくらいにまで戻り、疲労感もなくなりました。その後は介護などで心労がたまると咳が出やすくなるということで、気を補ったり、ストレスによる気の滞りを改善する漢方薬などを調合して安定した状態を維持されています。


おわりに


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)は西洋医学的にまだ治療法が確立されていないということで、困っていらっしゃる方が意外に多い病気です。抗生物質による副作用で治療が中止となってしまった方も少なからずいらっしゃいます。非結核性抗酸菌症(肺MAC症)はただちに命にかかわる病気ではありません。しかし、慢性的な咳や痰が続くと倦怠感なども現れやすくなり生活の質を大きく下げてしまいます。


漢方薬をもちいた非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の治療は個々の症状と体質に沿って進められます。したがって、漢方薬は咳や痰といった呼吸器系の症状だけではなく、疲労感やむくみといった全身症状にも対応ができます。慢性的な非結核性抗酸菌症(肺MAC症)にお困りの方は是非、当薬局へご来局ください。

ページ移動

  • 前のページ
  • 次のページ

このページの先頭へ